生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

文字の大きさ
107 / 378

第106話 ミリア・ハイルデートはミリアである27

しおりを挟む


 おばちゃんと聖女様が帰り、私は1人で家にいる。

 聖女様が帰ると、家の中が凄く静かに感じた。

「あれ……お家……こんなに広かったっけ?」

 今まで毎日暮らした自分の家だと言うのに、ミリアは心が落ち着かず、パタパタと家の中を歩き回る。

 玄関、台所、居間、寝室、シャワー室、トイレ、家の中の物の、その全てか広く、そして寂しく感じる。

「……お母さん……お父さん……」

 ついには、その場でミリアはうずくまって泣いてしまう。

 ミリアは一人っ子で両親に溺愛できあいされ、しかも今までの人生をこの自然に囲まれた湖の湖畔こはんの家で、外部ともあまり接触せずに育ってきた──

 この時、8歳のミリアは、同じ歳の他の子と比べると精神的に極端に幼い部分があった。
 簡単に言えば、親離れができていないのである。

 生まれて物心が付いた頃には、当たり前のように母がいて父がいた。
 優しくて大好きなミリアの自慢の両親だ。

 2年前に父親が死んだ時も、別れが辛くて、悲しくて、枯れるほど泣いたが──その時は、まだ母がいてくれた。

 ……それがどれほどまでに心強かった事か。

 それにミリアには友達と呼べる友人もいない。
 親しい仲だと、お団子屋のおばちゃん達やタケシはいるが、おばちゃん達にはおばちゃん達の家族があるし、お家も違う。

 ミリアにしてみれば、お団子屋のおばさんは、お団子屋のおばさんなのだ。おばさんの事は大好きだけど、家族ともまた違う。近い親戚のような感じだ。

 強いて言えば、タケシが私の友達なのかも知れないと思ったけど……でも、それも何か違う気がした。

 もうお父さんにもお母さんにも2度と会えない。

 ……私がこれからどう生きていても、
 私がどう死んだとしても、それは変わらない。

 そんな事を考えると、また頭がガンガンしてきて、ボロボロと涙があふれ出てきた。

 その場で、ハッと気がつくまでうずくまり泣いていたミリアは、ごしごしと涙を拭き、ガバッと立ち上がると、おばさんの置いていってくれた、お皿いっぱいに盛られたお団子を戸棚から出して、家の外へと出る。

 ミリアの目的地は、家のすぐ隣。

 ──両親のお墓の前だ。

「お父さん、お母さん、お団子……一緒に食べよ?」

 勿論、返事は無い。

 でも、ミリアは墓前にお団子を2つ供え、地べたにペタンと座り、自分の分のお団子を口に運ぶ。

 でも、ミリアはお団子を一口かじると手が止まってしまう。
 それ以上の食べ物を今は全く身体が受け付けなかった。ミリアは自分の事ながら、目を見開いて驚いた。

「……何で……大好きなお団子なのに……」

 ミリアは『おばちゃん、ごめんなさい』と心で呟きながら、お皿に沢山残ってしまったお団子を、家の中の戸棚にそっと戻すのだった──。

 *

 ──大都市エルクステン・ギルド
           ギルドマスター室──

「──、いい紅茶ですね。私好みです」

 ロキは紅茶を飲むと、素直な感想を呟く。

「それはそれは、何よりじゃ。確かにいつ飲んでもフォルタニアちゃんのお茶のれたお茶は絶妙じゃの」

 同じく、紅茶を飲みながら返事を返すのは、口髭を生やし、小柄だが筋肉質の色黒の初老の男性──ギルド第2騎士隊長のリーゼス・ロックだ。

「それほどでもございませんが、ありがとうございます。そう言って貰えると私も嬉しく思います」

 褒められたフォルタニアは嬉しそうに微笑む。

「ところで、ギルドマスター。噂でルスサルペの街に、聖教会の〝聖女〟が滞在してると耳にしたのじゃが、ギルドマスターは何か知っておるかの?」

 リーゼスは紅茶と一緒に運ばれてきた、焼き菓子を食べながらロキに質問をする。
 何を隠そうリーゼスは、その耳にしたな事を疑問に思い、わざわざロキの居る、このギルドマスター室まで足を運んだのだ。

