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第4章
37 夜風
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ふっと沸いた怒りの感情が元に戻らないままシャドウは草むらに寝転んだ。頭を冷やしたいと思い空を見上げるも満天の星々に嘲笑われているような感覚にもなった。
「なんなんだこの村は…」
来て早々、色々な事案が持ち込まれて頭の整理が追いつかない。整理をしたと思っていたことも思い返せば何の解決にも至らなかったり、良かれと思ってしたことが返って重荷になったり。やる事なす事空回りばかりな気がして頭が混乱していた。
雪の手がかりを求めて来たのに「来なければよかった」とつい口に出してしまうほどだ。
「あー…もうわからん」
シャドウは頭を抱え込むように髪の毛を掻きむしった。雪の手がかりは依然分からず。逃げのびるために姿を変えているだのと口を挟んできたサディカにもう一度会おうと試みたのにラボは見つけられなかった。夕闇が近づいていた時だったからナユタに森には入るなとしつこく指摘された。
ナユタは、
よくわからない男だと思った。ラボに案内してくれたり宿を提供してくれたりと世話好きさを見せてくる反面、サディカには自分の人の良さに酔っているだけだとひどく噛みつかれていた。料理上手で優しくてと村人たちは囁くけれども、ただの善人だとは思わないようにしようと思う。世話になっている分、口には出さないがお節介なところは若干鼻につく。夜の森がいかに危険かはとうに承知だ。幼子に注意してくるかのように何度も口に出してくるところはいただけない。人の神経を逆撫でるきらいがある。
ふっと見上げた視線の先に子どもを抱いた女性がいた。キアとかいう宿屋の娘だ。
ぎゃあぎゃあと泣き喚く子どもをあやしていた。この時間帯でのあの暴れ方は眠いのに眠れない。そんなところか。大変だなとシャドウは神殿にいた頃のことを思い出した。マリーをはじめ、幼子たちの面倒を見てきたからあの光景はいやというほど見てきた。あれは手こずるんだよな。
野原を割くように吹き荒れた風に、キアの髪とワンピースの裾が大きく揺れた。子どもの髪の毛も逆立つ。
「あはは!今すごい風が吹いたね!ゴーって風が来たね!気持ちいいねえ」
子どもに顔を寄せて額を合わせる仕草を見せた。
「アーシャの髪の毛飛んでっちゃったよ」
「ひゃはあっ」
さっきまで泣き喚いていた声は止んで嬉々とした声が返ってきた。
「ゴー!ゴー!」
「ひゃはははは!ひゃははは!」
体を揺らしてあやす姿をシャドウは眺めた。くるくると回っては笑い声がこだまする。子どものあやし方が上手い。手慣れているなとシャドウは関心を寄せる。
「あの子の子か?」
「いや確か薬師の子だと誰か言っていたような」
シャドウはぶつぶつと呟く。
いつかの嵐の夜に見た彼女の姿とはまるで違うふうに見えた。ナユタが誤解を解いてくれたとしても距離を詰めるのは相当難しいだろうなと感じた。話をしてみたいとは思うけど何を話したいのかはわからない。雪とは違うけれど全く違うとも言い切れない。もどかしさがなんとも相手に伝わりそうで不安になる。
まだまだぎこちなさは払拭できないだろう。
キアは横目にちらっとシャドウを見つけた。野原の中で腕組みをして神経質そうに顔を顰めていた。肘を抱えている指先に視線を落とす。大きい手だとぼんやりと眺めていたら、はたとシャドウと目が合う。
「…あ」
「あ…」
夜目がきく二人は数秒見つめ合った。キアは軽く会釈。シャドウも会釈をしようとした矢先に、キアはそそくさと顔をよそに向けてしまう。これにはシャドウも頭を悩ませた。会釈を返そうにも見られてないなら意味がない。が、下げかけた頭をただ元に戻すのは具合が悪い。見られてないとはいえ礼儀だ。
シャドウはキアに向かって頭を下げた。誤解が解けた今でも彼女に対する扱い方がよくわからなかった。
「ひゃはっ。ぴゅーゴー!」
それでも幼子の陽気な笑い声のおかげでひどく落ち込むことはなかった。話しかけてみたいと背中を押された気がした。
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