冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

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決戦

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「どうだ! これを聞いてもまだ俺が悪いと言うのか!」



 モグリッジは唾を散らしながら叫んだ。



「いやお前が悪いに決まってんだろデコ助」



 ニックが鼻をほじりながらいった。



「な、何だと! お前はどうだ! お前も俺が悪いと言うのか!」



 まるで仲間を求めるかのように俺の方を見る変態。やめろ。こっちを見るな。俺は確かにスケベかもしれんがそんな理不尽な理由で人を逆恨みしたり、口いっぱいに下着を詰め込んだりしない。



「……貴様の語る昔話など聞くに耐えぬ。闇魔道士の名において貴様を葬るのみ」



 変態の顔色が変わると同時に雨が強まってきた。まるで滝から流れ落ちる水のように凄まじい水量が襲ってくる。冷たい感覚でほとんど手先指先の感覚が無い。



「そうか……今謝れば命だけは助けてやろうと思ったが、気が変わった。お前は今すぐ地獄に送ってやるわ!!」

「地獄に落ちるのは貴様だ! この変態が!」



 その時、変態の上空にポッカリと黒い穴が空いた。その黒は虚空。先には何もない底無しの黒が広がっている。



「フフフ……ここまで侮辱されたのは久しぶりだな。お礼に俺の最高戦力を使ってお前を葬ってやろう! さあ全てを食い尽くすのだ! 出よ! 呪龍アークロン!!」



 丘全体が揺れ始めた。暴風が吹き荒れ、大地を裂くような、けたたましい叫びが穴から響いてくる。あまりの事態に少女達は泣き叫び、付き添いできた村人達はなす術無くしゃがみ込んでいる。



「フハハハハ!! どうだ! この龍はその気になれば国中の人間を不幸に出来るほどの呪いを持っているのだ! ただ一人の闇魔道士に何が出来る!? お前には死よりも辛い報いを受けさせてやる!!」



 かく言う俺も若干浮き足立っていた。変態的な見た目に反して、奴の呪いは想像よりもずっと強い。しかし逃げるわけにはいかない。俺が逃げたらルナ達の呪いは未来永劫解けないし、少女達の下着はあの変態に取られ続けるし、何よりあの変態にやられるのが腹立たしいから俺は絶対に逃げない。



 不意に穴から光が覗いた。目だ。赤い目が鋭く尖った視線を俺に向けている。圧倒的な敵意。殺意。邪悪さ。

 凍るような寒気が全身を貫く。



「終わりだ……呪龍! あいつらを食い尽くすのだ!」



 突風が押し出される。草を撫でつけ、枝をへし折り、立っていられないほどの凄まじい風。

 息をするのも難しい風圧がぶち当たる。同時に何かが、まるで地を這う蛇の如き動きで、巨大な何かが黒い穴から這い出してきた。



 剥き出しの鋭い牙。鎧のように体に張り巡らされた鱗。そして赤く光る両眼は俺を睨みつける。これが、呪龍……!



 龍が赤い大きな口を開き、こちらに向かってきた。

 速い! あの図体でなんて速さだ。

 まるで雷のように疾る龍の体。

 が、頭から俺の尻に吸い込まれていく。



 まるで麺を啜るように俺の尻はちゅるちゅると龍を吸い込んでしまった。



 静寂が丘を覆った。ざんざん降り続く雨以外の音が聞こえない。先ほどまで異様な存在感を放っていた龍が幻のように消えてしまったのだから無理はない。



 俺以外の全員が状況を飲み込めないようだった。全員の視線が俺の尻に集まっている。そんなに見ないで。それはただの尻だから。



「どうした? こんなものか?」



 先ほどから口を開けて動かないモグリッジは急に歯を噛み締めた。



「お、お前! 何をした! さっき何をしたのだ!」

「見えなかったのか? 貴様の龍を喰らったのだ」



 尻からな。



「馬鹿な! そんなことが出来るわけ……! 俺がこの三百年間、溜めに溜め続けた呪いポイントを全て引き下ろして作った呪術の最高傑作だぞ! そんなことがあってたまるはずが!」



