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パロディ
ev.血の味、恋の味(後)
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二ヶ月ぶりです。お待たせしました!
前回上げた設定に間違いがあったので訂正します。
ナーシェ:使い魔→魔女
頭を空にしてお読みください。
─────────────────────────────────
穢れを知らない娘に甘言を囁くとき、悪魔はこういう気持ちなのだろうか。
きょとんと見返してくる琥珀の眸に笑みを返しながら、ヴィスタは思う。
六年前に離れた故郷。六年前に不本意ながら距離を置くことになった幼馴染。ひと月という長い休暇を使って里帰りしたというのに、彼女の姿は故郷になかった。
あのときはかなり焦ったものだが、今思えば故郷で人間の彼女に会えなかったのは僥倖だったのかもしれない。
(・・・いい匂い。でも、気づいてないんだろうな)
鼻腔をくすぐる誘惑の香りにくらりとする。一瞬でも気を抜くと、理性の鎖は呆気なく砕け散りそうだ。
「提案?」
表情が乏しいのは昔から変わらない。それでもヴィスタの顔を覗き込んでくるルレインの眸はどこまでも素直で、訝しんでいるのがよくわかる。
少し身構えているのは、彼女にとってヴィスタは幼馴染でありながら敵でもあるからだろう。
それがわかっているヴィスタは、爽やかな笑みを浮かべながらあえて茶化した物言いを選んだ。
「俺と契約して番にならない?」
ルレインの目が死んだ。
半眼でじとっとヴィスタを見やる彼女は言葉こそないものの隠し切れない猜疑心をぶつけてくる。
何言ってんだこいつ、と言いたげな冷ややかな視線にヴィスタは眉を下げた。
「実は今、困ってることがあって。君に助けてほしいんだ」
「助ける?」
「そう。君の血を俺にわけてほしい」
「・・・、わけてどうするの? 何かの実験にでも使うつもり?」
ハンターに血をわけろと言われて不信感を抱かないヴァンパイアはいない。自分たちを屠るための実験にでも使われるのかと警戒するのが妥当だ。
眉間に皺を寄せたルレインの言葉を、ヴィスタは慌てて否定した。
「まさか! そんなもったいないことしないよ」
「もったいない・・・? じゃあ何に使うの」
「飲む」
間髪入れずに言い切った途端、ルレインがふつりと沈黙した。
「・・・飲む?」
「飲む」
「誰が?」
「? ルレは俺がせっかくの君の血を誰かに飲ませるような馬鹿だと思ってるの?」
言外に自分が飲むことを伝えれば、彼女はまるで奇妙なものを見るような目でヴィスタを見やった。本日二度目の「何言ってんだこいつ」という目である。
「・・・人間が血を飲む必要はないでしょう? むしろ倦厭されて然るべき──」
「俺は人間じゃないよ」
「は?」
ぽかんと、ルレインは呆ける。聞き間違いかと耳を疑う彼女に、ヴィスタは笑顔で追い打ちをかけた。
「俺はヴァンパイアじゃないけど人間でもない、──混血種なんだ」
ヴィンパイアと人間の間に生まれた子──ダンピールの存在は、非常に稀少だ。そもそも人間が人間のままヴァンパイアと結ばれる事例は少なく、さらに#生まれてきた子__ダンピール__#はヴァンパイアにとって厄介な能力を持っているがゆえに、大抵赤子のときに殺される。
「俺の場合は父さんが元ハンターの人間っていうのもあったし、何より母さんが脅威になろうが何だろうが子どもを殺すなんてありえないっていう穏健派だったから生き延びた感じかな」
まあ穏健派だったから母さんは父さんに狩られずに済んだんだろうけど。
そう続けると、ルレインの顔が僅かに引き攣った。
「ダンピールが持つ厄介な能力っていうのは?」
「ヴァンパイアと人間を見分ける力のことだよ。俺は見ただけで相手がヴァンパイアかどうかがわかるんだ。だからハンターに回られたら厄介だろ?」
「・・・もしかして私がヴァンパイアだって気づいたのもその力のおかげ?」
おそるおそる訊いてくるルレインに、ヴィスタは笑顔を向ける。それだけですべてを察した彼女が「・・・無様に落下した私の苦労が」と呻いた。
「本来ならダンピールに吸血は必要ないんだ。飲まなくても生きていける。でも俺はヴァンパイアの血が濃かったらしくて、六年前に吸血本能が目覚めた」
「六年前・・・」
「そう。故郷を離れたのはそれが原因」
物心ついたときからずっと喉を何かに塞がれているような違和感があった。けれど飲食に支障をきたすわけでもなければ、声を出しづらいわけでもない。日常生活になんら不都合のない、ふとしたときに意識の端に引っかかるだけのそれは、今思えばヴィスタの中に眠るヴァンパイアの本能を抑えていた何かなのかもしれない。
「あのときのルレはヴァンパイアでもなければ魔族の存在を知るわけでもないただの人間だったから何も教えてあげられなかったけど、ようやく話せる。俺の吸血本能が目覚めたきっかけは、君なんだ」
「私?」
「うん。まあ、正確に言うなら君の血かな。覚えてないかな、俺が故郷を離れる三日前、君は折れた木の枝に腕を引っかけて怪我したんだ。それがきっかけ」
あのとき彼は初めて、体の根幹を大きく揺さぶられる感覚を味わった。
鉄臭いだけの血が、ひどく甘美なものに見える。匂いも、見た目も。それまでどちらかと言えば倦厭してきたものに食指が動き、喉が渇いた。獲物を見つけた獣のように無意識に犬歯を舌で撫でて、そこで気づいたのだ。
──幼馴染の血を、貪り尽くしたいと思っている自分に。
今思い出してもあのときの自分には乾いた笑いしか出てこない。ルレインの腕を手当てしながら、痛みに顔をしかめる彼女を心配するような素振りを見せながら、ヴィスタはずっと頭の隅でどうやって彼女を喰らうかを考えていたのだ。
それがまた無意識だったからこそ、タチが悪い。
