冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

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指輪の受け渡し

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「ジャンヌ、カーテンを開けても良いか」



 俺は指輪を取り戻してすぐ救護室を訪れていた。



「クラウス……開けて良いよ。それよりあんた大丈夫? 怪我してないでしょうね?」



 カーテンを開けるとジャンヌが上半身を起こそうと動いていた。まだ体が痛むようだが、少しづつ回復しているようだ。



「ククク、我を誰だと思っている? 我こそは」

「あー、分かった分かった。無事で何より」



 ぞんざいな言い方だったが、彼女の顔から笑みが溢れた。恐らく本気で心配してくれていたのだろう。



「でも、あんたを無傷で返してくれるなんて、第二自警団にも優しいところがあるのね」

「違う。我が全員ねじ伏せたのだ」

「え?」



 うつむいていたジャンヌが驚いたようにこちらを見た。



「嘘でしょ? またいつもの中二病が発動しただけよね?」

「違う! 本当に勝ったのだ!」

「本当?」



 ジャンヌは少しからかうような表情で俺を覗き込む。嘘を付いていないか探っているのだろう。

 しかし俺の言っていることは本当なのだ。それを証明する方法もある。



「左手を出せ」

「どうして」

「早く」



 ジャンヌは戸惑ったように左手を突き出した。俺はまず彼女の手首を左手で掴み、薬指に取り返した指輪を差し込んだ。ジャンヌの温かい手の感触と、ピクッと手が震えるのを感じた。



「これ、どうして……」



 ジャンヌの目は大きく見開かれており、まるで全長十メートルの犬を目撃したかのような表情で俺を見つめている。戻ってきたのが信じられないのだろう。

 その大きく開かれた瞳から一筋、涙がこぼれ落ちた。



「な、何よ! 別に取り返して欲しいなんて頼んでないし!」



 ジャンヌは目を擦り、慌てて顔を背けてしまった。こんな時にも素直じゃないのがジャンヌらしいなと思った。



「貴様の大切な指輪だと教えてくれただろう。だから、どうしても取り戻したかったのだ」

「そんな、命かけてまで、馬鹿じゃないの。……でも」



 ジャンヌは左手を胸元で大事そうに包み、目を閉じた。



「でも、ありがとう。戻ってきて、本当に良かった」



 彼女の目からは再び涙がこぼれている。普段のクールな彼女からは想像も出来ないしおらしい一面だ。それだけこの指輪への思い入れが強かったに違いない。

 本当に、ちゃんと取り戻せて良かった。命を張った甲斐があった。



「こーんにちはー」



 後ろから、と言うよりほとんど耳元で声がした。



「うわああ!」



 驚いて振り返ると狐塚がニコニコ顔で立っている。いや、何か今までで一番ニヤついている気がする。



「狐塚……い、いつから居たのだ」

「んー、クラウスくんが『ジャンヌゥ……すけべしようやぁ……』って言ってた辺りから」

「おい記憶を捏造するな! そんな事は言っていない!」

「あはは、まあクラウス君がここに入ってきてすぐくらいから居たよ」



 いや全然気付かなかった。そう言えばジャンヌ事件の加害者を一か所に集めたのもこいつだし(真偽は分からないが本当に全員いた)、やたらと気配を消すのが上手いし、狐塚は本当に何者なんだ。



「いやあ、僕の予想通り、クラウス君は強かったねえ。あの自警団が全員負けるなんてねー」



 狐塚は両掌を上に上げて戯けてみせた。褒めているのか、からかおうとしているのか分からない。



「ふっ、我は無敵の闇魔道士。あの程度の相手など地獄の一丁目を曲がる前に倒せるというもの」

「それはよくわからないけど。ま、いいや。まさかあの自警団が裸にされて口にレモンを突っ込まれるなんてねー」

「おい! また誤解を招くような言い方をするな!」

「え? 自警団を裸に剥いたの?」



 ジャンヌが眉間にシワを寄せる。これは俺が特殊な性癖な持ち主だと誤解されている可能性がある。



「していない!(俺は)」

「そんな事よりクラウス君、さっきから見てたけど大胆な事するよねえ」

「大胆?」

「さっきジャンヌちゃんの左手薬指に指輪をはめてあげてたじゃない」

「それがどうした」



 俺にはいまいち狐塚の言いたい事が分からなかった。ジャンヌも分からないらしく、首を傾げている。

 しかし俺たちの反応を見ていた狐塚は今にも吹き出しそうな顔になり、必死に口を抑えている。何が狐塚のツボにハマったのだろうか。



「どうしたのだ」

「いやだってさ。この大陸で左手の薬指にはめるってことは婚約の証じゃないか。こんなところでプロポーズとは大胆だねえ!」



 狐塚は言いながらブフーっと吹き出した。俺とジャンヌは一瞬顔を見合わせたが、ジャンヌの顔が一気に赤くなっていく。恐らく俺の顔も真っ赤になっていただろう。



「ち、違うぞ! 我はそんなつもりで指輪をはめたのではない! ジャンヌが怪我をしていたから、我が代わりにはめただけだ!」

「そうよ! そもそも私はいつも中指にはめてたのにクラウスが間違えて薬指にはめただけ!」



 若干自分だけ助かろうとするの止めろ。



「それに我は左手薬指にはめるのが結婚指輪だと知らなかったのだ!」



 俺は必死に言い訳を試みてみるが、狐塚は全く聞こえていないかのように笑い続けている。



「いやあ、みんなに見せたかったよ! 指輪をはめてもらう時のジャンヌちゃんの幸せそうな顔! クラウス君の神妙な面持ち!!」



 とうとう狐塚は転げてしまい、床を手で叩きながら笑っている。いやどんだけ笑上戸なんだこいつ。

 一方ジャンヌはイチゴのように赤くなった顔を手で覆い、俯いてしまった。こういう話に全く耐性が無いのだろう。



「おい狐塚! 静かにしろ!」



 俺はどうにか静かにさせるため、狐塚を抑えようとした。しかしひらりと身をかわされる。



「僕が欲しかったら捕まえてごらん」

「一々気色悪い言い方をするな!」



 俺はその後も狐塚を捕まえようと頑張ったが、全く狐塚にはかすりもせず、救護室の備品を散らかす一方だった。



「あんた達何してんの!」



 救護室の先生が帰ってきたのはそんな時だった。いつもは優しい先生の顔が完全に般若と化している。あ。まずい。騒ぐだけならまだしも、救護室の備品床に落としちゃった。



「あ、いやこれはだな。この狐塚という男が」

「狐塚? 誰もいないけど?」

「え?」



 さっきまで俺の指差す方にいたはずの狐塚が忽然と消えてる。最早ミステリーである。



「あれ!? 狐塚どこ!?」

「クラウス君。ちょっと話があるんだけど……」



 先生はやけに優しい笑顔で、俺の首根っこを掴んだ。こうなったらジャンヌに説明してもらうしか無い。



「じゃ、ジャンヌ……?」

「じゃあ私は寝るからおやすみ」

「ジャンヌ!?」

「さて、覚悟はいいかしら」

 よくない!!!







 自警団編 おわり
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