聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

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第32話 彼の初恋の話

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ちょうど午後のお茶の時間になる頃、私は執務室に呼ばれた。

ちなみに今日のお昼のスープはというと、赤、青、白、オレンジ、ピンクの数種類の豆が入ったスープだった。
ふだん私たちが目にする豆スープよりカラフルな印象だけど、味は普通に豆の味で美味しかった。一応、お昼ご飯の報告。

私が執務室に入ると、昼間だけど分厚いカーテンが閉められており、蝋燭ろうそくの明かりが灯る、そこだけ夜のような部屋の中で、すでにアレクシス様、宰相のルーセル、そしてレイの三人が揃っていた。

そんな中で、私は今、紅茶の入ったティーカップを手に、部屋の中央に配置されている濃い青のソファに縮こまるように腰掛けている。
ああ……、場違い過ぎる

イケメン三人が話をしながら、なんとなしにこちらを見ている。
お、お願いだから注目しないで。
緊張して、飲み込んだ紅茶が喉に引っかかりそうになる。
なんで、私はここでお茶しているのかなぁ~

今から15分ほど前にさかのぼる。

「お茶をお持ちしました」
私が紅茶を持ってくるようにと言われて、ワゴンにティーセットを乗せて執務室にやってくると、部屋の正面に置かれた大きな執務机にアレクシス様が座り、その脇にルーセルが控えて立ち、机の前にレイが立ち、何か二人に報告をしているところだった。

ここへ来て数日。
お茶を淹れるのも少し慣れて、スムーズに用意できるようになってきた。
お話の邪魔にならないように、部屋の真ん中に置かれたソファの前のテーブルに3つ、静かに置いていく。

「ああ、お前の分も用意しろ」
「へ?」

驚いて、カップをテーブルに置いた中腰のまま、アレクシス様を見る。
やっぱり今日も推しに似て、は最高に麗しい。

「お前もそこに座って、茶でもしていけ」

机に肘ついて組んだ両手の甲の上に顎を乗せたアレクシス様が、気だるげに濃いブルーのソファを指だけでヒョイヒョイと指し示す。

な、なんですって!?
いやぁ~っ、無理無理無理。


……そして、今に至る。

きっと美味しいはずの紅茶の味もわからず流し込んでいる。
私は再び両手で白いカップを持ち、口へとおずおずと運んだ。
カップを運びながら、レイたちの話が耳に入ってくる。
どこかの森で魔獣が出たらしく、どうやら討伐に行った第二騎士団が苦戦しているというような内容だった。

そんな強い魔獣が出るんだ。ちょっと怖いかも。

「わかった。そうしよう」
アレクシス様の一言で、その話は終わったようだった。

「さあ、そうと決まれば、せっかく淹れてくれたお茶が冷めてしまう前にティータイムでもしようか」
ルーセルがニコニコと二人をうながす。
彼の言葉に、レイがちらりとこちらを見たけれど、私は内心ドキドキしながら、なんでもないように装って紅茶に目を落とし、また一口飲んだ。

私の目の前の一人掛けの椅子にアレクシス様がどかっと座り、高々と足を組む。

態度がほんとにデカいけど、金髪碧眼の綺麗な顔だけによく似合う。
推しの騎士様とは中身はまったく正反対のようだけれども……
騎士様が何かのとかとかで、というのも面白いかもしれない。今度、書いてみようかな、フフフ……

「おい、顔ニヤけてるぞ」

指摘しないでくださいっ、バカ王子!!

「ニ、ニヤけてないですっ!」

私たちがそんなやりとりをしていると、レイが私の隣に座った。
なんか嬉しいかも……

彼は深く腰掛けると、ティーカップを手に背もたれに背を預け、気だるげに足を組んだ。
優雅にカップを口へ運ぶのを、ちらりと視界の端で盗み見する。
なんか、ちょっと疲れてるように見える。……大丈夫かな?

