金の貧乏くじ

ritkun

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柏餅 2

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 結界に引っ掛かった獲物を追跡する時よりも爛々とした目だからだろう。餅から柏を少し剥がす様子を見てるだけで、バナナを食べさせてる時より興奮する。丁寧ながらも早く中を見たいという手つき、湿った葉っぱを触って濡れていく指先。そんな風に準備してほしい部分がベルトに抗う。

 蒸して温めたのが好きなくせに猫舌だから恐る恐る餅を甘噛み。微妙に顔の角度を変えて噛み直すのが録画して持って帰りたいくらい本当にツボ。一人虚しく抜くのもそれを観ながら同じように手を動かしたら何倍も気持ち良いだろう。

 先輩は完全に食べ終わるまで葉っぱを皿に置かない。餅とり粉が多めに付いてる店のを用意したのはそれを踏まえてのこと。

 湯気を吸って葉っぱの内側をベタつかせているそれが、食べ終わって顔を離した先輩の頬に付いていますようにと祈る。見た目はお茶を淹れるただの後輩でしかないはずだ。

 お茶を持った状態でいきなり見たらこぼしちゃうかもしれないから、チラッとダイニングテーブルに振り返る。

 !!!

 食べてる人に「お手洗い借ります」と言うのも悪いし、俺が家の中でどう動こうと先輩は気にしない。冷蔵庫と流し台の間にある扉からさり気なくトイレに向かう。

 すみませんでした。ちょっとした出来心だったんです。そこまでしていただけるなんて思ってなくて。

 幸運への感謝と興奮を誤魔化す言葉を頭の中に浮かべながら、手は本能のままな部分をさらけ出して欲望を解き放つ。

 息を整えながら、最後の一口を飲み込む喉と表情、鼻の頭と唇の白いとろみを頭のメモリにしっかりと記憶させる。ギリギリまでフェラして間に合わなくて顔射しちゃったみたいな付き方だった。口の中の我慢汁は飲み込んだみたいなオマケ付き。

 おかしな所が無いか素早くしかし念入りに確認してから戻ると、先輩は蓬餅×粒餡を食べているところだった。口を閉じて息を吸い、そのまま目を閉じて上を向く。安定カップルのキス待ち顔にしか見えない。

「あ~、やっぱり柏と蓬の香りって最高の相性だよね~」
「そうですね。この季節にちょうど良い香りですよね」
 良かった間に合った。

 いやお茶の話だよ。食事中に立たせちゃ悪いって話で、キス待ち顔を見逃すまいと急いだわけじゃない。

 危ない危ない。去年の俺とは違うんだ。
「危ないよ」
「!?」
 文字にできないような変な声が出た。

「俺に乗っ取られるよ」
 俺の葛藤を勘違いしたのか。
「大丈夫です。一度も乗っ取られたことはありませんよ」

 先輩にしては真面目っていうか、落ち込んでるみたいな声。
「去年はね。でも一度うちに来たら3日は空けるようにした方がいい。
 それに今はもう俺の相棒はアキラだから」
「……そうですね」

 そうだな。それくらいの距離感で丁度いいのかもしれない。
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