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連載
142 話 ゴブリン戦争終戦2(2021.08.19改)
しおりを挟む一応……魔法職ではあるのだけれど、攻撃魔法も回復魔法も使えない従魔師にとって魔力切れは縁遠いものだ。共通魔法で魔力切れを起こすなんて話もほとんど聞かないし。
小人の村で木材用の木にひたすら『乾燥』の魔法を掛けた時も、こんなことにはならなかった。
目の前が真っ暗で頭が痛い。大人の人がお酒を飲み過ぎると、気持ちが悪くなり頭が痛くなると聞くが、こんな感覚なんだろうか?
何度か目を開け様としてみたんだけど、瞼が持ち上がらないというか、自分の体なのに上手く動かせない。早く起きなければいけないのに……と気持ちばかりが焦る。
声がした――。
(コンコン、お邪魔しまーす)
真っ暗な世界に誰かが訪ねてきた。聞いたことのある、おっとりした少女の声。
(お母様、数日ぶりですね)
やっと目を開けることが出来た。それでも周囲は真っ暗なままで、目の前には、ぼんやりと白く輝く人の形をしたものがいた。
ゴースト系の魔物を警戒して身構えるが、すぐにそれが、フェアリーウエルから誕生予定の精霊であることに気が付いた。きちんとした形になっていないのは、この精霊が現実には、まだ産まれていないからなのだろう。
(お母様は、私が何をするために出て来たか分かりますか?)
正直に分からないと、首を左右に振る。
(……お仕置きです)
両頬を思いっきりつねられてしまう。
「ごふぇんなさい(ごめんなさい)」
反射的に僕は謝っていた。なんか一年前にこんなことがあったな……イリスさんにも頬を引っ張られて怒られたっけ。イリスさん元気かな……会いたいなー。
(私の前で他の女を思い出すとか良い度胸ですね!お母様を叱る理由が二つに増えました)
二つにって……僕は何をしたんだろう?一つ目が分からない。
精霊は、話しはじめる。僕がリザスさんを倒すために、水の精霊の雫を生樹の杖に与えて精霊の力を暴走させてしまったことを……その結果。森の木々や草など多くの植物が死に絶えた。豊かな森の土は魔力と生命力を失い、死の土地になってしまったのだ。
(私のおかげで変態ゴブリンに勝てたんですから感謝してくださいね。でもこのままだと私もお母様も多くの精霊に嫌われてしまいます。難しいかもしれませんが、ほんの少しでも森を救おうともがいてください。私のお母様ならきっと出来ます)
だから僕は、キミのお母様じゃない……男なんだから、どっちかといえばお父様だろう。
僕は自分がどこにいるのか、分かった気がした。数日前にも訪れた精霊の領域だ。
精霊は、もう一度〝森を何とかしてください〟と念を押す。
「頑張ってみるね。そろそろ、みんなのところに戻らなきゃ……力を貸してくれてありがとう」
僕の言葉に顔の見えない精霊が、微笑んだ様な気がした。
目を開けると、目を真っ赤にして泣きじゃくるローズとそれを慰めるレモン。心配そうにウロウロするフローラルに僕の手をずっと舐めるドングリ。何か変なお祈り?踊り?をしているテリアとボロニーズとサクラがいた。
ホワイトさんは僕のお腹に手を当てている。回復魔法かな……お腹が温かい。
頭の下にある心地いいプニプニはブルーさんだろう、枕になってくれたんだね。レッドさんとグリーンさんも僕の体に寄り添っていた。
よく見ると、ナナホシとハナホシも僕のすぐ隣で心配そうな顔をしている。ビセンテとペルハもみんなの後ろから僕を見ていた。愛されているなー……。
ブランデルホルストとゲコタとレッサースパルトイたちの姿は見えなかった。
体を起こした。
「おはよう、みんな」
頭を掻いて照れながら挨拶をすると、みんなが一斉に津波の様に僕に抱き付いてきた。〝うっ……おもぃ〟流石に全員いのしかかられては、今度こそ本当に死んでしまう。
(お父様、心配したんですよ)
ローズの声は辛うじて聞こえたものの、みんなが一斉に話し掛けてくるもんだから、誰が何を言ってるか総じて頭に入ってこない。はっきりしているのは、みんなが本気で僕のことを心配してくれていたってことだ。
