異世界に転生したらBlenderを使えるようになっていた

登美川ステファニイ

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第一章 異世界転生

第六話 心と力

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「あっ、分かった!」
 グビラさんが手を打って言った。
「金貨だ! リンタールの力で金貨をじゃんじゃん作ればあっという間に大金持ちじゃあ!」
「何を言ってるんですか、グビラ!」
「ひっ」
 おどけるグビラさんをカドルホスさんが一喝した。
「そんな方法でお金を手に入れていいわけがないでしょう! 大体金貨が増えれば価値が下がって無用の混乱を招きます。それに私たちが金貨をたくさん持ってたら怪しまれるに決まってるじゃありませんか!」
「すいましぇん……」
「まったく……私の考えというのは、リンタールの力を使って壊れたものを直すこと、修理屋です」
「修理屋……ですか?」
「はい。例えばアルベルトさんは斧の柄が折れて困ったと言っていました。それを直せれば、困ってる人も助けられますし、お金も稼げます」
「斧を出せばいいんですか?」
「刃は問題ないので柄ですね。しかし木材が出せなければ話になりませんね。リンゴ以外も出せるんですか?」
「はい、出せると思います。こいつも……実は作って出した奴なんです」
 俺はポケットから五芒星を出した。
「そうだったんですね。どおりで持ち歩くにしては大きいと思いました。ふむ。金属は出せるのなら木材も出せそうですね。やってみてもらえますか?」
「はい、じゃあ……ちょっと待っててください」
 俺はとりあえず3Dカーソルを呼び出し、立方体を出した。
 斧の柄という事は細長い棒だ。長さは1mくらいだろうか。太さは握りやすい太さ……3から4cmくらいの太さか。ひとまず形を作ってみよう。
 立方体のZ軸以外を縮小する。SでシフトZを押して縮小。これでZ軸以外が縮小され細い棒になった。メッシュはもともと1mだから長さはこのままでいい。
 あとは握りやすいように面取り、ベベルをかける。これで細長い棒だ。
 握る下の方は少し細くしておこう。ループカットで中心に辺を入れて、下端と追加した中央の辺を選択して縮小。これで下半分が細くなった。
 あとの問題は着色だ。着色というか、マテリアル、質感をどう出すかだ。
 ひとまず木の色、茶色で塗ってみる。これで、まあ木の棒といえば木の棒だ。しかしこれではリンゴの時のようにべた塗りの変な物質になる。木目や質感の表現が必要だ。
 プリンシパルBSDFそのものには木目のパラメータはない。となるとシェーディングで作るしかない。ざらついた表面……バンプだ。
 バンプにノイズテクスチャをつないで木目っぽい模様を作ってみよう。
 シェーディングの画面に変更。シフトAでテクスチャからノイズテクスチャ。そしてベクトルからバンプ。ノイズテクスチャの係数をバンプの高さにつないで、バンプのノーマルからプリンシパルのノーマルへ。スケールとか強さを調整して……とりあえずこれでいいな。木材っぽいちょっとしわのついたような表面になった。でもこれだけじゃ木目がなくて変だ。
 もう一度ノイズテクスチャ。そしてコンバータからカラーランプ。ノイズのカラーをカラーランプの係数へ、そしてカラーランプからプリンシパルのカラーへ。
 これだとノイズが加算されるだけだけど、ノイズの歪みをいじる。
 歪みを4に。これでノイズの形状が歪んだ円の連なりのようになる。木目っぽいぞ。
 うん、これでいいんじゃないか。これ以上木の質感を出そうと思ったら、もうテクスチャの画像を貼るしかないな。しかし写真は撮れないし、ひとまずこれでいい。
 よし、レンダリングだ。
「あっ! 出てきた! すごい!」
「ふむ。目の当たりにするとやはり信じられませんね……」
 俺は出てきた棒を確認する。木目っぽいものがあるし、重さや硬さも木材のようだ。匂いを嗅ぐと、木のような匂いがしないではない。しかし木の匂いなんか分からないから当てにはならないな。
「こんなんでいいですかね?」
「どれ、ちょっと拝見」
 グビラさんが棒を手に取る。
「すごい、木材だ。しかしなんの木ですかな? 締まっているけどこの木目は……見たことがないな。でもしっかりしている」
「これなら斧に使えそうですね。アルベルトさんも喜ぶでしょう。グビラ、後で行って斧を預かってきてください。直してあげましょう」
「はい、分かりました。しかし代金はどうしますかの?」
「そうですね……木材の調達と加工の手間を考えると本来なら……五千ダーツと言ったところでしょうか」
「しかし元手はゼロ! ぼろもうけですな! がははは!」
「何と言うことを言うのですか、グビラ。これは能力に対する正当な報酬です」
