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パロディ
ev.血の味、恋の味(前)
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アンケート企画第一位、『吸血鬼パロディ』
配役は以下の通り
・ヴィスタ:ハンター+付加要素
・ルレイン:人間→ヴァンパイア
・ファイ:ヴァンパイア
・ウォズリト:聖職者+付加要素
・ナーシェ:魔女
・コア:騎士団
簡単な世界観
・天候・土壌に恵まれた豊かな大帝国ファルノンには人間だけでなく魔族もひっそりと生活している。
・国民のほとんどが魔族の存在を知らない。
・魔族の存在を知る一部の人間は共存派or徹底排除派にわかれる。
・教会は徹底排除派…?
・ヴァンパイアは、恋をすると恋した相手の血しか飲めなくなる。(※他の血を体が受け付ない)
・ヴァンパイアには吸血衝動を抑えるための薬がある。
・ハンターは表向き、軍警。
用語説明
軍警・・・有事の際は軍の指揮下に入り軍隊として動く。それ以外は主に警察の役割。軍隊と警察の中間職。
※本編や番外編とは一切関係のないパロディです。魔導士・魔術師ナニソレな世界観。コアだけが本編と役職が変わらない。
以上をふまえてお読みください↓
──なんでばれたのだろうか。
鬱蒼と木々の生い茂る中を縫うようにして駆けながら、ルレインは唇を噛んだ。気に入っていたブーツは土にまみれ、マントはところどころを斬られボロボロである。街に買い出しに行く途中だったというのに、この格好では悪目立ちしかねない。
(うっ、まだついてきてる・・・)
ちらりと後ろを振り返って後悔した。ひょんなことから人間を辞めたルレインだが、ヴァンパイアの中でも身体能力は悪い方と言える。怒りに満ちた形相で追いかけてくる人間たち相手に後れを取ることはないが、それでも脚力で勝るかと言われればそうでもない。
武器を持って追いかけてくる人間──ヴァンパイア徹底排除を掲げるハンターとルレインの距離は縮まりもしないが開きもしない。どうにかこうにか撒こうと森に入ったのは失敗だったか。
すれ違い様に腕を掴まれ武器を向けられたときは生きた心地がしなかった。それをなんとか振り払って逃げ出してから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
身体能力としては人間に勝るはずのヴァンパイア。だがこの鬼事の鬼であるハンターは人間と言えど特殊な訓練を積んだ猛者である。どれだけ必死に走ってもしつこく食らいついてくる。
息が乱れ、肺が痛くなってきた。遅めの昼食を済ませたばかりだったせいで横腹も痛い。
だがその痛みなんて今は気にしていられない。何故なら、ハンターに捕まれば一瞬でこの世からおさらばになるからだ。捕まって首を落とされる痛みと、今の腹と肺の痛み。どちらがましかと言えば絶対的に後者である。
どこかに身を潜める場所は、と視線を巡らせても、視界に映るのは木々ばかり。一瞬でもハンターたちの目を欺かない限り、どこに隠れようがすぐに見つかってしまう。
足場の悪い森の中をずっと逃げ続けるより、悪目立ちするだろうが町に出たほうが逃げられるかもしれない。最悪、擦り切れてボロボロになってしまっている日よけのマントは脱いでしまえばいいのだ。
(町は・・・、あった!)
目を凝らした先に猛獣対策用の柵を見つけて、ルレインは駆けるスピードを上げた。柵の向こうには活気溢れる町が広がっている。想像よりも高く設けられた柵は予想外だったが、ヴァンパイアの身体能力で越えられない高さではない。
「う、わっぁ・・・!」
思い切り助走をつけて跳躍した──その足が、運悪く柵に引っかかって体の均衡が大きく崩れた。そしてさらに運の悪いことに、柵の近くにはひとの姿がある。
体勢を立て直すこともできなくはないが、高い柵を飛び越えて来ただけでも常人とはかけ離れた身体能力であるのに、ここでさらに完璧な着地を披露しでもしたら魔族を知らない人間から見ても人外確定である。
幸い、少し体をずらせば無関係な人間を巻き込んで倒れることもない。潔く地面に落下することを決めたルレインは、来たる衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた。
「────・・・・・・?」
落下の衝撃はあった。けれどそれは地面に叩きつけられるほど強いものではなく。
(痛く、ない・・・?)
さらに手に触れる感触が土でも草でもない。
(もしかして無関係のひと下敷きにしてる・・・!?)
その考えに行き着いて顔が引き攣った。落ちる前に体の位置はずらしたのだから、柵の近くにいたあの人間は巻き込んでいないはずなのに。もしや、落ちてくるルレインを身を挺して庇ってくれたのだろうか。
恐る恐る瞼を押し上げて、ついでに顔も上げる。まず最初に目に飛び込んで来たのは黒い服。そして次に──薄紫色の、紫苑の花のような双眸。
きらきらと光を弾いている銀髪に、一瞬男女の区別がつかない中性的な整った顔。日の光の眩しさに目を細めるルレインとは反対に、驚愕に眸を見開く相手は二、三度瞬きした後にっこりと笑った。
「大丈夫? 怪我してない?」
「あ、りがとう、ございます。だいじょうぶ・・・──っ!」
とりあえずいつまでも体を預けているわけにもいるまい。
礼を言いながら彼の上から退きかけて、ルレインは息を呑んだ。彼の纏う黒を基調とした服は軍部の制服で、その腕についた腕章は軍警──何を隠そう、つい先ほどまでルレインが追いかけられていたハンターの紋が入ったものだ。
だらだらと嫌な汗が背を伝う。離れはしたがいつまで経っても立ち上がろうとしないルレインを足をくじいたものだと認識したのか、落下時に身を挺して庇ってくれた優しい人間、もといハンターのひとりは、ひょいとルレインを抱き上げた。
「!?」
「落ちたときに足、痛めたんじゃない? 手当てするからとりあえず移動しようか」
「え、あ・・・大丈夫です。ちょっとぼうっとしてただけで」
(気づかれてない・・・?)
身構えたのも一瞬。体勢を立て直さず無様に落下したことが功を奏したのか、彼の態度はヴァンパイアに対するものではなく怪我人に対するものである。よくよく考えてみれば、本性がヴァンパイアと言えど傍から見ればただの人間。ハンターだからと言ってそう簡単に見破れるものではない。
とりあえず下ろしてもらおうと口を開いたとき、ルレインが飛び越えて来たように柵の向こうからハンターたちが躍り出た。
「おいその女をこっちに・・・って隊長!? 何してるんですか、こんなところで!」
「何って普通に見回りだけど」
(隊長!?)
