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第5章
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「おい聞いたか?神殿は影付きを手に入れたと言うぞ」
「なんだって!?それではまた、ヴァリウスがつけあがるぞ!天環を得たら、ますます強大になる!」
字の如く、天の神から授かった輪っか。影付きを支配下に置いたという証だ。ヴァリウスが支配する国土を囲む結界のようなものだ。何人たりとも侵入を許さず、攻撃も回避する。
「早くしないと手が出せなくなるぞ!!」
城の片隅で獣人達はひしめき合った。厚い毛皮の下に、隆々とした筋肉を忍ばせていても、肉を食む種別であろうとしても、ヴァリウスの前では屈服をせざるを得ないのだ。ガルルルと怒気にまみれた咆哮が静かに響いた。
「物騒な会話は慎まれた方がいいですよ」
獣人の間を割って入る人物がいた。
「レアシスさん!」
物々しい雰囲気の中に、ひゅっと入り込んだ一陣の風。
張り詰めていた空気を切り裂いた。ヴァリウスの側近のレアシスだ。針金のように細いつるの眼鏡をかけて、白衣を着ていた。スレンダーな体つきは、同じ猫でもククルとは違っていた。
「あなたにはわからない。我々はただ処刑されるのを待っているわけにはいかないのです! 」
「ヴァリウスに核を差し出して、頭を下げて尻尾を振り続けるあなたにはわかるまい!無惨に引き裂かれた獣人の苦しみが!!
あなたは仲間を思う気持ちすら、持ち合わせていないのですか!?」
獅子のような鬣を掲げて、男達はレアシスに吠えた。
「…あなた方の行為は尊重しますけれど、無駄死にはするなとも思いますよ。成功すれば良いけれど、もし、失敗すればあなた方の勇足で被害を受ける仲間がいるということもお忘れなく。生きていられる時間を奪う権利はあなた方の誰にもありませんからね」
レアシスは男達に押されつつも、冷静を装いながら宥めていった。反旗を翻したい気持ちはわかるが、無駄死にほど無駄なものはない。
「腰抜けめ、話にならんわ!」
腰抜けめと罵られていても事実は変わらない。退く勇気も必要なのだ。ただ黙って感情を押し殺していくのも戦い方のひとつだ。
「レアシスさんは、獣人の時間が短すぎる。生まれながら獣人でいる我々の気持ちなど、転身のあなたにはわかるまいよ」
転身は、長く生きた獣が人間になる逆獣人パターンだ。
多くは、長く世話をしてくれた飼い主を慕い、看取りたいが為に転身することが多い。
レアシスもその一人で、前王テレサの飼い猫だった。テレサが幼い頃から共に生きてきた。長い手足に短い毛足。オッドアイが映える真っ白な毛並み。病める時も健やかなる時も、互いを愛し、慈しんできた。主従の関係というよりは家族に近い。いついかなる時も離れたりはしなかった。女王の膝の上は私だけの特等席。誇らしかった。国の行く末を。政治の動向を。国民の幸を。あらゆる物事を女王と共に見つめてきた。王の座を退く時も一緒だ。老いていく姿もただじっと見つめてきた。
「おばあさま。わたしも彼らと行動を共にすべきなのでしょうか?」
