孤児で転生した私は侯爵家に拾われるが優しさを裏切り続けて傾国の魔法令嬢への道をいざ歩まん

照木たつみ

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2話 6歳になった私と父アズガンの帰還

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   なぜ私は言葉がしゃべれぬのか、ろくに動けず正直美味しくない流動食を吸わされているのか。
 さもありなん、あの時は私は生まれたばっかりの赤子だったのでしょうがない。

 私は転生していたのだ、この異世界に、赤んぼ返りして。
 今はもうバリバリにしゃべれる、スタスタと歩ける。体に異常は全然無かった。ありがたい。歯もちゃんと生え揃っているよ。前歯が少しすきっ歯気味だが。

 私はもう6歳になった。

 私が転生していた異世界は、いわゆる中世風のファンタジーな世界だった。まだ城内からあまり外に出た事がないので、それ以上詳しくは説明が出来ない。

 私は最初、どこかの町の裏路地に捨てられていたのを教会の人に拾われて孤児院にいたらしい。

 たまたま孤児院の関係者に、魔導師だかの修行を高く積んだ人がいて、生まれたばっかの私に、すでにウイチカ(賢魔導士)の能力が発現している事に驚き、その話がドレイブル侯爵の方にまで伝わったとの事。

 要は私を見に来た侯爵夫人が、その場で私をいろいろと見染めてしまったらしいのだが、このへんの経緯も婆やのソフィアからの聞き及びで、どこまで本当かは知らない。

 私の今の名前はエルザ・メディウルス・ドレイブルで、この世界の最も広大な大陸の西部に位置する、アクシュガルと言う国のまた西の地方にある、かなり大きな領地を持つ貴族の家の一人娘になっている。

 今言ったように実の娘ではないけれどね。前世の記憶は物心つき始めてから名前なども急速に消えて忘れていった。こちらの世界の事を覚えるたびに、引き替えるように無くなっている感じ。

 母親はベルネット。父親はアクシュガルの貴族でも古く名門の血を引くドレイブル侯爵のアズガン。
 この二人には結婚してから子供が出来ないでいたらしい。

 私が孤児院に連れられて来た時の前から、アズガンとベルネットは養子にできる子供を探していたようだけど、このへんの話も城に出入りする人の噂が耳に入った程度だから、よく分からん。

 私がはっきりと分かるのは、単に捨て子の赤んぼうだった私が不憫で、ベルネットお母様や父上が私をドレイブルの娘にしたわけでは無いだろうと言う事だ。

 私には、まだ六歳の自分でも自覚出来るくらいの、軽く大人をしのぐ図抜けた魔法力が生まれ持ってあった。それはどれほどの力かと言うと、婆やのソフィアによれば将来ウイチカ(女性賢魔導士)になれるクラスの、いろんな魔法力を持って生まれた少ない人間の中でも、それは何万分の1の確率の大逸材なんだそうである。

 説明が遅れたがこの世界は、もう何百年と大陸の東と西で大小のいくつもの国が覇を争って戦い、武力と知勇のある勇者が求められて尊ばれる、戦乱の時代が続いている。

 男なら剣。私の今の父アズガン・ドレイブル侯爵は、大陸の西のアクシュガル諸侯連合王国の武闘貴族の筆頭であり、抜きん出た戦功で国の英雄だった。だからドレイブル家は国でも大きな領地を国王より拝領されて、高貴な身分と厚い信頼を勝ち得ている。

 女は魔法。なぜか魔法力に秀でる、特に優れた賢魔導士と言われるクラスには男性よりも女性が多く、それらの女性はウイチカと呼ばれて、戦線において獅子奮迅の活躍をする…… らしい。母のベルネットはウイチカではないが、代々有力な魔導師を生んで来た女系魔法貴族の家の者である。

 つまり私は軍系貴族の子供のいない家に、資質を買われてスカウトされちゃったわけだ。

 そんで大事に大事に才能を伸ばそうと、おそらく父のアズガンが身を粉にして、戦争の前線にて体を張って奮戦しながら稼いだお金を、私の魔法英才教育に湯水のごとく注いでいると思われるのだった。

 長くなっちゃったがこれが、私の今のざっくりな現状だ。


「うう…… 。そう言えばまた御守りが増えちゃったのよ。セム」
「そうですかい。お嬢様」

 私が上着のワンピースドレスの裾にぶら下がった、ソフィアの新しくつけた魔よけの人形に顔をしかめると、夢中にもう小一時間あれやこれや話していて、ちょっと黙っててもらえないだろうか、と仕事中の庭師のセム爺に逆に顔をしかめられた。

「結構仕事が進んだわね。セム」
「みんなお嬢様のしでかした悪戯の後始末ですわい」

 セムは城内の屋敷の正面の、背の低いモミの木の木立の枝ぶりを切り落として、不揃いになった樹形を懸命に揃え直そうとしていた。

 結局モミの木はバッサバッサと枝を切り落とされて痛々しいが、たぶんこの後に魔力の養分エキスを毎日吹きかけて、徐々に木を元通りに成長させるんだろうね。ごめんね。私が動物や怪物の形に好き勝手に一日で成長させちゃったから。でもそっちの方が絶対に格好いいと思ったんだよ。

 庭にドラゴンが勢ぞろいしてるのって良くない?

 ソフィアにそう言ったら大目玉食っちゃったわ。ちぇっ。

「頑張ってね。もうしないから」
「頼みますよ」

「ああ、お嬢様しかし……アズガン様に一本残してお見せしても良かったかもなあ」
「どうして? 私がお父様に怒られれば良かった?」

「いやいや。本音を言えば一本や二本くらいなら、なかなか見栄えのある見事な物でしたじゃ。アズガン様もお嬢様の魔法力の成長ぶりが直に見れれば、さぞかし喜ばれたでしょう」

「……ふうん」

 行きかけた私に本当に残念そうにセムが言ったので、今度は別の木にやってみる事にした。やり過ぎがいけなかったのか。

「お嬢様はアズガン様のお顔を覚えておいでですか?」
「当たり前じゃない。三年前になるけど覚えているわ。今より私小さかったけどね」

「アズガン様が三年ぶりにお城に帰って来られる。どうぞご無事に」
「全然ピンピンしてるらしいわよ。戦場じゃ矢も鉄砲の玉も向こうが勝手によけていくって」

 私の言葉にセムが登っていた梯子から落ちかけた。

「だってお母様がお父様の新しいお手紙を一昨日読んでくだすったもの」

 母のベルネットが一月前に顔をほころばせて読んでくれた手紙には、お父様が出征していた東の戦線から一時休養のために、二年ぶりでこのドレイブルの城に帰って来れると書いてあった。私はすぐにお父様にお返事を書いて差し上げた。一日も早く元気なお父様に会えるのを神様にお祈りしていますって。

 そうしたら一昨日、私あてに自分は元気であると、お父様よりお手紙が新たに届いたのだ。

 最後に見た時は私は四歳で、お父様の顔はねえ。すっごい熊みたいなクシャクシャのヒゲ面だとしか覚えてない。
 出征して城を出る前に私を抱き上げて、ボロボロと泣かれていて…… 。
 綺麗なお母様とは正に美女と野獣のお父様。

 熊って言うか、アクシュガルの狂ったライオン。そう私の父は呼ばれて東の国々には恐れられているらしい。
 確かに強面だけど本当かしら。私に怒った顔を一度も見せた事がないんだもん。やっぱり優しい熊さんよ。
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