落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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139 話 ゴブリン戦争3(2021.08.19改)

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 化物……大きなゴブリンが話し掛けてきた。

「お前がルフトか?あの男が話していたが強い従魔を連れているらしいな」

 僕を守るように立つ従魔たちを、品定めするかのように見回すゴブリンの顔は嬉々としている。背筋がゾクッと寒くなる……今まで経験したことのない悪寒が全身を走った。アルトゥールさんが以前話してくれたことを思い出す。この世界には〝戦闘狂〟と呼ばれる変態が一定数存在していると。

「はい、僕がルフトで間違いありません。何かご用でしょうか?」
「ふははははは、俺を前にしても全く怖気づかんとは大した奴だなーお前、はははは」

 ゴブリンは腹を抱えながら笑った。大きな誤解だ……正直すぐにでも全力でここから逃げ出したい気分だ。
 それにしても、ゴブリンキングがここまでの魔物だとは思わなかった化け物じゃないか……僕がかろうじて落ち着いていられるのは、目の前にいるゴブリン以上の魔物を見たことがあるからだ。マルコキアスさんやイポスさんを見ていれば、どんな魔物を前にしても平然としていられるんじゃないだろうか。
 〝あの二匹はイロイロな意味で規格外だった〟七二匹に与えられる魔物の王と呼ばれる冠を持つ、最強の魔物たち。
 みんな従魔の殺気が一段と強くなる。大きなゴブリンが近付いてきたのだ。さらに前へ……そのままゆっくり近付いて来る。そして、手の届く位置で足を止めた。
 目の前で見ると本当に大きい。アルジェントを縦にするとこんな感じかな。

「ルフトよ俺と戦え……楽しく殺し合おうぜ」

 ゴブリンは最上の御馳走を前にしたかの様にヨダレガを垂らす。アルトゥールさん僕はついに本物の変態に遭遇してしまいました、本気で現実逃避したい気分です。

「嫌です……こんな数のゴブリン相手に勝てるわけないじゃないですか、絶っ対死んじゃいます」

 目の前の化物の後ろにも、百匹前後の黒いゴブリンが並んでいる。ゴブリンジェネラル級もちらほらいるし、明らかに緑のゴブリンの軍勢より黒いゴブリンの一団の方が戦力が上だ。軍隊以上の敵に僕と従魔だけで挑むなんて自殺行為だよ。目の前にいる化け物一匹に勝てるかどうかも怪しいのに。
 おもいっきり嫌だと断ってみたが、変態ゴブリンは諦めない。

「後ろの奴らに手は出させん。それにな、俺に勝てたら黒いゴブリン族はこの戦いから手を引こう。どうだ?悪い話ではないと思わないか」

 どこまでが本気なんだろう?相手が人間なら、表情や仕草からそれが真実かどうか見極めることも出来る。でもゴブリンの表情なんて読める気がしない……さっきからニタニタと笑っているだけだし、戦うのが本当に好きなんだろうな。
 恐らく何度断っても変態ゴブリンは諦めないだろう。下手に怒らせて黒いゴブリンを全部相手にするよりは、目の前の化け物一匹と戦う方が勝機はある。

 

「あなたが一匹だとしても、僕は従魔たちと一緒に戦いますよ」
「問題ない、従魔を何匹出そうが汚い手を使おうが、後ろの奴らが手を出すことはない。ゴブリンの神に誓って俺だけが戦うと約束しよう」

 ゴブリンにも神様がいるのか……こんなことを気にするくらいだ、今の僕は冷静なんだと思う。

「戦う場所も僕が決めてもいいでしょうか?」
「時間稼ぎか何かか?まーいい、場所は好きにしろ。お前たちが一番骨がありそうだ。戦えるなら時間稼ぎも大目に見よう」

 僕は近くにいた兵士に駆け寄り伝言を頼む。〝アルトゥールさんかバルテルメさんに伝言をお願いします。黒いゴブリンは僕が相手をしますので、緑のゴブリンはお願いします〟と、僕の話を聞いた二人の兵士はただただ無言で首を縦に振り、必死に立ち上がると悲鳴を上げながら西門へと駆けていく。
 腰を抜かしていたみたいだ。変態ゴブリンの迫力は凄いもんな。
 それにしても、ゴブリンの行動には謎が多い。黒いゴブリンの登場で戦場が混乱しているのに、緑のゴブリンは一向に動こうとしない。僕が緑のゴブリンの指揮官なら、この隙にカスターニャの町に攻め込む命令を出していただろう。黒いゴブリンと緑のゴブリンは仲が悪いんだろうか?