女王の最期を看取るように、レアシスは人間へと転身した。彼らの言うとおり、獣人には種類がある。人間に忌み嫌われて育ってきた彼らと違い、転身は人間から大事に育てられてきた動物達を指す。人情や慈しみの心を肌で感じてきたからか、彼らの憎しみは頭ではわかっていても、理解まではほど遠い。仲間意識が薄いと言われたら、そうかもしれないと言わざるを得ない。彼らの反旗を後押ししないのは、ヴァリウスを守るためではない。ヴァリウスに仕えてはいるが、主君などと認めているわけではない。テレサの遺言に従っているだけだ。自分が退位した後の国の行く末を見守っていて欲しいと託されたからだった。
日差しの下で、レアシスはテレサを思い描いた。
小柄な体つきで、朗らかに笑う人だった。錫杖が背丈を越していて持ち辛そうだった。裾の長い服は邪魔だからと言って好まず、作務衣のような平服で過ごしていた。城の中には獣人がいたが、ヴァリウスと違い、獣人を手足のようにこき使うことはしなかった。教育をし、仕事を与え、人間と共存して、問題なく生きて行けた。その人柄に惹かれて、思い慕う獣人が多くいた。退位が決まると泣いて止め、葬儀の列には何百人と並んだ。
ヴァリウスの代になってから、獣人は人間と対立するようになっていた。人間を襲い、金品を奪ったり暴力を振るうようになった。テレサの時代の獣人はいないからこそ、好き放題できているのだ。そこでヴァリウスは考えたのだ。能力の高い獣人と、おとなしい性格の二パターンに作り変えるということを。おとなしいタイプの獣人の核を取り上げ、従順に従わせてきた。牙を抜かれた獣人など取るに足りないと思っているのだ。レアシスもその一人だ。テレサの遺言を全うするために自ら核を渡した。獣人達から、腰抜けと罵られても構わないのはこのためだった。
彼らの気持ちはわからなくはない。ヴァリウスの目に余る行為をみすみす見逃しているのは我慢ならない。隙を突いて喉元に爪を立ててやりたいと思ったことなど、数えきれないが、太刀打ちできないと怖じ気付いてしまう自分がいるのも事実だった。彼らのように徒党を組むことはしたくない。失敗したら皆殺しだ。他者を巻き込むくらいなら自分だけでいい。でもそれだと歯が立たない。無限ループだ。レアシスは、打倒ヴァリウスを誓って息巻いている彼らの無事を祈るばかりだった。
「おまえも長く生きたからね。もう思うようにしていいよ」
テレサの声が聞こえた気がした。
日差しの下からひゅっと吹き込んできた風が、レアシスの頬を撫でていった。
レアシスにはもうひとつ懸念していることがあった。
雪を神殿へと、みすみす送り出してしまったことだ。影付きの処罰などは一刻も早く阻止せねばならない。ヴァリウスの陰謀だと気がつくのが遅かったのだ。そのために雪だけでなく、シャドウやディルまでも危険な目に遭わせてしまったのだ。神殿からの攻撃ではっきりしたようなものだ。さあ、傷は癒えた。最悪なことにならないように、彼らだけは助けたい。
レアシスは自室に入り、眼鏡を外した。深く息を吸い込み、神殿へと続く道を探った。
*
自分の未練を消せないとか、記憶を無くしたくないとか生きることは義務だとか。それは全部当たり前のことで自分の意思。自分のわがまま。
でもそれは、ここの世界の人のことを全否定していることにならない?
悪い人ばかり目につくけど、そんな人ばかりじゃない。
ずっと親身に支えてくれていた人達までも裏切ろうとしていない?
シャドウさん。ディルさん。レアシスさん。マリー。サリエ。
自分の意思を貫けば、必ず損を被る人達もいるということを忘れてない?
