孤児で転生した私は侯爵家に拾われるが優しさを裏切り続けて傾国の魔法令嬢への道をいざ歩まん

照木たつみ

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遅れて渡されたサプライズプレゼント

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 もうすっかりと熱も下がって外に出たくってしょうがないんだけど、お父様がもう一日我慢しなさいと言われるので部屋にジッといたら、エルゲラお婆様がお見舞いに来てくださった。

「むやみに白魔法治癒に頼るのも、体が本来の自分で直そうとする力を弱めてしまうからねえ」

「お母様もそう言ってたわ。エルゲラ様」

「私達の力は安易には使えない。普段は極力普通の生活を心がけないと、楽をするために便利だからってズルをしちゃえば必ずしっぺ返しを貰っちゃう」

 それもお母様によく言われているんだけど、つい悪戯に私は使っちゃう。まあ、あれはセム爺やソフィア達も悪いのよ? ……リアクションが密かに練って用意しているのかってくらい最高過ぎるんだもん。

 他の事では自分のために魔力は使う事はしていないないと思う。魔法を使える事が決して知らない人に分からないように、自分でも使える事を忘れるくらいでいなさいってお母様の教えなんだけどね。

 思いっきり、みんなの前で飛んじゃったりもしてますが。

 お父様の時は、完全に無意識でテラスを飛び出して、空中にいた時の事はほとんど覚えていない。
 もう一度やれと言われても難しいと思う。浮くくらいなら全然出来るかな。感覚を覚えてるし。

 でもなんか服に付けられるお守りが壊れてて新しい物に変わっちゃって、お母様に首に掛ける小さなロケットも頂いたんだけど、ロケットは肌身離さずに常に掛けていなさいって。今もつけてるわ。

 私の力をある一定の所で引き留める効果があるらしい。お守りももしかしてそう言う物だったのかしら。

 やっぱり飛んじゃったの良くなかったのかなあ。

 魔力は無尽蔵に湧いて来る物ではなくて、個人の能力に差はあるにしても、きちんと修行して正しく伸ばしていかないと、どんな人も大人になる頃に井戸が枯れるように魔力が消えていくらしい。そうなってしまうと二度と魔法は使えないそう。

 魔法を使える人。魔導士には実力によって、幾段階もの階級のような称号がある。

 単純に使えるだけでなくて、魔法の歴史や創り上げられて来た体系的な理論を魔法学校で学び、厳しい練習と試験に通っていかなければ真の魔導士は名乗れない。

 まっ。独学と言うか、いろんな理由や事情で学校に行かずに、それでもかなり強いレベルの魔法を使えちゃう人も少ないけれど、いる事はいるみたい。

 でも本当に学校で鍛えられた本物の魔導士に比べると、大人と赤ちゃんほどのレベル差があるのだそうだ。

 称号と言って簡単に説明されるのは師と士。
 魔導師は上級。免許皆伝クラス。魔導士はいろいろ珠玉混合って感じなのかしら。

 紛らわしくて簡単じゃ無いと私は思ってる。それぞれに幾段階もの階級みたいなのがあるのよう。

 私はまだ六歳で学校に上がれないので、私付きの専属の先生、メンドーサ博士に魔法物理学の基本とかを教わっているのだけれど。でも正直本の勉強はつまんない。

 と言うか、お母様に娘にしてもらえていなければ、いくつになろうが私は魔法の本格的な勉強とか無理だったんじゃないかな。

 エルゲラ様が悪いのではないけれど、魔法の話をしていて、久しぶりにその事を思って少し悲しくなった。

 私は…… この家の娘だ。私にお母様とお父様の血は流れていなくても、髪の色や瞳の色が違っていても、ドレイブル家の誇り。魂を授けられて、何よりこの城にいるすべての人達に、体と心にたっぷりと愛情を注ぎこまれて育って来た。

 でも記憶にすらもう無い、自分が孤児の赤ん坊でいた事実も、決して忘れてはいけない気がしている。どっちも間違いの無い私なんだから…… 。もし赤ん坊の時に捨てられていなかったら、私はどんな暮らしをしていている子供だったんだろう。

「どうしたの? エルザ」

「いいえ。何でもありません」

 一人で子供の私がこんな事もうんうん考えるから、おかしな熱も出ちゃうんじゃない!?

 私はふと、エルゲラお婆様をジィッと見つめてしまった。エルゲラお婆様は、私の尊敬する世界一の魔導師べルネットお母様より、もしかしてすごい人なのかもしれない。だって称号の最上位のウイチカですもの。

 ベッドの脇に腰かけているエルゲラ様の背は、女の人でも大きくないソフィアよりも、まだ一回り小さいくらいで、ショートへアーの御髪ももう真っ白、ソフィアよりもお歳は上ね。でも緑色の美しい瞳に鏡で見た時の私のそれみたいに、強い好奇心の光が宿っていた。

 ウイチカかあ。メンドーサ先生は男性魔導師では確か上から三番か四番目のウイザード。お母様はメンドーサ先生もすごい人だと言われるけど、私は真面目に先生の授業を受けずに、いつも遊びに引きこんじゃうからな。

