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第10話 青い花を机に置いて
しおりを挟む「すっかり長居してお世話になったわねアズガン。ベルネット」
「……エルザが淋しがりますわ」
「……完全に婆あに懐いちまってるからな。くそっ」
「アズガンも淋しい?」
「んな訳あるかっ。……五年も十年も経って、またいきなり、ひょっと来るんじゃねえぞ? 足がちゃんとあるか確かめたくなるからな。俺はともかく、……エルザの顔くらいはいつでも見に来い。すぐに大きくなっちまう」
ぶすっと照れ隠しの大男に、エルゲラが微笑んだ。
「エルザは呼ばなくて本当によろしいんですか?」
「私が辛いのよ。別れるのがね。じゃあ」
エルゲラが馬車に乗り込む前にベルネットを抱き寄せた。
「エルザに約束した物。贈らせてもらうわ。いいわね? アズガン」
「分かったよ。でも」
「なるべく小さいので頼むよ。でっかくならないヤツ」
「あら。大きさはともかく私の所にいる犬達はヤギを狼や魔獣から守るような気性の荒いのしかいないんだけど」
「……よせよ。いやマジに」
エルゲラが笑うと今度はアズガンに両腕を広げた。
「ライオンと呼ばれる貴方が犬を恐れるなんて。エルザが聞いたらびっくりね」
「子供の頃に追い回されてケツを噛まれて、それ以来ずっとダメだ…… しゃべってねえだろうな?」
アズガンが巨体をかがめると、エルゲラをしっかりと抱きしめた。
「もし来ねえんなら、エルザを夏にでも山に行かせるよ……」
「だから楽しみに体を大事にしてろよ。婆ちゃん。あんたの孫だ」
「ありがとう。ふふ、もう少し頑張って生きてみるわ。それでは…… さようなら」
エルゲラは行ってしまった。ワイバーンの話は一度きりで、それからは、ベルネットにおくびにも出す事は無かった。
滞在中エルザの遊び相手になり、何か二人でエルザの事で秘密を共有したらしく、彼女の相談に乗ってやっていたりしたが、遊びや話を通じてジッとエルザの何かを確かめるように、慎重に見定めている気がベルネットにはしていた。
もう何も言わなかったのは、あの時の話の事は母親の私の考え、判断に委ねる、と言う事なのだろうと、ベルネットはエルゲラの馬車を見送りながら思っていた。
「アズガン。貴方に相談があります」
「何だ。エルゲラが帰ったとたんに、やっぱりエルゲラに何か言われていたのか」
「はい…… エルザに今後大きく深く、いえドレイブル家や、いずれアクシュガル全体に関わって来る事かも知れませんわ」
「そうか…… あの婆さんの事だ。引きこもった山奥からただ手ぶらで来やしないとは思ったが、俺の事ではなくエルザの方か」
エルザはメンドーサと一緒に魔法の勉強中だった。エルゲラが今日帰る事は知っていた。前日の夜に聞かされていたのである。お別れもすませていた。
そして今頑張って、彼女の不真面目ぶりに手を焼き続けていたメンドーサが目を見張るほどに、苦手な本の座学の勉強に打ち込んでいた。
エルザは来年に小学校へ就学するが、魔法学校への入学を考え始めていた。
それもベルネットの卒業した、超難関の魔法専門学校にだった。
ベルネットは今までに、魔法学校への娘の入学に特にはこだわっていない感じで、むしろ城の中に優れた先生に来てもらい、自分の目の届く範囲でエルザの才能を伸ばそうと考えているふしがあった。
しかしエルザは父アズガンの帰って来た日から、みんなの期待にこれからも応えたいと思い、考えてどうやったらそうなれるか。ウイチカであるエルゲラに聞き、相談をしていた。
エルゲラはそれにこうしなさい、とは決して言わなかったが、エルザの質問には小さな子供相手にではなく、真摯に自分の考えを話して、それを聞いたエルザは一人でまず、頑張って挑戦してみようと思う目標をたてのである。
私が真面目に教科書を開き、先生の話す事に顔を向けて聞き入っているから、それだけで感動されている。
エルゲラお婆様に言われたのは、メンドーサ先生は魔法学の基本を教える事に優秀な、信頼できるウイザードであり、数々の国を代表する男性魔導師の育ての師匠であると言う事。
女性魔導師について勉強するのより、違う面、角度から魔法を学べて、お母様もそれを考えているのでは、とも言われた。
お母様が直接私に魔法の勉強を教えないのも、その方がいいだろうって。いつかその理由が分かるし、お母様の気持ちも理解できるだろうと言われたから私は安心した。
女の人は直感的で私もそうだけど、魔法を使うのに感受性? に頼りがちな場合が多く、その時の心の調子で出来る事が、特に子供は大幅に変わったりするらしい。
すごい事が爆発的に出来たかと思えば、二度と同じ事がやれなかったり、極端で、それが男性魔導師の大人には少ないんだって。
自分のやりたい事、人に求められる魔法を、安定して魔力を小さく使えるのが大事で、それが魔力の尽きる恐ろしい事態を避けれる事にも繋がる。
袋が破れてはいけない。と教えられた。魔法の袋が破れるって言い方は怖いな。
男の子のバーゼルはどうなんだろう。
「僕に魔法力は無い」
「僕にあんな事は無理です」
嘘だ。彼は隠していた。知らない人には魔法が使える事が分からないようにしていなさい。お母様の言われる事を、彼は普通に私やみんなの前でやっていただけかもしれない。
でも私に花を贈って教えてくれた。
……嬉しい。
私は勉強をする間、彼から貰った青い魔法の花を机に置いている。
今も先生に断ってからそうしている。
これ、改めて見て、かなり高度な魔法の使い方だ。魔力を小さく使い長く留めていられるなんて。
魔法の花は枯れちゃったりしないんだろうか? 先生に授業の後で聞いてみよう。
……手紙はねえ。実はまだ読んでいないの。
いつも寝る前に封を切ってみようとベッドで試すんだけど、そのドキドキが失われるのが勿体なくて、私がバーゼルにお手紙を書いて、またいつか二通目のお手紙を貰えたら、今の手紙を読むかな。おかしいかな。
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