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呪いの少女 9
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二週間はあっという間に過ぎて行った。その間、俺は朝も昼も夜も、授業の時以外はリーザ先生の部屋に入り浸り、呪いをエネルギーに変える魔法を特訓し続けた。並行して尻を叩かれるマルチタスクを行っていたわけだが……。
しかしその甲斐あって、俺の能力はメキメキと上がって行った。
特訓のお陰で俺の尻はちょっとやそっとの攻撃ではびくともしなくなった。自分の尻を叩くと鋼のように硬く、鏡で見ると光沢もある。今なら尻で剣を叩き折れそうだ。尻から突っ込んで行けばスライムとかコボルトくらいなら倒せるだろう。
そういうわけで準備は万端と言って良い。
……あれ、俺何の特訓してたんだっけ。
「あ、あの……今日はよろしくお願いします……」
ルナが頭を下げた。俺が二週間前に本をしまっておいたから、もう本が倒れてくる心配は無い。
「やあ、よく来たね」
その言葉とは裏腹にリーザ先生は真顔である。まあ事情が事情だけに、歓迎ムードというわけにはいかないだろう。
「えっと、クラウス様。今日はよろしくお願いします」
ルナは目線を俺に向けたままずペコっと頭を下げた。何だろう。男に媚びるような表情なのだが、やはり目の力が強過ぎてこっちがたじろぎそうになる。
「コホン」
ルナの視線に気付いたのか、リーザ先生がわざとらしく咳払いをした。
「クラウス君。何回も言っているけど、危ないと思ったらすぐ私に言うんだよ。いつでも止めてあげるから」
「御意に……」
俺は鷹揚にうなずいて見せた。ここからは中二病モードに切り替える。
「それじゃあクラウス君。手順通りに行こうか」
「ククク。我に任せておけ」
俺はいつものようにポーズを取る。いつものようにリーザ先生の冷たい先生を感じる。しかし対照的にルナの視線は熱い。そんな目で見てたら溶けちゃうぜ。俺がな!
「えー、じゃあ先ずクラウス君とルナの二人で身体の一部をくっつけて。手を繋げば良いよ」
「わ、分かりました……」
顎に手を当て、おどおどしていたルナが不意にこちらを見た。その一瞬、ルナの瞳がギラリと光った。
手を繋ごうと俺の差し出した右腕の横をすり抜け、あっという間に密着した。
ルナは右足を俺の股下にグイッと押し入れ、両手で万力のように俺の頭を掴み、動けなくなった俺の口を唇を重ねた。
俺は一瞬、何が起こっているのかさえ分からなかった。ただ柔らかい舌の感触に思考力を奪われていき、このまま昇天するんじゃないかという妙な不安だけが残っていた。
「こらぁ! 何してんのよ!」
リーザ先生が飛び込んできて、ルナを俺からひっぺがした。俺はこの時になって初めてルナの唇に触れていた事に気付いた。
何だこいつ。何だこいつ。何だかこいつ。何だこいつ!? 何だこの痴女!?
初めてキスをした。その事に思い至り、身体の奥から突き上げてくるような衝動と共に今更動悸が早くなる。俺は今、女の子と初めてキスをした。
初めて……俺の初めて……! いつか来るファーストキスの予行演習をするため、採れたてスイカをベロベロ舐めていた事ならあるけど……! (ちなみに兄貴に見つかって「金玉スイカ」というあだ名を付けられた)
そんな俺のファーストキスの感想として一番大きいのは「こいつイカれてやがる」だった。いや待て。リーザ先生は「手を繋ぐだけで良い」って言ってたよな? その状態から普通粘膜接触しようと思わないよな。
「ご、ごめんなさい! 私、そんなつもりじゃなかったんです! ただ呪いを取るためはより密な接触が必要になると思って……!」
ルナもひっぺがされて自分がおかしい事に気付いたらしい。いや今気づくのかよ。
「おい貴様! クラウスのファーストキスは私が奪う予定だったんだぞ! どうしてくれる!」
とレモンのおっさんが言った。先ず俺とキスする予定を変更しろ。そしてお前いつからいたんだよ。
「じゃあ仕切り直しね。手を握るだけで良いの。いい? いつも(・・・)やってるでしょ?」
リーザ先生は機嫌悪そうに、「いつも」という時なり力を込めていた。そう言えば定期的に呪いを抜いてたんだから、この方法でいつもやってたのか。……あれ、何でさっきだけ俺の唇を狙ったんだ?
「わ、分かりました」
ルナはもじもじと恥ずかしそうに俺の方を見ているが、その控えめな声や態度とは対照的にグイグイ身体を密着させてくる。
そして俺の手指を探り、蛇が這うように絡ませてきた。いわゆる恋人繋ぎというやつである。
『それに彼女、多分まともじゃないわよ』という先生の言葉が蘇る。確かにこいつはまともじゃない。絶対何か裏があるとは思いながらも俺はかなりドキドキしていた。年頃の男子に向かって性欲を抑えろという方が困難である。それはこの割とシリアスな状況でも変わらない。男はみんなアホなのである。
「じゃあ始めましょう」
前から先生のじっとりした目線が突き刺さってくるようだ。
「クラウス君。何度も言うようだけど、無理だと思ったらちゃんと止めるのよ」
「ククク。言われるまでもない」
「返事は『はい』!!」
「……あい」
怖いぃ! 何で俺こんなに怒られてるの!?
