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1 異世界へ
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しおりを挟む「オディール、お前生きていたのか!」
パルグスの町に着き、門番の兵士たちは驚いた顔で同様に声を上げた。僕よりも明らかに体格が良い大人が寄ってたかって、肩や背中を叩いたり、ほっぺを引っ張ったり……アンデットじゃないかと疑っているんだろうか。
「生きてました……そんなに驚くようなことですか」
「当たり前だ。町を出てから何日経ったと思っているんだ。普通は死んでいる」
と、ワケが分からないまま怒鳴られてしまった。そして……兵士は急に小声になり僕の耳元に顔を寄せる。〝オディール、念のために言っておく。今この町にAランク冒険者が率いるパーティーが来ている。しかも、悪い噂でばかり有名な奴らだ。お前さんの黒髪は目立つ注意しろ〟
嫌な予感がした。
「お兄ちゃん、おかえり!」
『月見草の雫亭』に顔を出すと、ラピスちゃんが思いっきり走り腰を落とした僕の腕に飛び込んできた。
「ただいま。ラピスちゃん」
「生きていたのね、良かったわ」
心配してくれていたんだろう。メアリーさんはそう言いながら安堵の溜め息を漏らす。(良い人だな)昼前の中途半端な時間に来たせいか、僕以外に客の姿はない。(丁度良かった……)
〝お土産です〟と言いながら、『アイテムボックス』から小さ目に切り分けておいたレッドベアの肉を取り出した。小さくといっても二〇キロ近くはあるブロック肉。
メアリーさんも喜びながら受け取ってくれた。
「今日は、泊まっていくんでしょ」
「お兄ちゃん、お泊りする?」
ラピスちゃんの笑顔を見ると、思わず三泊でって、言いたくなる。
それでも……、ルディ―レの予言めいた言葉が引っ掛かっていた。今思うと、ルディ―レは僕にヒントをくれたのかもしれない。門で兵士に聞いた内容を話した。滅多にないことだからだろう、Aランク冒険者のことはすでに町中で噂になっていた様で、当然の様にメアリーさんの耳にも入っていた。
「確証はないんですが僕はこの髪色ですから、あまり良い噂を聞かないパーティーって話ですし、トラブルに巻き込まれそうな予感がするんですよね」
出来るだけ明るい顔で話した。
「もし僕がトラブルに巻き込まれた時は、メアリーさんは僕と関わりないって態度でいてほしいんです。単なるお客だと」
メアリーさんが、もう一度溜め息をついた。
「危ない時にはすぐ逃げなさい。私たちは大丈夫だから」
「お兄ちゃん……」
ラピスちゃんが僕のズボンをしっかりと掴む。かがみ小さい頭を優しく撫でた。
「ラピスちゃん、面倒なことが全部片付いたら、また泊まりにくるね」
次は、ポトルたちか。(何も起きなければいいんだけど、こういう時は最悪のことを考えて動かないと)
「いらっしゃい、あ……オディール久しぶり。ずっと戻って来ていないって聞いて、みんなも心配していたんだよ」
ディガスは父親の雑貨屋の手伝いで店に出ていた。
「ごめんごめん……古い装備を沢山拾ってね。買い取れるかどうか見てもらっていいかな?」
「オッケー、任せてよ」
店の奥のテーブルに、古い装備を詰め込んだ布の袋を積み上げる。
「大量だね!」
メアリーさんに話したのと同じように、自分がAランクの冒険者たちに絡まれる可能性を伝え。ポトル、リコ、ルーファの三人にも、万が一僕がトラブルに巻き込まれた場合は、僕とは何の関係もないって態度をとってくれるように伝えてほしいんだ。
ディガス自身、僕を見捨てる可能性を想像したんだろう、辛そうな表情を見せる。
「ディガスは、優しいな」
つい、自分の年を忘れディガスの頭も撫でる。
「わー二歳しか違わないのに、子供扱いしないでよー」
不満そうな顔をしたが、彼もAランク冒険者を止める術がないことを理解しているんだろう。最後には、渋々と首を縦に振ってくれた。
「まだ、彼らの目的が僕と決まったワケじゃないからね、その時には一緒に何か食べにいこう」
「うん……オディール無理はしないでね。君ともっと友達になりたいんだ」
ディガスとハグをした後に店を出た。直接話が出来なかったポトル、リコ、ルーファには、後で怒られちゃうかもしれないな。
(さー、どう動く)ディガスたち新人冒険者には、数日前に、Aランク冒険者が去るまでは、冒険者ギルドに近づかない様に連絡があったらしい。本来Aランク冒険者は警戒をする様な相手ではない。それだけ、今町に来ている冒険者たちが危険人物として認知されているということなんだろう。
