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前編
38.女王のペット(3)
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弟ドラ達の前に一体、エラと翡翠の前にもう一体いて、いつの間にか二体に挟まれる形となってしまった。
翡翠を噛み付いた魔獣は彼をそのまま上に持ち上げた。翡翠は苦痛の叫びをあげる。一方、もう一匹の魔獣の方も他の人たちに攻撃していて、仲間はすぐに翡翠を助ける事ができなかった。
翡翠は左手を噛まれた状態で、右手で腰のダガーを抜くと、魔獣のマズルの部分をありったけの力を込めて刺した。一回、二回、三回、と刺すが、魔獣は一瞬ひるむが、翡翠を離そうとしなかった。
「今助けるぞ!」
兄ドラが長い槍で魔獣の脇腹を切り裂く。魔獣は苦悶の表情を見せた。
「__ッ……!!」
翡翠は、魔獣の口角から頬まで斬りつけた。やっと魔獣は翡翠を離し、翡翠は小さな体をくるりと回転して地面に着地した。
「あなたその腕……。」
翡翠の噛まれた左腕には見るに耐えない大きな穴があき、ドクドクと血がでていた。エラは恐ろしくて気を失いそうになった。
「問題ない。ただ、ダガーを一本取られてしまった。」
「も、問題ないって……。」
「話してる余裕はないよ、イシちゃん!早く逃げるんだ!」
兄ドラは叫んで、エラを右肩に担いだ。
「は、離してよ、兄ドラさん! 叔父様達がまだ……!」
エラは魔獣が現れたこの土壇場でもおじさん達を連れ出す事を諦められなかった。女王のペット達は悲鳴のような鳴き声をあげながら、奥の方へ逃げて行った。だが、豚2匹はまだ逃げきれずにじっとエラの方を見ていた。
「今イシちゃんの叔父さん達を連れて行っても危険な目に合わせるだけだよ! ここは辛いだろうけど、逃げるんだ! 翡翠も、すまんが今は諦めろ!」
翡翠は無言でこくりと頷いた。
エラは兄ドラに担がれながら遠くで悲しげにエラを見つめる豚を見た。すると、豚2匹は諦めたかのように寝室の奥の方に逃げて行った。丁度、神父が大剣でもう一匹の魔獣を薙ぎ払った。すぐに立ち上がりそうだったが、その隙に彼らは間をぬって部屋を飛び出した。
(必ず助けます。叔父様、叔母様……!)
エラも為す術もなく兄ドラに担がれたまま、部屋を後にした。
女王の執務室を出た後も、魔獣達は追いかけてきた。抜け道を通り、王家の城を抜けてもなお追いかけてきた。その数は少しずつ数を増やして行った。魔獣は何度もエラ達に襲いかかり、蜘蛛達はその度に応戦した。兄ドラも途中からエラを担いでいる余裕がなくなると、エラを下ろして応戦した。
「クソッ……予想した中では最悪の状況になったな!!」
弟ドラは大きな斧で魔獣を斬りつけた。だが、すぐに魔獣の傷口が治って行った。
「流石に女王の魔獣です……! この程度では傷一つつけられない!」
神父が叫ぶ。魔獣は傷がどんどん回復するのに対して、『白い教会』側はかなり傷を負っていた。特に、途中で神父が負った腹の傷が深くて、神父の顔から血の気が引いていた。呼吸も荒かった。エラは、さっき翡翠が負った左腕の傷も心配だった。翡翠の服は既に左腕から流れた大量の血で染まっていた。
「蜘蛛! 指輪を持って先に聖堂に行き針鼠達と合流するんだ!」
兄ドラは蜘蛛に向かって叫んだ。エラは血の気が引くのを感じた。
__この状況で蜘蛛に先に行かせようとするのは自分達を犠牲にしようとしているという事だ。
他の人達も皆、兄ドラの意見に賛成するように頷いた。
「イシちゃんも蜘蛛と一緒に行くんだ! 守ってはもらえないだろうが、ここに残ってるよりはまだ安全だ!」
「ま、待ってよ、兄ドラさん! まだ諦めないでよ! 皆で逃げようよ!」
エラは必死になって兄ドラ達を説得しようとした。ここまでで何の戦力にもならなかったエラの言葉は説得力がなかった。
兄ドラはエラの肩に大きな手を乗せた。
「いいかい、イシちゃん。皆、自分の命より大事なもんのために闘ってるんだ。それを守るために、死ねるんなら本望なんだよ。」
こんな時であるにもかかわらずに、兄ドラさんはエラに優しく微笑んだ。エラは泣きそうになった。
「イシちゃんはイシちゃんで譲れないもんがあるんだろ?だったら他なんか気にせずに、自分の為すべき事を果たせ。」
兄ドラは、ぽんっとエラの背中を叩いた。数日しか一緒に過ごしていないが、エラはこの大きな手で弾いていたバイオリンの音が恋しくてたまらなくなった。きっと死ぬまで忘れられないと思った。
兄ドラは再びにっこりエラに微笑むと今度こそエラに背を向けた。
「あ、諦めるのはまだ早いわよ……。」
エラはまだ食い下がった。
「___その通りだ。たかが獣にくれてやる程お前らの命は安くねえぞ!」
その時、声がした。凛々しく鋭い声だった。
全員が、あっと声をあげて振り返った。
ドゴォッ!! というけたたましい音と共に一匹の魔獣が吹き飛ばされる。倒れた魔獣の奥から、ロングソードを携えた青年が姿を現した。
