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第152話 援軍
しおりを挟む──大都市エルクステン 街の宿屋──
「魔王が攻めてきた? 一体どういうことなのです?」
宿屋を貸切り、宿の酒場となっている場所を会議の場として使っている。その一番奥の真ん中の席の椅子にドフっと座り、ぷんすこと機嫌が悪そうな様子でいる、相変わらずゴスロリ服を着たアリスが口を開く。
「現在確認中でこざいますが、街中には大量の魔物が現れ、大砦の門には魔王城が現れたとの情報が入っております。恐らくは……まず、確かな事かと……」
執事長のジャンがアリスの言葉に返事を返す。
「そんな……」
ジャンの言葉を聞き──先日からアリス達と行動を共にしている、イリス皇国第2王女のレヴィニア・イリスが顔を青ざめさせる。その隣には黒髪ポニーテールのメイド長のイルザがいる。
「……で、どうすんだ? あたし達も魔王討伐に加わるか、それとも街の避難誘導の方を優先するか? どちらにしろ、あたしらはお嬢の言葉ひとつだぜ? ……と、言いたい所だが、悪いが今回ばかりはお嬢にはあたしらに従って貰う」
桃色のサイドポニーテールを軽く揺らし、壁に凭れていた吸血鬼のフィップが、アリスに問いかける。
「……」
アリスは無言だ。
判断を決めかねているのだろう。
そんな様子を見て、イルザが軽く頭を下げてからアリスに向かい話しかける。
「アリス様、僭越ながら一先ずは、こちらの軍の体制を第一とし、体制が整った所から各援軍を送る形にしてはどうでしょうか?」
「む……確かにまずは自分達の体制を整えないと、戦うも何もないのです。ただ、隊は分けるのです。フィップは避難誘導、ジャンはギルドに協力して魔王軍の主力を叩くのです」
「却下だ、お嬢」
「僭越ながら、承諾しかねます」
「──むぅ……」
アリスは訝げな表情だ。
フィップとジャンが二人してアリスの発言を断るのは珍しい。
「お嬢、立場を弁えろ、お嬢の命はお嬢が思うほど安くない」
ギロリと睨むフィップは真剣だ。
理由は色々とある。
「待って、フィップ! 今は皆に協力して戦ったほうがいいんじゃない……!?」
すかさずレヴィニアがフィップに言う。
「……分かった。何故あたし達がお嬢をこのまま逃がしたいか理由を教えてやる」
「フィップ先輩!!」
「責任は私が持つ、兵士共も信頼しての判断だ」
慌てるジャンにフィップが言い放つ。
「構わないのです、フィップ、言うがいいのです」
「……レヴィニア嬢ちゃん、兵士共、よく聞け、お嬢の〝アイテムストレージ〟には〝八柱の大結界〟の魔術柱が封じ込められている」
「「!?」」
「失礼、それは確かですか!?」
イルザが言葉少なに話す、もしそのフィップの言葉が真実ならば国家機密レベルの話しだからだ。
〝八柱の大結界〟その残りの4柱のハイルデート王国の〝魔術柱〟の場所の内、一つだけ魔王軍に知られてない場所がある。
それがハイルデート王国であり、アリスである。
「お嬢が死んだら、お嬢の〝アイテムストレージ〟にある〝魔術柱〟も壊れる、この都市には悪いが、あたしはお嬢の安全を優先する──」
*
──大都市エルクステン・街中──
俺とシラセは魔王を追っていた。
だが、予想外の相手に行く手を遮られる。
「魔王信仰!? 本当にいつもながら、彼らは何故このような行動に出るのですかっ!?」
信じられないと言った表情でシラセが睨む。
「数も多いが、結構な手練れだな」
20、30と湧くように出てくる〝魔王信仰〟の者たちの一人一人が、こないだの奴等よりも格段に強い。
すると、魔王信仰の一人が口を開く。
色黒の肌の顔の半分に刺青の入った、この魔王信仰達の司令塔のような感じの奴だ。
「〝六魔導士〟のシラセ・アヤセと──誰だ……何だコイツは? こんなのがいる何て聞いてないぞ?」
バタバタと魔王信仰の奴等を斬り倒していく、シラセと俺を見て、少なくない驚きの表情を見せる。
──ギンッ!!
