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連載
144話 空からの急襲(2020.08.19改)
しおりを挟むリザスさんと別れた後、自分の手に違和感があることに気が付いた。右手と左手の感じ方に差があるというか……うまく表現できないんだけど気持ち悪い。武器が滑らない様にと両手に装着していた手袋を外した。
「ん……?」
自分の手を見て固まる僕のそばに、ボロニーズがやって来た。
「あるじ、どうしたの……て、かっこいい」
僕の手を見たボロニーズが大声を上げる。それを聞いて、みんなが僕の手を見ようと押しあいながら周囲を囲む。
(お父様、素敵です!植物繋がりお揃いですわ)
ローズは嬉しそうに目をキラキラさせた。
(流石はワシらの主じゃな、我らの王に相応しい素晴らしい手じゃ)
王なんかになったつもりはありませんよ。フローラルも興奮している。
(ついに人間を辞めちゃいましたか、興味深いです)
嬉しそうに、拾った枝で僕の手を突きながらレモンが言った。
魔物だからだろう、みんなの反応は概ね好意的だ。その反応に飽きれながら、僕は溜め息をつく。〝面倒なことになった〟と……左手は何ともないのに、右手だけが木の表皮の様に変わってしまったのだ。この現象に名前を付けるのなら、樹木化という言葉が適当なんだろうか。
恐らく僕の右手に起きた変化は、モーソンが体験したものと同じだ。手首から上の部分だけが完全に木になっている。異常のない左手に比べると感覚も鈍いし、指先に意識を集中することで指から葉が生えてくるといった不思議な特技も手に入れた。
試しに葉っぱを手から千切ってみたが血は少し滲んだものの痛みはほとんどなく、採取した葉っぱに『鑑定』魔法を使うと……
【ルフトの葉】
補足:齧ると甘い。相手に食べさせることで従魔契約の成功率が上昇する。
試しに齧ってみたところ、本当に甘かった。
みんなも興味津々といった感じなので配ってみた。すると〝甘いですわね、味的にはリンゴジュースの方が上ですが〟とか〝葉っぱの食感がいまいちじゃの〟など微妙な感想ばかりが聞こえてくる。
少しの痛みで従魔契約の成功率が上がるのなら、得した方だとは思うけど、みんなには二度とあげるもんか。
そんな中でも、スプリガンであるナナホシとハナホシは僕の葉っぱの味が気に入ったようで、〝樹液も出たら、もっと嬉しいのに〟と喜んでいた。
血の代わりに、樹液が出た時点で、僕は人間を辞めている気もする。
モーソンの話を聞いた限りでは、自分の限界を超えることで、僕ら名も無き村の住人は魔物化が加速するんだろう。今回でいえば、倒れるまで魔力を使ったせいだと思う。
ただでさえ〝ぼっちテイマー〟なんてあだ名を付けらてバカにされているのに、この手のことを冒険者たちに知られたらどんな扱いを受けるのか、想像しただけでもめんどくさい。人前で右の手袋は外さない様にしないと。
✤ ✿ ★
グリーンさんとブランデルホルストとナナホシと一緒に、アルジェントに乗って町へと向かう。この混乱した状況で、音も無く夜空を飛ぶアルジェントに気付ける冒険者はいないはずだ。
上空から町を見下ろす。西門はアルトゥールさんやバルテルメさんたちリレイアスト王国の兵士の頑張りもあって破られていない。しかし、東門は既に破られおり、数は多くないが、ゴブリンの侵入も許していた。まずは、東門のゴブリンたちを何とかしないと……。
グリーンさんとブランデルホルストに来てもらったのは、暗視能力に優れていて、尚且つ遠距離攻撃が得意なためだ。ナナホシについては『イリュージョンゴブリン』の魔法が使えるのが大きい。
グリーンさんは体の一部を二本の腕の様に伸ばすと、それぞれにクロスボウを持ち地上のゴブリンを狙い撃つ。
出来るだけ目立たない様に、東門から少し離れた場所にいるゴブリンを狙うことにした。
僕もクロスボウを使い矢を射ってみたが、暗くてよく見えないこともあり全然当たらない……これなら、アルジェントの上から石ころでも放り投げていた方が、矢を無駄にしない分マシである。