剣呑な顔から一転、満面に驚愕を乗せて声を上げたハンターに平然と応じたのはまさかまさかのルレインを抱えているハンターである。深く被ったフードの下で顔が引き攣り、首筋を冷や汗が伝った。
(うそ。たしかハンターは表向き軍警ってことになってて、その隊長ってことはこのひと──)
ヴァンパイアを狩る側の一番上に立つ人間である。
無意識に体が強張った。狩る側の人間の腕の中に、狩られる側。ヴァンパイアは一般的に狩る側にいるはずなのに、それが対ハンターになると一瞬で立ち位置が変わってしまう。
抱えられた状態で下手に動くことも逃げることもできず、ルレインはただ体を固くするしかない。
(どうしよう。このひとたちに私がヴァンパイアだって報告されたら一瞬で#殺さ__狩ら__#れる・・・)
腰に佩いた剣で心臓を突かれるか首を刎ねられるか。逃げるために無様にも落下するという醜態をさらしたのにも関わらず、逃げた先がまさかのハンターの腕の中。万策尽きて息を殺すことしかできない。
(っ、また死ぬのは嫌だ。だって約束が・・・・・・約束?)
脳裏を過ったことにふと瞬きをする。自分の思考に何故かついていけなくて小首を傾げたルレインは、無意識にハンターの襟元を握りしめていることに気づいていなかった。──その縋るような仕草に彼が目元を和ませたことにも。
「それでお前たちは何をやってるの、そんな息切らせて。鍛錬足りてないんじゃない?」
「そのヴァンパイアを追跡してたんですよ!」
「ヴァンパイア?」
追っていた獲物が仲間の手の内にあるからか、肩で大きく息をしつつも、ハンターたちから先ほどまでの気迫は感じられない。だが、話題が話題だ。どうにか逃げようと思考を巡らせるが、余裕のない頭では善策なんて思いつくはずもない。
自分の迫り来る死に指先が震えた。悲鳴を漏らすまいと下唇を噛みしめる。流れに身を任せるしかなく、緊張の糸が極限まで張りつめ──た、のだが。
「彼女は違うよ」
「は?」
(え・・・)
伏せていた顔をはっと上げると、紫苑の眸と視線がかち合った。「よっ、と」という軽い掛け声とともにルレインを抱え直した彼は、安心させるように小さく笑む。
だが案の定、彼の部下たちは噛みついた。
「いやいやいやいや! その女はヴァンパイアですよ! こんな日中から怪しげなマント纏ってるし!」
「普通に考えて日除けだろ。別に怪しくもない」
「だってその女、俺たち撒いて逃げようとしたんですよ!?」
「誰だって得物振りかざして追いかけてくる野郎には恐怖しか感じないと思うけど。逃げるでしょ、まともな神経してるならなおさら」
「尋常じゃないくらい足速かったし! 俺たち追いつけなかったですし!」
「火事場の馬鹿力って言葉知ってる? お前たちの鍛錬不足もあるんじゃないの。状況から察するに、お前たちはその森から来たんだろ? 足場も悪い上に慣れてもいない。でも辺境が故郷の彼女は森や山に慣れてる。そこに火事場の馬鹿力が働いたとしたら? 人間、命の危機に瀕してるときはどんな力が出るかわかったもんじゃないけど」
「ノスコルグ隊長! ですがその女、こんな真昼間から森に──」
「そもそも、なんでお前たちは彼女が狩り対象だと思ったわけ?」
ひとつひとつ部下の言をいなし、ハンターの彼は呆れたように溜息をついた。ルレインはと言えば、予想だにしていなかった展開に成り行きを見守ることしかできない。
(え。いや私ヴァンパイアなんだけど)
元とはいえ、今は立派に魔族だ。日除けのマントをしているのも、何を隠そうヴァンパイアの弱点のひとつに日光があるからで。
とはいえ、ここで墓穴を掘るわけにもいかない。口を噤んだルレインは、そろそろとハンターたちに目をやった。ぐっと言葉に詰まってバツの悪そうな顔をしている屈強な男三人。その手には対ヴァンパイア用の抜身の刃。今考えると、よくここまで逃げ切れたものである。
「・・・森の中で女ひとり歩いていたので怪しいと思い武器を突き付けたところ、血相を変えて逃げ出したので」
「それでヴァンパイアだと判断した、と?」
「う、・・・はい」
(え、嘘。ばれてたとかじゃなくてそんな力技?)
