聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

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第24話 丘の上の小さな家と大きなもふもふ犬

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私たちは賑やかな街の中心地を散策した後、レイが久しぶりに、ちょっと寄りたいところがあるというので、私たちはそこまで歩いて向かうことにした。

町の外れにある、小さな学校や教会の前を通り抜けて、石造りの家々が並ぶ、のどかな農村に出た。
道も石畳から土に変わる。庭先にはヤギがいたり、にわとりの鳴き声も聞こえてくる。
先程の小さな教会や学校は、この辺りの人たちが通うのだと、レイが教えてくれた。
小さな石造りの家々が並ぶ様子は、TVの旅番組やアニメで見た中世ヨーロッパの田舎の風景っぽい。

絵本の世界みたいって思ったけど、そもそもこの世界が人間の空想から生まれた世界なのだから、それも当然と言えばそうなのかな……。

村の家々の間を抜けて、ゆるやかな坂道を登っていく。
ちょっと寄りたいとレイは言ったけど、結構歩いてる……
通勤に最寄り駅まで徒歩15分の距離を日々歩くだけの私にすると、遠足くらいの距離だと思う。
交通手段が、馬車か馬か徒歩しかない世界って、やっぱり大変……

道端には小さなオレンジの花が、ところどころ咲いていて、小さな黄色い蝶々が、たわむれるように飛んでいる。
のどかだぁ~
時間を忘れてしまいそう。
派遣の仕事をしていた数日前の生活とのギャップを感じる。

緩やかな坂道の先、牧草地が広がる小高い丘の途中に、水車小屋のある石造りの家が見える。
某名作アニメの風景に似てるなぁ~
……なんて、呑気のんきに思っていたら。

「ウォンッ!!」

いきなり、犬の鳴き声がして。
水車小屋の前に大きな白いかたまりが見えたかと思うと、飛び跳ねてこちらへ向かって走ってきた。

わあぁ~!白いもふもふの大きな犬だ!
「やばっ!」
「ん?」

隣に並んで歩いていたレイが慌てて手にしていたパンの入った紙袋を、私に押し付けた。

「これ頼むっ」
「えぇ!?」
私は慌てて、それを受けとる。

それとほぼ同時に、駆け寄ってきた白い大きなもふもふ犬が、すっごく嬉しそうに尻尾を振りながら、勢いよくレイに飛びついた。というか、派手に体当たりした。

「うわあっ!」

レイはそのまま白い大きなもふもふ犬に、押し倒されるようにして、そのまま後ろへ倒れ込んだ。
わあ、クールなイケメン騎士団長が犬に押し倒されてる!
ペロペロ舐めまくられてる!

「わ、お前っ、元気だったか?」
「ウォンッ」
「って、ちょ、くすぐったいって。お前、やめろって」

うわあぁぁ~、レイってとても愛されてるね!

白いもふもふ犬にくちゃくちゃにされて、ようやく起き上がったときには、綺麗な銀髪もくしゃくしゃで、前髪がぴょんって跳ねていた。
プフッと笑いながら、跳ねた前髪を直して上げる。

「あ……すまない。んったく、スノウはいっつもこうなんだ」
「ウォンッ」
「スノウって言うんだ、可愛いね」
「ウォンッ」
返事をするように、スノウが吠えた。
大きくて真っ黒な、まあるいがキラキラしてる。
可愛すぎる~っ!

「おや、レイ!またスノウにやられたのかい?」
あっはっは…と豪快な笑いとともに、元気のよい声が小屋のほうから聞こえてきた。
「おばさん、久しぶり。元気だった?」
「ああ、お陰さまでね、元気だよ!あんたもまた少し、大きくなったねえ」
少し離れた家の前から、にこやかに大きな声を掛けてくる、年配のふくよかな女性。

頭に赤いスカーフをかぶり、長い茶色の髪を後ろで一つに束ねて、レモン色の服に白いエプロンをしている。
おひさま……そんなイメージがピッタリの女の人だ。

私たちが水車小屋の横に建つ、小さな石造りの家の前に到着すると、女性は腰に手をあて、レイの姿を見て再び大笑いした。
「相変わらず、くちゃくちゃにされたね」

レイはスノウに押し倒される時、土の道の上ではなく、脇の野原のほうへ、うまく倒れ込んでいたけれど、ベージュのシャツの胸元には、スノウの足跡がくっきりと押されていた。

「洗ってあげるから脱ぎなよ」
「ああ、そうしてもらおうかな」
と言って、レイは上からボタンを3つほど外すと、いきなりガバッと脱いだのだ。

「きゃあ!ちょっと、いきなり脱がないでください!」
私は、いきなりレイの眩しい白い肌を見てしまい、思わず叫んでしまった。
「え?あ、ごめん?」
なな、なんで疑問形!?

鈍感すぎる。私は目をそむけながらも、レイの鍛え抜かれた背中の筋肉を、見てしまった。

「あはは。確かにこの子が悪い。ほら、洗い終わるまで、うちの旦那のだけど、これ着ときな」
レイが借りた青いチェックのシャツを着てくれたので、ようやく私は目を覆っていた手をのけることが出来た。
いきなり女性の前で服脱ぐとか、貴族ではNGだと思いますけど。
私がそう思った疑問も、次のレイの言葉で解った。

「あ、悪い。つい、ここに来たら貴族になる前の感覚でさ」
「そ、そうなんですね。だ、大丈夫……ちょっと、びび、びっくりしただけで」
かなり刺激的だったけど……っ
「ここは、俺が生まれ育った家なんだ」
「え?」

「ところで、レイ、早く紹介してくれないのかい?可愛い恋人さんじゃないか」
あ、また間違えられた。
頬に熱が集まるのを感じて、うつむ

「はあ、マーガレットにも言われたけど。そんなんじゃないって。城の客人きゃくじんだよ」
「えー、そうなのかい」
少し残念そうに彼女が言った。

「ミツキだ」
「はじめまして、ミツキと言います」
「この女性ひとはモーリィ。俺が生まれた時から、母さんと二人、よく世話になったんだ。今は頼んで、おばさん家のおじいさんに、この家を使ってもらってる」

そっか……
ここは、レイとお母さんの思い出が、たくさんまった家なんだ。

「せっかくレイが、女の子を連れてきたと思ったんだけど」
モーリィが笑いを含んでそう言うと、右手を差し出した。
私は彼女と握手をしながら
「いえいえ、私なんて。レイにはもっと素敵な女の子がお似合いですよ」
と答えた。

私とレイは、先ほどマーガレットの店で買ってきたパンを、遅めの昼ご飯に食べた。
部屋の真ん中に置かれた、使い古した木のテーブル。すぐそばにキッチンがあって、隣の小さな部屋に、ベッドがあるだけの素朴そぼくな家。
でも、ぬくもりを感じる。

ここで、幼いレイと貴族のお姫様だったお母さん、二人だけで暮らしてたんだ。

目の前でモグモグとパンを美味しそうに食べるレイは、お城や屋敷で見るレイとは違って見える。今はのびのびとして、まだやっぱり10代の男の子なんだって思える。

いつもは綺麗な顔のせいもあって?仏頂面て言われてるけど、彼はお母さんから一人離れて貴族になって、ランドルフ家の当主で、騎士団長であるがゆえ、大人であろうとしてるのかな、いつもの彼のほうが緊張しているように思えた。
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