暗視能力を持つグリーンさんとブランデルホルストは、夜の闇も気にせず次から次へとゴブリンを倒していく。特にブランデルホルストのスキルで生まれるブラックジャベリンの威力は凄い、進化種のゴブリンですら一撃で倒していく。
ブランデルホルストは、オーラのように全身から黒く立ち昇る煙で投げ槍を作ると、それを地上にいるゴブリンに向けて投げた。ゴブリンの体に刺さった槍は煙に戻り、上空にいるブランデルホルストへと戻る。
特に凄かったのは、ゴブリンチーフの一本釣りだろう。
僕がふと〝上位種の魔石が回収できるといいんだけど〟と呟いたところ、ブランデルホルストは、ゴブリンチーフの体に黒煙の投げ槍を突き刺すと、そのまま抜けない様に返しが付いた釣り針へと変形させる。釣り針には糸のように細い煙が結んであり、そのまま一気にゴブリンチーフを釣り上げたのだ。
釣ったゴブリンの死体は、従魔の住処を開けて放り込む。
しかも、従魔の住処の中では、みんなが釣ったゴブリンを即解体。魔石を抜き装備を剥ぎ取った死体を、投石攻撃のようにゴブリンたちの頭上へと放り投げたのだ。上空から仲間のゴブリンが血塗れで降ってくる光景に、東門周辺のゴブリンたちは明らかに浮足立っていた。
そこに、ダメ押しとばかりにナナホシが『イリュージョンゴブリンランサー』の魔法で召喚した十体の槍を持った幻想のゴブリンたちが闇に紛れて攻撃を開始。
いかにも同士討ちが起きている様に演出したのである。
東門から南に離れた場所に、ゴブリンたちは司令部とおぼしき前線基地を作っていた。恐らく一番大きなテントに地位の高いゴブリンがいるのだろう。
見張り台に立つゴブリンを先に仕留めて、死体を回収する。音を立てずに空を飛ぶアルジェントに、ゴブリンたちは気付いていない。
(やっと私の出番ですな)
テントごと焼き払うために、フローラルを呼んだ。
(アルジェントもう少し低く飛んでくれんか)
森での戦いが続き火の魔法が使えず鬱憤が溜まっていたのか、前線基地を見るフローラルの目は生き生きとしていた。
森までは距離があり、火の魔法も遠慮なく使うことが出来る。一番大きなテントを炎の嵐が呑み込んだ。『ファイアーストーム』の魔法だ。
炎に包まれたテントから逃げ出すゴブリンを、グリーンさんの矢とブランデルホルストのブラックジャベリンが貫いていく。
流石は、ゴブリンキングに続く上位種といったところか、燃え上がるテントから脱出したゴブリンジェネラル二匹は無傷だ。
炎を逃れたことで油断したのだろう、ゴブリンジェネラルは、背後から忍び寄るアルジェントに気付いていない。
何かを感じたんだろう、ゴブリンジェネラルは振り返った。そこには大きく開かれたアルジェントの口が迫っていた。
ここは海ではない。
夜の平原で四メートル強の空飛ぶ鮫が襲い掛かってきたのだ。
僕らを乗せたままアルジェントは、ゴブリンジェネラルを口に銜えて空へと昇った。アルジェントは飛ぶことが出来る上限百メートル上空で口を開く。
地面へと落下するゴブリンジェネラル、地面に衝突した瞬間、もの凄い音と共に地響きが起きた。すでに死んでいるであろうゴブリンジェネラルに、ブランデルホルストは容赦なくブラックジャベリンを投げた。
その光景を目の当たりにしたもう一匹のゴブリンジェネラルは、何かを叫びながら逃走した。ゴブリン語なので何を言っているかまでは分からない。
森に逃げ込もうと走るゴブリンジェネラルに、一気に降下したアルジェントが背後から迫る。
森まであと五メートル……アルジェントが追い付いた。
背中から喰らい付き、そのまま空へ。一匹目同様、上空百メートルで口を開けて地面へと落とす。
頭から地面に落ちた様だ……倒れたゴブリンジェネラルの死体を回収すると、残りのゴブリンたちへの攻撃を続けた。
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