一つ目の世界では龍になったので、二つ目の世界では育成ファンタジーを楽しみます。

たゆ

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アーガルクルム

7 犬の顔をした協力者

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 狩りが休みの日、僕は魔物解体工房に呼び出された。

「よおコガネ、休みの日に呼び出してすまない」
「休みの日といっても特にやることもないので気にしないでください」

 この世界に来てから一カ月が過ぎた。
 協力者たちの行動は大きく三つに分かれている。
 ひとつ――講習会や武芸の訓練に積極的に参加して自分の力と知識を伸ばす者、この選択をする協力者が一番多い。
 ひとつ――各国の代表者が出席する食事会にこまめに参加し、自分を雇い入れる国を探すことを第一に動く者。仕える国が決まった協力者も増えている。
 ひとつ――残りは、国からの雇い入れの希望が薄い者たちだ。人以外のモノからの転生者が多いのだが、講習会と武芸訓練にも参加しつつ、ダンジョンにも潜り実戦を経験して鍛えている。僕もどちらかといえば彼らに近い。
 今回の解体工房への呼び出しも、ダンジョンに潜る協力者に関係する。

 例年であれば、一月も経てばダンジョン内で行方不明になる協力者の数に腰が引けて、ダンジョン挑む者も徐々に減っていくのだが、今年は逆にダンジョンに挑む協力者の数が増えている。
 その原因のひとつと噂されているのが、僕らのパーティーの活躍だ。
 ダンジョンへ挑む協力者が減る一番の理由が〝命をかけて潜ったのに1日狼が1匹、金になんねーぜ〟といった感じに思うように稼げない不満があげられる。
 それを嘲笑うかのように、僕らのパーティーはダンジョンに潜る度十匹近い狼を持ち帰っている。
 僕のようなレベル1のスキルなしに出来たのだ。他の協力者たちも欲が出る。
 協力者の多くは、死や痛みへの恐怖から慎重になり過ぎてしまう。大半が戦争の無い痛みのない世界から来ているのだ。狼に噛まれて血だらけになる仲間を見ればトラウマにもなる。
 それを割り切って前に進むのが、ダンジョンに挑むために、この世界に呼ばれた僕らの仕事だ。足がすくんで立ち止まるよりも、ダンジョンに挑む人が増えるのは良いことだと思うのだが……。

「ダンジョンで命を落とすのは本人の責任だ。だが、今年はその数が多いのが問題でな……」

 ゼムノさんは溜め息をついた。
 僕たち協力者は、少しでも良い条件で雇用してくれる雇い主となる国を探す。もちろん、全ての国が裕福なわけではない。中には協力者と顔合わせをするための食事会すら開けない国だってある。そんな国が目を付けるのが、力のある国からは見向きもされない協力者たちだ。
 そんな協力者たちを、安く買い叩こうとする国が結構な数あるのだという。
 そこで問題になってくるのが、ダンジョンでの行方不明者と死亡者の数だ。
 協力者の数が減れば、普段見向きもいない協力者に裕福な国も目を向けるようになる。人を物のように言うのは好きじゃないが、人数が減れば減るほど協力者の価値は高くなる。
 それに焦ったんだろう。金の無い国が、ダンジョンからの未帰還者が増えないようにしてほしいと、中立都市国家スタンヴァンデッセルに圧力をかけた。

「ゼムノさん、もしそういった国が協力者を雇えなかった場合はどうなるんですか?」
「フリーの協力者たちをまとめる組合みたいなものがあってな、そこに頼むか、もしくは国民をダンジョン攻略に使う。問題は、協力者たちが持つ技能スキル、危機感知がこの世界で生まれた人間にはないことだ」

 神様が創った練習用ダンジョンである『ハルカゼ』では起きないが、本来のダンジョンは時々気まぐれで形を変える。危機感知を持っていれば、それがいつ起こるのか知ることが出来るのだ。
 三日後に起こると分かれば逃げることも出来る。
 どんなに強者であっても、ダンジョンの変動に巻き込まれれば必ず死ぬ。

