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第二章 学園生活
50話 夜の見張りのドキドキは…
しおりを挟む夜の森はひっそりと静まり返っていた。焚火の炎がぱちぱちと音を立てながら揺れ、二人の影をゆらゆらと地面に映している。
クリスティアは弓を膝の上に置きながら、鋭い目つきで辺りを見渡していた。隣ではラインハルトが剣を膝に置き、同じように周囲を警戒している。
「……静かね。」
「そうだな。」
静寂の中で交わされる短い言葉。昼間の戦闘の興奮が冷め、ようやく落ち着ける時間だった。
「昼間の戦闘、君の弓の腕前は見事だったな。」
ラインハルトが不意にそう言うと、クリスティアは驚いたように彼を見た。
「急にどうしたの?」
「いや……率直な感想だ。」
クリスティアは少しだけ微笑んだ。戦闘中はいつも冷静なラインハルトが、こうして真正面から褒めてくるのは少し意外だった。
「ありがとう。でも、私はまだまだよ。あの時も、もっと早く判断できれば良かったのに……。」
「いや、十分だった。君の判断がなければ、被害はもっと出ていたかもしれない。」
「……そうかしら。」
クリスティアが小さく首をかしげると、ラインハルトはじっと彼女を見つめた。焚火の揺れる光が、クリスティアの顔に柔らかい陰影を作っている。
「それにしても……君は戦闘用の装いをしていても、その魅力を損なうことがないね。」
「えっ?」
クリスティアは目を瞬かせた。思いがけない言葉に、一瞬頭がついていかない。
「どういう意味?」
「そのままの意味だ。」
ラインハルトはそっけなく答えたが、彼の耳がわずかに赤くなっているのをクリスティアは見逃さなかった。
(……え? 今のって、褒められたってこと?)
クリスティアの頬が少し熱くなる。
「……意外ね。あなたがそんなことを言うなんて。」
「別に意外でも何でもない。事実を言ったまでだ。」
ラインハルトは目を逸らしながらそう言った。焚火の明かりが照らす彼の横顔には、どこか気まずそうな影が落ちている。
クリスティアはくすっと笑った。
「ありがとう、ラインハルト。でも、戦闘中にそんなこと考えていたの?」
「……戦闘中じゃない。今、改めて思っただけだ。」
「ふふ、そう。」
クリスティアが微笑んだその時――
バキッ
遠くの茂みで枝が折れる音がした。
瞬間、二人の表情が引き締まり、クリスティアは素早く弓を構え、ラインハルトも剣を抜いた。
「……魔物か。」
「……ええ。」
さっきまでの穏やかな空気が、一瞬で戦場のものに変わる。
「行こう。」
「ええ、いつでも。」
焚火の揺れる光の中、二人は並んで暗闇へと目を向けた――。
一方、リリアの班は、見張りの順番を決める段階から揉めていた。
「なんで俺がやらなきゃいけないんだよ。」
「昼間戦っただろ! お前がやれよ!」
「俺だって疲れてるんだよ! それならリリアがやれよ!」
「はぁ!? 私は魔法と回復を担当してるの! 回復役が体力を消耗してどうするのよ!」
リリアが怒ると、他のメンバーも不満を口にする。
「じゃあ、どうするんだよ。」
「交代制に決まってるでしょ。でも一番最初は……」
「押し付けるなよ。」
「誰もやらないならくじ引きでもする?」
そんなやり取りの末、渋々見張りが決まったが、気まずい空気が漂ったままだった。
そして深夜――
「ん……? 何か音がしたような……。」
見張りをしていた少年は、気のせいかと思い、そのまま気を抜いた。だが次の瞬間、ガサガサッ! と草むらが揺れた。
「!? 誰かいるのか!?」
テントの周囲に小型の魔物が数匹現れた。
「うわっ、まずい!」
慌てて仲間を起こすが、準備が遅れ、魔物が近づいてくる。
「ちょっと! もっと早く起こしなさいよ!」
リリアが怒鳴るが、魔物はもうすぐそこだ。
「くそっ、やるしかない!」
剣士が先陣を切って魔物に斬りかかるが、焦りから攻撃が甘い。魔物は素早くかわし、逆に反撃を受ける。
「何してんだよ!」
「お前が遅いんだろ!」
「私の回復を待たずに突っ込むからでしょ!」
「くそっ、もういい! 俺がやる!」
それぞれが好き勝手に攻撃し、かろうじて魔物を倒した。しかし、そこに連携は一切なかった。
「……はぁ、なんとか倒せたけど。」
「なんでこんなに手こずるんだよ。」
「お前のせいだろ!」
「はぁ!? 私のせいなわけないでしょ!」
「俺が言った通りに動いてればもっと早く倒せたんだよ!」
「指示が悪いんじゃないの!?」
険悪なムードが漂う中、リリアは拳を握りしめた。
(このままじゃ……ダメよ……)
悔しさが胸に広がる。クリスティアたちはきっと、もっとスムーズに戦っている。このままだと、私たちは――
夜はまだ長い。リリアの班には、険悪な空気と、焦燥感だけが残った。
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