孤児で転生した私は侯爵家に拾われるが優しさを裏切り続けて傾国の魔法令嬢への道をいざ歩まん

照木たつみ

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第9話 幼い初恋

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 お父様が帰って来られて、ドレイブル家は、お母様達の御様子から何日かは慌ただしい日々が続いていたのだと思う。

 城がやっと落ち着きを取り戻したように私が感じたのは、お父様が帰ってらして十日ほどは経ってからだった。
 そう思うって言うのは、その間私は、……ずっと寝込んでいたので、はっきりとは城内の様子が分からなかったから。

 晩餐会と舞踏会が終わった興奮のまま、自分の部屋に帰ったくらいから体が急にほてり始めて、そのまま眠って翌朝に起きたら私は高熱を発していた。

 すぐにエレメン先生が駆けつけてくれて診療をしてくださったものの、お薬を飲んでも熱はそれからなかなか下がらずに、せっかくお父様が帰っていらして、いっぱい遊んでもらおうと思っていた私の当ては、すっかりと外れてしまい、氷嚢を頭に乗せて唸るしか出来ないで、がっかりだった。

 ちなみに熱の原因は、風邪やタチの悪い病気では無かったようで、体自体にも異常は無く、首をかしげたエレメン先生が下した診断は。うええ恥ずかしい。

「一種の知恵熱だね」

 …… 。

 エレメン先生がベルネットお母様におっしゃったのは、ちょっと急激に六歳の幼児には、一気に様々な事が起こりすぎて、それまで城の中だけで、自由に伸び伸びと育っていた私の頭や体が、それらを一ぺんに受け止めきれずに過熱してしまったのではないか、との事らしい。

 ダンスを褒められたり、チヤホヤされて大人びた気になりかけていた私には、その病名? は効きすぎるお灸だった。……淑女への道は遠いのね。

 ……まあいろいろ確かに私には、あの日の事は順を追ってみても刺激が強すぎたかも。

 嬉しさと感激と緊張の、感情の大波が次々とうねりながら容赦なく、ざっぶーんと私を飲み込んでいだのだと思う。

 そして、その荒波の中で私が頑張れていたのは、もちろんお母様達のおかげだったけれど、途中からもう一人の、家族とは別の人の存在があった。

 城の中だけで育ってきた私の、初めて出来た男の子の友達だろうバーゼル。

 頑張れたと言うか、いつも彼がどこにいるのか、あんなに他人を意識しちゃった事が私には無い経験だったから。

 自分のバーゼルを見ている時の、これも初めて味わう、たとえようのない気持ちや、逆に彼が視線をくれるだけで飛び上がりたいくらいに嬉しかったり、でも時々苦しかったりとか上手く言えない。

 言葉が思いつかずに、もやもやとする。

 あれっ。また顔がほてってくる。せっかく落ち着いて来てたのに。

 お父様やお母様、シオレーネに見られている嬉しさとは違う、みんなは絶対に私を見ていてくれると信じられるけれど、バーゼルは。

 今私以外の誰かを、別の女の子を見ているんじゃないか……彼は私の、家族や何かでは無い。だから、よけいに、ずっと彼に私を気にしていて欲しかった。変な気分。

 その気持ちを、あれってどんな感情なんだろうと、自分でも不思議になってしまって、整理しようとすると下がりかけた熱が、やっぱりすぐに上がってしまうようなので、私は完全に元気になってから考える事にした。

 知恵熱って、小さな子供が急にのぼせて、集中して考え過ぎるのが良くないらしい。

 私はソフィア達にお嬢様は賢い子供と言われていたのに、その気で結構自惚れて来ていたのが恥ずかしいな、と思った。

 で、のぼせるって何? お風呂以外じゃ聞かないんだけど。

 そして気になるバーゼルは…… 次の日に私が知らない間に帰ってしまっていた。
 ……もし私が元気なままでいたら、もう何日か城に残っていてくれただろうか。

 この事も私はショックでとても残念だった。すぐに帰るにしても、ちゃんとお別れを言いたかったな。 

 クルーガ様に付き添われて行ってしまったらしい。
 バーゼルにこの城に飾ってある古い武器や防具を、お父様に頼んで見せてあげたかったのに。

「はあ……」

 また変なため息が出ちゃった。

「別の事を考えようとしたら、また彼の事に戻ってるのよう…… で熱が上がるとか。やっぱりこれ病気だよね?」

 あっ。お父様がいらした。私の顔色を見てホッとされてる。もうかなり平気よ。昨日から気分もずいぶんと快適になって、食欲もしっかりと戻ったもの。

「大事にならなくて良かった。無理をさせてすまなかったな。エルザ……」

「ううん。私も…… お父様やお母様のお役に立ちたかったの。だって私は……」
 熱の中でバーゼルと同じくらいに私が一番考えていた事は…… 。

 これからもお父様やお母様。シオレーネ達の期待に私がちゃんと応えられて、それを見て喜ぶ顔をずっと見続けたいって事だった。それには私は、この先から、どうしたらいいんだろうって物だった気もする。