みんなと思う存分じゃれた後に、周りを見た。精霊が話していた様に、森の形は大きく変わり、多くの植物たちが死んでしまっていた。フローラルとレモンが、それを見て悲しい顔をする。これをやったのは僕なんだろう。
心を落ち着かせようと何度も深呼吸を繰り返す。巨大な木の腕に掴まれて大人しくするリザスさんを見つけた。
ブランデルホルストと数が減ったレッサースパルトイたちが、リザスさんを挟んで黒いゴブリンたちと向き合っている。(本当に、ナイトフォー、ナイトイレブン、ナイトトウエンティーワンの三匹は死んじゃったんだな……)盾に書かれた数字を読み、死んだレッサースパルトイが誰であったのかを確認する。
ゲコタは『背景同化』で消えていただけで、僕の側にいた。声だけが聞こえてくる。こんな時にも僕を元気づけようと冗談めいた言葉をいった。
(主ドン寝坊ゲコ、寝坊助ゲコ、プンプンゲコ)
テリアに支えてもらいながら、リザスさんの近くへと歩く。みんなも怪我だらけでボロボロだ。僕とテリアだけでも大丈夫だよって言ったのに……結局、みんな僕の後に付いてきた。
「ルフトやっと起きたか」
さっきまで殺し合いをしていたのが夢なんじゃないかと思えるほど、リザスさんは普通に話し掛けてくる。
「負けた負けた、お前の勝ちだ。早く俺の首を持っていけ」
顔色一つ変えずにリザスさんは自分を殺せて言ってきた。命ってそんな軽いモノなんだろうか、命よりも重い物なんてないはずだ。と思う一方、魔物や動物は常日頃、弱肉強食の世界で生きているんだから、この反応も普通なのかもしれない。到底、人間には理解出来ないことだけどね。と納得する。
「嫌ですよ、せっかく生き残ったのに、第一声が殺せって……バカなんですか」
それでも、こんなに痛い思いをして勝って得たモノが相手の命だけなんて……悲しくて悔しかった。涙が自然と頬を伝う。
誰かが、子供の最強の武器は涙だって話していた気がする。僕の涙を見てあたふたするリザスさんを見て思い出した。憎めないよね……このおっさん。
「僕はあなたを殺す気はありません。約束通り自分の国へと帰ってください」
「いや、でも俺は負けたんだぞ。負けた男に生きる資格はねー、それに俺はお前の仲間の鎧を三匹も殺したんだ」
「大事な仲間……家族だったから、正直リザスさんにはムカついてます。でも、それでもリザスさんに死んでほしくないんです。これ以上何か言うんなら本気で泣きますよ」
「分かった。俺の完敗だ、だから泣かないでくれ頼む。黒いゴブリンは国に帰る約束する」
恐らく、リザスさんが本気で僕らを殺そうとしていたなら、とっくに僕らは全滅していたと思う。彼は純粋に戦いを楽しみたかっただけなのだ。これだけ強いと迷惑にしかならないけど……それに僕はテイマーだ。話が通じるのなら、そこに魔物も人間も関係はない。
僕が命じると、巨大化してそこら中に張り巡らされていた生樹の杖から出た枝が根が幹が一斉に砕け散った。
精霊の力の暴走か……。
小さな森の中央には、巨大な更地ができあがった。地面に手を当てると土地の魔力がほとんど感じられない程に弱っているのが分かる。
僕のせいで森が死にかけている。この森が元に戻るのには、どれだけの歳月が必要なんだろうか。
その後リザスさんの命令で黒いゴブリンたちは、ホワイトさんやナナホシとハナホシと一緒に僕らの手当てを手伝ってくれた。リザスさんは、王様というだけあって庶民の僕では、絶対に手が届かない様な【上級ポーション】を惜しげもなくみんなに使ってくれた。これ一瓶で何ヶ月働かずに暮らせるんだろう。
変な方向に曲がってしまったローズの足や、骨が砕けて力の入らなくなったボロニーズの腕が瞬く間に治っていく。
ホワイトさんが黒板に『主様、上級ポーションがあると回復班の仕事がはかどります。導入しませんか!』と聞いてきたけど、〝ごめんなさい、僕の財力では無理です〟と正直に話した。
上級ポーションでも、欠損したテリアの左腕を元に戻すことは出来なかった。もちろん、ナイトフォー、ナイトイレブン、ナイトトウエンティーワンの死んだ三匹の魂も戻らない。
僕は、粉々になった三匹の鎧の破片を集めて、これ以上、命を落とす従魔が出ないことを祈りながら、従魔の住処の中に小さなお墓を建てた。
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