いや、下手すれば俺が呪いを貰いかねないのだから、先生がナーバスになっているのは当たり前なのだ。
「呪いの御子よ。目を閉じよ」
「はい」
ルナが素直に目を閉じたのを確認して、俺も目を閉じる。そしてゆっくりと呪文の詠唱を始めた。
しかしその甲斐あって、俺の能力はメキメキと上がって行った。
特訓のお陰で俺の尻はちょっとやそっとの攻撃ではびくともしなくなった。自分の尻を叩くと鋼のように硬く、鏡で見ると光沢もある。今なら尻で剣を叩き折れそうだ。尻から突っ込んで行けばスライムとかコボルトくらいなら倒せるだろう。
そういうわけで準備は万端と言って良い。
……あれ、俺何の特訓してたんだっけ。
「あ、あの……今日はよろしくお願いします……」
ルナが頭を下げた。俺が二週間前に本をしまっておいたから、もう本が倒れてくる心配は無い。
「やあ、よく来たね」
その言葉とは裏腹にリーザ先生は真顔である。まあ事情が事情だけに、歓迎ムードというわけにはいかないだろう。
「えっと、クラウス様。今日はよろしくお願いします」
ルナは目線を俺に向けたままずペコっと頭を下げた。何だろう。男に媚びるような表情なのだが、やはり目の力が強過ぎてこっちがたじろぎそうになる。
「コホン」
ルナの視線に気付いたのか、リーザ先生がわざとらしく咳払いをした。
「クラウス君。何回も言っているけど、危ないと思ったらすぐ私に言うんだよ。いつでも止めてあげるから」
「御意に……」
俺は鷹揚にうなずいて見せた。ここからは中二病モードに切り替える。
「それじゃあクラウス君。手順通りに行こうか」
「ククク。我に任せておけ」
俺はいつものようにポーズを取る。いつものようにリーザ先生の冷たい先生を感じる。しかし対照的にルナの視線は熱い。そんな目で見てたら溶けちゃうぜ。俺がな!
「えー、じゃあ先ずクラウス君とルナの二人で身体の一部をくっつけて。手を繋げば良いよ」
「わ、分かりました……」
顎に手を当て、おどおどしていたルナが不意にこちらを見た。その一瞬、ルナの瞳がギラリと光った。
手を繋ごうと俺の差し出した右腕の横をすり抜け、あっという間に密着した。
ルナは右足を俺の股下にグイッと押し入れ、両手で万力のように俺の頭を掴み、動けなくなった俺の口を唇を重ねた。
俺は一瞬、何が起こっているのかさえ分からなかった。ただ柔らかい舌の感触に思考力を奪われていき、このまま昇天するんじゃないかという妙な不安だけが残っていた。
「こらぁ! 何してんのよ!」
リーザ先生が飛び込んできて、ルナを俺からひっぺがした。俺はこの時になって初めてルナの唇に触れていた事に気付いた。
何だこいつ。何だこいつ。何だかこいつ。何だこいつ!? 何だこの痴女!?
初めてキスをした。その事に思い至り、身体の奥から突き上げてくるような衝動と共に今更動悸が早くなる。俺は今、女の子と初めてキスをした。
初めて……俺の初めて……! いつか来るファーストキスの予行演習をするため、採れたてスイカをベロベロ舐めていた事ならあるけど……! (ちなみに兄貴に見つかって「金玉スイカ」というあだ名を付けられた)
そんな俺のファーストキスの感想として一番大きいのは「こいつイカれてやがる」だった。いや待て。リーザ先生は「手を繋ぐだけで良い」って言ってたよな? その状態から普通粘膜接触しようと思わないよな。
「ご、ごめんなさい! 私、そんなつもりじゃなかったんです! ただ呪いを取るためはより密な接触が必要になると思って……!」
ルナもひっぺがされて自分がおかしい事に気付いたらしい。いや今気づくのかよ。
「おい貴様! クラウスのファーストキスは私が奪う予定だったんだぞ! どうしてくれる!」
とレモンのおっさんが言った。先ず俺とキスする予定を変更しろ。そしてお前いつからいたんだよ。
「じゃあ仕切り直しね。手を握るだけで良いの。いい? いつも(・・・)やってるでしょ?」
リーザ先生は機嫌悪そうに、「いつも」という時なり力を込めていた。そう言えば定期的に呪いを抜いてたんだから、この方法でいつもやってたのか。……あれ、何でさっきだけ俺の唇を狙ったんだ?
「わ、分かりました」
ルナはもじもじと恥ずかしそうに俺の方を見ているが、その控えめな声や態度とは対照的にグイグイ身体を密着させてくる。
そして俺の手指を探り、蛇が這うように絡ませてきた。いわゆる恋人繋ぎというやつである。
『それに彼女、多分まともじゃないわよ』という先生の言葉が蘇る。確かにこいつはまともじゃない。絶対何か裏があるとは思いながらも俺はかなりドキドキしていた。年頃の男子に向かって性欲を抑えろという方が困難である。それはこの割とシリアスな状況でも変わらない。男はみんなアホなのである。
「じゃあ始めましょう」
前から先生のじっとりした目線が突き刺さってくるようだ。
「クラウス君。何度も言うようだけど、無理だと思ったらちゃんと止めるのよ」
「ククク。言われるまでもない」
「返事は『はい』!!」
「……あい」
怖いぃ! 何で俺こんなに怒られてるの!?
いや、下手すれば俺が呪いを貰いかねないのだから、先生がナーバスになっているのは当たり前なのだ。
「呪いの御子よ。目を閉じよ」
「はい」
ルナが素直に目を閉じたのを確認して、俺も目を閉じる。そしてゆっくりと呪文の詠唱を始めた。
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