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 リーザ先生の特訓が始まってから一週間が経った日、俺は一時間目の授業が始まるのを待っていた。今日もリーザ先生には朝からみっちりしごかれた。しごかれるだけなら良いのだが、朝飯を作らされるのが結構大変だ。慣れたには慣れたが、やはり早起きはきついし、毎日は面倒臭い。



 ただご褒美はある。先生は「お小遣い」と称して学生には多過ぎるお金を毎月くれるのだ。ただ給料が出ている分、余計に召使いになった気分である。



 何回も辞めたいと思ったのだが、先生が毎食毎食めちゃくちゃ美味しそうに食べてるのを見ると嬉しさが優ってしまう。

 俺の作る料理は典型的なギラ料理である。香辛料とハーブをふんだんに使って食材を味付けし、それでいて爽やかな味に仕上げる事を心掛けている。



 元々母親の手伝いをして料理を作るのが得意になったのだから、いわば俺の料理は本場のギラ家庭料理なわけだ。

 それが祖国を追放されたリーザ先生にとってはたまらなく、とても懐かしい味なのだろう。



 そういえば、朝練をするようになってからジャンヌと一緒に登校する事が無くなったな。俺は教室をぐるりと見回した。ジャンヌがまだ来ていないようだ。あいつは時間にルーズなところがあるから遅れてくるのだろう。



 その時、前方のドアが激しい音を立てて開いた。入ってきたのは先生ではなく、クラスメイトの一人だった。様子がおかしい。顔が青い。息を切らし、目は見開かれている。何かあったのか。



「大変だ! 体育館裏でジャンヌが倒れてたぞ!!」



 俺は一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった。クラス中が騒然としている。

 ジャンヌが? どうして? 

 俺の脳裏には一週間前の自警団と揉めた時の記憶が蘇っていた。



「それは本当なのか!」



 俺は押し倒すような勢いで、情報をもたらしたクラスメイトに詰め寄った。



「ほ、本当だ! さっき騒ぎになってたから現場まで見に行ったから間違いない。倒れていたのは間違いなくジャンヌだった!」



 男は気圧されたようにのけぞって答えた。



「ジャンヌはまだ倒れているのか!」

「あ、ああ。俺が見てた時は治療魔法の先生が来てその場で救護してたから」



 俺は彼が言い終わる前に走り出した。今自分が行ったところで何が出来る訳でもないのに、そうせずにはいられなかった。

 先生がすれ違いざまに「もう授業が始まるぞ」と咎める声も、始業の鐘も、全部無視して全力で走った。足がもつれ、つまづき、危うくこけそうになりながら必死に走った。

 脇腹が痛い。息が苦しい。足が吊りそうだ。それでも不安を打ち消すように体育館裏まで駆け抜けた。

 すまない、ジャンヌ。俺が付いていてやれなかったばかりに……!
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