「女の子ひとりで森を歩くってだけで警戒すべきものが多いのに、そこで大の大人に武器突き付けられてみろよ。誰だって血相変えて逃げ出すに決まってるだろ」
(ごもっとも。・・・いや、私ヴァンパイアなんだけど)
口を挟むわけにもいかず、胸奥だけで同意しておく。まさか確実な証拠があってヴァンパイアと確定されたのち、追いかけられたわけではなく、体当たりの作戦だったとは。それで当たりを引いたハンターたちは強運の持ち主だ。
「とりあえず彼女、怪我してるみたいだから。お前たちは見回りに戻っていいよ。ここは俺が引き受ける」
「え。でもノスコルグ隊長、ヴァンパイアかどうかの取り調べは──」
「必要ないよ。俺のヴァンパイア捕縛数とその正確さ、知ってるだろ。彼女は違う」
(いやヴァンパイアですけど)
くるりと踵を返して部下を置き去りにその場を後にする彼にそう言いたい気分を抑えて、ハンターたちの姿が見えなくなった辺りで口を開く。
「あの、ありがとうございました。足もなんともないので歩けます」
「敬語じゃなくていいよ。知らない仲でもないし」
「はい?」
どこかで会ったことあるだろうか。記憶を手繰るがヴァンパイアのルレインにハンターの知り合いはいない。だが、先ほどはさらりと流してしまったが聞き捨てならない台詞もあった。
──〝辺境が故郷の彼女は森や山に慣れてる〟
何故知っているのだろうか。あのときはその場しのぎの口から出まかせかと思ったが、よく考えてみれば彼があの場でそういう嘘を言う必要性はまったくない。それに何より、ルレインが辺境出身というのは事実だ。
知り合いだっただろうか。思い出すためにも中性的な美貌をじっと見つめると、彼は少し困ったように眉を下げた。
「覚えてないかな、ルレ」
「っ」
ルレ。その呼称が記憶の糸を揺さぶった。
ルレインのことをそう呼ぶ相手。過去にひとりだけいた覚えがある。まだルレインが人間だったころの故郷で──。
「・・・・・・ヴィスタ?」
八年前までルレインの故郷にいた少年。ルレインのことを花と呼ぶのは後にも先にも彼だけだ。
怖々尋ねるルレインに、ヴィスタはほっとしたように笑う。
「よかった、忘れられてなかった」
「えっと・・・」
もしかして先ほど部下であるハンターたちにルレインがヴァンパイアでないとあそこまで自信満々に言い切ってみせたのは、最初からルレインがルレインであると気づいていたからか。
そう考えると、とてつもなく申し訳なくなる。だってルレインは、もうあの頃のルレインではない。成長して変わったどころか人間ですらなく、人間だったころの記憶も曖昧だ。
罪悪感に胸を塞がれて言葉に詰まった彼女は、とりあえず話を逸らすことにした。
「どこに向かってるの? 私、足くじいてないけど」
ヴァンパイアの治癒力は人間と比べものにならない。くじいていたとしてももう治っているはずだ。
だからもう下してもらっても大丈夫だと、そう言ったつもりだったのだが。
「ん、知ってる。でもとりあえず俺が借りてる宿の部屋ね」
(何故)
思いはしたがにっこりと笑うその顔に、何故か口に出すことが憚られた。有無を言わせない笑顔、というやつである。
さらに下ろしてくれる気配すらない。人気のない場所ならまだしも、涼しい顔で彼が突き進むのは石畳で整備された大通りである。ヴィスタの容貌が人目を引くことも相まって、当然不躾な視線が集中した。
(どうしてこうなった)
羞恥心を盛大に刺激されたルレインは、フードをさらに深く被って、突き刺さる視線から逃げるようにヴィスタの肩口に頭を押し付ける。
どこで選択肢を誤ったのだろうか。ハンターたちから逃げ出したところか、それともヴィスタの前で無様に落下したところか。いやその後の、ハンターの紋章に目を奪われたせいですぐさま立てなかったところだろうか。
ぐるぐると思考を巡らせているうちに、思いのほか近かったらしい目的地についてしまっていた。「着いたよ」と柔らかい声音が耳朶を打つ。
ひとが好さそうな宿の主と一言二言交わして二階へ。簡素な寝台に下ろされたルレインは土にまみれたブーツを思い出して立ち上がりかけ、しかし肩を押されて寝台に逆戻りすることになった。
「ヴィスタ・・・?」
寝台に逆戻りしただけではない。いとも容易く上体を倒され腕を縫い留められ、一切の抵抗を封じられる。
見返した先に昔馴染みの綺麗な顔と天井の梁を認め、一瞬何が起こったか理解できなかったルレインはぱちぱちと瞬きをした。
ぎしりと、寝台が軋む。
「ねえルレ。──君を巻き込んだのはどこのヴァンパイア?」
ひゅっと喉から乾いた音が鳴った。
(バレて・・・)
咄嗟に起き上がろうとしたものの、のしかかられているせいで動けない。息をつめてヴィスタを凝視すると、彼は場にそぐわない穏やかな笑みを浮かべた。
「そんなに怯えないで。手荒な真似はしないから。誓って、君を傷つけるようなことはしない」
「い、つから、気づいて・・・」
「さあ、いつだろうね。でもひとつだけ言えるなら、ファルノンはヴァンパイアの存在を隠してる。知ってるのは一部の人間だけで、国民のほとんどが魔族の存在を知らないんだ。でも君はヴァンパイアの話をする俺と部下に何も口を挟んでこなかったし、その後俺とふたりになっても〝ヴァンパイア〟について何も聞いてこなかった」
「っ」
目を見開いて息を呑むルレインに一瞬悲しそうな顔をして。
「ルレ、教えて。君はいつからそちら側にいて、俺が離れてた間に何があったのか」
彼は耳に直接吹き込むようにそう囁いた。
***
ルレインが人間を辞めたのは六年前。ヴィスタが故郷を離れた二年後のことだ。
経緯についてはなんてことない。崖から転落して死にかけたところをヴァンパイアに拾われた、ただそれだけの話である。
それ以前の記憶があやふやなのはきっと事故の後遺症だろう。何故崖から落ちたのかは覚えていないし、今では故郷の知人の顔すら曖昧だ。久しぶりに再会したヴィスタの顔を見てもすぐに思い当たらなかったのは、彼が成長していたからというよりもこちらの原因のほうが大きいように思う。
──〝生きたい?〟
したたかに打ち付けた体の感覚ももはや麻痺して痛みすら感じず、五感はどこか遠くへ行ってしまっていたというのに、その声だけはやけにはっきりと聞こえたのである。そしてルレインは、その声に迷うことなく頷いていた。
今思えば、何故あのとき生に縋りついたのかよくわからない。
特別親しかった幼馴染は遠くに行ってしまい、その一年半後には唯一の肉親である祖父が他界した。ルレインが死にかけたのは祖父が他界してから半年と経たなかった頃である。人間の身を捨てて魔族になってなお生きながらえるほどの執着も未練も、あの頃のルレインにはなかったはずだ。
それでも彼女は差し伸べられた救いの手に一も二もなく飛びついて今ここにいる。
ヴィスタはルレインがヴァンパイアに巻き込まれて魔族に堕ちたものだと思っているようだが、実際は巻き込まれたどころか巻き込んだ側だ。ルレインを拾った凄みのある美貌のヴァンパイアとはここ最近まで一緒に暮らしていたくらいだし、ヴァンパイアに迷惑を被った覚えはない。──いや、まあしつこく恋愛を勧めてきたときは正直あしらうのが大変面倒だったけれど。