「はいはい分かっております。しかしすごい能力だな。パンとかも出せるのか? そうしたら食い放題だ。そういやさっきのこのリンゴは食えるのか?」
 グビラさんはさっき出したリンゴをじっと見つめる。
「食べられますよ。俺が食っていたのもそのリンゴです」
「ああ、藪の中で食ってたのか。ふーん……」
 グビラさんはリンゴを両手で握ると捩じって二つに割った。すごい力だ。ドワーフの血が入っているからだろうか。
「カドルホス、お一つどうぞ」
「ありがとう」
「見た目と香りはリンゴだな。どれ、味の方は……うむ! これはうまい! 上等なリンゴだ!」
「本当ですか? じゃあ一口」
 グビラさんの様子を見てカドルホスさんも一口かじり、目を見開いた。
「これは……! 美味しい! 素晴らしい味ですね。甘みが強くかつ程よい酸味が残っている。こんなにおいしいリンゴは食べたことがない!」
「修理屋などと面倒なことはせずに、これを売ればいいのではないですかな?」
「リンゴの木もないのにどこからリンゴが出てくるんですか? 目立つようなことは避けねばなりません」
 なるほど。俺もリンゴでも売ろうかと思っていたが、木がないのにリンゴがとれるのは不自然だ。それに時期もある。冷蔵施設もないのに季節外れのリンゴなんておかしい。
 しかし待てよ? リンゴの木を作ればリンゴを収穫できるのか?
 そう思ったが、しかし駄目だ。俺はリンゴの木を知らない。適当な木は作れても、この世界でのリンゴに適する木でなければ、結局無駄だろう。リンゴの木を見せてもらえばできるかもしれないが。
「パンは……作れるかな?」
 パンも形状はともかく質感が問題だ。形状はUV球の端を伸ばしてちょっと細長くする。これでコッペパンみたいな形だ。
 とりあえず茶色く塗ってみるが、得体のしれない細長い塊でしかない。シェーディングで調整が必要だ。
 さっきの木と同じようにノイズテクスチャとバンプをかけてみる。何だこれは……ジャガイモか。さもなきゃ稲荷寿司だ。他に何をすればいいかわからない。
 シェーディングはまだよくわからない。こんなことならもっと勉強しておけばよかった。作れるレパートリーが少なすぎる。
 しかし一応レンダリングしてみる。
「出来た……けど、これはパン? か?」
 手の中にひんやりとした茶色いぽてっとしたものが落ちてくるが、疑問しかわいてこない。重さはパンのような気がする。匂いは……悪くない。少なくともジャガイモや稲荷ずしではない。パンのような気がする。
「ほう、パン?」
「パン? のような気がします」
 むしって見ると内部は白くふかふかしている。パンに似ている。毒ではなさそうなので口に入れてみると……なんかモソモソしているが食べられる。パンではある。いまいちだが。
「食えるのか? わしにもくれ。どうれ味の方は……うん、パンだな。味は普通だ」
「なんだかぱさぱさしている気がします」
「そうか? わしはこんなもんだと思うが」
「私ももらえますか? ……これは普通のパンですね。食べられる」
 適当に作ったが、普通のパンとしてレンダリングされたようだ。ぱさぱさしている気がするがこれで普通らしい。そういえば日本人は唾液の量が少ないから、外国のパンを食べると口の中がぱさぱさになると聞いたことがある。そういうことかもしれない。
「万一食べるのに困ったらリンタールに出してもらえますな?」
「そういったことに能力を使うのは良くない気がしますが……まあそうですね」
 どうもカドルホスさんは、必要以上に俺が能力を使うことを懸念しているようだ。神の使者がみだりに力を使うべきではない、という事か。しかし俺自身も、何でもかんでもこの能力で解決すればいいわけではないと感じる。飢えているならいいが、働きもせずにパンやリンゴを食うのは違う気がする。
 そうか。これが俺の心の在り様か。そう思って得心した。出来ることと実際にやるかどうかは別だ。どの道を選ぶかは俺次第だ。
 自分も含めて、困っている人のためにのみ使うべきだろう。面白半分に金貨なんかを作っていいわけがない。
「はあ、パンを食べたらなんだか余計に腹が減ってきた。今日はなんだか疲れたし、早めに晩御飯にしますかな」
「そうですね。私もなんだか……どっと疲れてしまった。リンタールは体調は大丈夫ですか?」
「はい大丈夫です。でも……俺も腹が減りました」
「はははは! 健康の証拠ですな! ではアルベルトの斧を預かってくるのと片付けが終わったら、晩御飯を作ります」
「お願いします、グビラ」
 しかし、いい人たちでよかった。もし悪い奴なら、俺に金貨を出せとかそんなことを言ってきたかもしれないのだ。誠実で自制心のある人たちでよかった。そして俺自身も、そうあらねばならない。
「ありがとうございます」
 俺は立ち上がり、二人に頭を下げた。
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