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1 異世界へ
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しおりを挟むその日、少し大きな地震がきて僕は夜中に目を覚ました。地震も頻繁に起きているし、いつもなら一瞬目が覚めただけでまた目を閉じてすぐに眠っていたと思う。その日の地震はいつもと違う、上手く表現できないのだが少し変な感じがして少しだけ目を開けていた。結局は、やっと開いた目でスマホの画面を見て、地震速報の震度三と津波の心配はないという情報を確認した後、安心して眠ってしまったんだろう、その後のことはよく覚えていない。
こんなに家の近くをヘリコプターが飛ぶことはあっただろうか……。ヘリの飛ぶ音がウルサクて目覚ましが鳴る前に起きてしまった。欠伸をしながら癖の様にスマホでトレンドを確認する。
真っ先に頭に浮かんだのは、昨日そんな内容の深夜アニメはやっていただろうか?……だった。
トレンドの上位には『隕石』『隕石落下』『死者0人』『山消滅』等々、隕石落下の話題であふれ返っていた。(凄い人気だな、最近ラノベばかりでアニメはチェックしていなかったから見逃したか)と何の作品かもわかっていないのに、勝手に損をした気持ちになった。
起きてすぐ癖の様にTVのリモコンを触り、映った画面に釘付けになる。夜中の地震は隕石の落下が原因だったという、まだ夢の中にいるんじゃないかとさえ思えてしまうほど、衝撃的な内容をアナウンサーが読み上げる。
(隕石が落ちるとどうなるんだっけ?)某ロボットアニメの隕石落としの知識しか無い僕は、大きな隕石が落ちたりしたら数キロ範囲が吹き飛び、巨大なクレーターが出来るんじゃないか(あと……隕石落としの後には冬が来るとも言っていたか?)こんな時までアニメの中に答えを求める自分がおかしく思えた。
そして、隕石が落ちて死者0人なんてあり得るのかと、疑問が次々と湧き、それなら調べればいいとPCの電源を入れる。(インターネットは問題無く繋がる)
隕石の落下について分かったこと、山が吹きとんで巨大な穴が開いたにも関わらず周囲に大きな被害はなく、トレンドにあった通り奇跡的に死者0という情報だ。
もちろん、そんな情報を疑問視する声も多く、山が消えてしまうくらいの隕石が落ちたのにも関わらず死者がいないなんてあり得ないと、ネットでは政府の隠ぺいを疑う声で埋め尽くされていた。
一気に興奮して情報を漁ったためなのか、待っていればそのうちTVやネットで詳しいことが分かるかと、急に興味を失ったように朝食は何を食べようかと考えはじめた。PCの電源を落とそうとした。けれど……僕はネットに書かれたその文字に気付き、PCの電源を落とすのを踏みとどまる。『隕石が落ちて開いた穴は、異世界に繋がっているらしい』そんな言葉が、至るところに書き込まれていたのだ。これを見た大半の人はバカバカしい内容だと読み飛ばしたのかもしれない。仕事を辞めたばかりで将来が不安だったのだろう、その時の僕はどこかおかしかった。
そして、その文字を躊躇わずクリックする。
【後で招待状を、お送りします】そんな文字が一瞬表示された気がしたんだけど、気のせいだったんだろうか?『隕石が落ちて開いた穴は、異世界に繋がっているらしい』溢れていたその言葉すらも、キレイさっぱり画面から消えていた。
文字を打ち込んで検索するが、出て来たのは小説の投稿サイトのページばかり、ここ数日異世界モノのラノベばかり読み漁っていたせいで、幻覚でも見たんだろうか。
しかし、おかしなコトは続く。
隕石が落ちた山の場所が、僕の暮らしている町内の歩いて行ける場所だったのだ。名前は知らないけど毎日見慣れた小さな山。
(隕石が落ちて山が消えたのに震度三っておかしいだろう。道路からも山は見えたよな)パジャマ代わりに使っている灰色のスウェットの上下を着替えずに、そのまま外に飛び出した。
その光景に目を瞠る。僕が暮らすアパートの周りは自衛隊の車両だらけで、頭上には自衛隊のヘリがワンサカ飛び回っている。(これだけ近くを飛んでいるんだ。目が覚めるはずだ)道路に出て山のあった方向を見た。本当に山が消えていた。こんなに近くの山が吹き飛ぶくらいの大きな隕石が落ちて、ナゼこのアパートは無傷なんだ?呆然とする僕に気が付いたのだろう、近くにいた自衛官が近寄ってきた。