「だからまあ、そのヴァンパイアに傷つけられたとかじゃないよ。一回も血を吸われた記憶もないし」
危害は加えないと誓われたうえ何故か一瞬だけ悲痛な顔を見せたヴィスタに、ルレインはそれはもうあっさりと望まれたことを話した。身動きの一切を封じられた状況で話さないという選択肢を選んだとして膠着状態に陥るだけである。
だからあっさりと口を割ったわけなのだが、それに対するヴィスタの反応は予想外のものだった。
のしかかっていた体を離して寝転ぶルレインを抱き起し、「そうだったんだ」というさらりとした一言。先ほど泣き出す寸前にも見えた悲しそうな表情はどこへやら、今は何故か機嫌が良さそうににこにこしている。
「え。なんでそんなに嬉しそうな顔してるの」
わけを話した途端に霧散した深刻な空気に正直戸惑いを隠せない。それどころか嬉々としているようにも見える彼の表情にルレインは引き攣った声を出した。
「ん? だってルレが今俺の前にいるのってそのとき生きたいって思ったからだろ?」
「う、ん・・・まあ、そうだけど」
「約束、守ってくれたんだなぁと思ってさ」
「約束?」
ヴィスタには悪いがルレインには人間時の記憶がほとんどない。いや、あることにはあるが靄がかかったようにぼんやりとしたものになってしまっている。
(ヴィスタとの約束・・・何かしたっけ。してたとしても八年以上前かぁ)
ヴィスタとの記憶で一番近いのは八年前。彼が故郷を離れる当日のこと。何故かは思い出せないが彼が急に皇都に発つことになって、ルレインはそれを出立の前日に聞かされた。
眉を寄せつつ徐々に記憶を掘り返していく。
(ヴィスタが発ったのは朝方だったはずだから、何か約束したとするならその時か前の日・・・? 異常に寂しかったことしか覚えてな──・・・あ)
ぽんと気泡が弾けるように頭の中で何かが弾けた。
急に彼がいなくなることを聞かされたとき真っ先に感じたのは悲しみや寂しさよりも衝撃。その後じわじわと時間が経つにつれて胸に穴が空いたような感覚を味わった。ただ距離が離れるだけなのに何かを失くしたような、誰かを喪ったような、そんなどうしようもない、虚しさ。そこに染み込んだのが、鼻の奥がつんとするような痛み。
──〝明日の朝、ここを離れるんだ〟
未だ幼さの残る相貌をしていたあの頃のヴィスタがそう言った。人伝に聞いた噂ではなく、本人から直接言われたのだ。
だからこそ衝撃が大きすぎて。はじめはぽかんとしていたルレインがその意味をゆっくり噛み砕いて理解したとき、自分の意思に関係なく顔が歪んだ。──泣きそうになった。
そのときに約束したのだ。
──〝落ち着いたら会いに来るよ。ちょっと遅くなるかもしれないけど、絶対だ〟
(・・・思い出した。そうだ、あのとき死にたくないって思ったのは〝約束〟があったからで)
祖父が他界して寂しくて。他に肉親なんていなかったから、祖父の後を追ってもよかったはずなのに。
会いに来ると言ってくれたヴィスタとの約束が、ルレインに未練を残した。人間を辞めることになっても生に執着させた。
「思い出した?」
「・・・うん。忘れてたのがありえないくらい」
顔を覗き込んで来たヴィスタに頷いて、うっかり緩みかけた涙腺を引き締める。ほんのわずかに潤んだ目を乾かすために瞬きをくり返すルレインに小さく笑って、彼は肩に頭を預けてくる。
「よかった。・・・長い休暇がとれたから久しぶりに帰ったのに君がいなくて焦ったんだ。どこ探しても見当たらないから早めに切り上げていろんな町を回ってた。支部に顔出しっていう名目でだけど」
「じゃあこの町にいるのもそれが理由?」
「そう。だって故郷の誰も君が今どこにいるのか知らないって言うんだ」
ハンターの最上位にいる彼が、本部のある皇都ではなくその隣町にいたのはどうやら故郷から失踪した幼馴染を探すためだったらしい。どうりでここ一年この町に住んでいても会わなかったわけである。彼の本来の活動拠点は皇都なのだ。
どこか拗ねたような声を出しながら、ヴィスタがぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「・・・・・・本当に会えてよかった」
「うん」
「・・・君が誰にも咬まれてなくてよかった」
「うん?」
「俺だって咬んだことないのに誰かに咬まれてたらどうしようかと思った」
「・・・」
一瞬、何を言われたかよくわからなかった。凍った脳が動き出し、ようやく意味を呑み込めた瞬間ルレインの目から生気が消える。
「・・・咬むも何もヴィスタはヴァンパイアじゃないでしょう」
だって彼はヴァンパイアを狩る側だ。ヴァンパイアの吸血時に必要な鋭い牙を持っているはずがない。
「そうなんだけど」
案の定返ってきたのは肯定で、そのことに安堵すると同時に少しだけ寂しくなった。
ヴィスタとの約束を守るためにヴァンパイアになってまでながらえた。けれどその約束は今こうして果たされたうえ、ハンターのヴィスタとヴァンパイアのルレインとでは決して相容れない。
「・・・ねえ、ヴィスタ。そういえばさっきのハンターたちに嘘ついてよかったの? 私がヴァンパイアだって気づいていたんでしょう?」
狩るべき存在だと気づいていながらそれを誤魔化し庇ってもよいのだろうか。そう思って聞いたことだったが、ルレインの肩から頭を離したヴィスタは怪訝そうに眉をひそめている。
「嘘を言った覚えはないけど」
「? でも私のこと『ヴァンパイアじゃない』って・・・」
あのとき彼がそう庇ったからルレインは今ここにいるのだ。
けれど彼は相変わらず訝し気に眉を寄せたまましれっとこうのたまった。
「ヴァンパイアじゃないとは言ってないよ。ルレは違うって言っただけで何が違うとは言ってないし、ヴァンパイアじゃないって明言した覚えもない」
「・・・・・・」
とんでもない屁理屈である。
(いやそれもうヴァンパイアじゃないって言ってるようなものじゃ・・・)
現にハンターたちを騙すどころかルレインもヴィスタにはヴァンパイアだとばれていないと思っていたくらいだ。──実際には易々と看破されてしまっていたけれど。
絶句して二の句が継げない。ルレインは唖然とヴィスタを眸に映しだす。だが彼は自失しているルレインをおかまいなしに、彼女の手を弄び始めた。
指を搦めてぎゅっと握りこみ、口元まで運んで手の甲に口づける。
ぎょっと我に返って目を見開くルレインに悪戯に笑って。
「そういえばそのことで君に提案があるんだけど──」
ヴィスタはそう切り出した。
配役は以下の通り
・ヴィスタ:ハンター+付加要素
・ルレイン:人間→ヴァンパイア
・ファイ:ヴァンパイア
・ウォズリト:聖職者+付加要素
・ナーシェ:魔女
・コア:騎士団
簡単な世界観
・天候・土壌に恵まれた豊かな大帝国ファルノンには人間だけでなく魔族もひっそりと生活している。
・国民のほとんどが魔族の存在を知らない。
・魔族の存在を知る一部の人間は共存派or徹底排除派にわかれる。
・教会は徹底排除派…?
