27 / 92
呪いの少女 8
しおりを挟む
「ちょっと自分が何を言ってるか分かってるの!? 死にたいの!? 性欲に負けたの!? 馬なの!? 鹿なの!?」
ルナを帰らせた後、リーザ先生は食いつかんばかりの勢いで俺に詰め寄ってきた。
「で、でも……」
「でもじゃない!」
リーザ先生の言葉は今まで聞いた事が無いほど鋭い。その態度だけで俺がやらかしてしまった事の大きさが知れる気がした。
「それに」
先生は躊躇いがちに視線を逸らし、俺に背を向けた。
「それに彼女、多分まともじゃないわよ」
うん知ってる。
いや、先生の言う「まともじゃない」は、俺が思っているより深刻なものなのかも知れない。だって生徒に向かって「まともじゃない」なんて、間違っても教師の口から出てはいけない言葉ではないか。それでも敢えて口にしたのは、きっと俺の事を心配してくれて、思いとどまらせるためだったからだ。
しかし俺は生粋の馬鹿なのだ。弱虫で臆病だが、恐れられるのは目の前の恐怖だけ。幸か不幸か未来の恐怖に対して俺はかなり鈍感だった。
「や、やってみないと分かりませんよ。だって先生は俺に五百年に一人の素質があると言ったじゃないですか」
「そうだね。頭の悪さも五百年に一人かもね」
言葉のナイフやめろ。
「俺は……、今まで成し遂げた事なんて一つも無かったんです」
「だろうね」
「……だけど、この学園に入って、闇魔法を学んで、少しづつだけど出来ることが増えてきました」
「私のパンツを盗み見る事かな?」
「違いますよ!」
まあそれもあるけど。
「最初は復讐のために使うつもりの闇魔法でした。だけど、この学園に来て、リーザ先生や同級生に助けられて、少し考え方が変わりました」
俺は真っ直ぐ先生を見据えた。
「俺はこの力を復讐のためだけじゃない。誰か困ってる人を助けるために使いたい」
入学当時、俺は水分を極限まで搾り取られた雑巾の如く捻くれていた。そんな自分からこんな言葉が出るほどに、俺の精神状態は変わっていた。
ジャンヌの優しさに触れたのがかなり大きかっただろう。人は人に出会って変わるものなのかも知れない。
「ルナだって、俺がやってダメならもう諦めがつくでしょう。一度だけ、彼女の呪いを消せるかどうか試させて下さい」
ずっと黙って聞いていたリーザ先生は俺の目を見返していたが、やがて諦めたように溜息を吐いた。
「分かったわ。今回は君の気持ちを汲んであげる」
「本当ですか!?」
「ただし、条件が二つあるわ」
リーザ先生は指を三本立てて言った。どっちなんだよ。
「一つ。危なくなったら途中でもすぐに取りやめる事」
「分かりました」
「一つ。床の本を全部片付ける事」
「わ、分かりました」
くそ。ここは素直に従うしかない。
「一つ。毎日私を起こしに来る事」
「何か俺を召使にしようとしてませんか?」
「一つ」
「何個あるんだよ」
「毎日私に『今日も綺麗だね』と言う事」
「新婚か」
「一つ。これから二週間、クラウス君に呪いを吸収するための魔法をみっちり教えるわ。覚悟しておくように」
俺は息を飲んだ。二週間後、リーザ先生でさえ手を焼くような呪いと対峙する事になるのだ。だが俺はルナに「出来る」と言ったのだ。二言はない。やるだけの事はやろうと思う。
「はい! 分かりました!」
と俺が言うのとほぼ同時に、リーザ先生が鞭を取り出した。いつも使っているものであれば俺も驚かなかっただろう。しかしその鞭が象の鼻のように太く長い。
ドラゴンでも躾ける気なのだろうか。
「……あの、それは……?」
先生は何も言わず、笑っている。窓から入ってくる西日が逆光になっており、リーザ先生の姿が不気味に黒いシルエットを作っていた。
……呪いより先に俺は死ぬかも知れない。
ルナを帰らせた後、リーザ先生は食いつかんばかりの勢いで俺に詰め寄ってきた。
「で、でも……」
「でもじゃない!」
リーザ先生の言葉は今まで聞いた事が無いほど鋭い。その態度だけで俺がやらかしてしまった事の大きさが知れる気がした。
「それに」