 すると『よければお茶でも』と言われ、今に至る。

 ちなみにギルドマスター室に来ると、火急の任務中では無い限り、高確率でこうしてお茶が振る舞われる。

「ええ、ジューリア・クーロー様でしたら、4日前からルスサルペの街に行ったっきりみたいですね」
「相変わらず耳が早いの、どこから聞いたんじゃ?」

「5日前にジューリア様と、ちょうどお話する機会がありましてね。その時にルスサルペの街の話題が上がりまして、と〝2年前の魔王信仰の事件〟のことをお話したのですが、まさか直接街に向かうとは思いませんでした……それで少し気になり、3日前に私も実際に行って様子を見て来ました」

 ジューリアがルスサルペの街に向かったのが、本当に意外だったのか、ロキの表情は少し苦笑いでいる。

「それでロキ、聖女様は……?」

 フォルタニアが問いかける。

「あの湖のにいましたので、会って話したりはしていませんが──街で聞いた話しによると、どうやらあの湖の持ち主の女性が亡くなったそうです。そして、その方の娘さんもの〝魔力枯渇マジックダウン〟で意識が無いと聞いてます」
「あの湖の持ち主と言うと──〝2年前の魔王信仰の事件〟で魔王信仰の集団を1人で倒された方ですか!? 確かロキが『心臓の見分け方が』どうのと言ってた時の件ですよね?」

「正確には1人と1匹ですね。世にも珍しい、空竜の〝変異種ヴァルタリス〟がいた筈です。あの竜は強かった──これからも、あの青い竜とは私は戦いたくありませんね」

 胡散臭い笑みで、ロキはお手上げとばかりに両手の掌を上に向け、軽くジェスチャーをする。

「ふむ。その件じゃと、わしも少し覚えがあるの。フォルタニアちゃんと一緒に〝魔王信仰の懸賞金〟を届けにいった筈じゃ──確かに青い竜もおった。わしも、あの竜と戦うのはごめんじゃの」

 その時のことを思い出し、リーゼスも頷く。

「ロキ、その方の死因は? まさか、また魔王信仰とかではないですよね!?」
「まさか。やまいと聞いています。それにフォルタニアさん、もし魔王信仰の仕業ならば、我々にもっと情報が来なくては不自然でしょう。それにもしそうだったとしても、酷なようですが、となったのですから、こういう時も冷静に物事に対処せねばなりませんよ」

 む……と押し黙るフォルタニア。
 だが、ロキの言い分は正論である。

「それはロキが……はぁ……勿論、責務はまっとうしますが、それでも私には荷が重いです」
「まあ、そう言うでない。わしはフォルタニアちゃんは適任じゃと思うぞ。このギルドでは副ギルドマスターという立場の前例は無いが、今ではみなフォルタニアちゃんを副ギルドマスターとしても信じてるからの」

 すかさず、リーゼスがフォローする。

「……ありがとうございます。まあ、その話はともかく、その残された娘さんが少し気になりますね……無事ならばいいのですが……」
「聖教会の聖女様が付いています。命は助かると思いますが、1人になった娘さんを思うと心配ですね」

 知らぬ顔だが、知らぬ存在では無い。
 2年前のあの事件の時、魔王信仰の手で父を失い、その2年後に病で母を亡くした少女を思うと、ロキは少し心がザワつく。

 もう何十年も前の話しになるが、ロキは魔王信仰の者の手で、妹弟きょうだいを2人殺され、病で母を失っている。

 家族が魔王信仰に殺され、母を病で亡くす。
 そんな自分と何処か似た境遇の少女の姿を、ロキは昔の自分とかさね……心が重くなるのを感じるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

処理中です...