「ルレを傷つけるのは本意じゃなかったし、何より貪り尽くしたら君はいなくなる。だから離れたんだけど、参ったことに吸血の欲求はなくならないし、仕方なく飲んだら飲んだで血は不味い。そのうえ俺は、ここ一年近くまったく吸血できてない」
心底参ったように、ヴィスタは長く息を吐き出す。
故郷を離れて六年。なくなるどころか渇きは増して飢えに近いものになった。それを凌ぐためにハンターでありながら手近な人間から血を奪ったことも数多くある。もちろん殺すほど貰ってはいないし、吸血行為の記憶は血を抜くのと一緒に消したけれど。
吐き出すほど不味い血を無理やり飲み込むのは苦行に近かったが、それでも飲まなければ調子がでない。ダンピールは吸血を必要としないはずなのに、体は飢えを訴えてくる。ヴァンパイアに片足を突っ込むどころか八割がたヴァンパイアだと言っても過言ではないほどだ。
それなのに、一年前から体は完全に血を受けつけなくなった。飲んでも喉を超えることなく吐き出してしまう。そうなった原因はわかっているけれど、原因がわかれば解決できるかと言われればそうでもなかった。──そう。簡単に解決できるものではなかったのだ、ルレインが人間のままだったのなら。
「俺が今回の休暇を使って故郷に帰ったのは、必ず帰るっていう約束を君としたからだけど、ついでに少し血をわけてもらうのも目的のひとつだったんだ」
「少しでよかったの?」
首を傾げたルレインに頷きつつ、ヴィスタは「直接飲むわけじゃなかったから」と続ける。
「知り合いにその手の専門家がいるから新薬作ってもらおうと思ってたんだよ。今出回ってる抑制薬は効き目が薄いから、君の血を使って俺専用の薬作ったほうが良いって言われてさ。まあでも、それは君が人間のままだったらって話なんだけど・・・。ルレ、俺、自分で言うのもなんだけど優良物件だと思うよ。人間じゃないからいくらでも血の提供ができるし、君は他に吸血しに行く必要がないからハンターに捕まる可能性も下がる。さらに言うならハンターの奥さんだから誰も君をヴァンパイアだって疑わない」
にこりと笑って華奢な手と指を搦めた。急に話を戻したヴィスタにぱちぱちと瞬きをしたルレインが気まずそうに視線を逸らす。
「・・・そういえばこれ、そういう話だった」
「俺は最初から〝そういう話〟しかしてないつもりだったけど?」
「・・・・・・、いや、でもヴィスタ。体が血を受けつけなくなってるなら、私の血も他と同じで飲めないかもしれないでしょう」
「君の血だよ? 俺が飲めないと思ってるの?」
「その自信はどこからくるの」
ルレインがどんなに呆れ顔になっても、ヴィスタはにこにこと上機嫌なままだ。
(どこからもなにも、こんなに良い匂いしてるのに)
先ほどから食欲をそそる甘美な香りが微かに漂っていることに彼女は気づいていないのだろう。
離れていた六年間、癒えない渇きに仕方なくルレインのものではない血を飲んでいたが、それらを美味そうだと感じたことは一度もない。
ふと、新薬開発を提案した知人の言葉が耳に蘇った。
──〝君の渇きが癒えないのは、ただ血に飢えているからではなく、誰かの血を求めているからではないのか?〟
(ウォズリトの言ってたことは正しかったかな)
香りだけで、今まで抱えていた飢えが少し緩和されている。けれど渇きはまだ癒えない。飢えは緩和できても、渇きが癒えるのはルレインを喰らってからだ。人間を辞めた彼女は、ヴィスタがどれだけ求めようと脆く壊れることはない。──好きなだけ、貪れる。
疼く犬歯を舌で撫でつつ、ヴィスタは「試してみる?」と囁いた。
「試す?」
「そう」
搦めていた指を解いて、するすると袖の中に侵入させる。脈を図るように皮膚の薄い部分に触れれば、指先が僅かな湿り気を捉えた。
ルレインの顔が小さく歪む。
「いっ、・・・」
「ヴァンパイアは治癒に優れてるぶん痛覚が鈍いから気づかなかったんじゃない? この傷、君が俺の目を欺くためにわざと落下したときにできたものだよ」
袖を肘まで寄せて露出させた白い手首には、まだ乾いていない血がこびりついている。いくらヴァンパイアといえど、太い血管の通る部分は治りが遅い。
未だ治りきっていない手首を口元に寄せつつ、ヴィスタ唖然としているルレインにまるで見せつけるように微笑んだ。
「俺はね、ルレ。──君が傍にいてくれないと、いつか干からびるんだ」
***
「ウォズリト! ちょっと顔を貸しなさい、ってあら・・・?」
病人のような色をした三日月が頼りなく夜空を彩る夜半時。
不敵にも皇都の小さな単立教会に乗り込んだヴァンパイアのファイは、その場に居合わせている面子に目をしばたたかせた。
布地の多い祭服を纏う聖職者が疲れたように眉間を揉み、少し離れたところではローブを纏った小柄な少女が大きな眸をこぼれんばかりに見開いている。そしてその傍らに、あんぐりと口を開けて固まっている青年。
聖職者と少女は見知った顔だからいいとして、問題は石化している青年のほうである。彼が纏うは黒を基調とした軍部の制服。その胸元にある銀糸で刺繍された紋章が示すのは、騎士団──つまり、魔族の存在を認識していない人間であるということだ。
場が凍って沈黙が積もる。ややあって、凍り付いたその空間に疲労の滲んだ声が落とされた。
「・・・ファイ殿。次からは面倒がって窓から入ってくるのではなく正面から堂々来てくれ。コア=ミグリオンの二の舞は出したくない」
「・・・・・・善処するわ」
何が問題だったのか。何の声かけもなく教会に乗り込んだことはそれなりに捨て置けないが、それよりも由々しき事態が起こってしまっている。
(どうせ入り口は施錠されてるだろうからって霧化で窓の隙間から入ったのは間違いだったわね)
生粋のヴァンパイアが持つ能力のひとつ、霧化。夜も深まったこの時間帯にまさか〝ただの人間〟がいるとは思っていなかったファイは、遠慮なく霧化能力を使ってしまっていた。
