吸血鬼 詰め合わせ

ritkun

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無邪気×もじもじ(微エロ)

菖蒲湯 1(無邪気サイド)

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 俺は退魔師の元で警察のために働く吸血鬼という不思議がられる立場。色々複雑な事情があるらしいけど、特にイヤな目に遭うことは無いから気にしてない。

 同族のみんなと違うのは運命の相手が食べる物を自分で直接育てるんじゃないってことくらい。育ちが良くなるとかで時々畑や木の根元で眠るくらいで、世話は他の人がしてくれる。その代わり俺は転移と魅了の能力を使って警察に頼まれた奴を捕まえる。
 魅了は能力っていうよりアビリティに近い。人間の世界では半径1メートルくらいにしか効果が出ないように退魔師に抑えられてて、俺と関わる警察の人間は護符を持たされてる。

 それが無ければ「犯人出ておいで」って言うだけで済む。ついでにワガママ言って皆を振り回さないようにこういう事になっている。

 今日は身を潜めている犯人の居場所を突き止めたと言われてちょっと遠出。初めて行く場所だから念のため能力を使わずに車で刑事さんと一緒に来た。

 前の席に刑事さん二人で後ろに俺と退魔師。助手席の刑事さんが車を降りようとして小さく「あっ」って言って俺に振り向いた。
菖蒲しょうぶだ。大丈夫ですか?」
 意味の分からない俺とそんな俺の表情を見た刑事さんの視線が退魔師に集まる。

 退魔師はまず刑事さんに微笑みながら軽く頭をさげた。
「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
 次に窓の外に手を向けてから俺を見る。
「あれは菖蒲しょうぶと言って魔除けに使われる植物です。君たちには効果が無い、というかむしろ力になるので大丈夫です」

 車から降りて納得した。ぬかるんだ地面でテンション下がるかと思ったのに、澄んだ空気と香りで気持ちが良い。犯人を余裕で捕まえることができた。

 しかもここの持ち主が菖蒲しょうぶを俺たちに1束ずつくれた。「今日ここへ来たのもそういう巡り合わせなんでしょう」って言って。

 見上げただけで退魔師が説明してくれる。
「今日はこれをお風呂に浮かべる風習がある日なんですよ」
「マジで!?
 あいつ最近お風呂にハマってるからさ、きっと喜ぶよ。
 おじさん、ありがとう!」
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