王子に溺愛された、平凡な少女の話

ハルノ

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第四章

32.

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 馬車にジェラルドの魔法の鳥が飛び込む。ヴォルターが受け取り、鳥の鳴き声を聞く。

「ヴォルター、そのままミヨゾティースの屋敷に向かえ!レオナード様からの伝言があるとルーが言っている。『リゼット様に贈られた、手紙をもう一度見てほしい』だそうだ」

 ヴォルターは了承と、王都で合流するとの返事をして、鳥を飛ばす。
 リゼットに手紙のことを聞くと、すぐに思い出した。

「この髪飾りと一緒に、手紙が入っていました。とても量が多く、長い手紙です」
「中身についても伺っていいですか?」
「ええ、あの……レオンがいつも言っている、わたくしへの感想をたくさん書いてあるのです」
「感想ですか……」

 リゼットが言いにくそうにしているが、いわゆる愛の手紙なのだろうと思った。
 まだミヨゾティースに来ていない頃、人前でもリゼットを溺愛していたのだから、そういう手紙も送ってもおかしくないのだろう。

「でも、あの手紙にそれ以外の理由があるとは思えません」
「ええ。ですが、もう一度見る理由が、あるのだと思います。とりあえず向かいましょう」

 ローザルゴサからミヨゾティースに到着したのは、日が傾き始めた頃だった。
 屋敷に着くと、アルフォンからの手紙を使用人が預かっていた。
 それからリゼットは部屋の引き出しから手紙を取り出して、また馬車へ乗る。
 今から急いで王都へ向かえば、日が沈んだ頃には到着するだろう。

「できる限り急いでくれ」

 ヴォルターは御者に指示する。
 馬は疲れていたため、別の馬が用意された。これで急ぐこともできるだろう。
 揺れる馬車のなか、リゼットは手紙を開いて読み返す。時折、揺れが大きく体制を崩す。

 ヴォルターはどうしたものかと思ったが、怪我をするより良いだろうと、隣に座って、万が一に備えた。

「リゼットは手紙を見ていてください。私は見ませんので、ご安心ください」
「ええ、あの、ありがとう」
 
 ヴォルターの気遣いにお礼を言う。この手紙の長文に、暗号でも隠されているのだろうか。20枚ある紙の束。
 いつも通り読んでも、特に変わった文章はない。紙をめくろうとして、馬車が揺れる。ヴォルターが体を支えてくれたが、紙を床に落としてしまった。
 リゼットが「ああ……」と呟く。

「申し訳ありません。手紙まで間に合いませんでした」
「いいのです。わたくしこそ、ごめんなさい」

 リゼットが手紙を1枚拾う。すると、光に透かされて、文字の色の違いに気がついた。
 他の手紙も、1枚ずつ光にかざす。

「ヴォルター、手紙を見てください」

 リゼットは、ヴォルターにも見えるように、手紙をヴォルター側の窓に貼り付けて光にかざす。
 手紙に書かれたたくさんの文字の中に、光にかざすことで色が変わった文字があった。

「光にかざすことで変化するインクですね。しかしこの文字の量と密度は、レオナード様を尊敬します」
「あの、内容は気にしないでください」

 あまりまじまじと見ていい内容ではなかった。リゼットに手紙を返す。
 リゼットは手紙をめくっては眺める作業を繰り返した。そうして、しばらくしてまた、ヴォルターを見る。

「わかりました。順番に読むと、『りゅうのちからかいほうみつけた』と書いてあります」
「竜の力を解放ですか?」
「ええ。どう解放するかまでは書いてなさそうですが、この手紙とフィオーレ様との婚約は関係あるのだと思います」
「ええ、きっと」

 リゼットは手紙を大切に仕舞った。
 そして、もうひとつアルフォンから受け取ったリゼット宛の手紙を取り出す。
 王族の印が刻印された手紙だった。開封すると、レオンとフィオーレ様との婚約が決まったことと、婚約の儀の招待状が入っていた。
 招待状には1週間後に婚約の儀を行うと書いてある。

