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1 異世界へ
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しおりを挟む僕の視線に気が付いたゲハルドが叫んだ。
「おい坊主、俺を殺せば。テメーはテルトリアス家も敵に回すことになるんだぞ!早くこいつを下がらせやがれ」
僕の感情は止まっている……。それが原因なのかゲハルドが何を言いたいのかサッパリ分からない。命乞いをしているのか?敵になるなら、力をつけてテルトリアスとかいう貴族も全て潰してしまえばいいじゃないか。答えは簡単なのに……。(馬鹿っているんだな)
「それならテルトリアスとかいう貴族も潰すだけだ。殺れペルギアルス!」
誰かが〝貴族に宣戦布告しやがった、正気なのか……〟と呟くのが聞こえた。正気かどうかは分からない、それでもこんなやり方で、人の持ち物を奪おうとする人間の仲間が良い奴だとは思えない。テルトリアスとかいうのはきっと、敵だ。
決着は一瞬でついた。
ペルギアルス自身の怒りなのか、単に僕の命令に従って動いたのかは分からない。ゲハルドは四肢を切断された後、首を刎ねられて死んだ。
あまりにも惨い殺し方だったんだろう。周囲の人たちは皆、地面に転がる冒険者たちの死体から目を背けた。
自分を殺しに来た相手を返り討ちにする。この世界では当たり前のことなんじゃないのか?
ペルギアルスの強さは常軌を逸していた。その光景に腰を抜かす人もいた。逃げ出す人もいた。泣き出す人もいた。気を失う人も……。
ようやく終わったんだと、僕は血まみれの地面に座り込んだ。ホッとしたのもつかの間、少しして男が一人近付いて来るのが分かった。ペルギアルスがいるのに大したものだ。
「僕に敵意を持たなければ、ペルギアルスは攻撃はしませんよ」
僕の一言で男の険しい表情が、少し楽になったように見えた。
「この騎士は、やはり黒剣のペルギアルス殿なのですね」
僕は肯定を示すように、首を縦に振った。
男から五メートル程後ろに、青い顔をしたリデリアさんが立っていた。
「はじめましてオディール君、私はこのパルグスの町の冒険者ギルドのマスターロッデスだ。少し話をしたいんだが時間を貰えるだろうか」
ロッデスさんの第一印象は、冒険者というよりやり手の商人の肩書が似合いそうな腹黒紳士。あっちで贔屓にしていた立ち飲み屋のマスターが、同じ系統の顔だった気がする。あくまで見た目の印象だけどね。
それにしても、僕と面識があるって理由だけでリデリアさんが選ばれてしまったんだろう。気の毒なことをしてしまったな。
「かまいませんよ」
【感情停止の効果が切れました】
人を殺したことへの罪悪感が一気に押し寄せてきた。今は、それを顔に出さない様に必死に耐える。
「リデリア、あれを頼む」
リデリアさんが震えながら前に出た。手には不思議な意匠が刻まれた箱を抱えている。
「これは武器ではない安心してくれ、我々の会話が外に漏れない様にするための魔道具だ」
リデリアさんが箱を開けると、僕ら三人を光の幕が包み込んだ。便利な道具だ。本当に周りの音が聞こえなくなった。
「今回は、冒険者ギルド内で一方的に剣を抜いた者を制止できずすまなかった。パルグスの町の冒険者を代表して謝罪したい」
ロッデスさんは深々と頭を下げる。リデリアさんも一緒に頭を下げていた。
「気にしないでください。これは僕が招いたことの様ですし、まさか聖王国ルーデスプリア―ズの神官戦士の遺品を手に入れたことが筒抜けになっているとは思いませんでした」
これだけで、僕が何を知りたいか理解してくれた様だ。
「聖王国ルーデスプリア―ズは、神官戦士と聖騎士が戦場で行方不明になっても彼らが天に召されたのか、未だに地を彷徨い続けているのか分かるそうなんです。今回はその話が漏れたことで、誰かが竜の墓場で消息を断った神官戦士たちの遺品を手に入れたのかもしれないと、噂が広まってしまったのかもしれませんね」