損得勘定ばかりじゃないけど、自分のことばかり考えていたら誰もついてきてはくれないよ。
仕事だってそう。個人プレーだけではチームは育たない。協力して連携が必要だ。
私、支えてくれていた人達に、まだ何も伝えていない。
感謝も謝罪もしていないじゃない。
「礼を欠くな」
これだけは両親からずっと口すっぱく言われていた。
如何なる時も相手の目を見て、頭を下げろ。
雪は、すっと暗闇の中で目を開けた。一時はもうダメだと覚悟をしていたが、再び意識が戻ったことに心底喜んだ。まだ六畳間の中だろう。目が慣れてくると、四隅の境界線がよく見えた。そこにはさっきまでくっちゃべっていたククルの姿はなかった。ナイトメアもいなかった。
汗をかいて服が肌にぴったりと張り付き、体じゅうがひんやりとしていた。その反面、頭や体はすっきりしていた。高熱を出した後みたいな爽快感。でも、体は動かなかった。冷えているせいだろう。体は硬直していた。指先ひとつ動かすのさえ一苦労だ。
伝えたいことがあると願ったばかりじゃないか。
雪は指先に意識を集中させた。動け、動けと念を込めた。
「…シャドウさん」
言葉をかけるべき相手は一人ではない。今日まで関わってきた人全てだ。ヴァリウスやチドリを抜いたとしても、真っ先に思い浮かんだ名前はシャドウだった。
「シャドウさん、シャドウさん…」
口を開けばシャドウの名ばかり出てくる。頭の中に浮かぶ姿もシャドウばかりだ。
「会いたい…」
こんな終わり方は嫌だ。まだ何も答えてない。伝えてない。
雪は硬直した体を引きずるように動いた。上下に左右にと、体を揺らしてみても、なかなか思うようにならない。
「くっ…、あっ、もう!…うご…動…けっ」
匍匐前進のようだ。ミリ単位でしか動いていないが。
それでも諦められない。諦めきれない。
力が足りなくて十分な成果が上げられなくても、私は諦めきれない。認められなくとも、まだ生きていたいんだ。
「…うううう!」
声ならぬ声。食いしばった際に唇までも噛み締めた。口内に鉄の味が広がった。錆びた味だ。
胸元からネックレスが出てきた。レアシスが旅の前日に魔除けと称して、雪にあげたものだった。加工されていない歪で無骨な形だ。岩塩でできているからミネラル不足の時は舐めてみてくださいと冗談交じりに言われたのを思い出した。雪は唇を近づけ、舌の先でひと舐めした。
「…しょっぱぁあ」
気を紛らわせるにはちょうどいい。今度ディルに意地悪されたらこれで反撃しようかと思った。
「生きている証だ」
五感は正常だ。塩気に驚いて涙まで出てきた。雪は微笑んだ。生きている実感が持てた。
「雪様!!」
刹那、レアシスの叫び声と共に鋭い爪が飛び込んできた。魔除け石を目印に暗闇を切り裂いた。
「おい聞いたか?神殿は影付きを手に入れたと言うぞ」
「なんだって!?それではまた、ヴァリウスがつけあがるぞ!天環を得たら、ますます強大になる!」
字の如く、天の神から授かった輪っか。影付きを支配下に置いたという証だ。ヴァリウスが支配する国土を囲む結界のようなものだ。何人たりとも侵入を許さず、攻撃も回避する。
「早くしないと手が出せなくなるぞ!!」
城の片隅で獣人達はひしめき合った。厚い毛皮の下に、隆々とした筋肉を忍ばせていても、肉を食む種別であろうとしても、ヴァリウスの前では屈服をせざるを得ないのだ。ガルルルと怒気にまみれた咆哮が静かに響いた。
「物騒な会話は慎まれた方がいいですよ」
獣人の間を割って入る人物がいた。
「レアシスさん!」
物々しい雰囲気の中に、ひゅっと入り込んだ一陣の風。
張り詰めていた空気を切り裂いた。ヴァリウスの側近のレアシスだ。針金のように細いつるの眼鏡をかけて、白衣を着ていた。スレンダーな体つきは、同じ猫でもククルとは違っていた。
「あなたにはわからない。我々はただ処刑されるのを待っているわけにはいかないのです! 」
「ヴァリウスに核を差し出して、頭を下げて尻尾を振り続けるあなたにはわかるまい!無惨に引き裂かれた獣人の苦しみが!!
