一つ目の世界では龍になったので、二つ目の世界では育成ファンタジーを楽しみます。

たゆ

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はじまり

神様と黄金龍5

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 空の上から用を足したら、は地上に落ちるまでどうなるんだろう。黄金龍の頭の上で、そんなバカげたことを真面目に考える。試してみたいという衝動にかられながらも、結局、倫理観を順守した。出来るだけ人気のない場所を探して地上に降りる。
 これだけ大きな生き物だ。人気が無いといっても完全に人の目から逃れるのは難しいだろう、陽が上がり太陽が顔を出すと、トイレ休憩で地上に降りる度に僕の周囲は大騒ぎになる。
 何も言わずに逃げるようにその場を後にしたが、神様に一言話しておいた方がいいかもしれない。
 騒然とする山あいの村から逃げるように飛び立ち、僕たちが人間と黄金龍の会合の地に到着したのは昼過ぎのことだ。

 眼下には大勢の人々がいた。所々に国旗だろうか?色とりどりの旗が並ぶ。ここに集まっているのは、国を束ねる王と、一握りの配下。神様は、一国につき千人まで供を連れて来ることを許したそうだ。この場に、この世界にある全ての国の代表者たちが集まっている。
 この地より遠く、移動が困難な国の代表者には、神様自身がその手を差し伸べた。

 空に浮かぶ巨大な黄金龍の登場に、この場にいた大勢の人間たちの口から、感嘆の言葉が漏れる。この場にいる人間たちのもっとも多く抱く感情が恐怖だ。
 千龍皇帝様は呟いた。〝人間とは、随分と我を恐れているのだな。コガネは特別か〟と……その横顔は、寂しそうにも見えた。
 特別……はじめて間近で見た黄金龍を前に恐怖で失禁した僕は、本当に特別なんだろうか。ちなみに!この空の旅では一度も漏らしていない。
 僕を乗せる黄金龍と千龍皇帝様は、人間たちから十分な距離をおいて地上に降りた。黄金龍が近くにいるだけで大半の人間は死んでしまうらしい。失禁と気絶で済んだ僕は、やはり特別なんだろうか。

「やっと来たか、待ちわびたぞ」

 僕らの前に神様が現れる。さらりと瞬間移動するあたり、流石はこの世界の創造神だ。

「神様おはようございます。黄金龍の背中凄く気持ち良かったですよ!生身で雲より高いところを飛ぶなんて、興奮しました」
「おはようって……なあコガネ、もう昼過ぎじゃぞ。まあよい、これからのことについて説明する。コガネのことは黄金龍と人との縁を繋いだ神の使者だと王たちには説明してある。王の中にはコガネを英雄視しているものも多いのじゃ。実際コガネが黄金山脈に通いはじめてから、黄金龍たちは山を降りなくなった。地震で家を失う者も、川の氾濫で泣く者も減っておる。英雄というのもあながち間違いではないのじゃよ」

 この世界で起こる大きな天災の多くは、黄金龍の行動に関係している。神様の話だと、僕がこの世界に来る前まで黄金龍たちは、割と頻繁に人里に降りていたみたいだ。用事や目的があって訪れたというよりは、退屈でふらっと立ち寄っただけなんだろう。荒く地面に降りれば地震が起きて山が崩れ、イライラが募りストレスを溜め込めば、雷雲を呼び大雨が降る。
 この世界で暮らす人間たちから見れば、黄金龍は、本当に厄介な存在だったんだろう。
 僕がこの世界に来たことでそれが止まった。単に僕という話し相手が出来たことで、黄金龍たちが退屈しなくなり山から下りなくなっただけだと思うのだが……それで誰かが救われたのであれば、僕としても嬉しい限りだ。
 今日、僕はただ椅子に座り、目の前に代わる代わるやって来る王様に対して微笑んでいればいいそうだ。司会進行は全て神様が行う。ここまで人と神様が身近な世界も珍しいんじゃないだろうか?
 僕は神様が出した椅子に座る。神様は、手品のように一瞬で椅子を出してみせたが、材料ひとつない状態から物を創るって物凄い奇跡なんだと思う。しかも、僕の体を測って作られたオーダーメイドの椅子のように、体にぴったり合っていた。座り心地がとてつもなく良い。この椅子、記念品に貰えないかな。

