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第4章
30 キアとムジ
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「次の買い出しにお前を連れて行くことにしたから」
そのつもりでいろとムジはキアに告げた。
「は、い…」
いまいちピンとこない顔をしているキアは、無表情のままムジの次の行動を待った。
「若い連中が馬鹿なことをしたからな。予定が狂ったわ。あんな問題児連れていかれない」
ムジはぶつくさとぼやきながら、木箱の蓋を開けた。
それぞれの宿の買い出しをムジが一手に引き受けている。月に一度、宿の従業員と村人を数人連れて出かけるのだ。そこで買い出しと社会情勢などを調べるという。村の宿は国境沿いにあるにもかかわらず、近隣の情報などはあまり入って来ない。
「国の情勢を知らないままでいるのも、のんびりと暮らしていけるのは良いことだが、何も知らないままでいるのはな。なにかと落ち着かないこともある」
いつまでも知らぬ存ぜぬでは、まかり通らないこともある。
「いつもは若い男連中を連れて行っていたんだが、今回も候補者はいたんだが」
馬鹿ばかりで手が焼けるとブツブツとまたぼやいた。シダル婆さんとの一件で、アドルとハゼルはその候補から外れたのだ。その代わりにとキアに白羽の矢が立ったのだ。
ムジは喋りながら荷解きをしていた。手を止めることなく、箱の中の荷物とリストを照らし合わせてチェックをしていた。
「お前もそろそろ村の外のことも知っておいた方がいいからな」
そろそろ村の暮らしも慣れたことだろう。村人達とも打ち解けてきている。ナユタの仕事や子守りばかりでなく、他のことに目を向ける良い機会だとキアを見やる。
「ええっ!!私、村を出ていかなきゃいけないんですか?」
「んあ?そんな話したか?」
ムジは首を傾げる。
「外を見ろと、」
「それは言ったが出て行けとは言ってない」
「…でも」
「お前には主神の番としての大事な役目がある。そう簡単に出て行かれてはこっちが困るわ」
勝手なことをしたら主神にドヤされる。
「そう、ですよね…」
「…オレの言い方が悪かったか?変に誤解をさせてしまったならすまんな」
「あ、いえ。私こそ、すみません。村から出て行くなんて考えがなかったので…急に言われてびっくりしちゃって…」
ずっとこの村にいられると思っていた。居心地が良すぎて長居をし過ぎているのではないかと考えていないわけではない。
だが、できるものなら、このままずっとこの村にいたいと願っていた。ナユタの宿で住み込みながら働いて、子ども達の世話をして、季節の折に触れて、ひっそりと暮らしていきたい。
そして何よりも、何者かもわからない私を受け入れてくれたキハラの元を離れたくなかった。番としてでも、人としてでもそばにいたい。与えられた仕事を全うしたい。
「当たり前だ。主様がお前に決めたんだからな。お前にはここにいてもらわなきゃ困るんだ」
「まあ、その、何だ」
ムジは急にモジモジしだした。頬もみるみると火照る。
「お前が村に来たての頃は、こう言っちゃなんだが、あまり良くは思ってなかった。早くいなくなればいいと思っていた」
「…あ、はい」
わざわざ言わなくてもいいのに。
キアはムジから目を逸らした。
「それで横柄な態度をとっていた。ナユタにも注意されていたんだが気持ちが直らなかった。お前が腹を壊して倒れた時もほったらかしにして悪かったな」
「…ロイさんとはじめて会った日ですね」
「ああ。そういえばそうだったな。あれからだいぶ経つのに、謝罪が今になってしまった」
「謝罪だなんて。そんなこと」
「いや。言わせてくれ。これはけじめだから。あの時は悪かった」
キアを見つめた後に、ボサボサ頭が勢いよく下がる。その反動ですぐに起き上がり、ニカッと笑った。
「じゃあこの話はこれで終わりな」
いいなと念を押してくる。ムジは溜めていた思いを吐き出したことで晴れやかな気分になり口笛を吹き出した。
その態度は、横柄さは今も健在だ。でも以前のような威圧感はなく、強引で無遠慮なだけだ。
「はい」
キアは気圧されながらもムジの謝罪を受け入れた。ここまできちんと謝罪の言葉をくれたのはムジだけだった。いかにも怖そうな顔をしているのに、根は実直な人なんだと改めて思った。
「次の週には行くから準備をしてくれ。二、三日分の荷物をまとめといてくれ」
