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連載
141 話 ゴブリン戦争終戦1(2021.08.19改)
しおりを挟む僕は腰に吊るした布袋から水の精霊の雫を掴み、震える手でレモンの前に差し出した。
(ありがとうございます)
レモンは笑顔でそれに手を伸ばす。
この状況を前にしても僕の決心はついていない……本当にレモンにこれを渡してもいいんだろうか?まだ、迷っている。それが顔に出ているんだろう、目の前のレモンはとても困った顔をしている。
こんな顔させたくないよ、でも……。
この戦いが終わった後、レモンは別のレモンになっているのかもしれないんだ……そんな嫌だ。
こんな時ばかり都合が良いのかもしれないけど、子供はわがままを言うのも仕事だって肉屋のフラップおばさんも言っていたじゃないか。それが今なんじゃ〝飲んでほしくない〟って言ってもいいよね、水の精霊の雫を握る手が震える。
僕が迷っている間も戦闘は止まらない。時間は常に動いている。みんなの声が、武器がぶつかる音が聞こえる。
まだ誰一人、この戦いを諦めてはいないんだ。
恐る恐る顔を上げると、レモンは僕をしっかりと見つめていた。
〝決心がついたよ〟この言葉は口に出さず呑み込んだ。
やっとの思いで水の精霊の雫をレモンに渡そうとした。
その時――。
念話とも違う声が聞こえてきた。その声は僕の体の奥から顔を出した〝美味しそうだな……〟と、背中をもぞもぞと何かが這い回る。
背中に吊るした生樹の杖が自らの意志で動き出す。
生樹の杖は枝を人の手のように伸ばし、水の精霊の雫を掴むと、そのまま杖の中へと呑み込んでしまった。
「……」
(……)
僕とレモンは、見つめ合ったまま固まった。何かが体の中で一気に膨れ上がる、頭の中で大きな音がした。魔力は一瞬で空になった。
僕の中の魔力だけでは足りなかったんだろう、生樹の杖は地面に沢山の根を伸ばし、大地から魔力を吸い込む。そして……〝どんどんどんどん……〟成長した。木の幹が枝が蛇のように動き、森を呑み込む様に伸びていく、そこにいた誰もが戦いの手を止めてその光景に目を奪われた。
僕は意識を失った。
✿黒のゴブリン王リザス✿
生樹の杖から伸ばされた木の幹と枝は標的を見つけたと言わんばかりに、俺を襲いはじめる。
次から次へと雪崩のように押し寄せる植物の群れ。俺が殴っても殴っても、壊しても壊しても勢いは止まらない。
俺は自らが放り投げた魔剣に手を伸ばそうとしたが、その動きを読まれ、木の枝が魔剣を遠ざける。一本の枝では弱かったものが、何十にも何百にも重なり巻き付き、すでに俺の力でも千切れないほどになっていた。
魔力を使い果たして動けなくなっている黒髪の少年を、俺は見つめた。
「全身全霊というやつか、面白いなお前は……いやルフトか」
既に顔以外は植物に飲み込まれてしまっていた。辛うじて呼吸は出来るが体は一切動かない。首を絞めて殺そうと思えばこの植物たちは簡単に俺を殺せただろう。それをしなかったのは、ルフトの意志か。
✿レモンとブランデルホルスト✿
考えなしに動いている様に見えた生樹の杖は、主様と私たちを避けながら動いていた。魔力だけでは飽き足らずに大地の生命力を吸い尽したのだろう……私たちの周りにある木が次々に枯れていく、何百年もの時を早送りしたように木は枯れて、崩れ落ちて土に返る。
私は、目の前の景色を見て怖くなった。もし、私が水の精霊の雫を呑み込んでいたら、私が化け物になっていたんでしょうね……と、横に倒れる主様を見て〝早く目覚めてくださいね〟主様の体に身を寄せる。
(ねぇーレモン、どさくさに紛れてお父様に何をしているんですの)
(ん…看病)
(代わりなさい私が看病しますわ)
ボロボロになりながらもローズは歩いた。左足の膝から下が逆方向に折れているのにも関わらず、手に持ったスコーピオンを杖代わりに使い。何事も無いように歩いている。
戦いを終わったことにみんな気が付いたんだろう。主様の周りは傷だらけの従魔たちでいっぱいになった。
ホワイトさんの指揮の下、ナナホシとハナホシが治療のために忙しなく動く。
ただ一匹、ブランデルホルストだけは、黒いゴブリン王の前にとどまっている。
「おお、黒いのか、俺の完敗だ首を斬れ」
ブランデルホルストは、それを否定するように首を左右に強く振る。
「お前といい、ルフトといい、甘すぎだな」
ブランデルホルストは両手をバタバタと動かすが〝主は甘いんじゃなく優しいだけ〟という彼の主張は、黒いゴブリン王には届かない。
「でも俺が潰したあの赤茶っぽい奴は、お前の部下だったんだろう?」
今度は、また首を左右に振る。〝赤茶じゃない赤樺色だ、部下じゃなく仲間だ〟と伝えたかったのだが、無理と悟ったのかその場に両手を付き、がっかりしたようにうなだれた。
森の異変に気が付いたんだろう、黒いゴブリンたちがぞろぞろと黒いゴブリン王の元へとやって来る。警戒し剣を作るブランデルホルストに黒いゴブリン王は言った。
「安心しろ、あいつらは手を出さない、この状況を見れば俺が負けたのは一目瞭然だからな」
黒いゴブリン王はさっきまでの楽しそうな笑いではなく、今度は悔しそうに笑ってみせた。そしてゴブリン語で叫ぶ。
「俺は負けた。ルフトが目を覚ますまで全員待機だ。俺が奴らにどうされようがお前らは、その結末を見届けろ。王の最期を」
黒いゴブリンたちは、王の言葉に従った。
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