あなたは仲間を思う気持ちすら、持ち合わせていないのですか!?」
獅子のような鬣を掲げて、男達はレアシスに吠えた。
「…あなた方の行為は尊重しますけれど、無駄死にはするなとも思いますよ。成功すれば良いけれど、もし、失敗すればあなた方の勇足で被害を受ける仲間がいるということもお忘れなく。生きていられる時間を奪う権利はあなた方の誰にもありませんからね」
レアシスは男達に押されつつも、冷静を装いながら宥めていった。反旗を翻したい気持ちはわかるが、無駄死にほど無駄なものはない。
「腰抜けめ、話にならんわ!」
腰抜けめと罵られていても事実は変わらない。退く勇気も必要なのだ。ただ黙って感情を押し殺していくのも戦い方のひとつだ。
「レアシスさんは、獣人の時間が短すぎる。生まれながら獣人でいる我々の気持ちなど、転身のあなたにはわかるまいよ」
転身は、長く生きた獣が人間になる逆獣人パターンだ。
多くは、長く世話をしてくれた飼い主を慕い、看取りたいが為に転身することが多い。
レアシスもその一人で、前王テレサの飼い猫だった。テレサが幼い頃から共に生きてきた。長い手足に短い毛足。オッドアイが映える真っ白な毛並み。病める時も健やかなる時も、互いを愛し、慈しんできた。主従の関係というよりは家族に近い。いついかなる時も離れたりはしなかった。女王の膝の上は私だけの特等席。誇らしかった。国の行く末を。政治の動向を。国民の幸を。あらゆる物事を女王と共に見つめてきた。王の座を退く時も一緒だ。老いていく姿もただじっと見つめてきた。
「おばあさま。わたしも彼らと行動を共にすべきなのでしょうか?」
女王の最期を看取るように、レアシスは人間へと転身した。彼らの言うとおり、獣人には種類がある。人間に忌み嫌われて育ってきた彼らと違い、転身は人間から大事に育てられてきた動物達を指す。人情や慈しみの心を肌で感じてきたからか、彼らの憎しみは頭ではわかっていても、理解まではほど遠い。仲間意識が薄いと言われたら、そうかもしれないと言わざるを得ない。彼らの反旗を後押ししないのは、ヴァリウスを守るためではない。ヴァリウスに仕えてはいるが、主君などと認めているわけではない。テレサの遺言に従っているだけだ。自分が退位した後の国の行く末を見守っていて欲しいと託されたからだった。
日差しの下で、レアシスはテレサを思い描いた。
小柄な体つきで、朗らかに笑う人だった。錫杖が背丈を越していて持ち辛そうだった。裾の長い服は邪魔だからと言って好まず、作務衣のような平服で過ごしていた。城の中には獣人がいたが、ヴァリウスと違い、獣人を手足のようにこき使うことはしなかった。教育をし、仕事を与え、人間と共存して、問題なく生きて行けた。その人柄に惹かれて、思い慕う獣人が多くいた。退位が決まると泣いて止め、葬儀の列には何百人と並んだ。
ヴァリウスの代になってから、獣人は人間と対立するようになっていた。人間を襲い、金品を奪ったり暴力を振るうようになった。テレサの時代の獣人はいないからこそ、好き放題できているのだ。そこでヴァリウスは考えたのだ。能力の高い獣人と、おとなしい性格の二パターンに作り変えるということを。おとなしいタイプの獣人の核を取り上げ、従順に従わせてきた。牙を抜かれた獣人など取るに足りないと思っているのだ。レアシスもその一人だ。テレサの遺言を全うするために自ら核を渡した。獣人達から、腰抜けと罵られても構わないのはこのためだった。
彼らの気持ちはわからなくはない。ヴァリウスの目に余る行為をみすみす見逃しているのは我慢ならない。隙を突いて喉元に爪を立ててやりたいと思ったことなど、数えきれないが、太刀打ちできないと怖じ気付いてしまう自分がいるのも事実だった。彼らのように徒党を組むことはしたくない。失敗したら皆殺しだ。他者を巻き込むくらいなら自分だけでいい。でもそれだと歯が立たない。無限ループだ。レアシスは、打倒ヴァリウスを誓って息巻いている彼らの無事を祈るばかりだった。
「おまえも長く生きたからね。もう思うようにしていいよ」
テレサの声が聞こえた気がした。
日差しの下からひゅっと吹き込んできた風が、レアシスの頬を撫でていった。
レアシスにはもうひとつ懸念していることがあった。
雪を神殿へと、みすみす送り出してしまったことだ。影付きの処罰などは一刻も早く阻止せねばならない。ヴァリウスの陰謀だと気がつくのが遅かったのだ。そのために雪だけでなく、シャドウやディルまでも危険な目に遭わせてしまったのだ。神殿からの攻撃ではっきりしたようなものだ。さあ、傷は癒えた。最悪なことにならないように、彼らだけは助けたい。
レアシスは自室に入り、眼鏡を外した。深く息を吸い込み、神殿へと続く道を探った。
*
自分の未練を消せないとか、記憶を無くしたくないとか生きることは義務だとか。それは全部当たり前のことで自分の意思。自分のわがまま。
でもそれは、ここの世界の人のことを全否定していることにならない?