パルグスの町は、本来高ランクの冒険者が立ち寄る町ではない。考えられるとしたら……僕と一緒にこの世界にやって来た誰かが、うっかり異世界人だと喋り、それが金になると判断した誰かが動いているのか?ルディ―レの話が無ければ、こんなことは妄想しなかっただろう。
僕が追われているのなら、そいつらの顔を見ておいた方がいい。顔を合わせれば、嫌でもAランク冒険者が町に来たことが、僕と関係あるのかどうかは確認出来る。
ギルドの内での、冒険者同士の決闘は原則禁止されているみたいだし、顔だけ見てすぐに町を出て『竜の墓場』に逃げ込めばなんとかなるよな。
冒険者ギルドの中に入ると、異様な気配のおかげで目的の冒険者はすぐに分かった。七人程の男女混合パーティー、冒険者ランクは上に行けば行くほど一つのランクの差が大きくなると言われている。そんなリディアさんの説明を聞き、へぇーそうなんだくらいにしか、その時は思わなかった。
(空気が重い)七人から立ち昇る気配だけで、彼らがとんでもない強さだということが分かる。
……足が前に踏み出せない。
【鑑定を使われています。……抵抗に失敗しました】頭の中に声が響いた。
「みーーつけた」
まったく気付かなかった。さっきまで酒を飲んでいた七人の一人がいつの間にか僕のすぐ横にいる。足音も全く聞こえなかった……盗賊、暗殺者か。体が震えて冷や汗が流れる。
「リーダーコイツだ。『鑑定』で確認した間違いねぇ。ほらよ!」
マントを剥がされた。真っ白いローブが冒険者ギルドの中であらわになる。
「キレイなもんだぜ」
僕のマントを剥ぎ取った男が、顔を歪ませながら笑う。(異世界人狩りじゃなく、装備が目的だったのか……なんで僕がこの装備を手に入れたことがわかったんだ。誰にも話していないに)
丁度その時、冒険者ギルドの入口が開いた。体を低くして一気に走り抜ける。(よし入口を抜けた)そう思った瞬間。背中に強い衝撃を感じ、そのまま前方に吹き飛ばされた。
地面に転がりながらも痛みを堪えて必死に立ち上がる。冒険者ギルドの入口を見た。鎖の付いた鉄球が落ちているのが見えた。『竜の墓場』で手に入れた鎖帷子とローブが無ければ、一撃で死んでいたかもしれない。
「そう、逃げるなって」
七人の冒険者がゾロゾロと外に出てくる。何かあったのかと野次馬たちも集まってくる。
「大したもんだな、本当に聖王国ルーデスプリア―ズの神官戦士団の遺品を持ち帰ってくるなんて、黒髪ってことは『アイテムボックス』持ちか、こりゃ装備した一式だけってワケでもねーな。……裏の情報網でよ、聖王国ルーデスプリア―ズの神官戦士たちの魂が解き放たれたって情報が回ってきてよ、上手くいけば苦労せずお宝が手に入るかと考えてこんな田舎にまで来てみたら大当たりだぜ」
恐らくリーダーの男だろう、戦士風の装備を身に着けた男が一人前に出た。
名前を名乗れば、僕が大人しく言うことを聞くと思ったんだろう。
「俺の名はゲハルド。このパルグスのあるシュリグアーニ王国第七位のA級冒険者だ。俺たち『獅子の牙』は、この国のトップパーティーのひとつ。俺以外のメンバーもみんなB級以上。お前の背中に鉄球を当てたザイザリスも俺と同じA級だ。死にたくなかったら大人しく神官戦士の装備品を全部渡しな」
ゲハルドは楽しそうに笑う。模倣の魔物にしたことで、神官戦士の装備は三人分しか残っていない(あいつらにそんなことを話しても、信じてもらえないだろうな)
火事場のくそ力ってやつか、やっと体の震えがおさまった。
「冒険者が手に入れた物を奪うことは、規則で禁じられているはずです」
なんとか体を起こし、ゲハルトの目を見て言葉を吐き出す。冒険者ギルドの中で武器を平気で使う相手にこんな理屈が通じるとは思わない。それでも……。
「ああそうだな、だがな坊主。俺の後ろにはテルトリアス家ていう、でっかい貴族様が付いていてよ。この程度のことならいくらでも揉み消せちまうんだぜー、羨ましいか?うらやましいかーーー!」
飛び出したザイザリスが僕の体を大きく蹴り上げた。何本骨が折れたんだと思えるくらいの嫌な音がした。数秒息が出来なくなった。
「ザイザリス殺すなよ、死んでしまうと『アイテムボックス』の中身が取り出せなくなる」
恐らくこの町の冒険者だろう、僕を助けようと動く影が見えた。
「おい、その坊主を助けてもいいが、俺たちに殺される覚悟もできてるんだろーなー、えーーー」
その一言で、冒険者たちの動きが止まる。パルグスの町にAランクの冒険者を止められる人間はいない。
ゲハルドの叫びが、僕には悪魔の声に思えた。ここは異世界、暴力と権力が支配する、強ければ殺人すら許される世界。
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