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第4章
46 自覚なし
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「なんでまたそうなるんだ…」
謂れのない物言いにシャドウは顔を顰める。
「自覚なしか?あんたも相当だな」
ロイは呆れたような困り顔をディルに向けた。
「そ。シャドウはこういうやつだから。昔からさ~」
ディルもまた、色々あったんだよとぼやく。
「何だ。色々って」
「覚えてないの?旅してる時にきれいなおねえさんとか、訳ありおねえさんとかに遭遇して、よく懐かれて好かれてモテモテだったじゃん!!」
「…そうだったか?」
「そうだよ!酒の席に誘われても飲めないからってすぐ断ってさっさと行っちゃうくせに。ぼくが付き合うって言っても、おねえさんたちはシャドウがいいみたいで宿まで追っかけてきたよね。断るの大変だったんだからね!」
「覚えてない」
「そりゃあね。シャドウは夜更かしとかできないもんね。宿に入ったらすぐ寝るし」
「翌日に疲れを残したくないだけだ」
「真面目か!」
「酒も女も興味がなくて、そのナリか。勿体無いな」
ロイの言葉にシャドウは口を曲げた。褒められているのか貶されているのか。どちらにしろいい気分ではない。確かに側から見ればシャドウは見目はいい方だ。高身長に引き締まった体躯。やや日焼けをした肌に長い髪。大した手入れはしてないがダメージは少ない。独身。シスコン。下戸。
「いじるな」
「興味がないことには、ホント興味ないもんね」
「酒は仕方がないだろう。体質だ」
「そりゃ苦手なものは誰にもあるから、無理強いする気はないよ。酒は匂いだけで酔っ払うもんな。でも女性は」
興味が「ある」人にだけベクトルが向いている。それは誰しも思うことだけど。
「……キアはいい子だよ。ナユタやナノハに可愛がられてるし、子どもたちにも人気だし、ぼくらにも優しい」
「…そのようだな」
それは見てたらわかる。ある一部の住人とのトラブルは避けられなかったようだが今は安定している。オレとも初見は誤解があり、取り乱しもしたが、いつの間にか自然と打ち解けていた。人にも獣人にもあの大蛇にも、隔てなく接しているのだろう。優しさだけでなく、他者を受け入れ、慈しむ。心が健康な証拠だ。
「一緒に行くならちゃんとしてね。危険なことには巻き込まないで、ちゃんと守ってよ!」
「ああ…」
「…あと、これはないと思うけど、一応言っておくよ」
「何だ」
「…キアを好きになったらダメだからね」
ディルの態度にシャドウは顔を顰めた。男女が一緒にいるだけでそういう風に考えるなよといつの時代も言われ続けていることだ。
「…無用の心配だ。オレには」
雪がいるから、と言いたげに口を開き、数秒考え込んだ後に口を閉じた。
「そこはちゃんと言えよ!」
ガクッと肩を下げるディルは吠えた。そういうところだぞ!とギャンギャン吠えるディルを尻目にシャドウはそっぽを向いた。耳の先が赤く色づいていた。
勢いで口に出してしまうところだった。まだ告げてもない告白に、勝手に答えを付けてしまうのは如何なものかと頭を悩ませた。
「…勿体無いな。色々な意味で」
ロイは吹き出しそうになる口元を押さえつけた。
「ホントそう!いっつもコレ!!」
答えは出てるくせに公表することは避ける。いつまでも煮え切らない態度にディルはガルルと唸る。
「彼がこうならそんなに心配はいらないかもな」
「キハラの取り越し苦労だな」とロイは溜飲を下げた。
「まあね」
そうだといいけどねとディルはコソッとつぶやいた。人の気持ちはわからないからね。変化に弱いからね。キハラが理解してくれたらいいね。
「それにしてもさ。キアが転移者ってホントなのかな」
和らんでいた空気がまた張り付いた音がした。
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