・ヴァンパイアは、恋をすると恋した相手の血しか飲めなくなる。(※他の血を体が受け付ない)
・ヴァンパイアには吸血衝動を抑えるための薬がある。
・ハンターは表向き、軍警。
用語説明
軍警・・・有事の際は軍の指揮下に入り軍隊として動く。それ以外は主に警察の役割。軍隊と警察の中間職。
※本編や番外編とは一切関係のないパロディです。魔導士・魔術師ナニソレな世界観。コアだけが本編と役職が変わらない。
以上をふまえてお読みください↓
──なんでばれたのだろうか。
鬱蒼と木々の生い茂る中を縫うようにして駆けながら、ルレインは唇を噛んだ。気に入っていたブーツは土にまみれ、マントはところどころを斬られボロボロである。街に買い出しに行く途中だったというのに、この格好では悪目立ちしかねない。
(うっ、まだついてきてる・・・)
ちらりと後ろを振り返って後悔した。ひょんなことから人間を辞めたルレインだが、ヴァンパイアの中でも身体能力は悪い方と言える。怒りに満ちた形相で追いかけてくる人間たち相手に後れを取ることはないが、それでも脚力で勝るかと言われればそうでもない。
武器を持って追いかけてくる人間──ヴァンパイア徹底排除を掲げるハンターとルレインの距離は縮まりもしないが開きもしない。どうにかこうにか撒こうと森に入ったのは失敗だったか。
すれ違い様に腕を掴まれ武器を向けられたときは生きた心地がしなかった。それをなんとか振り払って逃げ出してから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
身体能力としては人間に勝るはずのヴァンパイア。だがこの鬼事の鬼であるハンターは人間と言えど特殊な訓練を積んだ猛者である。どれだけ必死に走ってもしつこく食らいついてくる。
息が乱れ、肺が痛くなってきた。遅めの昼食を済ませたばかりだったせいで横腹も痛い。
だがその痛みなんて今は気にしていられない。何故なら、ハンターに捕まれば一瞬でこの世からおさらばになるからだ。捕まって首を落とされる痛みと、今の腹と肺の痛み。どちらがましかと言えば絶対的に後者である。
どこかに身を潜める場所は、と視線を巡らせても、視界に映るのは木々ばかり。一瞬でもハンターたちの目を欺かない限り、どこに隠れようがすぐに見つかってしまう。
足場の悪い森の中をずっと逃げ続けるより、悪目立ちするだろうが町に出たほうが逃げられるかもしれない。最悪、擦り切れてボロボロになってしまっている日よけのマントは脱いでしまえばいいのだ。
(町は・・・、あった!)
目を凝らした先に猛獣対策用の柵を見つけて、ルレインは駆けるスピードを上げた。柵の向こうには活気溢れる町が広がっている。想像よりも高く設けられた柵は予想外だったが、ヴァンパイアの身体能力で越えられない高さではない。
「う、わっぁ・・・!」
思い切り助走をつけて跳躍した──その足が、運悪く柵に引っかかって体の均衡が大きく崩れた。そしてさらに運の悪いことに、柵の近くにはひとの姿がある。
体勢を立て直すこともできなくはないが、高い柵を飛び越えて来ただけでも常人とはかけ離れた身体能力であるのに、ここでさらに完璧な着地を披露しでもしたら魔族を知らない人間から見ても人外確定である。
幸い、少し体をずらせば無関係な人間を巻き込んで倒れることもない。潔く地面に落下することを決めたルレインは、来たる衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた。
「────・・・・・・?」
落下の衝撃はあった。けれどそれは地面に叩きつけられるほど強いものではなく。
(痛く、ない・・・?)
さらに手に触れる感触が土でも草でもない。
(もしかして無関係のひと下敷きにしてる・・・!?)
その考えに行き着いて顔が引き攣った。落ちる前に体の位置はずらしたのだから、柵の近くにいたあの人間は巻き込んでいないはずなのに。もしや、落ちてくるルレインを身を挺して庇ってくれたのだろうか。
恐る恐る瞼を押し上げて、ついでに顔も上げる。まず最初に目に飛び込んで来たのは黒い服。そして次に──薄紫色の、紫苑の花のような双眸。
きらきらと光を弾いている銀髪に、一瞬男女の区別がつかない中性的な整った顔。日の光の眩しさに目を細めるルレインとは反対に、驚愕に眸を見開く相手は二、三度瞬きした後にっこりと笑った。
「大丈夫? 怪我してない?」
「あ、りがとう、ございます。だいじょうぶ・・・──っ!」
とりあえずいつまでも体を預けているわけにもいるまい。
礼を言いながら彼の上から退きかけて、ルレインは息を呑んだ。彼の纏う黒を基調とした服は軍部の制服で、その腕についた腕章は軍警──何を隠そう、つい先ほどまでルレインが追いかけられていたハンターの紋が入ったものだ。
だらだらと嫌な汗が背を伝う。離れはしたがいつまで経っても立ち上がろうとしないルレインを足をくじいたものだと認識したのか、落下時に身を挺して庇ってくれた優しい人間、もといハンターのひとりは、ひょいとルレインを抱き上げた。
「!?」
「落ちたときに足、痛めたんじゃない? 手当てするからとりあえず移動しようか」
「え、あ・・・大丈夫です。ちょっとぼうっとしてただけで」
(気づかれてない・・・?)
身構えたのも一瞬。体勢を立て直さず無様に落下したことが功を奏したのか、彼の態度はヴァンパイアに対するものではなく怪我人に対するものである。よくよく考えてみれば、本性がヴァンパイアと言えど傍から見ればただの人間。ハンターだからと言ってそう簡単に見破れるものではない。
とりあえず下ろしてもらおうと口を開いたとき、ルレインが飛び越えて来たように柵の向こうからハンターたちが躍り出た。
「おいその女をこっちに・・・って隊長!? 何してるんですか、こんなところで!」
「何って普通に見回りだけど」
(隊長!?)