悪い人ばかり目につくけど、そんな人ばかりじゃない。
ずっと親身に支えてくれていた人達までも裏切ろうとしていない?
シャドウさん。ディルさん。レアシスさん。マリー。サリエ。
自分の意思を貫けば、必ず損を被る人達もいるということを忘れてない?
損得勘定ばかりじゃないけど、自分のことばかり考えていたら誰もついてきてはくれないよ。
仕事だってそう。個人プレーだけではチームは育たない。協力して連携が必要だ。
私、支えてくれていた人達に、まだ何も伝えていない。
感謝も謝罪もしていないじゃない。
「礼を欠くな」
これだけは両親からずっと口すっぱく言われていた。
如何なる時も相手の目を見て、頭を下げろ。
雪は、すっと暗闇の中で目を開けた。一時はもうダメだと覚悟をしていたが、再び意識が戻ったことに心底喜んだ。まだ六畳間の中だろう。目が慣れてくると、四隅の境界線がよく見えた。そこにはさっきまでくっちゃべっていたククルの姿はなかった。ナイトメアもいなかった。
汗をかいて服が肌にぴったりと張り付き、体じゅうがひんやりとしていた。その反面、頭や体はすっきりしていた。高熱を出した後みたいな爽快感。でも、体は動かなかった。冷えているせいだろう。体は硬直していた。指先ひとつ動かすのさえ一苦労だ。
伝えたいことがあると願ったばかりじゃないか。
雪は指先に意識を集中させた。動け、動けと念を込めた。
「…シャドウさん」
言葉をかけるべき相手は一人ではない。今日まで関わってきた人全てだ。ヴァリウスやチドリを抜いたとしても、真っ先に思い浮かんだ名前はシャドウだった。
「シャドウさん、シャドウさん…」
口を開けばシャドウの名ばかり出てくる。頭の中に浮かぶ姿もシャドウばかりだ。
「会いたい…」
こんな終わり方は嫌だ。まだ何も答えてない。伝えてない。
雪は硬直した体を引きずるように動いた。上下に左右にと、体を揺らしてみても、なかなか思うようにならない。
「くっ…、あっ、もう!…うご…動…けっ」
匍匐前進のようだ。ミリ単位でしか動いていないが。
それでも諦められない。諦めきれない。
力が足りなくて十分な成果が上げられなくても、私は諦めきれない。認められなくとも、まだ生きていたいんだ。
「…うううう!」
声ならぬ声。食いしばった際に唇までも噛み締めた。口内に鉄の味が広がった。錆びた味だ。
胸元からネックレスが出てきた。レアシスが旅の前日に魔除けと称して、雪にあげたものだった。加工されていない歪で無骨な形だ。岩塩でできているからミネラル不足の時は舐めてみてくださいと冗談交じりに言われたのを思い出した。雪は唇を近づけ、舌の先でひと舐めした。
「…しょっぱぁあ」
気を紛らわせるにはちょうどいい。今度ディルに意地悪されたらこれで反撃しようかと思った。
「生きている証だ」
五感は正常だ。塩気に驚いて涙まで出てきた。雪は微笑んだ。生きている実感が持てた。
「雪様!!」
刹那、レアシスの叫び声と共に鋭い爪が飛び込んできた。魔除け石を目印に暗闇を切り裂いた。
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