声もでないほど驚いてはくはくと無意味に口を開閉させていたコアは、穴が開くほどファイを凝視して。
「がっ!?」
──一言も発さないうちにローブを纏った少女がどこからか取り出した杖によって気絶させられてしまった。
「これでよし、と」
「ナーシェ・・・」
愛くるしい容姿に似合わず、物理的にコアを黙らせたナーシェにファイはひくりと頬を引き攣らせる。ありがたいが些か思い切りが良すぎではないだろうか。
「私が連れて来たようなものなので責任は持ちます」
「ここに来る途中で道に迷ってコア=ミグリオンに送り届けられてきたんだ、ナーシェ殿は」
「そ、そう。恩を仇で返すようなことになっちゃったわね・・・?」
「恩なんかありませんよ。こんな、初対面のひとをチビ呼ばわりする失礼なヤツ」
ぷいと不機嫌そうに目をすがめてそっぽを向いたナーシェは、どうやらコアのことが気に喰わないらしい。「とりあえず記憶消してそのへんに捨てておきますね」と物騒なことを言い出し、懐から無色透明の液体が入った小瓶を取り出した。
ナーシェは郊外の森に居を構える魔女のひとりである。もともと薬に精通している一族ではあるが、彼女の場合「記憶消しの薬なら家事の片手間に作れるわ」と豪語するほど特に薬作りを得意としていた。
だが、少し記憶をいじる程度のこと、魔女の手を借りなくてもヴァンパイアには造作もない。
「待ってナーシェ。原因は私なんだから記憶を消すのは私が・・・」
コルクの蓋を外して瓶をコアの口に捻じ込もうとするナーシェを止めれば、彼女は嫌そうに顔をしかめた。
「ファイさんがやるとなると吸血しないといけなくなるでしょう。記憶を消すためとはいえこんなヤツの血を吸う必要はありません。私がやったほうが被害が少なくて済みます」
「被害って・・・」
酷い言い草である。
初対面でチビ呼ばわりされたのがよほど気に喰わなかったらしいナーシェは、荒い手つきでコアの口に瓶を突っ込み中身を嚥下させると、足を掴んでずるずると引きずり始めた。
「じゃあ、届け物の用事も済んだんで帰りますね。ついでにこれはそのへんに捨ててきます」
「ああ」
小柄な少女が成人男性を引きずる異様な光景をさらっと流して、ウォズリトはナーシェが出て行った後しっかりと入り口を施錠する。この時間から訪ねてくる人間はそうそういないと思うが、何せコアという例外がさきほどまでいたばかりだ。
「で。何の用だ、ファイ殿。吸血抑制薬なら生憎と切らしているうえ、僕個人としてはあまり薬で本能を抑圧するのはどうかと思うんだがな。喉が渇いてるのなら僕の血をやってもいいが」
あっけらかんと言われた言葉は聞き慣れたものだ。ウォズリトは聖職者のくせに何かにつけて涼しい顔で吸血を勧めてくる。善意なのか同情なのか知らないが、そのあまりにも頓着のない語調にファイが顔をしかめるまでが一連の流れだ。
「しつこいわね。いらないわよ、あんたの血なんて。味を覚えたくもない」
「酷い言い草だな。不味くはないと思うが、・・・ああ、聖職者の血は吸いたくないか? ならばさきほどナーシェ殿から奪ってでもコア=ミグリオンの血を貰えばよかったものの。君からしてみれば吸血もできて記憶も消せる、まさに一石二鳥だろう」
今にも「はっ」と鼻で笑いそうな、どこか棘のある言葉にファイはむっとする。
「はあ? 何よ急に。喧嘩売ってる?」
「別に。僕の提案は毎度すげなく断るというのにコア=ミグリオンの吸血には随分積極的だったなと思っただけだ」
「吸ってないしあれは記憶を消すのが目的であって、・・・・・・ねえ、もしかして怒ってるんじゃなくて拗ねてるの?」
眼鏡の奥で目を据わらせているウォズリトの言い分は、まるで小さな子どもが下の子にばかり構う親に対して文句を垂れているのと同じようにも聞こえる。
(いや、大の大人がまさかそんな・・・小さい子どもでもないんだし)
そう思ったのも束の間。
「ああ、そうだ。何か悪いか」
耳に届いたのは不満を隠そうともしない開き直った肯定の言葉だった。
「・・・。痛い思いがしたいの?」
「そんな趣味はない」
「じゃあヴァンパイアにでもなりたいの? 言っておくけど、ヴァンパイアに咬まれらヴァンパイアになるっていう俗説は迷信よ」
「知っている。致死の失血の上でヴァンパイアの血を取り込むのが正しい手順なんだろう。不老長寿は大変に魅力的だからな。僕が人間を終えたら是非お願いしたい」
「そのときの私があんたを同族にしたいだなんて血迷ったことを思ってたら考えてあげるわ。それで、なんでそんなに吸血を勧めてくるのよ。自分の血を抜かれるのって嫌なものじゃないの?」
「別に。僕は君が相手なら構わないと思っただけだ」
「は」
落とされた一切飾らない率直な台詞に一瞬で思考が停止する。ぽかんと眸にウォズリトを映せば、彼は湖水色の眸を不遜にすがめた。
何か問題でも? と言わんばかりの態度に稼働し始めた脳が一気に混乱する。
(は? 私になら血を吸われてもいい? えっ、は? なにそれ、どんな口説き文句!?)
ウォズリトにそんなつもりがなかったとしてもヴァンパイア相手にその発言は口説いているようにしか聞こえない。
(吸わないけど! 絶対に吸わないけど! 味覚えて他の血が飲めなくなったら困るし!)
「魔族と対極にいる聖職者が何言い出すのよ・・・! 冗談でも笑えないわ」
「役職は確かに対極だが、僕自身は魔女の血を引く先祖返りでもあるのでな。だからヴァンパイアに吸血衝動を抑制する薬を提供できているわけなのだし」
「そういう話をしているんじゃないの!」
ウォズリトは聖職者でありながらその血を遡れば魔女に辿りつく混血種だ。九割型人間とはいえ、体に流れる血には魔族のものが混ざっている。だからこそ基本的に魔族徹底排除の構えをとる聖職者社会にいながら、彼は共存派を貫いているわけなのだが。
今はそういう話をしているわけではない。
(話! 話を逸らさないと堂々巡りになる・・・!)
