王子に溺愛された、平凡な少女の話

ハルノ

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第五章

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 1年後、ミヨゾティースの湖のほとりで結婚式が執り行われた。
 純白のドレスのリゼットと、同じく白いタキシードのレオン。
 ふたりを祝うために、国内の貴族が集まった。

 ミヨゾティースの領民たちが作った式場は、ミヨゾティースの花々で彩られた。
 誓いの鐘を鳴らすと、その音は澄んだ音を響かせる。後に、この鐘も恋人と幸せになれる観光スポットになって、賑わうことになる。

 式の最後に、リゼットからこの場にいる人々へ贈り物があった。
 緊張するリゼットを、レオンが横で支える。深呼吸して、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 ミヨゾティースの恵みの雨の言葉だ。

 その言葉に気がついた人々は、空を見上げた。1年前と同じく、清々しい秋晴れの、雲ひとつない青空。

 リゼットが言葉を紡ぎ終わると、青空から雨が降る。キラキラと輝く、宝石の粒のような雨。
 すぐに雨は止み、空には大きな虹がかかった。
 驚いた人々に、リゼットは微笑んだ。

「ミヨゾティースの、はるか昔から伝わる竜の伝承の雨です。わたくしは、その竜の力の継承者の最後のひとりとなりました」

 人々が自分に注目する。
 胸がドキドキするが、話したいことは何度も練習した。隣のレオンも応援してくれる。
 もう一度呼吸を整えて、話を続ける。

「竜の力の継承者は、この恵みの雨を降らせて、土地に恵みを与えます。ですが、その力を奪おうとしたり、力あるものを幽閉してコントロールしたものもいました。負の力が、人々の心を蝕んだのです」

 リゼットの一言一言を、皆が聞いていた。
 ヴォルターと目が合う。隣には婚約者の女性がいる。

「レオンや、騎士団の皆さまに助けられて、わたくしは竜の力の継承者を最後にできました。この式場のそばにある、祠が祈り場所となりました。皆が祈ることで、私が降らせた恵みの雨のように、竜の力を借りることができます。土地を豊かにする雨を、ミヨゾティースだけでなく、フォルトデリア中に降らせたら良いなと思います」

 リゼットが祠を差すと、皆がそちらを向く。そしてまたリゼットをみる。

「どうか、皆さんも湖を訪れたら、祠に祈りを捧げてください。そして、もう二度と悲しい思いをする人が増えないよう、願って欲しいのです」

 ミヨゾティースの領民たちが大きく頷くのが見えた。

「わたくしは、先程の恵みの雨で、最後の魔法を使いました。元々魔力がない、平凡なわたくしが、こうして皆さんの前で話していることは、夢のようです。これからは、レオンを支える妻として努めたいと思います」

 レオンを見やると「よくがんばった」と褒めてくれる。
 リゼットがお辞儀をすると、大きな拍手の音が会場内に響いた。ひと月ほど前に、ミヨゾティースの夏の祭典で祈った時も、大勢の領民が集まっていた。

 リゼットが降らせる恵みの雨を、是非見たいと集まっていたのだ。
 その時は祠の宝石に祈ることで、雨を降らせた。

 今日は、残っていた魔力を全て使い果たした。もう魔力は戻らないと言われている。リゼットは「ただ元に戻るだけだから」と躊躇しなかった。

 レオンに心配されたけれど、雨の後はとてもすっきりした気持ちになった。

「平凡なわたくしは、お好きですか?」

 レオンに笑いかけると、迷わず返答される。

「どんなリゼットでも、愛しているよ」

 人々の前で軽く口付けを交わすと、お祝いの言葉が雨のように降り続けた。


 ◇◇◇


 式の後、2人はミヨゾティースに建てた新しい屋敷へ帰る。
 元々リゼットが住んでいた屋敷から、割と近くて、湖の波音が聞こえる。

 リゼットはお気に入りのソファに腰掛けて、湖の波音を聞く。
 先に湯浴みを終えて、寝巻きに着替えてゆったりしていた。波音が心地よく、式の疲れもあってうとうととしている。

 レオンが部屋に入ると、ソファに丸まっている妻の姿があった。

「あれ、寝ちゃったの?」

 抱き寄せると「う……ん……」と返事のような寝言が返ってくる。
 ベッドに寝かせて、レオンも隣に寝転がる。リゼットの口や頬に、唇を落とすと、ふっと目を開けて驚いた顔を見せる。

「おはよう、リゼット」
「レオン……ん?」

 唇を塞ぐと、甘い吐息が漏れる。
 やっと、ふたりきりで過ごす夜が来た。レオンもリゼットも、ゆっくりと愛を育んだ。
 翌日、よく寝てしまいセバスチャンに窘められるくらい、レオンはたくさん愛してくれた。

 数年後には、レオンにもリゼットにも似た子どもたちが湖のほとりを走り回った。子どもたちが物心つく頃には、新しい竜の伝承が、ミヨゾティースだけでなくフォルトデリアにも、根付いていた。

 ――ミヨゾティースの湖のほとりには、竜の伝承がある。竜になった女のために祈ると、あなたにも幸せが訪れる。


おしまい。
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