「……レオンは気持ちが変わってしまったのでしょうか。東の国で、フィオーレ様を好きになったのでしょうか?」
「いいえ、ありえません!手紙を見るように、ルーに教えたのはレオナード様ではありませんか。それも東の国に着いてからですよ。手紙の内容に、偽りがないのだと思いますよ」
「……そう思いたいです」
 
 リゼットが息を吐いて、窓側にもたれかかる。少し目を閉じて、ゆっくりと開いた。
 ヴォルターはその様子を見て、リゼットを安心させようと思った。

「リゼット、レオナード様が心変わりしたかわかる方法があれば、知りたいですか?」

 そう言って、リゼットの手を取る。その中指には、レオナードから贈られた指輪がある。

「わかるのですか?でも、それを知ることも怖いのです」
「ええ。大丈夫です。この指輪が教えてくれます」

 ヴォルターが指輪に触れると、軽く痺れがあった。それをリゼットに伝えると、安堵したけれど、今までも痛みがあったのでは心配された。
 ヴォルターは笑って答える。

「レオナード様が、私を恋敵に思ってくれている証拠です。もし心変わりしているならば、指輪の効力もなくなっているはずです。この指輪の魔法は、相手を想っていなければ効かないのですから」

 そう言って、ヴォルターはリゼットを抱き寄せた。指輪に触れるよう、手をとったまま、もう片方の手でリゼットの顎を上げて口付けようとするが ――。

「っ!!」
「ヴォルター……!?」

 指輪から爆けるような音がして、ヴォルターが手を離した。
 その指先は火傷を負っていた。リゼットが驚いて手に触れようとするが、離れるようヴォルターは言った。

「直接、リゼットに危害を起こすと、指輪が攻撃をするよう魔法が込められているのです」

 ヴォルターは笑うけれども、リゼットは責めた。指先が赤くなって、見るだけでも痛そうだった。
 リゼットはドレスのリボンを解いて、ヴォルターに渡す。せめて、傷口を保護して欲しいと伝える。

「行動に移さなくても、話してくれれば良いではないですか……!」
「もし気持ちがなければ、私が貴女に口付けしていただけですよ」
「……ヴォルターも、冗談を言うのですね」
「冗談はあまり得意ではありません」

 ヴォルターはそう言った後、何か言いかけて、咳払いをした。

「レオナード様のこと信じてください」
「え、ええ。あの、ありがとうございます」

 ヴォルターが抱き寄せたり、助けてくれたことは何度もあった。けれど、あれ程、顔が近づくと思わず、リゼットはヴォルターの顔を見ることができなかった。
 窓の外を見て、胸の高鳴りを落ち着かせようとする。

 もうすぐ王都に到着する。懐かしい街並みが近づいていた。

 ふいに顔を逸らされ、窓の方を向いたリゼットに、ヴォルターは安堵を隠せなかった。
 指輪を理由に大それたことをしたと思ったけれど、痛みよりもそのチャンスに高揚した気持ちが勝った。
 その気持ちも、王都に着くまでに仕舞い込みたかった。
 手紙を拾った時に見た、甘い言葉の数々を思い出す。

(あれだけの言葉を、私はリゼットに伝えられるだろうか。いや ――)

 恋敵と同じことをしても、リゼットを振り向かせることはできないだろうと思った。
 ヴォルターは、自分らしいやり方を模索する。隣にいるだけで、守る役割だけで、もう満足はできなかった。
 けれども、リゼットが今向けている視線は、自分ではないことも気がついている。

 ヴォルターが、軽くため息をつく。
 リゼットは振り返り、名前を呼んだかと思うと、ヴォルターの手を取る。
 ほのかに光ったかと思うと、火傷は消えていた。

「リゼット、安易に力を使わないていいのですよ」
「ヴォルターが怪我をしたままでは、わたくしは気になって仕方ないのです。……もう痛みはないですか?」

 ヴォルターは指を曲げ伸ばして、指先も観察した。傷跡もなかった。

「ええ。まったく問題ありません。ありがとうございます」

 リゼットはにっこりと笑った。
 いつも見るような、優しい微笑みだった。

 リゼットの屋敷に到着する。
 マノンが出迎えてくれて、ルーとジェラルドがいる応接間に案内する。2人とも先に夕食を済ませて、待っていた。
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