自覚しているのかは知らないが、このまま心臓に悪い話題を続けるのはご免だ。ウォズリトの血の味を覚えて他の血を飲めなくなる事態は避けたい。
話題転換を図るため視線を彷徨わせたファイは、ずっと握りしめていた紙に気づいてはっとした。
(そうだった、もともとここに来たのはこれが原因だったわ)
目的を思い出し、強引に話を変える。「まあ、いいわ。それは置いといて」と前置いた。
「これ、どういうこと。隣町にいたはずの私の〝妹〟がハンターの歯牙にかかってるんだけど・・・!」
突き付けたのはずっと握りしめていたせいで少しばかりよれてしまった一枚の紙。今朝使い魔であるフクロウが運んできたそれの送り主は『軍警隊長ヴィスタ=ノスコルグ』──ヴァンパイア狩猟率が異常に高いハンターの親玉である。
わざわざファイの使い魔を利用して送られて来たのは手紙──ではなく。
「? ああ、この婚姻版を刷ったものなら僕にも届いたな。結婚の報告だろう」
「な、ん、で、相手がルレインなのよ・・・! というか曲がりなりにもハンターが私に結婚報告ってなに!?」
「嫁が君の眷属だからじゃないか?」
ファイが〝妹〟と言って憚らないのは、六年前に眷属となったルレインのことだ。崖下で夥しい量の血を流して死にかけていた彼女に自らの血を分け与えたあの時から、ルレインはファイにとって家族同然の位置にあった。
それが、である。少し目を離した隙にハンター、それもただのハンターではなくハンターたちの頂点にいる親玉に捕まるなど、一体誰が想像できただろうか。しかも結婚の事後報告。これが叫ばずにいられるか。
「何か聞いてないの、ウォズリト!? あんたノスコルグ隊長と仲良いんでしょう!?」
襟ぐりを掴んで容赦なく揺さぶれば、がくんがくんと頭を前後に揺らしながらウォズリトが顔をしかめる。
「知らん。それに少し前までルレイン殿を恋愛脳にしようとやたら奮闘していたのは君だろう。相手ができて喜びこそすれ嘆くのはおかしくないか?」
「相手がハンターじゃなければ! ノスコルグ隊長じゃなければ祝福したわよ! だって彼、狩る側の中でも一番私たちに恐れられてるのに・・・!」
「だが白黒の見極めもしっかりやっているだろう。徹底排除派ではないし、白のヴァンパイアは解放もしている」
「結婚しちゃったら解放も何もないでしょう!」
むしろずっと囚われたままではないか。
「可哀想にルレイン・・・、ハンターなんかと結婚したら満足に吸血できないうえ抑制薬も簡単に手に入れられなくなるでしょうに。ずっと飢えたままなんて・・・」
ファイの揺さぶりを何とか止めたウォズリトは、襟を掴む彼女の手を剥がしつつ嘆きを聞いて瞬きをした。
「それは心配ないだろう。ヴィスタ=ノスコルグはダンピールだからな。それなりにヴァンパイアに対しての理解はある」
「・・・・・・はい?」
落とされたのは予想だにしない爆弾。
ぴしっと動きを止めたファイは目を見開いてウォズリトを見上げる。
「ダン、ピール・・・? ヴァンパイアと人間の混血の・・・?」
「ああ。それ以外に何がある」
「・・・初耳だわ、それ」
「そうか? だが少し考えればわかるだろう。ダンピールにはヴァンパイアと人間を見分ける能力がある。それにくわえあの身体能力だ。魔族の血を引いていると考えた方が妥当ではないか?」
言われてみればそうである。ダンピールの能力があるのなら、あの異常なヴァンパイア狩猟率も頷けるわけで。
「待って。でも私たちの界隈でダンピールがいるなんて話は一切話題に出てないわよ。ダンピールがハンター側にいるなんて恐れてた最悪の事態じゃない! ・・・なんで今まで誰も消しにいかなかったのかしら」
比較的穏健派のファイでも、やはりダンピールが敵にいるのは見逃せない。
ぶつぶつと不穏なことを零すファイに瞬きながら、ウォズリトは礼拝席に腰かけて長い脚を組んだ。
「無差別に狩っているわけではないからだろう。殺すほど貪らなければ、ある程度は見逃している。君たちまともなヴァンパイアからしても、面汚しの無作法者をハンターが狩ってくれるのはありがたいのではないか?」
「・・・それは、そうだけど」
「それになにより、ヴィスタ=ノスコルグを殺すのには骨が折れるだろうな。あの男はダンピールといえどどちらかと言えばヴァンパイア寄り、しかも父親は元ハンターだ。束になってかかればあるいは始末できるのかもしれないが、そもそも君たちヴァンパイアは群れることを好まない種族だ。よって、消す労力より生かす利益のほうを取ったんだろう。まあ、そのせいで君は大事な〝妹〟を奪われたわけだが」
「そう、問題はそこよ!」
ぐしゃりと、ファイの手の中で婚姻版の刷紙が握りつぶされる。
「仮にもハンターがヴァンパイアと番になるってどういう頭してるの!?」
「ヴィスタ=ノスコルグの頭は怪奇だからな。何を考えているのかまったくわからん。そもそも今回の休暇だって新薬のために故郷に血を貰いに行ったはず・・・」
ふと、ウォズリトの言葉が止まった。
何事かを思案するように目を伏せる彼にファイは柳眉を寄せる。ややあって顔を上げたウォズリトは、納得したように眼鏡を押し上げた。
「なるほど。あの男が求めていた血はルレイン殿のものだったわけか」
「なにひとりで納得してるのよ。私置いてけぼりなんですけど?」
「言っただろう、ヴィスタ=ノスコルグはヴァンパイア寄りのダンピールだ、と。あの男、異常なほど吸血欲求があって吸血もしているのに満たされたことは一度もないと常々零していたんだ」
「満たされたことが一度もない・・・?」
「ああ。だから『君は血そのものに飢えているのではなく、特定の誰かの血を欲しているのではないか』というようなことを言った」
淡々と紡がれるウォズリトの台詞にファイは片頬を引き攣らせる。
どうにも、嫌な予感がしてきた。
「そうしたら一年ほど前から吸血すらできなくなってしまったようでな。僕の発言が原因かもしれんと責任を感じてあの男専用の抑制薬を作ることを持ちかけたんだ。長期休暇が取れたから故郷に帰りつつ吸血本能が目覚めた原因に新薬用の血を貰いにいくと言っていたんだが、どうやらそれがルレイン殿だったらしい」
「・・・・・・」
嫌な予感、どんぴしゃである。
(嘘でしょう、ルレインだけの血に焦がれて他の血を受けつけなくなるってそれ・・・)
特定の血以外は体が拒絶するほどに焦がれた血を求める。──それは、血に飢える獣特有の恋着だ。
つまりここで言えることはひとつだけ。
「ノスコルグ隊長が自覚しちゃったのはウォズリトのせいじゃない・・・っ!」
─────────────────────────────────
とりあえず…コア、ごめん(土下座)
本当はもっと台詞とかあったんですけど、長くなったので削ったら一言も喋らないうちに退場してました。
そして吸血鬼パロなのに…
吸 血 シ ー ン が 一 度 も な い !(土下座)
書いてたんですよ。書いてたんですけど、一万字超えちゃだめだなって長くなっ(ry
吸い放題飲み放題吸血し放題だって言われたけど、この後ひと月くらいずっと吸血せずに薬で抑制してたらヴィスタに見つかって静かにキレられるっていうシーンを書いてたんですけど、文字数の関係上消しましたorz
何を隠そうそれが吸血シーンです。
吸血されたりしたり強要されたりっていうのをね!書いてたんですよ!!
でも長い!!!そしてイチャついてるはずなのに血が絡んでるせいでどことなくやり取りが物騒!!!