「ついてきてください」

 僕が歩きはじめると、黒いゴブリンの一団も歩きはじめた。
 僕たちが戦場から離れるのを待つように、少しして銅鑼の音が聞こえてきた。
 戦闘を再開するのだろう。武器同士がぶつかる金属音と、人とゴブリンの叫び声が遠くから聞こえてきた。この戦いが終わったらもう一度モーソンと名も無き村について話をしよう。

(主様、今は他の者のことを気にする余裕はありませんぞ。なんとかあれを倒す方法を考えねばなりません)
「うん、分かってるよ、あれを倒す方法を考えないとね」

 戦う場所に選んだのは、町から少し離れた木が密集して生える森。

「よく考えたな、これだけ木が多い森なら、体の大きな俺が不利だろう」

 不利って言いながら楽しそうだし、負けない自信があるのか、それとも単純に戦うことが好きなのか、あの満足そうな顔を見る限り後者なんだろうな。
 戦場が決まると、後ろにいたゴブリンたちは離れていく。ゴブリンは約束をきちんと守る種族なんだろう。変態ゴブリンも〝早くしろ〟と僕らを何度も急かしはするものの、結局こっちの準備が終わるまで仕掛けてこないし、従魔の住処からローズとブランデルホルスト、二八匹のレッサースパルトイたちを呼ぶ。この数を見て少しは怯んでくれればと思ったんだけど、変態ゴブリンはさらに鼻息を荒くする。

「ローズお願いがあるんだ。ローズの従者にも戦いに参加してもらってもいいかな?」
(分かりましたわ。サクラはきっとお役に立つことでしょう)

 植物ダンジョンでローズは、ボスモンスターであるデーモンソーンを『従魔の従者』の能力を使い従者にした。本来地面に根を張り、その場から動かない魔物なのだが、今は植木鉢に植えられて荊の蔓を足の様に器用に使い、自由に歩き回る。
 それにしても、眼球のくり抜かれた女性の顔に似た心臓を持つ、見た目ホラーな魔物にサクラという名前を付けるんだから……ローズも僕に似てネーミングセンスが残念なのかもしれない。サクラの荊に咲く白い花はキレイだけど……サクラの再生する荊の蔓と半径三十メートルにもなる攻撃範囲は、この地形では大きな武器になるはずだ。
 サクラの登場を一番喜んだのが、変態ゴブリンだったのは解せない。
 木が密集したこの場所は、僕らにとってもリスクはある。体の大きなアルジェントや恐竜であるツァガンデギアたちもここでは戦えないしね。

「おーい、まだ準備はできねーのか?」

 みんなで輪になって集まり作戦を練る僕らに、変態ゴブリンが待ち切れずに声を掛けた。

「もう少し待ってください。出来れば万全な状態で戦いたいので」
「万全かーそれなら仕方ねーな、早くしろよ」
「ありがとうございます」

 思っていた以上に話が分かるゴブリンだ。自分が満足する戦いのためなら、いくらでも譲歩もするんだろう。

(主様、私はいつでも【水の精霊の雫】を飲む覚悟が出来ています)

 レモンが僕の目を真っ直ぐに見つめながら言った。水の精霊の雫はフェアリーウエル妖精の泉に精霊の結晶を沈めたことで、未来に産まれる精霊から貰った秘密兵器だ。
 精霊曰く、レモンかゲコタがコレを取り込むことで、大きな力を得ることが出来るという。問題は、使った生き物を別の物へと変えてしまう危険なアイテムだということだ。

「その時はお願いするよ」
(お任せください)

 自分自身を失う可能性すらあるのにレモンは笑いながら言った。ゲコタは……目を逸らしながら口笛を吹く真似をしている。カエルが口笛を吹くのは口の構造上無理な気がする。

「僕もみんなにお願いがあるんだ」

 僕は試したかった作戦をみんなに告げる。

(お父様、いけません危険すぎます!)
(主様、私も反対ですぞ)
「おいらも、いっしょいく」

 僕の提案にローズ、フローラル、テリアが真っ先に反対の声を上げた。他のみんなも納得出来ないと反対の声を上げる。

「ごめん、でもこれは僕一人で行かなきゃ納得してもらえないと思うんだ」

 僕はみんなに命じた〝少しの間、動かないでほしい〟と、滅多に使わない従魔契約を交わした相手に有効な魔力を乗せた命令の言葉。
 一人武器を抜かずに変態ゴブリンの前に進む。
 僕が一人で来たことに変態ゴブリンは不満そうな顔をした。

「なんだ……お前一人で戦うのか」
「そんなことをしたら僕はすぐに殺されてしまいますよ。戦いをはじめる前に一つ試したいことがあるんです。これからやることは攻撃ではありません。ですので絶対僕を殴らないでください」

 みんなには一人で行くと言ったが、変態ゴブリンを前にすると足が震えた。

「ほー面白そうだな、いいだろう試してみろ。何なら攻撃だったとしても一撃は見逃してやろう」

 凄い自信だ……一撃は見逃してくれるって、まー攻撃したとしても僕の力じゃ弾かれて終わりだろうけど。
 深呼吸する。
 僕は変態ゴブリンに右手を向けたまま手に魔力を集めた。具現化した光の鎖が変態ゴブリンへ向かって伸びる。『従魔契約』の魔法を使う。
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