「僕を呼んだのは、ダンジョンの攻略を控えてほしいって話をするためですか?」
「いや、それだと神様の意志に背くことになるからな。俺らに出来るのはダンジョンの怖さを教えることくらいだ。コガネに頼みたいのは、ダンジョンに潜った奴が一人でも多く戻ってくるように狼の倒し方なんかを他の協力者にも教えてほしいんだ。人選は俺らが責任を持って行う。お前に舐めた態度をとる奴は絶対に選ばないからお願いできないか?」
「狩りのやり方ですか……転生前の種族は問いませんので、僕だけじゃなくフランソワさんとリュカさんを差別しない方を選んでください。一度試してみて続けるかどうかは決めますので、それが僕からの条件です」

 ゼムノさんは難しい顔をした。この世界で虫の顔をする転生者は差別の対象として蟲頭とさえ呼ばれている。差別は、この世界に来たばかりの僕ら協力者には関係のないことなのだが、そういった空気は知らず知らずのうちに伝染する。実際、虫から転生した協力者に心ない視線を送る人を僕も見た。

「該当者が見つかったら教えてください。日程は僕の方で調整します」

 そう言い僕は席を立った。この時僕はフランソワさんとリュカさんのことを差別することなく向き合う協力者などいないだろうと高を括っていた。

     ✿

 その三日後、早くも条件に合う協力者が見つかり、僕はいまその三人と向き合い座っている。
 ゼムノさんも立会人として同行している。僕の両脇にはフランソワさんとリュカさんも座っているのだが、確かに前の三人からは差別のようなものは感じない。
 三人は、犬から転生した協力者だった。犬の中でも小型犬に属するものだろう。右から豆しば、パグ、ヨークシャーテリアと可愛らしい顔が並ぶ。元が小型犬のせいなのか背も低い。この世界の一般男性の平均身長は、百六十~百八十前後、僕は百七十くらいだろうか、フランソワさんとリュカさんは百四十と小柄だ。目の前の三人も百五十あればいいほうだと思う。

「コガネ紹介しよう。三人は犬という生き物からの転生者で、右からフィグ=シャルエ、カイル=ピーター、エメリック=ラポルだ。彼らも人の言葉を話せないが、理解はできるし、不慣れだが筆談も可能だ」

 三人は、ゼムノが準備した小さな黒板に、自分の名前と〝よろしくお願いします〟と言葉を書き添えて僕に見せた。

「初めまして、僕がこのパーティーのリーダーをしていますセンリュウ=コガネです。この二人が僕のパーティーの仲間で、赤いリボンを付けているのがお姉さんのフランソワ=ケシエさんで、黄色いリボンを付けているのが妹のリュカ=ケシエさんです。よろしくお願いします」

 二人も僕と一緒に頭を下げる。
 共通語が話せない3人に代わりゼムノさんが彼らについて語りはじめた。
 この世界アーガルクルムには、コボルト族と呼ばれる独自の言語を使う犬の顔をした人族がいる。そのお陰で、犬からの転生者は差別されることはない。ただ、ごく稀に成人しても大きくならない協力者が混ざることがある。
 彼らは人に比べて力も弱く、ダンジョンを攻略するための協力者として、荷物持ちすら出来ない役立たずの烙印を押される。前世の記憶があるからだろう、体が小さいのは小型犬の特徴だし大型犬からの転生者と同列に並べること自体がおかしいのだ。
 力が無くとも彼らの嗅覚と聴覚は十分役に立つと思うのだが……力があって嗅覚と聴覚に優れた協力者がいるから、彼らは劣って見えるのかもしれない。

「ゼムノさん、彼らが喋るのはコボルト語なんですか?」
「ああ、コガネの言う通りだ。犬から転生して来た協力者の言語はコボルト語に統一される。この辺りじゃコボルト族は見ないからな、言葉を知っている者は滅多にいない」

 コボルトが人族と言われて驚いたが、この世界ではゴブリンもオークも、ゴブリン族オーク族として人族に分類されている。ゴブリン族はとても優しい種族なんだとか、ちなみにもっとも地球人に近い人族はヒューマン族に分類されている。エルフ族やドワーフ族などもおり、この世界の人族は多岐にわたるそうだ。
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