剣呑な顔から一転、満面に驚愕を乗せて声を上げたハンターに平然と応じたのはまさかまさかのルレインを抱えているハンターである。深く被ったフードの下で顔が引き攣り、首筋を冷や汗が伝った。
(うそ。たしかハンターは表向き軍警ってことになってて、その隊長ってことはこのひと──)
ヴァンパイアを狩る側の一番上に立つ人間である。
無意識に体が強張った。狩る側の人間の腕の中に、狩られる側。ヴァンパイアは一般的に狩る側にいるはずなのに、それが対ハンターになると一瞬で立ち位置が変わってしまう。
抱えられた状態で下手に動くことも逃げることもできず、ルレインはただ体を固くするしかない。
(どうしよう。このひとたちに私がヴァンパイアだって報告されたら一瞬で#殺さ__狩ら__#れる・・・)
腰に佩いた剣で心臓を突かれるか首を刎ねられるか。逃げるために無様にも落下するという醜態をさらしたのにも関わらず、逃げた先がまさかのハンターの腕の中。万策尽きて息を殺すことしかできない。
(っ、また死ぬのは嫌だ。だって約束が・・・・・・約束?)
脳裏を過ったことにふと瞬きをする。自分の思考に何故かついていけなくて小首を傾げたルレインは、無意識にハンターの襟元を握りしめていることに気づいていなかった。──その縋るような仕草に彼が目元を和ませたことにも。
「それでお前たちは何をやってるの、そんな息切らせて。鍛錬足りてないんじゃない?」
「そのヴァンパイアを追跡してたんですよ!」
「ヴァンパイア?」
追っていた獲物が仲間の手の内にあるからか、肩で大きく息をしつつも、ハンターたちから先ほどまでの気迫は感じられない。だが、話題が話題だ。どうにか逃げようと思考を巡らせるが、余裕のない頭では善策なんて思いつくはずもない。
自分の迫り来る死に指先が震えた。悲鳴を漏らすまいと下唇を噛みしめる。流れに身を任せるしかなく、緊張の糸が極限まで張りつめ──た、のだが。
「彼女は違うよ」
「は?」
(え・・・)
伏せていた顔をはっと上げると、紫苑の眸と視線がかち合った。「よっ、と」という軽い掛け声とともにルレインを抱え直した彼は、安心させるように小さく笑む。
だが案の定、彼の部下たちは噛みついた。
「いやいやいやいや! その女はヴァンパイアですよ! こんな日中から怪しげなマント纏ってるし!」
「普通に考えて日除けだろ。別に怪しくもない」
「だってその女、俺たち撒いて逃げようとしたんですよ!?」
「誰だって得物振りかざして追いかけてくる野郎には恐怖しか感じないと思うけど。逃げるでしょ、まともな神経してるならなおさら」
「尋常じゃないくらい足速かったし! 俺たち追いつけなかったですし!」
「火事場の馬鹿力って言葉知ってる? お前たちの鍛錬不足もあるんじゃないの。状況から察するに、お前たちはその森から来たんだろ? 足場も悪い上に慣れてもいない。でも辺境が故郷の彼女は森や山に慣れてる。そこに火事場の馬鹿力が働いたとしたら? 人間、命の危機に瀕してるときはどんな力が出るかわかったもんじゃないけど」
「ノスコルグ隊長! ですがその女、こんな真昼間から森に──」
「そもそも、なんでお前たちは彼女が狩り対象だと思ったわけ?」
ひとつひとつ部下の言をいなし、ハンターの彼は呆れたように溜息をついた。ルレインはと言えば、予想だにしていなかった展開に成り行きを見守ることしかできない。
(え。いや私ヴァンパイアなんだけど)
元とはいえ、今は立派に魔族だ。日除けのマントをしているのも、何を隠そうヴァンパイアの弱点のひとつに日光があるからで。
とはいえ、ここで墓穴を掘るわけにもいかない。口を噤んだルレインは、そろそろとハンターたちに目をやった。ぐっと言葉に詰まってバツの悪そうな顔をしている屈強な男三人。その手には対ヴァンパイア用の抜身の刃。今考えると、よくここまで逃げ切れたものである。
「・・・森の中で女ひとり歩いていたので怪しいと思い武器を突き付けたところ、血相を変えて逃げ出したので」
「それでヴァンパイアだと判断した、と?」
「う、・・・はい」
(え、嘘。ばれてたとかじゃなくてそんな力技?)
