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ルナ・グレイプドールについて 2

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 仕方なく故郷に戻った彼女は、否定され続けて生まれた心の欠落を埋めようとするかのように、ひたすら治癒魔法の習得に打ち込んだ。

 それでも彼女の心の穴は埋まらなかった。誰かを治療して「必要とされる」喜びを感じるのは一瞬であり、すぐ虚無感に襲われてしまう。また彼女の村にはほとんど身内しかおらず、治療を必要とする人も限られているため、余計に物足りなさを感じてしまうのだった。



 そんな時に思い出してしまうのは母親の追い求めていた「男」という存在だ。もしも呪いに屈することなく自分い接してくれ、肯定してくれる人が現れたのなら、自分の足りない部分を全て満たしてくれるかもしれない。

 こんな私でも、「生きていい」と思えるのかもしれない。

 そうすれば私は喜んで彼に尽くすだろう。決して母親のように、複数の男達と身体を重ねるような汚い真似はしない。と彼女は考えていた。

 しかし前述の通り、彼女の呪いは人を遠ざけてしまう。誰も居なくなってしまう。一縷の望みを託して入学したビナー学園でもそれは変わらなかった。



 そんな時、彼女の前に現れたのがクラウスだった。初めて出会った日、彼は校内で「呪われた女」として有名だった自分に手を差し伸べてくれたのだ。無論、これはクラウスが編入してきて間もない時期で、ルナのことを知らなかったからなのだが、それまでずっと一人で過ごしてきた彼女にとっては非常に衝撃的な体験だった。



 漆黒のコートに身を包み、異国の香りを漂わせ、凛々しい表情をした男はルナにとって非常に魅力的に映った。きっと、この人が自分の運命の人なのだと感じた。そして彼女の思った通り、クラウスは今まで誰も解くことの出来なかったルナの呪いを解いてしまったのだ。

 ルナにとって彼は英雄そのものだった。



 それからというもの、彼女は寝ても覚めてもクラウスのことを考えていた。幼い頃、情事にふける両親の姿が浮かべ、父親をクラウスに、そして母親を自分に置き換えて空想しては悶々とする日々を送っていた。

 彼に対しての思いを募らせる毎に、自分こそが一番クラウスに相応しい女であり、彼にとって、自分を選ぶのがベストな選択であるとの思いは強まっていった。



「欲しい。彼が欲しい」



 どうしても彼を故郷に連れ帰り、共に暮らしたい。幸せな家庭を築きたい。あと一族の呪いを解きたい。



 そうした彼女の思いは日に日に強まり、やがて何をしてでもクラウスを手に入れたいという願望は爆発した。

 そう、クラウスを故郷に招き入れ、そのままなし崩し的に結婚しようと彼女は考えたのだ。もちろん一族の呪いを解いて欲しいという言葉に嘘はないが、呪いを解いた彼を村から出すつもりは毛頭無い。



 ルナはクラウスを故郷に誘い込むため、裏で行動を起こしていた。

 密偵を使ってクラウスの一日の行動パターンを完璧に把握した。それにより、他に誰も来ない場所で、絶対に断られないよう彼を村に誘う計画を練った。



 それだけではない。一族達にも協力を要請し、外堀を埋めて埋めて、カッチカチに固める計略を村ぐるみで進めていた。クラウスを絡めとるための罠は二重にも三重にも張り巡らされ、確実にクラウスの心と心臓を鷲掴みにしようとしていた。



 それはまるで地獄の亡者のようにクラウスを手招いている。そう、クラウスはルナの故郷に入ったら最後。二度と出てこれないだろう。



 誰も彼を村の外へ逃す気など無いのだから。
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