2度目の人生は、公爵令嬢でした

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第一章

16話 私たちの暮らし方

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あれから、私たちはリリアとセシルさんと離れて暮らすことになった。
公爵家の敷地は広大で、森や川まである。その中にはさまざまな建物が点在しているが、今住んでいる本宅とは別に「別棟」という離れがある。そこにリリアとセシルさんが二人で移り住むことになったのだ。

「ごめんなさいね、クリスティ。」
セシルさんは別れを惜しむように私の手をそっと握った。
「別棟に住むことになっても、ここから近いから私はたまに遊びにきたいのだけれど、いいかしら?」

その言葉に、私の胸が温かくなった。セシルさんが自分の娘であるリリアとの関係が悪くなったからといって、私に冷たくなるような人ではないと分かっていても、どこか心配だったからだ。

「もちろん!」私は笑顔で答えた。「セシルさんと遊ぶの、すごく楽しいから、いつでも来てね!」

「ふふっ、そう言ってくれるなんて嬉しいわ。」
セシルさんは微笑みながら、静かに別棟へ向かっていった。その背中を見送りながら、私は安堵と少しの寂しさが入り混じったような気持ちを抱えていた。

けれど、どうしても胸の奥に残る罪悪感を拭えない。

(私のせいだ…。あのとき、リリアともっと穏やかに話していれば…。)

私は深い溜め息をついてしまった。

「はぁ…。」

「お前のせいではないよ、クリスティ。」
背後から聞こえた低い声に驚いて振り返ると、お父さまが立っていた。

「えっ!?」

「再婚して間もないのに別居になるとは、気に病んでいるのではないのか?」

「そ、それは…。」

「このことは、お前のせいではない。気づけなかった私の責任だ。」
お父さまの声は静かだが、どこか自分を責めているように聞こえた。

「そんなことありません!」私は思わず声を上げた。「今回のことを引き起こしたのは、私のせいです!私は大丈夫だと思っていたから…。もっと早くに相談していれば、こんなことにはならなかったのに!」

「さぁ、二人ともそのくらいにしたら?」

突然、穏やかな声が割って入った。

「!!」
私とお父さまは同時に声の主を見た。

「リュカ!(お兄さま!)」

「聞いてたのかい?(いらしたのですか?)」

リュカは笑みを浮かべながら肩をすくめた。
「声が廊下まで聞こえていたからな。大事そうな話をしていると思って、少し聞かせてもらったよ。」

お兄さまのおかげで、お父さまともしっかり話せた気がする。その後、私たちの暮らしは少しずつ落ち着きを取り戻していった。

リリアがこちらに顔を出すことはなく、日々は平和そのものだった。セシルさんがたまにお茶会を開いてくれるのが楽しみで、私も気持ちを新たに過ごしていた。

ただ、そんな穏やかな日常の中でも、貴族としての未来のことを考えると少し憂鬱になる。お兄さまは高位貴族の令息や令嬢が集まるお茶会に出席することが増えていた。男性にとっては政治について語り合ったり、将来の側近候補を見つけたりする場。そして女性にとっては家同士の繋がりを深めたり、婚約者を探したりする場だという。若いながらも、貴族の社会とは本当に面倒なものだと思う。

私はまだ三歳だからその場に参加する必要はないけれど、あと三年もすれば顔を出さなければならない。そのことを思うと、どうしても気が重くなるのだ。

そんなある日、お兄さまから衝撃的な話を聞いた。

「クリスティ。」
お兄さまはお茶を飲みながら、何でもないような調子で言った。
「父上とセシルさんは実は婚姻関係にはないんだよ。」

「えっ!?」
驚きすぎて声が裏返る。

「『パートナー制度』という形を取っているんだ。夫婦ではないけれど、互いを支え合うための関係らしい。」

お兄さまはさらりと言うけれど、私は衝撃で固まってしまった。

(セシルさんとお父さまが結婚していなかったなんて…。)

なぜこんなことを三歳の私に話すのか、お兄さまの意図は分からなかったけれど、なんとなく大人の世界の複雑さを垣間見た気がした。

それでも、少しずつだけれど、この家族の形が前よりも自然になってきたように思う。セシルさんが別棟に住むようになってから、私たちはそれぞれの距離感を見つけ始めたのかもしれない。

少し不思議で、でも心地よい日常が、また今日も続いていく。
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