一つ目の世界では龍になったので、二つ目の世界では育成ファンタジーを楽しみます。

たゆ

文字の大きさ
11 / 20
アーガルクルム

5 アリの顔をした双子

しおりを挟む
 はじめは、カチカチと顎を鳴らしている音にしか聞こえなかった。味の薄いスープを飲みながら、斜め前の席に座る、パンを口に運ぶ蟻の顔をした二人の協力者に意識を集中する。『異種族友好体質ハジメノイッポ』が機能したみたいだ、二人の言葉が急に分かるようになった。

「お姉ちゃん、どうして私たちはみんなからアリって呼ばれるの、私たちにはキチンと名前があるんだよ……」
「仕方がないの、私たちの声は誰にも届かないんだから」
「同じ人間なのに酷いよ……私にはリュカって名前があるんだ」

 これ以上話を聞きたくないと思ってしまったからなのかもしれない。二人の声は消え、またカチカチと顎を鳴らす音に戻っていた。

 一度ダンジョンに潜ったからだろう。次の日からは、ダンジョンの入口にある台帳の記入だけで、中に入る許可がもらえるようになった。狼に喰われながらレベルを上げる日々。
 僕が毎日のように狼の死体をダンジョンより持ち帰ったことで、ダンジョンの難易度を侮り挑戦する協力者が続出した。それに比例するように未帰還者の数も増え続けている。
 ダンジョンから戻ったら、台帳に書かれた自分の名前の上に横棒を引く。思わず台帳に書かれた協力者の名前を目で追った。ダンジョンに入って戻らない協力者の人数は十二人にまで増えていた。

「おっコガネじゃないか、今日も狼を三匹も仕留めたのか、他の協力者たちはボロボロになりながらパーティーでやっと一匹狼を持ち帰ればいいほうなのに、お前は凄いな。お前を侮りダンジョン攻略を甘く見るバカに爪の垢でも飲ませてやりたいぜ」
「ゼムノさんこんばんは、あと……なんかすみません」

 ゼムノさんは、ダンジョンの入り口近くにある魔物の解体工房で働く職員の一人だ。普段は町の肉屋で働き、年に一度、協力者の一斉召喚の儀の時期だけ、工房の手伝いをしている。毎日狼を持ち込んでいるせいで顔馴染みも増えた。

「俺の方こそ言い方が悪かったな、お前を責めているわけじゃないんだ。コガネには特別な技術があるのに、他の奴らはお前のレベルしか見ていない。レベル1に倒せる狼が、自分らに倒せないはずはないと意気込んで命を無駄にする。哀れなものさ」

 解体工房のみんなには、前世は狼狩りのプロだったと……話してあった。協力者のレベルに合わせてあるんだろう、ハルカゼダンジョンに生息する狼の強さはレベル二十の協力者より少し弱い程度。一対一なら協力者が負けることはないのだろうが、みんな前世で命がけの戦闘をしたことがないんだろう、痛みを感じれば大半の人は腰が引ける。それに狼たちはいつも数匹で群れを成しているため、大人数でパーティーを組まない限り、協力者たちの勝ち目は薄い。一匹で行動している狼を狙うのがコツですよ!と噂を流してみたのだが、効果はあまりなかったみたいだ。

「どうした、戻らない協力者の中に知り合いでもいたか……」

 僕が台帳を見ていたのが気になったんだろう。

「あの、ここにあるフランソワ・ケシエとリュカ・ケシエって、蟻の顔をした協力者ですか?」
「おお、その通りだ。蟲頭にしては素直な嬢ちゃんたちでな、まだ背も小さいからダンジョンには挑むなと止めたんだが……聞かなくてよ。人以外のモノから転生した協力者たちは、どうしても差別を受けちまうから、俺の言葉も信用できなかったんだろう」
「そうなんですか……彼女たちが、何時くらいにダンジョンに潜ったか分かりますか」
「陽が暮れる少し前だったと思うぞ、今日はもう遅いから様子見だけにしろって言ったんだがな。言葉は理解できるはずなんだが」
「ありがとうございます」
「おい、この時間だとダンジョンの中は真っ暗だ。それにダンジョンの中で他の協力者を探すのは無理だ。待つんだコガネ」