先生は躊躇いがちに視線を逸らし、俺に背を向けた。
「それに彼女、多分まともじゃないわよ」
うん知ってる。
いや、先生の言う「まともじゃない」は、俺が思っているより深刻なものなのかも知れない。だって生徒に向かって「まともじゃない」なんて、間違っても教師の口から出てはいけない言葉ではないか。それでも敢えて口にしたのは、きっと俺の事を心配してくれて、思いとどまらせるためだったからだ。
しかし俺は生粋の馬鹿なのだ。弱虫で臆病だが、恐れられるのは目の前の恐怖だけ。幸か不幸か未来の恐怖に対して俺はかなり鈍感だった。
「や、やってみないと分かりませんよ。だって先生は俺に五百年に一人の素質があると言ったじゃないですか」
「そうだね。頭の悪さも五百年に一人かもね」
言葉のナイフやめろ。
「俺は……、今まで成し遂げた事なんて一つも無かったんです」
「だろうね」
「……だけど、この学園に入って、闇魔法を学んで、少しづつだけど出来ることが増えてきました」
「私のパンツを盗み見る事かな?」
「違いますよ!」
まあそれもあるけど。
「最初は復讐のために使うつもりの闇魔法でした。だけど、この学園に来て、リーザ先生や同級生に助けられて、少し考え方が変わりました」
俺は真っ直ぐ先生を見据えた。
「俺はこの力を復讐のためだけじゃない。誰か困ってる人を助けるために使いたい」
入学当時、俺は水分を極限まで搾り取られた雑巾の如く捻くれていた。そんな自分からこんな言葉が出るほどに、俺の精神状態は変わっていた。
ジャンヌの優しさに触れたのがかなり大きかっただろう。人は人に出会って変わるものなのかも知れない。
「ルナだって、俺がやってダメならもう諦めがつくでしょう。一度だけ、彼女の呪いを消せるかどうか試させて下さい」
ずっと黙って聞いていたリーザ先生は俺の目を見返していたが、やがて諦めたように溜息を吐いた。
「分かったわ。今回は君の気持ちを汲んであげる」
「本当ですか!?」
「ただし、条件が二つあるわ」
リーザ先生は指を三本立てて言った。どっちなんだよ。
「一つ。危なくなったら途中でもすぐに取りやめる事」
「分かりました」
「一つ。床の本を全部片付ける事」
「わ、分かりました」
くそ。ここは素直に従うしかない。
「一つ。毎日私を起こしに来る事」
「何か俺を召使にしようとしてませんか?」
「一つ」
「何個あるんだよ」
「毎日私に『今日も綺麗だね』と言う事」
「新婚か」
「一つ。これから二週間、クラウス君に呪いを吸収するための魔法をみっちり教えるわ。覚悟しておくように」
俺は息を飲んだ。二週間後、リーザ先生でさえ手を焼くような呪いと対峙する事になるのだ。だが俺はルナに「出来る」と言ったのだ。二言はない。やるだけの事はやろうと思う。
「はい! 分かりました!」
と俺が言うのとほぼ同時に、リーザ先生が鞭を取り出した。いつも使っているものであれば俺も驚かなかっただろう。しかしその鞭が象の鼻のように太く長い。
ドラゴンでも躾ける気なのだろうか。
「……あの、それは……?」
先生は何も言わず、笑っている。窓から入ってくる西日が逆光になっており、リーザ先生の姿が不気味に黒いシルエットを作っていた。
……呪いより先に俺は死ぬかも知れない。
0
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~
ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」
魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。
本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。
ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。
スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる