4 / 13
引きこもり少女編
4
しおりを挟む神本くんは次の日も昼過ぎにやって来た。
「おい茜、入れてくれ」
ドアをノックする音が響く。どうせ説教か何かをする気で来たに違いない。誰が入れるものか。今日もトイレで待ち伏せするつもりだろうけど同じ手はくわない。絶対に神本くんが帰るまで耐えてやる。私が無視してゲームをしていると、何やらドアの方からガチャガチャと金属の音が響き始めた。おや? と思ってドアノブを注視しているとガチャンと音がして勢いよく扉が開いた。
「きゃ、いやあああああ!」
予想外の恐怖に私は思わず叫んでしまった。ドアが無理やりこじ開けられるなんてホラー映画以外で見たことのないシチュエーションだ。この場合99.9パーセントの確率で化け物が入ってきて、残り0.1パーセントは忍者である。扉を開け、踏み込んできた忍び装束の男は私の顔を確認するなりこう言った。
「入るぞ」
もう入ってる!
「っていうかどうやって入って来たのよ! ちゃんと鍵してたのに!」
「大したことじゃない。ピッキングしただけだ」
「泥棒か!」
「違う、忍者だ」
「あーもう、そうじゃなくって!」
まさに糠に釘だ。話の通じない神本くんを説き伏せて外に追い出すのは相当骨が折れるだろう。昨日から分かってたけど。
「今日もFPSを、いやお前を外に出しに来た」
そしてまだFPSの面影を振り切れていないようである。
「昨日も言ったけど、私、外には出ないよ」
「どうしてだ。今この家の外はとてもいい天気だぞ」
いい天気と言われて、半年以上も前に見た夏空が頭の中に広がった。夏の空は一年の中で一番深い青をしていて、もくもくと立ち込めた入道雲がその中をゆっくり移動していく。そんな真夏の美しい情景。
「……そっか、そんなに晴れてるんだ」
「いや土砂降りだぞ」
「ええっ!? さっきいい天気って言わなかった!!?」
何だろう、この高層ビルの屋上まで登らされた後即座に突き落とされたような気持ちは。
「土砂降りは土砂降りでいい天気だぞ。さあ外に出よう」
「嫌だよ! びっしょびしょになるじゃない」
「晴れていたらいいのか?」
「そういう問題じゃないの。とにかく嫌なの!」
私は頑として譲らなかった。このわけのわからない相手に少しでも隙を見せたら、外に連れ出されかねないと思ったからだ。神本くんは私の強情な態度に手を焼いているのか、一度小さくため息をついた。
「そうか。やはり半年ものの引きこもりは一筋縄ではいかないようだな」
人を燻製みたいに言うのはやめてくれ。
「俺は人と心を通わせねばならない時は、決して土足で踏み入ってはいけないことを心掛けている」
「さっきピッキングして無理やり入って来たよね?」
「そういうわけで茜よ。最初にお前の精神状態を知りたいからアンケートを作って来たぞ」
「アンケート……?」
「このアンケートに答えればお前の引きこもり力も自然と測定出来る。故に対策を打つのも簡単に出来るというわけだ」
「待って。引きこもり力って何?」
「ではまず第一問」
「ちょっと!」
「問1.あなたが引きこもりになった理由は何ですか?」
「いや、それは昨日も話したじゃん。ゲームが楽し過ぎて夏休みを続行したからだよ」
「問2.いつかは引きこもりを止めて外に出たいと思いますか?」
なるほど、誘導尋問をして私から「外に出たい」というワードを引っ張り出すのが目的なのか。神本くんの思い通りに動いてたまるものか。
「いいえ。私はこのまま引きこもったままでも構わない」
すると神本くんはまじまじと私の目を見た。
「正気か」
「あんたに正気かどうか疑われるとめっちゃ腹立つんだけど」
「問3.引きこもりのやりがいを教えてください」
無い無い、そんなものがあってたまるか。何で仕事のやりがいでも訪ねる風なんだろう。
「問4.引きこもりさんは普段何をして過ごしているんですか?」
「引きこもりさんて。別に、何をしてるかなんて答えたくない」
「なるほど、つまり人に言えないようなことをしていると」
「いや言い方……」
「爆弾作りに日々明け暮れていると」
「誰が爆弾魔よ!」
「問5.あなたが一番行ってみたい場所はどこですか? 次の三つのうちから選んでください」
また誘導尋問だ。どうあっても私から「外に出たい」と言わせたいらしい。
「1. エベレスト山頂。2.深海一万メートル。3.天国」
「ねえ、もしかして遠回しに死ねって言ってる?」
「問6.」
「まだ答えてないってば!」
「貴様は一日中一人で寂しいと思うが」
「何で急に貴様呼びになったの? 暗黒面に堕ちたの?」
「一緒に住むならワニとライオンのどちらが良い?」
「やっぱり遠回しに死ねって言ってるよね? いやどっちも嫌だよ、食べられるじゃん……。でもワニの方がまだいいかな。逃げきれそうだし」
「ワニと一緒に住みたいなんて正気か?」
「いや神本くんが用意した選択肢でしょ!? なんで私の頭がおかしいみたいな言い方するの!」
「次。問7.」
「聞けぇ!」
「ブロッコリーとカリフラワーを間違えた事はありますか?」
「そしてそれ何を測るアンケートなの!?」
「問8.」
「あんたは暴走機関車か!」
「洗濯バサミとザリガニを間違えた事はありますか?」
「何の質問!? どういうシチュエーションでそうなるの?!」
「答えろ」
そして何故尋問みたいに圧してくるのか。
「無いわよ! 無いに決まってるでしょ!」
「よし」
何が「よし」なのか小一時間問い詰めたい。
「これでお前の引きこもり力はおおよそ測定出来た」
「今ので!?」
「このアンケートを元に明日から引きこもり外出プログラムを始める」
いや、もう嫌な予感しかしないんだけど。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌
双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。
最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる