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指輪の代償
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俺は再び全力疾走して救護室の前まで来た。
熱い。もう汗でコートがぐっしょりとしているし、目眩で倒れそうだ。
「ジャンヌ!」
俺はドアを引き開け、息も絶え絶えに叫んだ。一番最初に目に入ったのは意外な人物だった。
「やあ、また会ったね。そんなに息を切らしてどうしたんだい? 徒競走でもしてたのかな?」
そう言ってヘラヘラと笑っている男は先日、学食でジャンヌに助けられた男、狐塚である。何故狐塚がここにいるのだろう。
「ジャンヌちゃんは奥にいるよ。もうあらかた治療も終わったみたいだし、面会出来るから行って来なよ」
そうだ。今は狐塚よりジャンヌだ。
「ジャンヌ! 無事か!?」
俺が救護室奥のベッドに駆け寄ると、果たしてそこに寝かせられていたのはジャンヌだった。近づいて見るとジャンヌの顔には幾つもアザがあり、額に巻かれた包帯には血が滲んでいる。見ているだけで痛々しい。彼女が何者かに暴行されたのは明らかだった。
どうしてジャンヌがこんな事になっている。彼女が何をしたと言うんだ。
「クラウス」
ジャンヌは俺の姿を確認すると、上体を起こした。俺を心配させないために、自分は平気だとアピールしようとしたのだろう。
「無理をするな! 安静にしていろ!」
「私は大丈夫。心配しなくていい」
しかしその手は包帯でぐるぐる巻きになっていて、とても心配ないようには見えない。相当痛めつけられたようだ。
じわじわと怒りがこみ上げて来た。
「誰にやられたのだ。それだけで良いから教えてくれ」
彼女は答えなかった。いや、敢えて答えようとしなかったように見えた。口を固くつぐみ、絶対に口を開かないようにしている。
「どうして黙っているのだ! 第二自警団の連中にやられたのだろう! 我が問いに答えよ!」
しかしジャンヌは依然として黙ったままだ。
「そうだよ」
声がしたのは後ろからだった。狐塚である。
「ちょ、狐塚! それはクラウスに言わないって約束だったでしょ!」
ジャンヌが怒声を上げた。どういう事だ。二人の間で何があったんだ。そもそも狐塚はどうしてここにいるんだ。バカな俺は頭がこんがらがりそうだった。
「第二自警団の連中は今朝方、ジャンヌちゃんを体育館裏に呼び出した。彼女の付けている指輪が校則違反だからと難癖を付けてね。で、話している最中に後ろからこう、ドーンと殴って倒した」
狐塚は頭を殴る仕草を真似ながら言った。
「まあ倒された状態でも反撃すればジャンヌちゃんの方が強かっただろうけど、『抵抗するんならお前といつも一緒にいるクラウスって奴を八つ裂きにするぞ』とか脅されてさ。そこから指輪を取られた後は殴られたり蹴られたり。酷い事するよねえ」
狐塚の言葉は同情しているようで、声のトーンからは同情心が完全に欠落しているようだった。
こいつには言葉で言い表せない不気味さがある。
「で、たまたま発見した僕が大声で助けを呼んで、連中は逃げて行ったってわけ。僕がここにいるのは、第一発見者兼通報者だからってわけさ」
俺は狐塚の言葉が引っ掛かった。先ず狐塚の言葉からはあの場に倒れていた伊達さんの事は一ミリも出てこなかった。じゃあ尚更、何故あのおっさんは股間のレモンを毟り取られ、全裸で転んでたんだ。怖い。
そしてもう一つ。
「ジャンヌ。指輪を取られたのか?」
その言葉に反応して彼女の顔が歪んだ。目を逸らし、唇をきつく噛み締めている。俺の中で今一度怒りが湧いてきた。どうしてそこまでする必要がある。あの指輪は親父さんの形見(死んでないけど)だった。彼女がとても大切にしていて、肌身離さず持っていたもののはずだ。それを取る必要があったのだろうか。
「私の事はいいから、あんたは第二自警団に手を出しちゃダメ。殺される」
ジャンヌの声は震えていた。悔しいのだろう。それでも悔しさや怒りを押し殺してまで指輪を取られ、殴られたのは俺に危害が加わるのを恐れての事だったのだ。
俺の中に、先ほどまで激しく燃えていた怒りが急に静かになった、気がした。次の瞬間、逆流するような激しい熱さが身体中を駆け巡った。
「何考えてるの。やめて。バカな事はやめるの! 中二病! カニ!」
ジャンヌが叫んだ。俺がやろうとしている事が分かったらしい。
「貴様の無念は必ず晴らす。連中に人数分の棺をくれてやろう」
己の周りからは赤黒く、爛れるような闇が立ち上っている。これが、怒りを魔力に変換した闇魔法の姿なのだろうか。
俺はマントを翻し、ゆっくりと歩き出した。
「待って」