 僕はゼムノさんが止めるのを聞かずに、もう一度台帳に名前を書くと光の扉を潜った。

「初代様、出口をあの蟻の姉妹の近くに設定することは出来ますか」
(やってみよう)
「ありがとうございます」
(気にするな、我はコガネの称号なのだからな)

 光の扉を抜けた先は真っ暗だった。月も星もない完全な暗闇。このダンジョンに住む狼をはじめとした魔物が、暗視能力を持つかどうかがカギになりそうだ。その点、蟻は蟻の巣のような暗闇でも動けるイメージがある。人族となった彼女たちの感覚が蟻のままでいるかは不安だけど。
 初代様は、すぐに探索をはじめた。

(コガネ見つけたぞ二人とも無事だ。狼も近くにいるが二人を見つけられずウロウロしている。暗視能力はそれほど高いわけではないのかもしれん)
「無事でしたか、でも狼なら目が見えなくとも嗅覚で二人の位置が分かりそうなものですが」
(運が良かったのかもしれんな、あの者たちはまだ何も殺してはいない。人族に比べてあの者らの匂いは薄いのだ。血の匂いがしなければ狼共も位置が掴めんのだろう)

 狼の鼻ですら判別しにくい臭い。彼女たちは革鎧ではなく、布を厚く重ねた布製の鎧クロースアーマーを選んだのかもしれない。夜動きが鈍るなら狼狩りは、日中より夜間の方が効率がいいのかもしれない。僕には、どんなに暗くとも見ることが出来る龍眼がある。今の僕の虹彩は金色に輝いていることだろう、初代様の指し示す方角に向かって走った。
 途中出くわした狼の頭には、容赦なく手斧を振り下ろす。つい二日前の狩りでレベルも二十を越えた。暗闇で動きが鈍くなっている狼なら、一撃で倒す自信もある。
 槍や剣に比べて手斧は間合は狭いが、重みがある分、刃が多少欠けたとしても十分鈍器としても機能する。これほど狼退治に適した武器はないだろう。
 倒した狼はその場ですぐに箱舟世界へと移動した。

(もうすぐ着くぞ)

 見えた。大きな木の根元で身を寄せ合いながら震える蟻の顔をした二人の少女。僕は先に彼女たちの近くにいた三匹の狼を片付けた。予想以上に夜の狼たちの動きは鈍かった。短時間で六匹もの狼を倒せたのは初めてだ。

「怪我はありませんか?」

 僕の言葉に二人は、ただ頭を上下に激しく揺らす。僕の姿を見ても二人の怯えは止まらない。暗闇で目が光る人間を前にして、怖がるなと言う方が無理があるかもしれない。

「他の狼が来る前に森を出ましょう、立てますか」

 二人に向かって手を差し出したが、二人は手は取らずに抱き合いながら立ち上がった。
 怖がってはいるが、僕の言う事は聞いてくれるみたいだ。二人は何も言わずに僕の後をついて来る。彼女たちが着ていたのは、予想通り布製の鎧クロースアーマーだった。武器は逃げる途中で落としてしまったのか、何も持ってない。錆び臭い武器を落としたのも彼女たちにとっては幸運だったのかもしれない。
 森を出た途端安心したのか、二人は腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
 僕はリュックから水筒を取り出すと、木のコップに水を注ぎ渡す。二人は躊躇することなくコップを受け取り大慌てで飲んだ。よほど喉が渇いていたんだろう。

「少しは、落ち着きましたか」
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「どういたしまして」

 僕が笑顔でそう告げると二人はとても驚いた顔で固まってしまった。

「あの……もしかして、私たちの言葉が分かるんですか?」
「はい、僕は変わり者ですから、キミたちの言葉が分かるんです」

 僕の言葉に、二人は大声を上げて泣き出してしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...