「女の子ひとりで森を歩くってだけで警戒すべきものが多いのに、そこで大の大人に武器突き付けられてみろよ。誰だって血相変えて逃げ出すに決まってるだろ」
(ごもっとも。・・・いや、私ヴァンパイアなんだけど)
口を挟むわけにもいかず、胸奥だけで同意しておく。まさか確実な証拠があってヴァンパイアと確定されたのち、追いかけられたわけではなく、体当たりの作戦だったとは。それで当たりを引いたハンターたちは強運の持ち主だ。
「とりあえず彼女、怪我してるみたいだから。お前たちは見回りに戻っていいよ。ここは俺が引き受ける」
「え。でもノスコルグ隊長、ヴァンパイアかどうかの取り調べは──」
「必要ないよ。俺のヴァンパイア捕縛数とその正確さ、知ってるだろ。彼女は違う」
(いやヴァンパイアですけど)
くるりと踵を返して部下を置き去りにその場を後にする彼にそう言いたい気分を抑えて、ハンターたちの姿が見えなくなった辺りで口を開く。
「あの、ありがとうございました。足もなんともないので歩けます」
「敬語じゃなくていいよ。知らない仲でもないし」
「はい?」
どこかで会ったことあるだろうか。記憶を手繰るがヴァンパイアのルレインにハンターの知り合いはいない。だが、先ほどはさらりと流してしまったが聞き捨てならない台詞もあった。
──〝辺境が故郷の彼女は森や山に慣れてる〟
何故知っているのだろうか。あのときはその場しのぎの口から出まかせかと思ったが、よく考えてみれば彼があの場でそういう嘘を言う必要性はまったくない。それに何より、ルレインが辺境出身というのは事実だ。
知り合いだっただろうか。思い出すためにも中性的な美貌をじっと見つめると、彼は少し困ったように眉を下げた。
「覚えてないかな、ルレ」
「っ」
ルレ。その呼称が記憶の糸を揺さぶった。
ルレインのことをそう呼ぶ相手。過去にひとりだけいた覚えがある。まだルレインが人間だったころの故郷で──。
「・・・・・・ヴィスタ?」
八年前までルレインの故郷にいた少年。ルレインのことを花と呼ぶのは後にも先にも彼だけだ。
怖々尋ねるルレインに、ヴィスタはほっとしたように笑う。
「よかった、忘れられてなかった」
「えっと・・・」
もしかして先ほど部下であるハンターたちにルレインがヴァンパイアでないとあそこまで自信満々に言い切ってみせたのは、最初からルレインがルレインであると気づいていたからか。
そう考えると、とてつもなく申し訳なくなる。だってルレインは、もうあの頃のルレインではない。成長して変わったどころか人間ですらなく、人間だったころの記憶も曖昧だ。
罪悪感に胸を塞がれて言葉に詰まった彼女は、とりあえず話を逸らすことにした。
「どこに向かってるの? 私、足くじいてないけど」
ヴァンパイアの治癒力は人間と比べものにならない。くじいていたとしてももう治っているはずだ。
だからもう下してもらっても大丈夫だと、そう言ったつもりだったのだが。
「ん、知ってる。でもとりあえず俺が借りてる宿の部屋ね」
(何故)
思いはしたがにっこりと笑うその顔に、何故か口に出すことが憚られた。有無を言わせない笑顔、というやつである。
さらに下ろしてくれる気配すらない。人気のない場所ならまだしも、涼しい顔で彼が突き進むのは石畳で整備された大通りである。ヴィスタの容貌が人目を引くことも相まって、当然不躾な視線が集中した。
(どうしてこうなった)
羞恥心を盛大に刺激されたルレインは、フードをさらに深く被って、突き刺さる視線から逃げるようにヴィスタの肩口に頭を押し付ける。
どこで選択肢を誤ったのだろうか。ハンターたちから逃げ出したところか、それともヴィスタの前で無様に落下したところか。いやその後の、ハンターの紋章に目を奪われたせいですぐさま立てなかったところだろうか。
ぐるぐると思考を巡らせているうちに、思いのほか近かったらしい目的地についてしまっていた。「着いたよ」と柔らかい声音が耳朶を打つ。
ひとが好さそうな宿の主と一言二言交わして二階へ。簡素な寝台に下ろされたルレインは土にまみれたブーツを思い出して立ち上がりかけ、しかし肩を押されて寝台に逆戻りすることになった。
「ヴィスタ・・・?」
寝台に逆戻りしただけではない。いとも容易く上体を倒され腕を縫い留められ、一切の抵抗を封じられる。
見返した先に昔馴染みの綺麗な顔と天井の梁を認め、一瞬何が起こったか理解できなかったルレインはぱちぱちと瞬きをした。
ぎしりと、寝台が軋む。
「ねえルレ。──君を巻き込んだのはどこのヴァンパイア?」
ひゅっと喉から乾いた音が鳴った。
(バレて・・・)
咄嗟に起き上がろうとしたものの、のしかかられているせいで動けない。息をつめてヴィスタを凝視すると、彼は場にそぐわない穏やかな笑みを浮かべた。
「そんなに怯えないで。手荒な真似はしないから。誓って、君を傷つけるようなことはしない」
「い、つから、気づいて・・・」
「さあ、いつだろうね。でもひとつだけ言えるなら、ファルノンはヴァンパイアの存在を隠してる。知ってるのは一部の人間だけで、国民のほとんどが魔族の存在を知らないんだ。でも君はヴァンパイアの話をする俺と部下に何も口を挟んでこなかったし、その後俺とふたりになっても〝ヴァンパイア〟について何も聞いてこなかった」
「っ」
目を見開いて息を呑むルレインに一瞬悲しそうな顔をして。
「ルレ、教えて。君はいつからそちら側にいて、俺が離れてた間に何があったのか」
彼は耳に直接吹き込むようにそう囁いた。
***
ルレインが人間を辞めたのは六年前。ヴィスタが故郷を離れた二年後のことだ。
経緯についてはなんてことない。崖から転落して死にかけたところをヴァンパイアに拾われた、ただそれだけの話である。
それ以前の記憶があやふやなのはきっと事故の後遺症だろう。何故崖から落ちたのかは覚えていないし、今では故郷の知人の顔すら曖昧だ。久しぶりに再会したヴィスタの顔を見てもすぐに思い当たらなかったのは、彼が成長していたからというよりもこちらの原因のほうが大きいように思う。
──〝生きたい?〟
したたかに打ち付けた体の感覚ももはや麻痺して痛みすら感じず、五感はどこか遠くへ行ってしまっていたというのに、その声だけはやけにはっきりと聞こえたのである。そしてルレインは、その声に迷うことなく頷いていた。
今思えば、何故あのとき生に縋りついたのかよくわからない。
特別親しかった幼馴染は遠くに行ってしまい、その一年半後には唯一の肉親である祖父が他界した。ルレインが死にかけたのは祖父が他界してから半年と経たなかった頃である。人間の身を捨てて魔族になってなお生きながらえるほどの執着も未練も、あの頃のルレインにはなかったはずだ。
それでも彼女は差し伸べられた救いの手に一も二もなく飛びついて今ここにいる。
