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村長の家 1
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村長の家は村の中心部から少し西に離れたところにあり、古めかしい屋敷の周りには牧草地が広がっていた。しかしこの屋敷も何か怪しい。別にどこか痛いんでいるとか傷があるわけではないのに、まるで人の気配を感じないのだ。先ほどの村人の目つきを見ているだけに俺はかなり不安になってきた。
「ごめんください。ルナです」
とルナがノックをすると、中からメイド服を着た少女が出て来た。彼女の顔もまたどこか陰鬱で、青白い。何だか今にも倒れそうだ。
「あ、ルナ様……どうぞ、アドルフ様は来賓室にいらっしゃいます。今、案内致しますぅ……」
とメイドは言いながら、ばったり床に倒れてしまった。
「ど、どうした! まさかこの少女も呪いに……!?」
「心配しないで下さい。彼女……メイドのアニーは床が好きなのです」
「どういうこと!?」
「恐らく、急に床に寝転がりたくなったんだと思います」
何その溢れ出る衝動。
メイドのアニーはうつ伏せに倒れたまましばらく動かなかったが、やがて足だけを通路の方に向けて
「来賓室はこっちですぅ……」
と言って喋らなくなった。
客に足で指図するな。
何だか全体的に村人達のクセが強い。一体、村長はどんな人なんだろう。
***
「闇魔道士殿。よく来て下さった。私が村長であり、第十五代グレイプドール家当主のアドルフ・グレイプドールと申します」
来賓室で俺たちを待っていたのは、短い白髪を後ろに流し、スーツを着こなす老紳士だった。もっと幽霊じみた人が出てくるのかと思ったが、意外にも見た目は普通だ。俺たちが各自挨拶をした後、村長はゆっくりと話し始めた。
「この村の者達……グレイプドール一族は不幸になる呪いを受けながらも、固まって助け合い、支え合って今日まで生活してまいりました。しかしもう限界が近づいていると感じております。呪いが強まっているのです」
老紳士は一度ため息を付いた。
「我々の呪いは近隣の人々に知れ渡っており、嫁ぎに来る者も、婿入りする者も本当に減りました。どれだけ手厚くもてなしても、支度金を用意しても、人は減る一方です。このままでは血が濃くなるばかりで、不幸で死ぬより先に一族は全滅してしまうでしょう」
老紳士の蓄えた深いシワからは数えきれないほどの苦労が見て取れた。きっとこの人は一族の長として、かなり大きく、根の深い問題と長年向き合って来たのだろう。
不意に村長が俺の方を見た。暗かった顔がパッと明るくなる。
「ですが、闇魔道士様が来てくれたからには安心です。では早速結婚式の日取りを決めましょう」
……え? 結婚? いきなり誰と誰の? と思っているとルナが俺の袖を引いた。
「もう、クラウス様。とぼけちゃ駄目です。私たちの結婚のことですよ」
一瞬冗談を言っているのかと思った。しかしルナの目は本気である。それこそ一点の曇りもない。その目が怖い。
俺はここに来て村人達の刺すような視線の意味を理解した気がした。この村では外部から来る人間はかなり貴重。そう、彼らは最初から俺を婿入りさせる気満々だったのだ。
「何だ、オメエら結婚するのか?」
ニックは俺とルナの顔を交互に見ながら焼き魚を食べている。その顔をジャンヌがキッと睨んだ。あまりの迫力にニックもたじろぐ。
「な、何だよ、焼き魚欲しいなら言えよ。やるのに」
お前は何度同じ過ちを犯すのか。
「後で貰うわ」
食べるのかよ。
「ごめんください。ルナです」
とルナがノックをすると、中からメイド服を着た少女が出て来た。彼女の顔もまたどこか陰鬱で、青白い。何だか今にも倒れそうだ。
「あ、ルナ様……どうぞ、アドルフ様は来賓室にいらっしゃいます。今、案内致しますぅ……」
とメイドは言いながら、ばったり床に倒れてしまった。
「ど、どうした! まさかこの少女も呪いに……!?」
「心配しないで下さい。彼女……メイドのアニーは床が好きなのです」
「どういうこと!?」
「恐らく、急に床に寝転がりたくなったんだと思います」
何その溢れ出る衝動。
メイドのアニーはうつ伏せに倒れたまましばらく動かなかったが、やがて足だけを通路の方に向けて
「来賓室はこっちですぅ……」
と言って喋らなくなった。
客に足で指図するな。
何だか全体的に村人達のクセが強い。一体、村長はどんな人なんだろう。
***
「闇魔道士殿。よく来て下さった。私が村長であり、第十五代グレイプドール家当主のアドルフ・グレイプドールと申します」
来賓室で俺たちを待っていたのは、短い白髪を後ろに流し、スーツを着こなす老紳士だった。もっと幽霊じみた人が出てくるのかと思ったが、意外にも見た目は普通だ。俺たちが各自挨拶をした後、村長はゆっくりと話し始めた。
「この村の者達……グレイプドール一族は不幸になる呪いを受けながらも、固まって助け合い、支え合って今日まで生活してまいりました。しかしもう限界が近づいていると感じております。呪いが強まっているのです」
老紳士は一度ため息を付いた。
「我々の呪いは近隣の人々に知れ渡っており、嫁ぎに来る者も、婿入りする者も本当に減りました。どれだけ手厚くもてなしても、支度金を用意しても、人は減る一方です。このままでは血が濃くなるばかりで、不幸で死ぬより先に一族は全滅してしまうでしょう」
老紳士の蓄えた深いシワからは数えきれないほどの苦労が見て取れた。きっとこの人は一族の長として、かなり大きく、根の深い問題と長年向き合って来たのだろう。
不意に村長が俺の方を見た。暗かった顔がパッと明るくなる。
「ですが、闇魔道士様が来てくれたからには安心です。では早速結婚式の日取りを決めましょう」
……え? 結婚? いきなり誰と誰の? と思っているとルナが俺の袖を引いた。
「もう、クラウス様。とぼけちゃ駄目です。私たちの結婚のことですよ」
一瞬冗談を言っているのかと思った。しかしルナの目は本気である。それこそ一点の曇りもない。その目が怖い。
俺はここに来て村人達の刺すような視線の意味を理解した気がした。この村では外部から来る人間はかなり貴重。そう、彼らは最初から俺を婿入りさせる気満々だったのだ。
「何だ、オメエら結婚するのか?」
ニックは俺とルナの顔を交互に見ながら焼き魚を食べている。その顔をジャンヌがキッと睨んだ。あまりの迫力にニックもたじろぐ。
「な、何だよ、焼き魚欲しいなら言えよ。やるのに」
お前は何度同じ過ちを犯すのか。
「後で貰うわ」
食べるのかよ。
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