というわけで割愛しました。まあでもいい感じで切れたので、ね。
気になる方がいらっしゃったら、次の機会にでも書きたいと思います。
前回上げた設定に間違いがあったので訂正します。
ナーシェ:使い魔→魔女
頭を空にしてお読みください。
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穢れを知らない娘に甘言を囁くとき、悪魔はこういう気持ちなのだろうか。
きょとんと見返してくる琥珀の眸に笑みを返しながら、ヴィスタは思う。
六年前に離れた故郷。六年前に不本意ながら距離を置くことになった幼馴染。ひと月という長い休暇を使って里帰りしたというのに、彼女の姿は故郷になかった。
あのときはかなり焦ったものだが、今思えば故郷で人間の彼女に会えなかったのは僥倖だったのかもしれない。
(・・・いい匂い。でも、気づいてないんだろうな)
鼻腔をくすぐる誘惑の香りにくらりとする。一瞬でも気を抜くと、理性の鎖は呆気なく砕け散りそうだ。
「提案?」
表情が乏しいのは昔から変わらない。それでもヴィスタの顔を覗き込んでくるルレインの眸はどこまでも素直で、訝しんでいるのがよくわかる。
少し身構えているのは、彼女にとってヴィスタは幼馴染でありながら敵でもあるからだろう。
それがわかっているヴィスタは、爽やかな笑みを浮かべながらあえて茶化した物言いを選んだ。
「俺と契約して番にならない?」
ルレインの目が死んだ。
半眼でじとっとヴィスタを見やる彼女は言葉こそないものの隠し切れない猜疑心をぶつけてくる。
何言ってんだこいつ、と言いたげな冷ややかな視線にヴィスタは眉を下げた。
「実は今、困ってることがあって。君に助けてほしいんだ」
「助ける?」
「そう。君の血を俺にわけてほしい」
「・・・、わけてどうするの? 何かの実験にでも使うつもり?」
ハンターに血をわけろと言われて不信感を抱かないヴァンパイアはいない。自分たちを屠るための実験にでも使われるのかと警戒するのが妥当だ。
眉間に皺を寄せたルレインの言葉を、ヴィスタは慌てて否定した。
「まさか! そんなもったいないことしないよ」
「もったいない・・・? じゃあ何に使うの」
「飲む」
間髪入れずに言い切った途端、ルレインがふつりと沈黙した。
「・・・飲む?」
「飲む」
「誰が?」
「? ルレは俺がせっかくの君の血を誰かに飲ませるような馬鹿だと思ってるの?」
言外に自分が飲むことを伝えれば、彼女はまるで奇妙なものを見るような目でヴィスタを見やった。本日二度目の「何言ってんだこいつ」という目である。
「・・・人間が血を飲む必要はないでしょう? むしろ倦厭されて然るべき──」
「俺は人間じゃないよ」
「は?」
ぽかんと、ルレインは呆ける。聞き間違いかと耳を疑う彼女に、ヴィスタは笑顔で追い打ちをかけた。
「俺はヴァンパイアじゃないけど人間でもない、──混血種なんだ」
ヴィンパイアと人間の間に生まれた子──ダンピールの存在は、非常に稀少だ。そもそも人間が人間のままヴァンパイアと結ばれる事例は少なく、さらに#生まれてきた子__ダンピール__#はヴァンパイアにとって厄介な能力を持っているがゆえに、大抵赤子のときに殺される。
「俺の場合は父さんが元ハンターの人間っていうのもあったし、何より母さんが脅威になろうが何だろうが子どもを殺すなんてありえないっていう穏健派だったから生き延びた感じかな」
まあ穏健派だったから母さんは父さんに狩られずに済んだんだろうけど。
そう続けると、ルレインの顔が僅かに引き攣った。
「ダンピールが持つ厄介な能力っていうのは?」
「ヴァンパイアと人間を見分ける力のことだよ。俺は見ただけで相手がヴァンパイアかどうかがわかるんだ。だからハンターに回られたら厄介だろ?」
「・・・もしかして私がヴァンパイアだって気づいたのもその力のおかげ?」
おそるおそる訊いてくるルレインに、ヴィスタは笑顔を向ける。それだけですべてを察した彼女が「・・・無様に落下した私の苦労が」と呻いた。
「本来ならダンピールに吸血は必要ないんだ。飲まなくても生きていける。でも俺はヴァンパイアの血が濃かったらしくて、六年前に吸血本能が目覚めた」
「六年前・・・」
「そう。故郷を離れたのはそれが原因」
物心ついたときからずっと喉を何かに塞がれているような違和感があった。けれど飲食に支障をきたすわけでもなければ、声を出しづらいわけでもない。日常生活になんら不都合のない、ふとしたときに意識の端に引っかかるだけのそれは、今思えばヴィスタの中に眠るヴァンパイアの本能を抑えていた何かなのかもしれない。
「あのときのルレはヴァンパイアでもなければ魔族の存在を知るわけでもないただの人間だったから何も教えてあげられなかったけど、ようやく話せる。俺の吸血本能が目覚めたきっかけは、君なんだ」
「私?」
「うん。まあ、正確に言うなら君の血かな。覚えてないかな、俺が故郷を離れる三日前、君は折れた木の枝に腕を引っかけて怪我したんだ。それがきっかけ」
あのとき彼は初めて、体の根幹を大きく揺さぶられる感覚を味わった。
鉄臭いだけの血が、ひどく甘美なものに見える。匂いも、見た目も。それまでどちらかと言えば倦厭してきたものに食指が動き、喉が渇いた。獲物を見つけた獣のように無意識に犬歯を舌で撫でて、そこで気づいたのだ。
──幼馴染の血を、貪り尽くしたいと思っている自分に。
今思い出してもあのときの自分には乾いた笑いしか出てこない。ルレインの腕を手当てしながら、痛みに顔をしかめる彼女を心配するような素振りを見せながら、ヴィスタはずっと頭の隅でどうやって彼女を喰らうかを考えていたのだ。
それがまた無意識だったからこそ、タチが悪い。