彼は庶民の中で育ったって、先日一緒に街へ出掛けた時に話してくれたけど。
彼の仕草は優雅で生まれながらの貴族にしか見えない。
それって、屋敷に来てずいぶん訓練したからなのか、彼の生まれ持った血なのか、……だろうか。
街でパン屋の女将さんと元気に話したり、屋根に登って遠い海をみる事が好きだと話す、かつて元気でやんちゃだった少年と結びつかない。

「おい、お前」
真正面から急にアレクシス様に呼びかけられた。
「お前じゃないよ、ミツキだよ。アレク」
カップソーサーを手に優雅に紅茶を飲みつつ、ルーセルが注意をする。

「今晩は城に泊まれ」
「え?」
驚いて戸惑う私に、ルーセルが説明してくれる。
「レイは第二部隊の救援に行かなければならなくなったんだ」
「え?」
隣で優雅に紅茶を飲むレイの横顔を見る。
第二騎士団が苦戦しているっていう魔獣だよね!?
「ああ、レイは強いから大丈夫だよ」
「お前が言うなよ。人ごとだと思って」
「人ごとだしね。だから、今夜は彼の屋敷ではなく、ここに泊まってくれるかな。俺も今夜は城に居るから」
「……そう、なんですね」

彼と一緒にいられない、今夜はランドルフ家に帰れないのかと思うと、なんだか残念で、少し心細く不安になってしまった。
でも、前にレイが城に当直して、私だけ帰ったことあったのに。今夜はなんで?

「ミツキに妖精が視えることが分かったから。一応、この城にいるほうが安全かと思う。それに、ルーセルやアレクもいるから」
私の不安が顔に出てしまったのか、レイが私を見て説明してくれた。
「……わかりました」

彼は紅茶をクイッと飲むと、静かにテーブルにカップを置いて立ち上がった。
「さ、俺はもう行くよ」
そう言って、外し立てかけてあった剣を腰につける。カチャリと鳴った音が、不安で寂しげに聞こえた。

「あのっ、朝ご飯!」
思わず、私はそう呼び止めていた。

「朝ごはん?」
レイも振り返ってきょとん、とした顔をしている。

「はい。今朝は朝ご飯食べましたか?」
「?……いや、?」

食べてないんだ……

「明日はちゃんと食べてくださいね」
これから魔獣を討伐とうばつへ行く人に、何言ってるんだろ、私。もっと他に掛ける言葉はあるだろうに……

「あの、心配してました、マリアンヌさんが」
「……マリィ?」
親しげな声音こわね愛称あいしょう呼び……ズンって心に響くなぁ。

「おお!いいねえ、心配してくれる女性がいるなんて」
「ルーセル」

冷やかすようなルーセルに、いつもの如くって感じがした。

「ああ、心配する者がいるということは有り難いことだ。喜んで心配されておけ」
アレクシス様まで、そんなことを言うなんて意外だった。

「……んったく。マリィはいつまでたっても子供扱いだ」
溜息混じりにレイは言うけれど、全然嫌そうではない。

「わかったよ」
そう言って斜めに私を見た彼のは優しげで、なんか胸が締め付けられるように感じたのは、気のせいだと思いたかった。

討伐という任務はどのくらい危険なんだろうか……
彼の背中が扉の向こうに消えるまで、私は彼から目が離せなかった。

扉が閉まって、少し沈黙が流れる。
今なら、この二人に……いや、アレクシス様は無しかな。ルーセルに訊けるだろうか。

「あの、マリアンヌさんとレイって、恋人ですか?」
「?……そうだよ」

ルーセルがにっこり笑う。
予想はしていたけど、確証を突き付けられると、やっぱりショックかも。
私は一瞬言葉をなくす。
なんて答えたらいいのかわからなくて。

「あ……、えっと、やっぱりそうなんですね。お二人お似合いだし、仲がいいから、そうなのかなぁって思って……」

て笑って誤魔化すのが精一杯だった。ぎこちなかったかな……。

「はぁ~。ほんとのこと教えてやれ」
「あはは。なあんてね、だよ」
「は?」
溜息をついて、背もたれに持たれながら気だるげに紅茶を飲むアレクシス様の隣で、ルーセルはあっけらかんと笑ってウインクして言った。

「嘘?」
「そう言って、レイをからかったりしてるんだ」
「えっと……じゃあ、恋人っていうのは……」
「恋人じゃなくて、レイの初恋の女性ひとだよ」
「初恋……」
「マリアンヌは今も亡くなったランドルフ公爵を愛しているし、彼女にとってレイはなんだ」

「俺達がまだ学生の頃の話だよ。その後、城に入ってからもレイには浮いた話もないし、あいつもほかの姫君に言い寄られて面倒くさいから否定もしないし。おかげで“叶わぬ恋に身を焦がす孤高の騎士様”だとか、じつは王子に恋しているとか、いろいろ言われちゃってるけどね~っ!アハハ……」

ルーセルが楽しそうに言う

「そう、なんですか」
「お前、あとでレイにバレたら半殺しにされるぞ」

その隣でアレクシス様がすごく気だるげにボソッと言った。
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