ヴィスタはルレインがヴァンパイアに巻き込まれて魔族に堕ちたものだと思っているようだが、実際は巻き込まれたどころか巻き込んだ側だ。ルレインを拾った凄みのある美貌のヴァンパイアとはここ最近まで一緒に暮らしていたくらいだし、ヴァンパイアに迷惑を被った覚えはない。──いや、まあしつこく恋愛を勧めてきたときは正直あしらうのが大変面倒だったけれど。
「だからまあ、そのヴァンパイアに傷つけられたとかじゃないよ。一回も血を吸われた記憶もないし」
危害は加えないと誓われたうえ何故か一瞬だけ悲痛な顔を見せたヴィスタに、ルレインはそれはもうあっさりと望まれたことを話した。身動きの一切を封じられた状況で話さないという選択肢を選んだとして膠着状態に陥るだけである。
だからあっさりと口を割ったわけなのだが、それに対するヴィスタの反応は予想外のものだった。
のしかかっていた体を離して寝転ぶルレインを抱き起し、「そうだったんだ」というさらりとした一言。先ほど泣き出す寸前にも見えた悲しそうな表情はどこへやら、今は何故か機嫌が良さそうににこにこしている。
「え。なんでそんなに嬉しそうな顔してるの」
わけを話した途端に霧散した深刻な空気に正直戸惑いを隠せない。それどころか嬉々としているようにも見える彼の表情にルレインは引き攣った声を出した。
「ん? だってルレが今俺の前にいるのってそのとき生きたいって思ったからだろ?」
「う、ん・・・まあ、そうだけど」
「約束、守ってくれたんだなぁと思ってさ」
「約束?」
ヴィスタには悪いがルレインには人間時の記憶がほとんどない。いや、あることにはあるが靄がかかったようにぼんやりとしたものになってしまっている。
(ヴィスタとの約束・・・何かしたっけ。してたとしても八年以上前かぁ)
ヴィスタとの記憶で一番近いのは八年前。彼が故郷を離れる当日のこと。何故かは思い出せないが彼が急に皇都に発つことになって、ルレインはそれを出立の前日に聞かされた。
眉を寄せつつ徐々に記憶を掘り返していく。
(ヴィスタが発ったのは朝方だったはずだから、何か約束したとするならその時か前の日・・・? 異常に寂しかったことしか覚えてな──・・・あ)
ぽんと気泡が弾けるように頭の中で何かが弾けた。
急に彼がいなくなることを聞かされたとき真っ先に感じたのは悲しみや寂しさよりも衝撃。その後じわじわと時間が経つにつれて胸に穴が空いたような感覚を味わった。ただ距離が離れるだけなのに何かを失くしたような、誰かを喪ったような、そんなどうしようもない、虚しさ。そこに染み込んだのが、鼻の奥がつんとするような痛み。
──〝明日の朝、ここを離れるんだ〟
未だ幼さの残る相貌をしていたあの頃のヴィスタがそう言った。人伝に聞いた噂ではなく、本人から直接言われたのだ。
だからこそ衝撃が大きすぎて。はじめはぽかんとしていたルレインがその意味をゆっくり噛み砕いて理解したとき、自分の意思に関係なく顔が歪んだ。──泣きそうになった。
そのときに約束したのだ。
──〝落ち着いたら会いに来るよ。ちょっと遅くなるかもしれないけど、絶対だ〟
(・・・思い出した。そうだ、あのとき死にたくないって思ったのは〝約束〟があったからで)
祖父が他界して寂しくて。他に肉親なんていなかったから、祖父の後を追ってもよかったはずなのに。
会いに来ると言ってくれたヴィスタとの約束が、ルレインに未練を残した。人間を辞めることになっても生に執着させた。
「思い出した?」
「・・・うん。忘れてたのがありえないくらい」
顔を覗き込んで来たヴィスタに頷いて、うっかり緩みかけた涙腺を引き締める。ほんのわずかに潤んだ目を乾かすために瞬きをくり返すルレインに小さく笑って、彼は肩に頭を預けてくる。
「よかった。・・・長い休暇がとれたから久しぶりに帰ったのに君がいなくて焦ったんだ。どこ探しても見当たらないから早めに切り上げていろんな町を回ってた。支部に顔出しっていう名目でだけど」
「じゃあこの町にいるのもそれが理由?」
「そう。だって故郷の誰も君が今どこにいるのか知らないって言うんだ」
ハンターの最上位にいる彼が、本部のある皇都ではなくその隣町にいたのはどうやら故郷から失踪した幼馴染を探すためだったらしい。どうりでここ一年この町に住んでいても会わなかったわけである。彼の本来の活動拠点は皇都なのだ。
どこか拗ねたような声を出しながら、ヴィスタがぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「・・・・・・本当に会えてよかった」
「うん」
「・・・君が誰にも咬まれてなくてよかった」
「うん?」
「俺だって咬んだことないのに誰かに咬まれてたらどうしようかと思った」
「・・・」
一瞬、何を言われたかよくわからなかった。凍った脳が動き出し、ようやく意味を呑み込めた瞬間ルレインの目から生気が消える。
「・・・咬むも何もヴィスタはヴァンパイアじゃないでしょう」
だって彼はヴァンパイアを狩る側だ。ヴァンパイアの吸血時に必要な鋭い牙を持っているはずがない。
「そうなんだけど」
案の定返ってきたのは肯定で、そのことに安堵すると同時に少しだけ寂しくなった。
ヴィスタとの約束を守るためにヴァンパイアになってまでながらえた。けれどその約束は今こうして果たされたうえ、ハンターのヴィスタとヴァンパイアのルレインとでは決して相容れない。
「・・・ねえ、ヴィスタ。そういえばさっきのハンターたちに嘘ついてよかったの? 私がヴァンパイアだって気づいていたんでしょう?」
狩るべき存在だと気づいていながらそれを誤魔化し庇ってもよいのだろうか。そう思って聞いたことだったが、ルレインの肩から頭を離したヴィスタは怪訝そうに眉をひそめている。
「嘘を言った覚えはないけど」
「? でも私のこと『ヴァンパイアじゃない』って・・・」
あのとき彼がそう庇ったからルレインは今ここにいるのだ。
けれど彼は相変わらず訝し気に眉を寄せたまましれっとこうのたまった。
「ヴァンパイアじゃないとは言ってないよ。ルレは違うって言っただけで何が違うとは言ってないし、ヴァンパイアじゃないって明言した覚えもない」
「・・・・・・」
とんでもない屁理屈である。
(いやそれもうヴァンパイアじゃないって言ってるようなものじゃ・・・)
現にハンターたちを騙すどころかルレインもヴィスタにはヴァンパイアだとばれていないと思っていたくらいだ。──実際には易々と看破されてしまっていたけれど。
絶句して二の句が継げない。ルレインは唖然とヴィスタを眸に映しだす。だが彼は自失しているルレインをおかまいなしに、彼女の手を弄び始めた。
指を搦めてぎゅっと握りこみ、口元まで運んで手の甲に口づける。
ぎょっと我に返って目を見開くルレインに悪戯に笑って。
「そういえばそのことで君に提案があるんだけど──」
ヴィスタはそう切り出した。
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