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1 異世界へ
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しおりを挟む「ザイザリス、手加減した方が良いぞ。そいつまだLV一七でしかもクラス無だ」
僕に鑑定を使った、盗賊が目の前に鉄球をぶら下げる大柄な戦士に声を掛ける。蹴られた腹が痛い。何とか逃げないと。
僕のMPを考えると切れる最大の手札は、模倣の勇敢な神官戦士の兵霊四体と模倣の重戦士の兵霊一体か。
「神官戦士、重戦士出てこい」
苦痛で出ない声を絞り出す。倒せなくても逃げる時間は稼げるはずだ。
五つの球体が浮かび。そこから四体の白いローブに身を包み、顔を白い布で覆った神官戦士と、一体の全身甲冑を着た、大きな盾と両刃の剣を持った大男が姿を見せる。
「なんだありゃ、アンデットか?あの坊主ネクロマンサーか?」
「リーダーあれは少し違いますぞ、四匹とも善なる気に満ちおります。神官戦士たちを弔ったことで主として認められ善なる霊を従えたのでしょう。恐らく残りの一匹はあの神官戦士たちの従者かと」
ゲハルドの横にいた司祭風の男が見当違いの推測を語る。あんな悪人と一緒に行動する聖職者も神の奇跡を使えるのかと、この世界の神に文句を言いたい気持ちになる。地球の歴史にも権力者に尻尾を振り、金と女を食い物にする聖職者もいたが。神の力が直接揮える世界なら、もう少し取り締まりをしっかりとしてほしい。
ザイザリス以外にも、二人が前に出た。二人のうち一人は、あの司祭風の男だった。神官戦士だったのかメイスを手にしている。重戦士の前にはもう一人の戦士が立った。(今のうちに逃げないと、後ろを向きながら八面ダイスを振った……三)
【五里霧中の強化……防御力上昇】
何とか立ち上がり走ろうとした。
全身に痛みが走る。五体の模倣の魔物は硝子の様に粉々に砕け散った。まだ数秒なのに。
「あーあ、武器は落とさねえのかよ、ケチな魔物だな」
「竜の墓場に向かった神官戦士団の隊員はBランク冒険者並みと聞いていたが、これではC上位がいいところじゃな」
盗賊の男が僕のローブを掴み、後ろに投げた。
「安心しろ貰うものを貰うまでは殺しはしない。痛めつけはするがな」
ゲハルドの横に立つ女が魔法を唱えるのが見えた。小さな火の玉が僕の前に飛んでくる。火の玉が当たったと思った次の瞬間、火の玉は火は柱になり僕の全身を焼いた。僕以外の悲鳴が聞こえた。この状況を見つめる野次馬のモノだろう。
顔が焼けたのか声が出ない。辛うじて失明は免れた様だ。
ルディ―レから『剣術』の代わりに貰ったオリジナルスキル『感情停止』、このスキルは一定時間感情の動きを止め、最も効率的な答えを掴むことが出来ればと、願い手に入れたスキルだ。
僕たち日本という安全な国で育った人間は、どんなに目の前の人間が悪人だろうと、その首を刎ねるのに躊躇してしまうはずだ。恐らくこの世界ではその躊躇によって、自分の命を失うことになる。
その間違いを、選ばないために考えたスキルなんだ。
【感情停止を発動】
痛みが少しだけやわらいだ気がした。
【窮地の中の小さな奇跡の第一発動条件を満たしました。使用しますか】
迷わず〝ハイ〟と応える。
『窮地の中の小さな奇跡』これは僕が提案して手にした『死者の模倣』の追加スキルだ。スキルタイプは、ゲームでよくあるHPやMPが一定数失われた時に発動するリスク発動型スキル。HPが一〇%を切ると一〇秒間無敵になるとか、死に至る攻撃を五〇%の確率で無効にするとか、リスク発動型スキルはゲームの中では結構多い。
現実でこんな痛みを伴うスキルは、出来れば使いたくなかった。このスキルはHPが二割を切った際にMPを払わずに一体好きな模倣の魔物を呼び出せる特殊スキル。模倣の亡国の騎士団長黒剣のペルギアルスの聖霊も例外ではない。
【第二条件を満たすために挑戦が必要です】
僕は、火傷で痛む手を動かしサイコロを振った。このスキルのもう一つの条件。自分のHPが〇になる前にサイコロで奇数の目を出す必要がある。サイコロは何度でも振り直しが出来る。
その姿が、ゲハルドにはおかしく見えたんだろう。
「おい、あのガキ見てみろ。全身焼かれて狂いやがった。サイコロを振ってやがる」
ゲハルドの下品な笑い声が聞こえた。
何回目のサイコロかも分からない。……三が出た。
【条件を満たしました。おめでとうございます】
「僕に敵対する者を、全員殺せ……確実に早く」
必死に口を動かした。声が出たのかすら分からない。
僕の前に立つ古びた鎧を纏った一体の騎士。
「また、出て来たぞ。しかも今度のはボロボロだ。コイツ……」
戦士の男は、言葉の途中で声を出せなくなってしまった。胴から首が離れてしまったからだ。男の首が地面に転がり、少し間を置いて体も倒れた。
古びた鎧の騎士の剣の動きは速く、誰しもがその動きを見ることが出来なかった。
次は司祭の男の体が縦に真っ二つに割れた。ザイザリスだけは辛うじて、騎士の一撃目を防いでみせたが、次の瞬間には鎧ごと両腕を斬られ、更に鎧ごと心臓を貫かれた。
残りはゲハルドと二人の女魔法使いと盗賊の男。
誰かが叫んだ。
「黒い剣だ。黒剣のペルギアルスだ」と……。
戦士は遠距離を得意とする魔法使いとは相性が悪い。これは戦闘の常識だ。
しかし、黒い剣を持つ剣の刃は黒い影の様に伸びると、そのまま横に一閃。ゲハルトだけは後ろに飛び避けたが、二人の女魔法使いと盗賊の男の体が真っ二つに上下に分かれる。
多くの人が悲鳴を上げた。嗚咽の音と、吐しゃ物の嫌な臭いが辺り一面に漂う。黒剣のペルギアルスによる一方的な虐殺。
ゲハルトの目は、黒い剣を持つ騎士を真っ直ぐに見つめていた。目を一瞬でも逸らしてしまえば、その瞬間に自分は殺されると悟ったのだろう。
僕の目の前に、袋が落ちているのが見えた。死んだ戦士が落とした物だ。緑色の液体が入った瓶が入っているのが見えた。
ポーションだ。何とかそれを拾い、瓶に付いたコルク栓を口で抜いて顔にかける。痛みが和らぐのが分かった。もう一本を火傷が酷い腕に、もう一本は頭から浴びた。
仕組みかは分からないけれど骨折などにも効果があるんだろう。体の痛みが徐々に引いていくのがわかる。上級冒険者が持っていたものだ。品質も良いものなんだろう。
僕は体を起こし、黒剣のペルギアルスとゲハルドを見た。
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