「ルレを傷つけるのは本意じゃなかったし、何より貪り尽くしたら君はいなくなる。だから離れたんだけど、参ったことに吸血の欲求はなくならないし、仕方なく飲んだら飲んだで血は不味い。そのうえ俺は、ここ一年近くまったく吸血できてない」
心底参ったように、ヴィスタは長く息を吐き出す。
故郷を離れて六年。なくなるどころか渇きは増して飢えに近いものになった。それを凌ぐためにハンターでありながら手近な人間から血を奪ったことも数多くある。もちろん殺すほど貰ってはいないし、吸血行為の記憶は血を抜くのと一緒に消したけれど。
吐き出すほど不味い血を無理やり飲み込むのは苦行に近かったが、それでも飲まなければ調子がでない。ダンピールは吸血を必要としないはずなのに、体は飢えを訴えてくる。ヴァンパイアに片足を突っ込むどころか八割がたヴァンパイアだと言っても過言ではないほどだ。
それなのに、一年前から体は完全に血を受けつけなくなった。飲んでも喉を超えることなく吐き出してしまう。そうなった原因はわかっているけれど、原因がわかれば解決できるかと言われればそうでもなかった。──そう。簡単に解決できるものではなかったのだ、ルレインが人間のままだったのなら。
「俺が今回の休暇を使って故郷に帰ったのは、必ず帰るっていう約束を君としたからだけど、ついでに少し血をわけてもらうのも目的のひとつだったんだ」
「少しでよかったの?」
首を傾げたルレインに頷きつつ、ヴィスタは「直接飲むわけじゃなかったから」と続ける。
「知り合いにその手の専門家がいるから新薬作ってもらおうと思ってたんだよ。今出回ってる抑制薬は効き目が薄いから、君の血を使って俺専用の薬作ったほうが良いって言われてさ。まあでも、それは君が人間のままだったらって話なんだけど・・・。ルレ、俺、自分で言うのもなんだけど優良物件だと思うよ。人間じゃないからいくらでも血の提供ができるし、君は他に吸血しに行く必要がないからハンターに捕まる可能性も下がる。さらに言うならハンターの奥さんだから誰も君をヴァンパイアだって疑わない」
にこりと笑って華奢な手と指を搦めた。急に話を戻したヴィスタにぱちぱちと瞬きをしたルレインが気まずそうに視線を逸らす。
「・・・そういえばこれ、そういう話だった」
「俺は最初から〝そういう話〟しかしてないつもりだったけど?」
「・・・・・・、いや、でもヴィスタ。体が血を受けつけなくなってるなら、私の血も他と同じで飲めないかもしれないでしょう」
「君の血だよ? 俺が飲めないと思ってるの?」
「その自信はどこからくるの」
ルレインがどんなに呆れ顔になっても、ヴィスタはにこにこと上機嫌なままだ。
(どこからもなにも、こんなに良い匂いしてるのに)
先ほどから食欲をそそる甘美な香りが微かに漂っていることに彼女は気づいていないのだろう。
離れていた六年間、癒えない渇きに仕方なくルレインのものではない血を飲んでいたが、それらを美味そうだと感じたことは一度もない。
ふと、新薬開発を提案した知人の言葉が耳に蘇った。
──〝君の渇きが癒えないのは、ただ血に飢えているからではなく、誰かの血を求めているからではないのか?〟
(ウォズリトの言ってたことは正しかったかな)
香りだけで、今まで抱えていた飢えが少し緩和されている。けれど渇きはまだ癒えない。飢えは緩和できても、渇きが癒えるのはルレインを喰らってからだ。人間を辞めた彼女は、ヴィスタがどれだけ求めようと脆く壊れることはない。──好きなだけ、貪れる。
疼く犬歯を舌で撫でつつ、ヴィスタは「試してみる?」と囁いた。
「試す?」
「そう」
搦めていた指を解いて、するすると袖の中に侵入させる。脈を図るように皮膚の薄い部分に触れれば、指先が僅かな湿り気を捉えた。
ルレインの顔が小さく歪む。
「いっ、・・・」
「ヴァンパイアは治癒に優れてるぶん痛覚が鈍いから気づかなかったんじゃない? この傷、君が俺の目を欺くためにわざと落下したときにできたものだよ」
袖を肘まで寄せて露出させた白い手首には、まだ乾いていない血がこびりついている。いくらヴァンパイアといえど、太い血管の通る部分は治りが遅い。
未だ治りきっていない手首を口元に寄せつつ、ヴィスタ唖然としているルレインにまるで見せつけるように微笑んだ。
「俺はね、ルレ。──君が傍にいてくれないと、いつか干からびるんだ」
***
「ウォズリト! ちょっと顔を貸しなさい、ってあら・・・?」
病人のような色をした三日月が頼りなく夜空を彩る夜半時。
不敵にも皇都の小さな単立教会に乗り込んだヴァンパイアのファイは、その場に居合わせている面子に目をしばたたかせた。
布地の多い祭服を纏う聖職者が疲れたように眉間を揉み、少し離れたところではローブを纏った小柄な少女が大きな眸をこぼれんばかりに見開いている。そしてその傍らに、あんぐりと口を開けて固まっている青年。
聖職者と少女は見知った顔だからいいとして、問題は石化している青年のほうである。彼が纏うは黒を基調とした軍部の制服。その胸元にある銀糸で刺繍された紋章が示すのは、騎士団──つまり、魔族の存在を認識していない人間であるということだ。
場が凍って沈黙が積もる。ややあって、凍り付いたその空間に疲労の滲んだ声が落とされた。
「・・・ファイ殿。次からは面倒がって窓から入ってくるのではなく正面から堂々来てくれ。コア=ミグリオンの二の舞は出したくない」
「・・・・・・善処するわ」
何が問題だったのか。何の声かけもなく教会に乗り込んだことはそれなりに捨て置けないが、それよりも由々しき事態が起こってしまっている。
(どうせ入り口は施錠されてるだろうからって霧化で窓の隙間から入ったのは間違いだったわね)
生粋のヴァンパイアが持つ能力のひとつ、霧化。夜も深まったこの時間帯にまさか〝ただの人間〟がいるとは思っていなかったファイは、遠慮なく霧化能力を使ってしまっていた。
声もでないほど驚いてはくはくと無意味に口を開閉させていたコアは、穴が開くほどファイを凝視して。