リデリアさんは申し訳なさそうに言った。
「そんなことまで調べられる魔道具があるんですか?」
「これも聞いた話なのだが、神官戦士と聖騎士は任命された段階で不思議な石を呑み込むんだそうだ。王城には石を呑み込んだ者の名前が刻まれた石碑があり、石と名前は常に繋がっていて名前の光の色で状態を知ることが出来るらしい。消息を断ってからなんの変化も無かった九人の神官戦士の名の光が急に変わったものだから大騒ぎして、結果、外部に漏れてしまったんだろうな」
ギルドマスターというだけあってロッデスさんは色々知ってそうだな。
「ありがとうございます」
今度はロッデスさんが、先に口を開いた。
「オディール君、君は至急この町を離れた方がいい」
「テルトリアス家という貴族に命を狙われてしまうからですか」
僕の言葉にロッデスさんは頷いた。
「テルトリアス家もだが貴族に恩を売りたい。名を売りたいと思う者はいくらでもいるものだ。ある程度の情報を掴んだ時点で君の情報を彼らに送ったと考えるのが普通だろう。それなら一刻も早くこの町を出た方が良い」
彼の表情に嘘はないと思う。
「僕が逃げて、町の人は、僕が関わった人に迷惑がかかることはないんでしょうか?」
「それは、ないと約束しよう。この町は別の貴族の領地だからね。そのお方は領民を大切にされるお方だ。心配は無用だよ」
即答だった。
「もう一ついいですか?逃げるならどこがいいと思いますか」
「国外がいいだろう。貴族といえど国外では国内ほど自由には出来ないからな」
異世界ファンタジーに限らず、地球の歴史の中でも貴族が厄介なのは常識だ。恐らく『獅子の牙』を殺したことで僕の首には賞金がかかるのかもしれない。今回も彼らが『アイテムボックス』の中のモノを欲せずに初めから僕を殺す気で来ていたなら、僕はここにはいなかっただろう。
ペルギアルスが強かっただけで、僕の力はEランクの冒険者でしかないのだから。
ゲハルドたちの死体は、首に掛けたプレートだけを渡し僕が処分することになった。表向きは〝アタマに来ているので魔物の餌にします。〟と言ってみせたが、本音は彼らの死体から模倣の魔物を産み出したかった。
貴族を敵にしてしまった今、僕には強い兵隊が一人でも多く必要だ。Bランク以上の冒険者で構成された『獅子の牙』のメンバーは十分戦力として期待出来るはずだ。模倣の魔物なら前世がどんなにクズだろうが問題ないだろうし。
『アイテムボックス』に入れるために、ペルギアルスと一緒に彼らの死体を拾い、それぞれを大きな布袋に詰める。それを見た町の人たちの表情はみな同様に、化け物を見るかのような顔に見えた。
『窮地の中の小さな奇跡』で呼び出された模倣の魔物は、僕への敵意が周囲から消えればいなくなるはずなのだが、まだここにいるってことはそういうことなんだろうな。
ロッデスさんからは、お詫びとしてMP回復ポーションを渡された。これで残り一体の神官戦士を呼んで僕の傷を回復できる。町を出て森に入るころにはペルギアルスは消えていた。
当分『竜の墓場』に籠り息を潜めるつもりだ。その後は、聖王国ルーデスプリア―ズを目指そうと思う。
最強と言われた二代前の聖騎士が命を落としたと言われる湖があるらしい。テルトリアス家と戦うために、僕は死んだ英雄たちを探して模倣の魔物にするつもりだ。
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普通の異世界転生物なのに続きが気になる
ぼっちも気になってるけどコッチも頑張ってください
ありがとうございます。
ぼっちは書籍の内容に合わせて話を全て書き直しているので、量も多く更新が止まっています。
ガンバリマス。