「これより皆に、神の使者コガネを紹介したい。この者こそ、あそこにいる黄金龍の王『千龍皇帝』に認められた唯一の人間じゃ」

 神様の言葉に続いて、一斉に拍手が巻き起こる。椅子に座る僕の前に、王様とその家臣と思しき人たちが代わる代わる挨拶に来た。〝コガネ様のお陰で、我々は穏やかな日々を送ることが出来ております。本当にありがとうございます〟表現は違えど、言っていることはみんな同じ。僕はそれに対して、椅子に座ったまま引き攣った笑いを浮かべるだけの借りてきた猫状態だ。
 王様なんて立場の人たちだ、身に纏うオーラが凄い。町で有名人を見かけたらこんな感じなのだろうか、現実逃避するように僕の意識は違う方向に向いていた。
 僕は、その後もひたすら愛想笑いを続けた。
 最後の王が、挨拶を終えて自分の位置に戻る。

「人間たちよ、何か聞きたいことはあるか」

 神様の声に一人の王が手を上げる。神様は手に持つ杖でその王を指した。

「神様に質問がございます。コガネ様は人間ということですが、人の寿命は長くても百年、コガネ様が万が一いなくなってしまった場合、黄金龍様と人間の均衡は、また崩れてしまうのでしょうか?」
「良い質問じゃ。コガネはワシが選んだ人間ではあるが神ではない。その寿命も限りあるものじゃ……コガネがいなくなれば黄金龍と人間、この二つの仲をとりもつ者はいなくなるだろう。黄金龍の前で意識を保つことが出来る人間は、本当に貴重なのだ。ワシもせっかくこの世界に創造した人間たちの国が亡びるのは見たくない。何か良い方法があればいいのだが」

 神様は大袈裟に首を捻る。僕には、芝居がかっているようにしか見えないのだが……その時千龍皇帝様が吠えた。そこにいた僕を除いたすべての人間が恐怖に足を竦ませる。当然の様に微動だにせず椅子に座っている僕には、羨望の眼差しが向けられた。

「驚かせてしまいすまんな、我は黄金龍の長『千龍皇帝』である。我から神と人間たちにひとつ提案がある。千龍皇帝、この名は黄金龍の長のみが持つことを許される称号である。この称号をコガネに譲るというのはどうだろう?コガネが千龍皇帝になれば、その体は不老不滅となり老いることも滅びることもなくなる。同じ人族が黄金龍の長ならば人間たちも安心出来るであろう」

 老いることも滅びることも無い。それがどれだけ権力者である王にとって魅力的な言葉か、一人の王が言った〝千龍皇帝様にお訊ねします。私には、千龍皇帝様の称号を得る資格はないのでしょうか〟その言葉を皮切りに、その場にいる多くの王たちが、千龍皇帝の後継者に立候補しようと手を上げる。
 千龍皇帝様は、そんな人間たちを見降ろして言った。

「資格の有無を知るのは簡単だ。護衛を付けず一人で我がもとに来て、この体に触れてみせよ、さすれば黄金龍の称号くれてやろう。証人は神、我が言葉に二言なし」

 一人……また一人、千龍皇帝様に向かって歩きはじめる。そして、一人……また一人と王たちは地面に倒れた。
 それを見た神様は口を開く。

「千龍皇帝に近付くだけで命を失うとは力無き者が多いのう。不老不滅という神に届く力を得るための挑戦じゃ、賭けるのが命なら安いもんじゃろう。安心せい、王が死んだ国の民には、己の力も知らずに目先の欲に憑りつかれた愚かな王じゃったと、ワシが責任を持って神託をくだそう」

 その言葉に多くの王が足を止めた。巨大な龍の前には、既に三十を超える人の亡骸が転がっている。十人以上の王様が、この数十秒で死んだのだ。倒れた王を助けようとして死んだ者も多い。

「コガネよ、すまんが死体を運んでやってくれ」

 神様が僕の前に出したのは、王様の死体を運ぶのには粗末な木製の人力荷車にぐるまだった。

「己が欲で死んだ王など王にあらず。運ぶのはこれで十分じゃ」

 僕は神様に言われたまま、死体を人力荷車に乗せて、遺体を待つ人々の元へと運んだ。遺体に縋り泣き出す人の顔を見るのが辛かった。
 しばらくして、最後の一人も挑戦を諦めた。

「最後はコガネじゃ、我の元に来るがいい」
「僕は普通の人間として死にたいのです。千龍皇帝様の後は継ぐことは望んでいません」
「ふむ……コガネよ、お前は後ろにある全ての人間を見捨てるのか」

 思わず後ろを振り返ると、そこには僕を縋るように見つめる沢山の人々がいた。結局僕は大勢の人と神様が見守る中、千龍皇帝の称号を引き継いだ。
 僕に称号を移した途端、千龍皇帝様は動かなくなった。肉体は死んだが、その魂は僕と共に未来永劫生き続けるという。

 この日から、約千年もの長い時間、僕は黄金山脈に籠ることになる。
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