「がっ!?」
──一言も発さないうちにローブを纏った少女がどこからか取り出した杖によって気絶させられてしまった。
「これでよし、と」
「ナーシェ・・・」
愛くるしい容姿に似合わず、物理的にコアを黙らせたナーシェにファイはひくりと頬を引き攣らせる。ありがたいが些か思い切りが良すぎではないだろうか。
「私が連れて来たようなものなので責任は持ちます」
「ここに来る途中で道に迷ってコア=ミグリオンに送り届けられてきたんだ、ナーシェ殿は」
「そ、そう。恩を仇で返すようなことになっちゃったわね・・・?」
「恩なんかありませんよ。こんな、初対面のひとをチビ呼ばわりする失礼なヤツ」
ぷいと不機嫌そうに目をすがめてそっぽを向いたナーシェは、どうやらコアのことが気に喰わないらしい。「とりあえず記憶消してそのへんに捨てておきますね」と物騒なことを言い出し、懐から無色透明の液体が入った小瓶を取り出した。
ナーシェは郊外の森に居を構える魔女のひとりである。もともと薬に精通している一族ではあるが、彼女の場合「記憶消しの薬なら家事の片手間に作れるわ」と豪語するほど特に薬作りを得意としていた。
だが、少し記憶をいじる程度のこと、魔女の手を借りなくてもヴァンパイアには造作もない。
「待ってナーシェ。原因は私なんだから記憶を消すのは私が・・・」
コルクの蓋を外して瓶をコアの口に捻じ込もうとするナーシェを止めれば、彼女は嫌そうに顔をしかめた。
「ファイさんがやるとなると吸血しないといけなくなるでしょう。記憶を消すためとはいえこんなヤツの血を吸う必要はありません。私がやったほうが被害が少なくて済みます」
「被害って・・・」
酷い言い草である。
初対面でチビ呼ばわりされたのがよほど気に喰わなかったらしいナーシェは、荒い手つきでコアの口に瓶を突っ込み中身を嚥下させると、足を掴んでずるずると引きずり始めた。
「じゃあ、届け物の用事も済んだんで帰りますね。ついでにこれはそのへんに捨ててきます」
「ああ」
小柄な少女が成人男性を引きずる異様な光景をさらっと流して、ウォズリトはナーシェが出て行った後しっかりと入り口を施錠する。この時間から訪ねてくる人間はそうそういないと思うが、何せコアという例外がさきほどまでいたばかりだ。
「で。何の用だ、ファイ殿。吸血抑制薬なら生憎と切らしているうえ、僕個人としてはあまり薬で本能を抑圧するのはどうかと思うんだがな。喉が渇いてるのなら僕の血をやってもいいが」
あっけらかんと言われた言葉は聞き慣れたものだ。ウォズリトは聖職者のくせに何かにつけて涼しい顔で吸血を勧めてくる。善意なのか同情なのか知らないが、そのあまりにも頓着のない語調にファイが顔をしかめるまでが一連の流れだ。
「しつこいわね。いらないわよ、あんたの血なんて。味を覚えたくもない」
「酷い言い草だな。不味くはないと思うが、・・・ああ、聖職者の血は吸いたくないか? ならばさきほどナーシェ殿から奪ってでもコア=ミグリオンの血を貰えばよかったものの。君からしてみれば吸血もできて記憶も消せる、まさに一石二鳥だろう」
今にも「はっ」と鼻で笑いそうな、どこか棘のある言葉にファイはむっとする。
「はあ? 何よ急に。喧嘩売ってる?」
「別に。僕の提案は毎度すげなく断るというのにコア=ミグリオンの吸血には随分積極的だったなと思っただけだ」
「吸ってないしあれは記憶を消すのが目的であって、・・・・・・ねえ、もしかして怒ってるんじゃなくて拗ねてるの?」
眼鏡の奥で目を据わらせているウォズリトの言い分は、まるで小さな子どもが下の子にばかり構う親に対して文句を垂れているのと同じようにも聞こえる。
(いや、大の大人がまさかそんな・・・小さい子どもでもないんだし)
そう思ったのも束の間。
「ああ、そうだ。何か悪いか」
耳に届いたのは不満を隠そうともしない開き直った肯定の言葉だった。
「・・・。痛い思いがしたいの?」
「そんな趣味はない」
「じゃあヴァンパイアにでもなりたいの? 言っておくけど、ヴァンパイアに咬まれらヴァンパイアになるっていう俗説は迷信よ」
「知っている。致死の失血の上でヴァンパイアの血を取り込むのが正しい手順なんだろう。不老長寿は大変に魅力的だからな。僕が人間を終えたら是非お願いしたい」
「そのときの私があんたを同族にしたいだなんて血迷ったことを思ってたら考えてあげるわ。それで、なんでそんなに吸血を勧めてくるのよ。自分の血を抜かれるのって嫌なものじゃないの?」
「別に。僕は君が相手なら構わないと思っただけだ」
「は」
落とされた一切飾らない率直な台詞に一瞬で思考が停止する。ぽかんと眸にウォズリトを映せば、彼は湖水色の眸を不遜にすがめた。
何か問題でも? と言わんばかりの態度に稼働し始めた脳が一気に混乱する。
(は? 私になら血を吸われてもいい? えっ、は? なにそれ、どんな口説き文句!?)
ウォズリトにそんなつもりがなかったとしてもヴァンパイア相手にその発言は口説いているようにしか聞こえない。
(吸わないけど! 絶対に吸わないけど! 味覚えて他の血が飲めなくなったら困るし!)
「魔族と対極にいる聖職者が何言い出すのよ・・・! 冗談でも笑えないわ」
「役職は確かに対極だが、僕自身は魔女の血を引く先祖返りでもあるのでな。だからヴァンパイアに吸血衝動を抑制する薬を提供できているわけなのだし」
「そういう話をしているんじゃないの!」
ウォズリトは聖職者でありながらその血を遡れば魔女に辿りつく混血種だ。九割型人間とはいえ、体に流れる血には魔族のものが混ざっている。だからこそ基本的に魔族徹底排除の構えをとる聖職者社会にいながら、彼は共存派を貫いているわけなのだが。
今はそういう話をしているわけではない。
(話! 話を逸らさないと堂々巡りになる・・・!)