「このアパートの方ですか?今日はすみませんが部屋にいていただけないでしょうか?もし、会社に連絡しにくい時には我々が代わりにお話も出来ますので」
「あ、自分で出来ます」
思わず嘘をついてしまった。(会社は辞めたばかりなのに、こんな時にまで、ナゼ見栄を張ってしまったんだろう)
部屋に戻り鍵を閉めると、閉じていたノートパソコンを開き画面を見た。
【あなたへの招待状が届いています】一瞬で消えた。……また幻覚かな。
インターネットには、僕の背中を押してくれるような書き込みがあった。『隕石が落ちたなら近くの町が吹き飛んでもオカシクナイし、あんな小さな地震だけで終わるはずがない。異世界への穴が開いた説が有力なんじゃないのか』という、都合の良い内容の書き込みがそこにはあった。
(行くだけ行ってみるか)僕は決意する。何かを決心した人間の行動力、勢いというものは馬鹿に出来ないものだ。両親を早くに失くしたこともあり、親戚ともあまり会っていないし、友人もいない。こんな寂しい人間関係だからこそ、こんなにもあっさりと踏ん切りが付いたのかもしれない。
部屋には物も少なかったし、心残りは人に見られたくない本やゲームの処分だけど、自衛隊の人が立っているから買取店には持っていけない。せめてPCのハードディスクだけは壊そうと、後ろ髪を引かれながら専用ドライバーで分解してCDに似た記憶媒体を取り出しDIY用のドリルで穴だらけにした。(異世界に行けなかったら絶対泣くな)
不思議と外で見張っている自衛隊員も夜になればいなくなる様な気がした。リュックには買いだめしておいたスティック型の栄養保持食品をこれでもかってくらい詰め込んで、昼寝をしながら夜を待つ。
日が落ちると、朝晩で気温差があったワケでもないのに不思議と町は異常な濃い霧に包まれた。お気に入りの灰色のパーカーと黒のスキニージーンズを着て外に出る。部屋にポツリと置かれたテーブルには『異世界に行ってきます。悲しませてしまったら本当にすみません』とA四のコピー用紙に謝罪の言葉だけを残した。
人は自分のことを愛してくれる存在に、気が付けずにいることもあると聞いたことがあったからだ。
外に出ると、停電が起きたワケでもないのに街灯は全て消え、あれだけ止まっていた自衛隊車両すらもいなくなっていた。(隕石が落ちた翌日に即撤収はありえない。何かが起きているんだ)
次の瞬間、街灯だけじゃなく家の明かりも一斉に消える。こんなに真っ暗なこの町を見るのは初めてだ。
不思議と不安な気持ちはない、僕は真っすぐ山があった場所へと歩きはじめた。
そこからの道のりは、僕にとって都合が良過ぎるほど静かで、人とすれ違うことも無かった。真っ暗な道を歩いているはずなのに怖さは全くなく、気が付いた時には、隕石の落下で消えた山の前に到着していた。
月明かりが照らす目の前の地面には、直径何キロあるんだってくらい大きな底の見えない穴がぽっかり口を開けていた。穴を目の前にしてはじめて怖さを感じた。ここに飛び込むことは自殺をする様なものだと、理性がブレーキをかける。
(ネットで、異世界に憧れて飛び降りて死んだアホな奴って晒されちゃうかもしれないな)僕が穴の前で跳び込めずに躊躇っていると、似たようなことを考える人間は他にもいる様で、濃い霧でよくは見えなかったけど、僕の横を勢いよく走り抜けてそのまま穴の中に飛び込んでいく姿が見えた。
人が地面に激突した音を聞こうと僕は思わず聞き耳を立てた。穴の深さを知りたかったのだ。
すぐ横に、同じ様に穴を覗き込み、聞き耳を立てる人影が見えた。(みんな考えることは一緒だな……)
これだけ多くの異世界アニメや漫画、ラノベといった作品が出回っている現在。同じ様なことを考える人は意外に多いのかもしれない。その後も聞き耳を立て続けたが、聞こえるのは穴に飛び込む人の息遣いや風を切る音ばかりで、悲鳴や地面に激突する音は一切聞こえてこなかった。
少しだけ人生を振り返った。仕事を辞めて有休消化をしつつ毎日ラノベを読む生活を繰り返す自分の姿を、僕に生きる価値はあるんだろうか?そんな卑屈な気持ちが背中を押してくれたんだろう。
僕は深い穴の中に飛び込んでいた。
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