「お父様お母様の……私はこの家の、アズガン・ドレイブル侯爵の獅子の娘なんですもの」


 ◆◇

「アズガンはまたエルザの所にいるみたいね」

「ええ。暇を見つけて、と言うより抜け出したり言い訳を作ったり、彼に見てもらわないといけない書類仕事もたまりきっているんですけど」

「あの子は元々そう言うの好きじゃないしね。ふふ、本当に目に入れても痛くないって感じなのかしら」

 ベルネットはエルゲラに誘われて庭園の中を案内していた。エルザのお気に入りの花壇のある庭である。
 あの日に遅くに不意に現れたエルゲラは、他のお客達、クルーガらが帰った後もドレイブル城に留まり続けていた。

「アズガンも貴方も、ここに来るのを遠慮していた私が急にやって来て、残り続けている理由を尋ねないのねえ」

「……アズガンはエルゲラ様のお話しくださるのを待てと言っております」

 二人はゆっくりと歩くと、やがて池のほとりに来ていた。白鳥を見たいとエルゲラが言ったのである。

「マッキャンベラ。現アクシュガル国王からは、まだ何もアズガンには労いや感謝の言葉すらもなく、彼の側近の王族の者もほとんどが、この度の凱旋を無視して顔も出して来ない」

「北領王のクルーガ様とメビルの大女鹿エルゲラ様に来ていただきましたわ。過分な光栄にございます。アズガンも大層の喜びようでした」

「……今ドレイブルによけいな波風を起こしたくなく、私ももう老いている。来なかった者にもアズガンに隠した友情を保ち続けている者も少なくない事は理解して欲しいの。決して言い訳では無く」

 静かに池を見つめながら、寄って来た白鳥達にエルゲラは小麦を撒いてやった。

 ベルネットは控えながら揺るぎなく答えた。

「うがった考えは主人は露の一粒も持っておりません。ドレイブル家は、アズガンはマッキャンベラ王に、先王マケベラス様に劣らない忠誠心を変わらずに持ち続けております」

「私達古い王家の者はみな分かっています。しかしクルーガさえもこの何年かはマッキャンベラには疎んじられている。目の上のたんこぶ。私達はあの子に老害扱いだわねえ」

 気遣いを示してもらい、心から感謝しながらも、話の本題で無い気がベルネットにはしていた。

「エルザは今年で六歳になった」

「はい」

「ベルネット。エルザのこの家に来たと同じ年に生まれた者が、我がメビル家にもいるの」

 ベルネットに向いたエルゲラの目に、一瞬強い光が瞬いた。

 メビルの大女鹿。彼女は若い頃にそう呼ばれて、自分の兄。アクシュガルの当時の新王。マケベラスについて弟のクルーガ達と東方征伐に長く従軍していた。

 戦場に出た最後のアクシュガルの女性賢魔導士ウイチカで、だからアズガンも頭が上がらない。

 東方征伐戦争が終わり、戦線を退いた後は結婚もせずに、北方の奥深い山岳の狭い領地を、マケベラスに頼んで貰うと、限られた人にしか会わず、もう王家には深入りをせずにそこに引きこもっていた。

「その者は人では無い。……アクシュガルに生き残るワイバーン(飛竜)の百年ぶりに産み落とした一つの卵である」

 ベルネットが思わず。あまりの予想外のエルゲラの言葉に血相を変えた。

「アズガンを…… 呼んで参ります!」

「いいのよ。ベルネット。私は最後のアクシュガルのウイチカであり、貴方はそれに次ぐ高位女性魔導師レネジェスタである。レネジェスタさえも、もうこの国に五人もいない。ワイバーンも二頭を残すのみ」

 エルゲラはベルネットを引き留めて、ワイバーンの話を続けた。

「その卵の事は……」

「私とメビルの飛竜族の者達以外にクルーガ。マッキャンベラの二人しか知っていないわ。マッキャンベラが他に漏らしていなければ、だけど」

 うろたえたベルネットに、エルゲラが言葉を一寸止めたが、声を低く改めて核心を話して来た

「そしてこの話はまだ私とメビルの者達しか知らない」

 エルゲラの投げた小麦の餌に白鳥に混じって二羽のカルガモもついばんでいた。小さな数羽の孵ったばかりらしい可愛いヒナ達を引き連れている。


「卵は生きていて六年経って孵ったのよ。アクシュガルに二百年ぶりの新しいドラゴン。ワイバーンの子供が誕生したの」

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