「どこまで行くんですか?」
「中央都市ザザだ。でかい町だからな。腰抜かすなよ」
「次の買い出しにお前を連れて行くことにしたから」
そのつもりでいろとムジはキアに告げた。
「は、い…」
いまいちピンとこない顔をしているキアは、無表情のままムジの次の行動を待った。
「若い連中が馬鹿なことをしたからな。予定が狂ったわ。あんな問題児連れていかれない」
ムジはぶつくさとぼやきながら、木箱の蓋を開けた。
それぞれの宿の買い出しをムジが一手に引き受けている。月に一度、宿の従業員と村人を数人連れて出かけるのだ。そこで買い出しと社会情勢などを調べるという。村の宿は国境沿いにあるにもかかわらず、近隣の情報などはあまり入って来ない。
「国の情勢を知らないままでいるのも、のんびりと暮らしていけるのは良いことだが、何も知らないままでいるのはな。なにかと落ち着かないこともある」
いつまでも知らぬ存ぜぬでは、まかり通らないこともある。
「いつもは若い男連中を連れて行っていたんだが、今回も候補者はいたんだが」
馬鹿ばかりで手が焼けるとブツブツとまたぼやいた。シダル婆さんとの一件で、アドルとハゼルはその候補から外れたのだ。その代わりにとキアに白羽の矢が立ったのだ。
ムジは喋りながら荷解きをしていた。手を止めることなく、箱の中の荷物とリストを照らし合わせてチェックをしていた。
「お前もそろそろ村の外のことも知っておいた方がいいからな」
そろそろ村の暮らしも慣れたことだろう。村人達とも打ち解けてきている。ナユタの仕事や子守りばかりでなく、他のことに目を向ける良い機会だとキアを見やる。
「ええっ!!私、村を出ていかなきゃいけないんですか?」
「んあ?そんな話したか?」
ムジは首を傾げる。
「外を見ろと、」
「それは言ったが出て行けとは言ってない」
「…でも」
「お前には主神の番としての大事な役目がある。そう簡単に出て行かれてはこっちが困るわ」
勝手なことをしたら主神にドヤされる。
「そう、ですよね…」
「…オレの言い方が悪かったか?変に誤解をさせてしまったならすまんな」
「あ、いえ。私こそ、すみません。村から出て行くなんて考えがなかったので…急に言われてびっくりしちゃって…」
ずっとこの村にいられると思っていた。居心地が良すぎて長居をし過ぎているのではないかと考えていないわけではない。
だが、できるものなら、このままずっとこの村にいたいと願っていた。ナユタの宿で住み込みながら働いて、子ども達の世話をして、季節の折に触れて、ひっそりと暮らしていきたい。
そして何よりも、何者かもわからない私を受け入れてくれたキハラの元を離れたくなかった。番としてでも、人としてでもそばにいたい。与えられた仕事を全うしたい。
「当たり前だ。主様がお前に決めたんだからな。お前にはここにいてもらわなきゃ困るんだ」
「まあ、その、何だ」
ムジは急にモジモジしだした。頬もみるみると火照る。
「お前が村に来たての頃は、こう言っちゃなんだが、あまり良くは思ってなかった。早くいなくなればいいと思っていた」
「…あ、はい」
わざわざ言わなくてもいいのに。
キアはムジから目を逸らした。
「それで横柄な態度をとっていた。ナユタにも注意されていたんだが気持ちが直らなかった。お前が腹を壊して倒れた時もほったらかしにして悪かったな」
「…ロイさんとはじめて会った日ですね」
「ああ。そういえばそうだったな。あれからだいぶ経つのに、謝罪が今になってしまった」
「謝罪だなんて。そんなこと」
「いや。言わせてくれ。これはけじめだから。あの時は悪かった」
キアを見つめた後に、ボサボサ頭が勢いよく下がる。その反動ですぐに起き上がり、ニカッと笑った。
「じゃあこの話はこれで終わりな」
いいなと念を押してくる。ムジは溜めていた思いを吐き出したことで晴れやかな気分になり口笛を吹き出した。
その態度は、横柄さは今も健在だ。でも以前のような威圧感はなく、強引で無遠慮なだけだ。
「はい」
キアは気圧されながらもムジの謝罪を受け入れた。ここまできちんと謝罪の言葉をくれたのはムジだけだった。いかにも怖そうな顔をしているのに、根は実直な人なんだと改めて思った。
「次の週には行くから準備をしてくれ。二、三日分の荷物をまとめといてくれ」
「どこまで行くんですか?」
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