 そしてお母様は女性魔導師では二番目のジェレネスタだけど、私とウイチカには天と地の差があります。と話されて、ソフィアはウイチカは神の祝福を受けた人のみがなれる至高の魔導師だって言っていた。

「……」

 突然、私に真っ直ぐ熱い眼差しで見つめられたエルゲラ様は、首を傾けて微笑んでらして、ちょっと……可愛いい。

「あら。エルザ、その顔ひょっとして、ベルネットはもうすっかり元気ですって言っていたけど、動きたくってしょうがないのかな?」

「本当はねえ。昨日くらいから大丈夫と思うの。遊びたいけどお父様が許してくれないのう」

「ふふ。じゃ私と体慣らしに少し外をお散歩しましょうか? エルザの花壇があるのでしょう。見せてちょうだいな」

「はい!」

 エルゲラ様、話が分かるっ。このへんがウイチカなのね。たぶん。

 私がベッドから飛び起きたので、エルゲラ様が笑ってしまった。
 寝間着から普段着に着替えて、うっ、また御守りの変なのが裾にくっついて増えてる。

「エルゲラ様、私の服、蓑虫みたいになっちゃってて」

「一見魔よけの小物ね。小さい子が悪い悪魔に連れて行かれないように」

「これ取っちゃダメかしら?」

「そうねえ……ベルネットもやり過ぎかしら? 胸のロケットは可愛いわね」

「これは気に入ってるの」

 お守りには動くと音のする物まであって、セム爺には猫の鈴みたいな物で、私を探す時に音で分かって便利とか言われる始末だし、ちぇっ。

 だいたいこの城に猫はいないじゃない。ロケットは銀色ですごく綺麗なんだけど。


 十日ぶりの私の花壇は、お母様やソフィアが手入れをしてくれていて、変わらずにどのお花も元気だった。

 園芸のお花はもちろん綺麗なんだけど、私は野に咲いている小さくて可憐な花も好き。これはセム爺達が外で見つけて持って来てくれる事がある。

 その度に移し植えて花壇の横には野原みたいに、そんな草花が増えて咲いている。時々花を摘んで、お母様と押し花を作ったりしてるけれど……大きくなったら、本当の山の自然な花園を見に行きたいな。

 ジョウロで水をやりながら、しげしげと花を眺めている私の様子を、エルゲラ様は何か考えながら見つめていた。そしてハッと手を口に当てられた。

「そうだ。いけない。私ったらエルザにお誕生プレゼントを渡していないわね。山にこもっていると世間離れが激しくってダメねえ。あなた何か欲しい物はある?」

「……」

 小さな子供の悲しさか。私が欲深いだけなのか。礼儀正しくしなければと思う頭と裏腹に、体がピクンと反応してしまった。お誕生プレゼント。その言葉はいい響き。もう今年は二回も貰っちゃってるけれど。

「でも大抵の物はアズガンやベルネットに貰っちゃってるのかしらねえ。被っちゃってもしかたないし」

 それは…… でもお母様は、ねだれば何でも叶えてくれる訳でもなくて、むしろ本当に心から欲しい物かエルザがしっかりと考えてからねってよく言われる。

 ……欲しいプレゼントはある。物じゃ無くて。

 うう。そしてそれは、何度も私は真面目に考えてお母様にお願いしているんだけど、今年のお誕生日にも頂けなかった。
 私が激しい苦悩と葛藤を見せているらしいのに、エルゲラ様はニヤッとされた。バーゼルの笑い方にそっくり。

「欲しい物、何か…… あるのね?」

 もう六歳なんだから我慢しなさい。い、いや言ってみるだけ。心の中で白エルザと黒エルザが言い合って、とうとう私はこくんと頷いてしまった。

 私の答えを聞き出したエルゲラ様は、なるほどっと言う顔をされた後に、あまりに真剣な私の表情に、声を出して吹き出してしまわれた。

 エルゲラ様との散歩が終わって私はまた部屋に帰った。


 十日ぶりに見た部屋の外の景色はどれもすっごく新鮮だった。いつも見慣れているはずなのに、不思議な感覚ねえ。あと池の鴨に雛が生まれていてびっくりしたな。

 部屋にはお母様が待っていらして、エルゲラ様に会釈すると、……お母様がなぜかジッと私をただ見つめて来られた。

 でも元気になっている私に安心したように微笑まれて、夜のお食事はみんなで食べる事が出来そうねって言ってくれた。お父様と一緒にお食事が出来るのは、何気に晩餐会以来だ。

 それを喜んでいる私に、……全然予期していないサプライズが待っていた。

 エルゲラ様が部屋を出て行かれる時に、一枚の封筒を私に手渡して来たのだけど、それは…… バーゼルからの私への手紙だった! もう一つ小さな箱も…… 。

 彼が帰る時に、私に書いて置いていこうとした物を、エルゲラ様が預かってくれていたらしいの。

 私が一人になってから早く読みたそうなのを、お母様が察すると、肩をすくめて出て行かれてしまった。
 何度も封を開けるのにドキドキと躊躇して、私は先に箱の方を開けた。

 すると小魔法で形作られた綺麗な花が現れて、それは澄み切った青空のような色のスミレの花。

「バーゼル……ありがとう」


 私は最高のお誕生プレゼントを、バーゼルとエルゲラお婆様に頂いてしまっていた。

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