冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

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リンゴとレモン

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俺達が選んだのは闇魔法専攻の授業を行う教室……つまりリーザ先生の部屋だった。ほとんど生徒の出入りが無いところだし、リーザ先生に少し知恵を貸して欲しいと思ったのだ。



「クラウス、さっきは大声出して悪かったヨ」



 部屋には入ってすぐ、紅花が声を掛けてきた。



「いや、我も無神経なことを言って済まなかった。貴様がそれほど本気で優勝を目指しているとは知らなかったのだ」

「えっと、二人は知り合いなの?」



 そう言えばジャンヌは紅花と会ったことが無かったな。



「ああ。我々は言語教室で授業を共に受けている。此奴は紅花。魔法料理学部の生徒で、今度大魔法料理対決に出場するのだ」



 俺が友人の助っ人として大魔法料理対決に参加することなどは話していたので、ジャンヌの飲み込みは早かった。



「ああ、じゃあこの子がニックと同じ……」

「私紅花ヨ! よろしくネー」



 紅花が手を差し出す。



「私はジャンヌ。よろしく」



 ジャンヌが手を取った。紅花の柔和な表情にジャンヌも警戒を解いたらしい。ルナとのピリピリした関係になりそうじゃなくて良かった、と俺は胸を撫で下ろす。



「でさー、その子達は誰なのー?」



 しびれを切らしたのか、リーザ先生が尋ねてきた。奥の椅子に腰掛け、自慢の長髪を指にくるくる巻いては解くその仕草だけを見ると、本当の子供に見えなくもない。



「こんな綺麗な女の子を二人も連れ込むなんて、乱行でもする気かい?」



 幼女の見た目から繰り出される容赦ない下ネタ。



「ま、私は乱行でも構わないけど」



 俺も構わないぞ!!

 思わずがっつきそうになる本能を必死に抑え、俺は一度咳払いをした。





「違いま……違う。今日は我が師、貴殿に知恵を授けてもらいたくて来たのだ」



 俺は紅花が大魔法料理対決で優勝しようとしていること、そして優勝するためには魔法を制御出来なければならないが、紅花は全く出来ないことなどを話してみた。

 紅花はかなり特殊な体質だ。リーザ先生でも対処法が分からないかもしれないが、今は藁にも縋りたい気持ちだった。



「今のままで良いんじゃない?」

「え?」

「そこの紅花ちゃんとやらの魔法の才能は素晴らしいよ。その威力は誰もが出せるものじゃない。いや、魔法使いを志してやってくるここの生徒達の殆どが紅花ちゃんに及ばない。物は使いようだよ。そんな才能があるんなら是非魔法戦闘学部に来て欲しいものだね。すぐトップクラスの実力者になれるよ」



 リーザ先生はサラリと言った。

 非情なようだが、しかしその意見は理にかなっている。威力を制御出来ないのなら、初めから制御しなくて良い魔法戦闘学部で活躍すれば良い。繊細な魔力の調整が要求される料理魔法など、やる必要はないということだ。

 しかし……。



「嫌ヨ! 私、絶対に諦めないヨ! 家族のために大魔法料理対決で優勝しないといけないのヨ!」



 やはり紅花にとってリーザ先生の言葉は受け入れ難かったようだ。



「教えてヨ! 魔力の制御の仕方と、どうして先生は子供なのにそんなにおっぱい大きいのかヲ!」



 確かに気になるよね。



「あー、これね。実はこんなに大きくなっちゃったのはクラウス君のせいで……」



 おい! 俺が来る前からだいぶ大きかっただろ!



「クラウス……? いつもこの教室で何してるの?」



 ジャンヌが不信感に満ちた目で俺の方を見てくる。違う! 俺はいつも尻を叩かれているだけでやましいことは何もしていない!



「話を戻すけど、簡単だよ。ルナの呪いを解いた時と同じ魔法を試してみたら良い」



 俺がジャンヌに詰められそうになっていたところ、リーザ先生が助け舟を出してくれた。 



「使える、のか? しかしあれは呪いを吸い取るための魔法だと教えてくれたではないか」

「理屈は同じさ。吸い取るのが呪いから魔法に変わるだけ」



 先生がパチンと指を鳴らすと、例のクローゼットからレモンを付けたおっさん(変態)と、新しいおっさん(変態)が飛び出してきた。新しいおっさんは股間にリンゴを付けている。

 何でこいつら無駄にフルーティーなんだよ。



「この二人の股間に付いている果物の一つが魔力、もう一つが呪いだとしよう」

「両方呪いだろ」

「で、このレモンとリンゴを入れ替えると……」



 リーザ先生はおもむろに二つの果実をもぎ取ると、反対に付け替えた。今更だけど、あれ、どうやってくっついてるんだろう。



「ほら、同じようなもんでしょう?」

「成る程」



 全く納得はしていないのだが、一刻も早くこの変態どもをクローゼットに送り返したかったので生返事をした。



「しかし、我があの魔法を使うと、魔力を吸い取り尽くしてしまうのではないだろうか」

「それは大丈夫だと思うよー? だってその子、滅茶苦茶魔力の器が大きそうだし、クラウス君が本気を出さなければ吸い尽くしちゃうことはないと思うなー」



 確かにあれだけの魔法を使えるということは、それだけ魔力の器も大きいに違いない。 

 不意にリーザ先生が二人のおじさんに向かって言い放った。



「よし、クラウス君にお分かりい頂いたことだし、二人はグラウンドで遊んできて良いよ」

「おい! こんな変態どもを野っ原ぱらに解き放つんじゃない!!」



 しかし無常にも、二人の男たちはウゾウゾ蠢きながら、奥の日取り窓を外して出て行ってしまった。ちょっと待て、ここ三階だぞ。





「クラウスー、私、魔法制御出来るようになるノー?」



 紅花は心配そうな、しかし期待を持った眼差しで俺を見上げる。



「分からぬ。だが、手を尽くしてみよう」

「本当!?」



 紅花の顔がキラキラと輝き始めた。



「紅花ともキスするの?」



 後ろからボソッとジャンヌが呟く。残念だがその予定は無い。

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