25年目の花畑の下には秘密が埋まっている〜探偵ごっこがお好きな見捨てられたお嬢様は見習い執事に愛される〜

八朔バニラ

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幽霊の二重奏

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 「『幽霊の二重奏』その正体をこの場でお見せしましょう」

 お嬢様は関係者が見守る前で、事件の「再現」をすることになった。

 お嬢様は山沼家のメイドに用意してもらったゼンマイ式目覚まし時計2つ、細い白い糸、おもり、透明な液体が入った小瓶を皆に見せた。

「他にはこの部屋にある蓄音機、ピアノ、柱時計を使います」

 お嬢様は蓄音機のアーム針の部分に細い白い糸を取り付ける。

「まず、ゼンマイ式目覚まし時計は0時より少し前にセットしておきます」

 お嬢様は細い白い糸をゼンマイ式目覚まし時計のゼンマイ部分に取り付けた。

「そして、蓄音機のハンドルは直前にあらかじめ回しておきます」

 次にお嬢様はピアノの内部のハンマー弦を叩いて音を出すに細い白い糸を取り付けた。
 その細い白い糸を柱時計のゼンマイで動くハンマー時間がくると鐘を叩くに取り付けた。

 「これでひと通りの準備は出来ました。まずこのゼンマイ式目覚まし時計のベルの代わりに細い白い糸がアームを引っ張ります」

 実演と同時に、蓄音機の針が自動的にレコード盤に降り、優雅な『オダマキのワルツ』が流れ始める。

「『オダマキのワルツ』お母さまが好きだった曲……」

 千代は食い入るように蓄音機を見つめている。
 まるで母を少しでも感じたいというように。

 「そして、深夜零時になると柱時計のハンマーが糸を引き、ピアノのハンマーが一音だけ鍵を打ちます」

 次の瞬間、「ポロン」と生音が溶け込み、部屋の中に響き渡る。

 「ピアノの生音と蓄音機の演奏が夜中に自動で重なり合えば、『幽霊の二重奏』となります」

 千代は静かにピアノを見つめている。

「この曲が愛人様の寝室で聞こえたのはこの部屋の暖房用のパイプを伝わってでしょう」

 お嬢様の指摘通り『オダマキのワルツ』は暖房用の古いパイプを伝わって屋敷のあちこちに響き渡る。

 「犯人はジエチルエーテルも仕掛けていましたね。ピアノの奥の空きスペースにガラス瓶入りのジエチルエーテルが隠されており、こちらにもゼンマイ式の目覚まし時計のタイマー仕掛がセットされていました。
 時計のタイマーが作動すると、糸とおもりの仕掛けでガラス瓶の蓋が開き、ジエチルエーテルが部屋に拡散します。
 ジエチルエーテルは非常に揮発性が高いらしいですね。
 山沼家当主はそれを吸い込み、昏倒した……」

 山沼正一は息を飲んだ。

「ジエチルエーテルはおそらく千代の亡き母親が使っていたものなのでしょう」

「お母さまは精神が不安定な時はいつも使っていました。お父さまは知らないと思いますが」

 千代は10歳に似合わぬ大人びた冷たい口調で山沼正一に言った。

「千代、親に向かってなんだその口の聞き方は!」

「お父さまは何も知らないくせに」

 千代は吐き捨てるように言った。

「ジエチルエーテルは人を酔わせる作用があると聞いたことがありますね。精神安定のために使っていたのでしょう」

 お嬢様は二人の会話に耳を貸さずに淡々と説明した。

「お母さまは新しいお母さまからひどい嫌がらせを受けていましたから」

「なんだと!」

 山沼正一が怒りに満ちた表情で千代を見た。
 自分の愛した人はそんな人ではないと信じたいのだろう。

「新しいお母さまは毎日私達に不幸の手紙を送ってきました。外出先ではいつもお母さまに嫌味を言ってしつこく絡んでいました」

「そんなはずは……」

「お父さまは何も知らないのですね」

 千代は冷ややかな視線を山沼正一に送った。

「千代、親子げんかは後にしてくれたまえ」

「はい、きょうこお姉さま」

 千代はお嬢様ににこりと微笑んだ。

「この大掛かりなトリックを仕掛けた犯人はジエチルエーテルが入手出来て、蓄音機の仕組みが分かる人物……」

 お嬢様はゆっくりと犯人を指差した。

「犯人は千代。君だね」
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