ジャンヌの声が聞こえたが俺は振り返らなかった。もう俺が退学になっても、報復される事になっても構わない。俺は必ず連中をぶちのめす。そして必ず指輪を返してもらう。
熱い。もう汗でコートがぐっしょりとしているし、目眩で倒れそうだ。
「ジャンヌ!」
俺はドアを引き開け、息も絶え絶えに叫んだ。一番最初に目に入ったのは意外な人物だった。
「やあ、また会ったね。そんなに息を切らしてどうしたんだい? 徒競走でもしてたのかな?」
そう言ってヘラヘラと笑っている男は先日、学食でジャンヌに助けられた男、狐塚である。何故狐塚がここにいるのだろう。
「ジャンヌちゃんは奥にいるよ。もうあらかた治療も終わったみたいだし、面会出来るから行って来なよ」
そうだ。今は狐塚よりジャンヌだ。
「ジャンヌ! 無事か!?」
俺が救護室奥のベッドに駆け寄ると、果たしてそこに寝かせられていたのはジャンヌだった。近づいて見るとジャンヌの顔には幾つもアザがあり、額に巻かれた包帯には血が滲んでいる。見ているだけで痛々しい。彼女が何者かに暴行されたのは明らかだった。
どうしてジャンヌがこんな事になっている。彼女が何をしたと言うんだ。
「クラウス」
ジャンヌは俺の姿を確認すると、上体を起こした。俺を心配させないために、自分は平気だとアピールしようとしたのだろう。
「無理をするな! 安静にしていろ!」
「私は大丈夫。心配しなくていい」
しかしその手は包帯でぐるぐる巻きになっていて、とても心配ないようには見えない。相当痛めつけられたようだ。
じわじわと怒りがこみ上げて来た。
「誰にやられたのだ。それだけで良いから教えてくれ」
彼女は答えなかった。いや、敢えて答えようとしなかったように見えた。口を固くつぐみ、絶対に口を開かないようにしている。
「どうして黙っているのだ! 第二自警団の連中にやられたのだろう! 我が問いに答えよ!」
しかしジャンヌは依然として黙ったままだ。
「そうだよ」
声がしたのは後ろからだった。狐塚である。
「ちょ、狐塚! それはクラウスに言わないって約束だったでしょ!」
ジャンヌが怒声を上げた。どういう事だ。二人の間で何があったんだ。そもそも狐塚はどうしてここにいるんだ。バカな俺は頭がこんがらがりそうだった。
「第二自警団の連中は今朝方、ジャンヌちゃんを体育館裏に呼び出した。彼女の付けている指輪が校則違反だからと難癖を付けてね。で、話している最中に後ろからこう、ドーンと殴って倒した」
狐塚は頭を殴る仕草を真似ながら言った。
「まあ倒された状態でも反撃すればジャンヌちゃんの方が強かっただろうけど、『抵抗するんならお前といつも一緒にいるクラウスって奴を八つ裂きにするぞ』とか脅されてさ。そこから指輪を取られた後は殴られたり蹴られたり。酷い事するよねえ」
狐塚の言葉は同情しているようで、声のトーンからは同情心が完全に欠落しているようだった。
こいつには言葉で言い表せない不気味さがある。
「で、たまたま発見した僕が大声で助けを呼んで、連中は逃げて行ったってわけ。僕がここにいるのは、第一発見者兼通報者だからってわけさ」
俺は狐塚の言葉が引っ掛かった。先ず狐塚の言葉からはあの場に倒れていた伊達さんの事は一ミリも出てこなかった。じゃあ尚更、何故あのおっさんは股間のレモンを毟り取られ、全裸で転んでたんだ。怖い。
そしてもう一つ。
「ジャンヌ。指輪を取られたのか?」
その言葉に反応して彼女の顔が歪んだ。目を逸らし、唇をきつく噛み締めている。俺の中で今一度怒りが湧いてきた。どうしてそこまでする必要がある。あの指輪は親父さんの形見(死んでないけど)だった。彼女がとても大切にしていて、肌身離さず持っていたもののはずだ。それを取る必要があったのだろうか。
「私の事はいいから、あんたは第二自警団に手を出しちゃダメ。殺される」
ジャンヌの声は震えていた。悔しいのだろう。それでも悔しさや怒りを押し殺してまで指輪を取られ、殴られたのは俺に危害が加わるのを恐れての事だったのだ。
俺の中に、先ほどまで激しく燃えていた怒りが急に静かになった、気がした。次の瞬間、逆流するような激しい熱さが身体中を駆け巡った。
「何考えてるの。やめて。バカな事はやめるの! 中二病! カニ!」
ジャンヌが叫んだ。俺がやろうとしている事が分かったらしい。
「貴様の無念は必ず晴らす。連中に人数分の棺をくれてやろう」
己の周りからは赤黒く、爛れるような闇が立ち上っている。これが、怒りを魔力に変換した闇魔法の姿なのだろうか。
俺はマントを翻し、ゆっくりと歩き出した。
「待って」
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