刺青男が俺に斬りかかってくる。
その手にはマンモスの牙のように半月状に丸い剣を2本、両手に持っている。
「何だ、お前?」
攻撃を防いだ俺に刺青男が話しかけてくる。
「何だとは何だ? 随分ご挨拶だな?」
『何だ?』と聞かれても特に返す返事も持ち合わせていないので、俺は皮肉気味にそう返す。
「俺達はそこの〝六魔導士〟を殺しに来たんだよ! そしてその心臓を抜き取って魔王様に捧げるんだ!」
(……でたな、心臓狂い共め。どいつもこいつも口を開けば、心臓、心臓と、気の狂った奴等だ)
「お前じゃ、シラセは殺せはしねぇよ。帰りな──」
「かもな、だからわざわざ、対〝独軍〟の〝人工精霊〟対策を練って、オマケに部下の手数を増やして来てるのに、お前みたいな誤算が心底ムカつくんだよッ! 死ねや、オラァ!!」
刺青男が更に斬りかかって来るが、俺は冷静にそれを月夜で捌く。
どうやら無策でシラセに挑んできた訳ではないらしいが、一緒にいた俺が誤算で気にくわないらしい。
「気持ちが悪いですね……」
「そりゃそうだ、その反応が普通だ」
シラセがドン引き気味の顔で呟く。
そりゃ『お前を殺して、死体から心臓を抜き去って魔王に捧げる』何て言われたら、心底気持ちが悪いだろう。まだ、ただ単に『殺す』と言われた方が、幾分かスッキリとしている。
「クソッ、魔族の駕樂様が魔王城にいるんだ、近くにいる俺達も何か功績を残さないとな!」
(──魔族だと!?)
俺が戻るか!? どうする……!!
あいつらだけじゃ、恐らく手に余る──!!
「…………シラセ、頼みがある」
「は、はい、何でしょうか、ユキマサさん?」
俺はシラセにクレハ達の元へ戻るように頼もうと、俺はシラセに話しかけるが、その時だ──
「あれ? シラセじゃん」
ドバンッと〝魔王信仰〟の一人を吹き飛ばし、あっけらかんとした様子でシラセに話しかけてくる人物が、空から現れる。
その人物は、子供……? 性別はパッと見では分かりづらい。髪はピンクのおかっぱで目の色は左右対称だ。
「ば、パンプキックさんっ!? 何故ここに!?」
「大聖女に呼ばれたんだ。で、僕は今、魔王城を見に行こうかと思ったら、君達がいたわけ」
「誰だ?」
「え、し、知らないんですかっ!? 私よりずっと前から〝王国魔導士団〟の一人ですよっ!!」
「王国魔導士団てことは、六魔導士か?」
(立場的には独軍や剣斎クラスか……)
「僕は──パンプキック・ジャック。君がエルルカの言ってたユキマサだね」
バンッと、また一人〝魔王信仰〟の奴を吹き飛ばしながら俺の方を見る。戦い慣れてるなぁ。
「多分な。まあ、よろしく頼むよ」
ドスンと俺も〝魔王信仰〟の奴を〝アイテムストレージ〟から取り出した〝魔力銃〟で撃ち抜く。
と、その時だ──
──ズバン!!
魔法による攻撃で〝魔王信仰〟の奴を攻撃する。
今のは俺でもシラセでもパンプキックでもない。
「……ガーロックか? また会ったな」
現れたのはこの都市の領主──ガーロック・サカズキンだ。相変わらず厳格そうな顔に髭を生やしており、目付きは鋭い。後ろには赤茶色の鎧を来た憲兵がズラリと並んでいる。
「私は別に会いたくは無かったのだが、魔王の他にも〝魔王信仰〟が出たと聞いてね。駆けつけてみれば、その必要は無かったようだ」
人類の最高戦力である六魔導士の、シラセとパンプキックを見て、ガーロックが、そう言葉を洩らす。
「いいや、助かった。ガーロック、この先の魔王城にいる、第8隊の援軍に向かってくれ。話だと魔族と戦っているらしい」
俺はガーロックに頼む。
ガーロックも、この都市指折りの実力者だ。
「それなら僕がいくよ。魔王信仰の拘束とか僕には面倒だしね」
そう言ってくれたのはパンプキックだ。
「頼めるか?」
「うん、任せて」
軽い返事だが、相手は六魔導士、頼もしい限りだ。
「君達も先に行くといい。ここは我々が受け持とう」
ガーロックが俺とシラセに言う。
是非もない──俺とシラセはこの場をガーロックと兵士達に任せ、先を急ぐ。
そしてすれ違い様、ガーロックに不意に話しかけられる。
「ところで〝拳の拳聖〟を甦らせたのは君かね?」
「拳の拳聖? 何の話しだ?」
「いいや、何でもない。早く行くといい」
何なんだ? まあいい、先を急ぐぞ──
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