 呪いってそんな預金みたいに引き下ろせるのかよ。この技は俺がルナの呪いを吸収するのに使った技と同じ【冥府の檻】だ。

 呪いを封じ込める自信はあったものの、相手の呪いが想定外に強かったのでうまくいってくれてよかった。あれから俺の闇魔道士としての力が格段に上がっているのだ。



「ねえ、クラウス……あんたさっきお尻に龍を吸収しなかった……?」

「気のせいだ」

「いや……」



 ジャンヌが明らかにドン引きしている。やめろ。俺だって好きでケツで龍を吸い込んだわけではない。



 少し遅れて村人達がどよめき始めた。



「凄い!! 討伐隊が瞬殺された龍を吸い込んだぞ! 尻から!」

「あの龍が手も足も出なかっただと! 尻に!」

「これが闇魔法の力なのか! 尻!」

「何だあの尻は!」







「くそがあああっ! これで終わったと思うなよおおおお!」



 モグリッジが頭にパンツを被りながら叫んだ。何なんだその汚いルーチンワークは。



「どうした。まだやる気か?」

「図に乗るなよギラの中二野郎!! さっきの龍は俺の指先ほどの呪いを使って作った傀儡に過ぎん!」

「自分の呪術の最高傑作とか言っていなかったか?」

「黙れ↑あやああ!!」



 再び、禍々しい気配が穴の中に渦巻き始めた。いる。何かが、来る。

 先ほどの龍にも引けを取らない強い呪力の塊が潜んでいる。



「さあ恐れろ! 跪け! こいつは俺が死んでからこの国に溜まった呪いを集め、練り上げ、呪いをねじ込んで作った呪いの虎だ!!」



 心臓を揺さぶるような唸り声が響いてくる。穴の向こうから虎が俺たちを喰らわんと猛っている。



「さあ行け! 呪いの虎よ!!」

「【冥府の檻】」



 俺の声と共に穴からスポンと飛び出した呪いの虎は、唸りを上げながら俺の尻に吸い込まれていった。

 再び静寂が丘を覆う。先ほどまで降り続いていた雨が段々と弱まってきたようだ。



「お、お前……何を!」

「貴様の虎を喰らったのだ」



 尻からな。



「何なんだその尻は!」



 何なんだろうな。



「ねえクラウス。あんたやっぱり尻から」

「違う」



 感触的に、吸い込んだ虎は先ほどの龍よりも弱かった。もしかするとあの変態はすでにネタ切れなのかもしれない。そして俺も人のことを変態とか言えなくなってきた。



「ふ、ふふふふふ! あーっはっはっはっは!」



 突然、モグリッジが狂ったように笑い始めた。



「まさかお前、今ので俺に勝ったとでも思っているのか!? おめでたいなあ! 闇魔道士

 という連中は! いつの時代も己の強さに自己陶酔して慢心する! だから呪術に足元を掬われるのだ!」



 まだだ。あの変態はまだ何かを隠し持っている。何だ? 龍を超える呪いだとしたら俺の肛門が深刻なダメージを負いかねない。



「茶番は終わりだ! 」



 再びドス黒い穴の中に禍々しい気配が漂い始める。龍、虎と来たが次は何なんだろう。



「赤と黒で染め上げろ! 行け! 呪いのテントウムシ!」

「え?」



 変態の方から、ふわふわとテントウムシが飛んできて、村の方に飛び去ってしまった。



「ふっふっふっ! よく聞け! そいつはさっきその辺で捕まえたテントウムシだ!」



 じゃあただのテントウムシじゃねえか。



「そ、そういうわけで俺は帰る」



 モグリッジの身体はふわりと浮いた。龍と虎が出てきた穴に近づいていく。どうやらそこから逃げる気らしい。いや、逃さんぞ。



「待て」



 俺が歩み寄ると、モグリッジの顔が恐怖に歪んだ。



「く、来るな! 変態!」

「変態は貴様だろう!」



 スク水を着たおっさんに言われると尚更腹が立つ。



「【冥府の檻】」



 その瞬間、呪いを吸い取る力がモグリッジを吸引し始めた。まるで身体がゴムのように縦に伸びる。変態は穴の淵を両手で持ち、どうにか俺の尻から逃れようとしているが、もう長くは持たないだろう。



「ぐわああああああ! やめろ! 俺が何をしたって言うんだああああああ!!」

「ふざけているのか? 貴様のせいでどれだけの人間が不幸になったと思っている」

「そ、それは! 悪かった! ごめんなさい! 謝るから許してくれ!」

「と、モグリッジは言っているが、貴様らどうする?」



 俺は後ろを振り返った。



「ふざけるな!」

「今更許せるわけないだろ!」

「報いを受けろ!」

「お前なんか尻に吸い込まれてしまえ!」

「そのスク水を寄越せ!」



 村人達は容赦ない罵詈雑言をモグリッジに浴びせかける。これが因果応報というやつだろう。そうこうしている間にもどんどんモグリッジは俺の方に吸い寄せられてくる。俺も出来ればこの変態を取り込みたくはないが、仕方ない。



「待って! 本当に待って! 助けてくれ! そうだ、俺と組もう! お前の魔力と俺の呪力があれば怖いものなしだ!」

「貴様と組むなど、死んでも嫌だ」



 俺は吸引する力を強めた。



 ま、ママママ待て! 分かった、取引をしよう! 俺が今まで集めた生娘の衣服は全て貴様にやる! だから」

「いやそれ全部貴様が試着しているだろう」

「うん」



 俺は更に吸引する力を強めた。



「ぎゃああああああああ! どうか! どうか許して! 俺は尻に入りたくなあああああああ!!」



 モグリッジは叫びながら吸い込まれていく。その声は徐々に聞こえなくなっていき、やがて静寂が訪れた。



 急に視界が明るく、眩しくなる。分厚い雲が散り、隙間から太陽が覗いている。太陽の光を浴びて草木についた雨粒がキラキラと光り、その中を蝶々がひらひら飛んでいく。

 とても幻想的な光景だった。



 こうして、長きに渡ってグレイプドール一族を苦しめ続けたモグリッジの呪いは幕を閉じたのであった。
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