自覚しているのかは知らないが、このまま心臓に悪い話題を続けるのはご免だ。ウォズリトの血の味を覚えて他の血を飲めなくなる事態は避けたい。
話題転換を図るため視線を彷徨わせたファイは、ずっと握りしめていた紙に気づいてはっとした。
(そうだった、もともとここに来たのはこれが原因だったわ)
目的を思い出し、強引に話を変える。「まあ、いいわ。それは置いといて」と前置いた。
「これ、どういうこと。隣町にいたはずの私の〝妹〟がハンターの歯牙にかかってるんだけど・・・!」
突き付けたのはずっと握りしめていたせいで少しばかりよれてしまった一枚の紙。今朝使い魔であるフクロウが運んできたそれの送り主は『軍警隊長ヴィスタ=ノスコルグ』──ヴァンパイア狩猟率が異常に高いハンターの親玉である。
わざわざファイの使い魔を利用して送られて来たのは手紙──ではなく。
「? ああ、この婚姻版を刷ったものなら僕にも届いたな。結婚の報告だろう」
「な、ん、で、相手がルレインなのよ・・・! というか曲がりなりにもハンターが私に結婚報告ってなに!?」
「嫁が君の眷属だからじゃないか?」
ファイが〝妹〟と言って憚らないのは、六年前に眷属となったルレインのことだ。崖下で夥しい量の血を流して死にかけていた彼女に自らの血を分け与えたあの時から、ルレインはファイにとって家族同然の位置にあった。
それが、である。少し目を離した隙にハンター、それもただのハンターではなくハンターたちの頂点にいる親玉に捕まるなど、一体誰が想像できただろうか。しかも結婚の事後報告。これが叫ばずにいられるか。
「何か聞いてないの、ウォズリト!? あんたノスコルグ隊長と仲良いんでしょう!?」
襟ぐりを掴んで容赦なく揺さぶれば、がくんがくんと頭を前後に揺らしながらウォズリトが顔をしかめる。
「知らん。それに少し前までルレイン殿を恋愛脳にしようとやたら奮闘していたのは君だろう。相手ができて喜びこそすれ嘆くのはおかしくないか?」
「相手がハンターじゃなければ! ノスコルグ隊長じゃなければ祝福したわよ! だって彼、狩る側の中でも一番私たちに恐れられてるのに・・・!」
「だが白黒の見極めもしっかりやっているだろう。徹底排除派ではないし、白のヴァンパイアは解放もしている」
「結婚しちゃったら解放も何もないでしょう!」
むしろずっと囚われたままではないか。
「可哀想にルレイン・・・、ハンターなんかと結婚したら満足に吸血できないうえ抑制薬も簡単に手に入れられなくなるでしょうに。ずっと飢えたままなんて・・・」
ファイの揺さぶりを何とか止めたウォズリトは、襟を掴む彼女の手を剥がしつつ嘆きを聞いて瞬きをした。
「それは心配ないだろう。ヴィスタ=ノスコルグはダンピールだからな。それなりにヴァンパイアに対しての理解はある」
「・・・・・・はい?」
落とされたのは予想だにしない爆弾。
ぴしっと動きを止めたファイは目を見開いてウォズリトを見上げる。
「ダン、ピール・・・? ヴァンパイアと人間の混血の・・・?」
「ああ。それ以外に何がある」
「・・・初耳だわ、それ」
「そうか? だが少し考えればわかるだろう。ダンピールにはヴァンパイアと人間を見分ける能力がある。それにくわえあの身体能力だ。魔族の血を引いていると考えた方が妥当ではないか?」
言われてみればそうである。ダンピールの能力があるのなら、あの異常なヴァンパイア狩猟率も頷けるわけで。
「待って。でも私たちの界隈でダンピールがいるなんて話は一切話題に出てないわよ。ダンピールがハンター側にいるなんて恐れてた最悪の事態じゃない! ・・・なんで今まで誰も消しにいかなかったのかしら」
比較的穏健派のファイでも、やはりダンピールが敵にいるのは見逃せない。
ぶつぶつと不穏なことを零すファイに瞬きながら、ウォズリトは礼拝席に腰かけて長い脚を組んだ。
「無差別に狩っているわけではないからだろう。殺すほど貪らなければ、ある程度は見逃している。君たちまともなヴァンパイアからしても、面汚しの無作法者をハンターが狩ってくれるのはありがたいのではないか?」
「・・・それは、そうだけど」
「それになにより、ヴィスタ=ノスコルグを殺すのには骨が折れるだろうな。あの男はダンピールといえどどちらかと言えばヴァンパイア寄り、しかも父親は元ハンターだ。束になってかかればあるいは始末できるのかもしれないが、そもそも君たちヴァンパイアは群れることを好まない種族だ。よって、消す労力より生かす利益のほうを取ったんだろう。まあ、そのせいで君は大事な〝妹〟を奪われたわけだが」
「そう、問題はそこよ!」
ぐしゃりと、ファイの手の中で婚姻版の刷紙が握りつぶされる。
「仮にもハンターがヴァンパイアと番になるってどういう頭してるの!?」
「ヴィスタ=ノスコルグの頭は怪奇だからな。何を考えているのかまったくわからん。そもそも今回の休暇だって新薬のために故郷に血を貰いに行ったはず・・・」
ふと、ウォズリトの言葉が止まった。
何事かを思案するように目を伏せる彼にファイは柳眉を寄せる。ややあって顔を上げたウォズリトは、納得したように眼鏡を押し上げた。
「なるほど。あの男が求めていた血はルレイン殿のものだったわけか」
「なにひとりで納得してるのよ。私置いてけぼりなんですけど?」
「言っただろう、ヴィスタ=ノスコルグはヴァンパイア寄りのダンピールだ、と。あの男、異常なほど吸血欲求があって吸血もしているのに満たされたことは一度もないと常々零していたんだ」
「満たされたことが一度もない・・・?」
「ああ。だから『君は血そのものに飢えているのではなく、特定の誰かの血を欲しているのではないか』というようなことを言った」
淡々と紡がれるウォズリトの台詞にファイは片頬を引き攣らせる。
どうにも、嫌な予感がしてきた。
「そうしたら一年ほど前から吸血すらできなくなってしまったようでな。僕の発言が原因かもしれんと責任を感じてあの男専用の抑制薬を作ることを持ちかけたんだ。長期休暇が取れたから故郷に帰りつつ吸血本能が目覚めた原因に新薬用の血を貰いにいくと言っていたんだが、どうやらそれがルレイン殿だったらしい」
「・・・・・・」
嫌な予感、どんぴしゃである。
(嘘でしょう、ルレインだけの血に焦がれて他の血を受けつけなくなるってそれ・・・)
特定の血以外は体が拒絶するほどに焦がれた血を求める。──それは、血に飢える獣特有の恋着だ。
つまりここで言えることはひとつだけ。
「ノスコルグ隊長が自覚しちゃったのはウォズリトのせいじゃない・・・っ!」
─────────────────────────────────
とりあえず…コア、ごめん(土下座)
本当はもっと台詞とかあったんですけど、長くなったので削ったら一言も喋らないうちに退場してました。
そして吸血鬼パロなのに…
吸 血 シ ー ン が 一 度 も な い !(土下座)
書いてたんですよ。書いてたんですけど、一万字超えちゃだめだなって長くなっ(ry
吸い放題飲み放題吸血し放題だって言われたけど、この後ひと月くらいずっと吸血せずに薬で抑制してたらヴィスタに見つかって静かにキレられるっていうシーンを書いてたんですけど、文字数の関係上消しましたorz
何を隠そうそれが吸血シーンです。
吸血されたりしたり強要されたりっていうのをね!書いてたんですよ!!
でも長い!!!そしてイチャついてるはずなのに血が絡んでるせいでどことなくやり取りが物騒!!!
というわけで割愛しました。まあでもいい感じで切れたので、ね。
気になる方がいらっしゃったら、次の機会にでも書きたいと思います。
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