「針鼠!」
碧い瞳をもち、金髪にバンダナを巻いた青年___針鼠が立っていた。
翡翠を噛み付いた魔獣は彼をそのまま上に持ち上げた。翡翠は苦痛の叫びをあげる。一方、もう一匹の魔獣の方も他の人たちに攻撃していて、仲間はすぐに翡翠を助ける事ができなかった。
翡翠は左手を噛まれた状態で、右手で腰のダガーを抜くと、魔獣のマズルの部分をありったけの力を込めて刺した。一回、二回、三回、と刺すが、魔獣は一瞬ひるむが、翡翠を離そうとしなかった。
「今助けるぞ!」
兄ドラが長い槍で魔獣の脇腹を切り裂く。魔獣は苦悶の表情を見せた。
「__ッ……!!」
翡翠は、魔獣の口角から頬まで斬りつけた。やっと魔獣は翡翠を離し、翡翠は小さな体をくるりと回転して地面に着地した。
「あなたその腕……。」
翡翠の噛まれた左腕には見るに耐えない大きな穴があき、ドクドクと血がでていた。エラは恐ろしくて気を失いそうになった。
「問題ない。ただ、ダガーを一本取られてしまった。」
「も、問題ないって……。」
「話してる余裕はないよ、イシちゃん!早く逃げるんだ!」
兄ドラは叫んで、エラを右肩に担いだ。
「は、離してよ、兄ドラさん! 叔父様達がまだ……!」
エラは魔獣が現れたこの土壇場でもおじさん達を連れ出す事を諦められなかった。女王のペット達は悲鳴のような鳴き声をあげながら、奥の方へ逃げて行った。だが、豚2匹はまだ逃げきれずにじっとエラの方を見ていた。
「今イシちゃんの叔父さん達を連れて行っても危険な目に合わせるだけだよ! ここは辛いだろうけど、逃げるんだ! 翡翠も、すまんが今は諦めろ!」
翡翠は無言でこくりと頷いた。
エラは兄ドラに担がれながら遠くで悲しげにエラを見つめる豚を見た。すると、豚2匹は諦めたかのように寝室の奥の方に逃げて行った。丁度、神父が大剣でもう一匹の魔獣を薙ぎ払った。すぐに立ち上がりそうだったが、その隙に彼らは間をぬって部屋を飛び出した。
(必ず助けます。叔父様、叔母様……!)
エラも為す術もなく兄ドラに担がれたまま、部屋を後にした。
女王の執務室を出た後も、魔獣達は追いかけてきた。抜け道を通り、王家の城を抜けてもなお追いかけてきた。その数は少しずつ数を増やして行った。魔獣は何度もエラ達に襲いかかり、蜘蛛達はその度に応戦した。兄ドラも途中からエラを担いでいる余裕がなくなると、エラを下ろして応戦した。
「クソッ……予想した中では最悪の状況になったな!!」
弟ドラは大きな斧で魔獣を斬りつけた。だが、すぐに魔獣の傷口が治って行った。
「流石に女王の魔獣です……! この程度では傷一つつけられない!」
神父が叫ぶ。魔獣は傷がどんどん回復するのに対して、『白い教会』側はかなり傷を負っていた。特に、途中で神父が負った腹の傷が深くて、神父の顔から血の気が引いていた。呼吸も荒かった。エラは、さっき翡翠が負った左腕の傷も心配だった。翡翠の服は既に左腕から流れた大量の血で染まっていた。
「蜘蛛! 指輪を持って先に聖堂に行き針鼠達と合流するんだ!」
兄ドラは蜘蛛に向かって叫んだ。エラは血の気が引くのを感じた。
__この状況で蜘蛛に先に行かせようとするのは自分達を犠牲にしようとしているという事だ。
他の人達も皆、兄ドラの意見に賛成するように頷いた。
「イシちゃんも蜘蛛と一緒に行くんだ! 守ってはもらえないだろうが、ここに残ってるよりはまだ安全だ!」
「ま、待ってよ、兄ドラさん! まだ諦めないでよ! 皆で逃げようよ!」
エラは必死になって兄ドラ達を説得しようとした。ここまでで何の戦力にもならなかったエラの言葉は説得力がなかった。
兄ドラはエラの肩に大きな手を乗せた。
「いいかい、イシちゃん。皆、自分の命より大事なもんのために闘ってるんだ。それを守るために、死ねるんなら本望なんだよ。」
こんな時であるにもかかわらずに、兄ドラさんはエラに優しく微笑んだ。エラは泣きそうになった。
「イシちゃんはイシちゃんで譲れないもんがあるんだろ?だったら他なんか気にせずに、自分の為すべき事を果たせ。」
兄ドラは、ぽんっとエラの背中を叩いた。数日しか一緒に過ごしていないが、エラはこの大きな手で弾いていたバイオリンの音が恋しくてたまらなくなった。きっと死ぬまで忘れられないと思った。
兄ドラは再びにっこりエラに微笑むと今度こそエラに背を向けた。
「あ、諦めるのはまだ早いわよ……。」
エラはまだ食い下がった。
「___その通りだ。たかが獣にくれてやる程お前らの命は安くねえぞ!」
その時、声がした。凛々しく鋭い声だった。
全員が、あっと声をあげて振り返った。
ドゴォッ!! というけたたましい音と共に一匹の魔獣が吹き飛ばされる。倒れた魔獣の奥から、ロングソードを携えた青年が姿を現した。
「針鼠!」
碧い瞳をもち、金髪にバンダナを巻いた青年___針鼠が立っていた。
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