落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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145話 魔物になった少年と父親1(2021.08.19改)

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 司令部が落ちたことで東門を攻めるゴブリンたちの足並みは大きく乱れた。戦場から逃げ出すゴブリンも少なくない。
 ゴブリンジェネラルが悲鳴をあげた後、死体も残さずに消えたことに、ゴブリンたちの間で将軍はドラゴンに喰われてしまった。人間側にドラゴンが味方している。と間違った情報が流れたのだ。
 ナナホシが出したイリュージョンゴブリンランサーの存在も混乱に拍車をかけた。裏切者が出たという情報が飛び交い、東門の戦いは冒険者たちが勢いを取り戻した。
 なぜ急にゴブリンたちがこうも乱れたのか……冒険者たちは疑問を抱いたが、考えるのは後でも出来ると、今がチャンスとばかりに冒険者を中心とした混成軍は反撃に転じたのだ。
 僕はそんな様子をアルジェントに乗り上空から見つめていた。完全に流れが変わった。……ゴブリンジェネラルさえいなければ、後は冒険者たちだけでもなんとかなるだろう。

     ✿

 ゴブリンの町への侵入を許した東門と違い、西門は兵士たちが善戦、防衛に成功していた。不利と知り逃げ出すゴブリンも多く、兵士たちはあと一歩のところまでゴブリンを追い詰めていた。
 敵の指揮官であるゴブリンジェネラルを討てば、西門の戦いの勝敗が決まる。副官であるゴブリンチーフが倒れ、残るはゴブリンジェネラル一匹……それでも囲む兵士たちの顔には余裕がない。〝数ではこちらが有利だ。及び腰になるな〟小隊長とおぼしき兵士は叫ぶ。
 ゴブリンジェネラルの足元には、その強さを示すように兵士たちの死体が転がっていた。
 たかが一匹のゴブリンを倒すのに、二十人近い兵士が死んだ。
 これ以上、兵を失うわけにはいかない、第五兵団の精鋭たちがゴブリンジェネラルの相手をするために前に出る。その中には兵士長プリョードルとモーソンの姿もあった。
 真っ先に斬り込んだのはプリョードルだ。その鋭い剣の一撃はゴブリンジェネラルの脇腹を深く抉るが致命傷を与えるに到らず、逆にプリョードルがゴブリンジェネラルに捕らえられてしまう。
 兵士たちの前に盾にでもするように、ゴブリンジェネラルは体の前にプリョードルを抱えた。兵士たちが手を出せずにいる中、抱えられたプリョードルの体をゴブリンジェネラルは徐々に締め上げられていく。骨が折れる音がした。
 睨み合いを我慢出来ずにプリョードルを助けに飛び出す兵士。プリョードルを盾にするゴブリンジェネラルへの攻撃を躊躇い、逆に攻撃を受けて地面に沈む。
 モーソンも兵士たちと共に、プリョードルを盾にするゴブリンジェネラルへ少しずつ距離を詰めた。

「モーソン、お前は……来るな」

 ゴブリンジェネラルに締めつけられたままプリョードルが叫んだ。さらに強く絞められたプリョードルの口から、吐血が漏れる。

「「兵士長――――!」」

 兵士たちは叫んだ。

「お前だけは逃げろ、逃げるんだ……モーソン逃げろ」

 自分が死の間際にいるこの状況で、プリョードルはモーソンのことを想い叫んだ。

「いやです。親の顔を知らない僕にとって兵士長は、父親の様な存在なんだ」

 モーソンは逃げたくないと何度も首を左右に振る。
 ゴブリンの腕の中、苦しそうに顔を歪めるプリョードルを見て、モーソンは自分の無力さに涙を流した。小声で呟く……〝助けたい、助けたい、助けたい、助けたい……化け物になってもいい、助けたい〟何かは分からない、けど大事な物が体の奥で割れた気がした。モーソンは低い声で唸る。

「ぐぅあああああ……」

 モーソンの身体を包むように赤い魔力が漂いはじめる。魔力が可視化されること自体が異常なことだ。
 プリョードルも目を見開きモーソンを見つめた。ゴブリンジェネラルさえもその異常な光景に目を奪われ、プリョードルを締め付ける手の力を緩めていた。この場にある全ての視線が、モーソンへと集まる。

「ぐぅあああああ」

 モーソンがもう一度唸る。
 体からは獣の毛が伸び、骨が軋む音が鳴る……少しずつ骨格が変化する。モーソンは、徐々に人とは別のモノへと変わっていった。
 その姿に人の面影はなく、一匹の獣がそこにはいた。
 夜の闇の中、モーソンの目は緋色に光る。咆哮を上げながらゴブリンジェネラル目掛けて突進した。服の所々が破れ、尻尾がズボンを突き破り飛び出していた。手を足のように使い四足歩行で走る。
 ゴブリンジェネラルも突進してくるモーソンに剣を振り下ろすが、躱されてしまった。そのまま後ろに回り込むと二つの足で立ち、プリョードルを掴んだゴブリンジェネラルの腕に爪を立て力を込める。モーソンは腕を強く握っただけだった……『怪力』のスキルが発動して、一気にゴブリンジェネラルの腕を押し潰す。
 ゴブリンジェネラルは痛みから悲鳴を上げる。
 プリョードルもその隙を逃さない、地面に落ちた剣を骨の折れた腕で無理矢理拾いゴブリンジェネラルの喉元に当てると、足を高く上げ柄頭を蹴り上げ突き刺した。
 首から血を派手に噴き出しゴブリンジェネラルは倒れる。
 倒れたゴブリンジェネラルの死体を挟む様に、モーソンとプリョードルは向かい合った。

「モーソン、お前……」

 〝見ないで、見ないで、見ないでよ〟モーソンは改めて自分の両手を見た。そこにあるのは獣の毛に包まれた腕と鋭い爪……恐る恐るその手で自分の顔を触った。その感触は今までの自分の顔とは違う毛むくじゃらで鼻が突き出ている。
 人間とは明らかに違うその瞳から、大粒の涙が零れる。涙が止まらない……。
 やってしまった……僕は魔物になってしまった。もう、みんなとは一緒にいられない、急な別れを前に涙が止まらなくなる。

「モーソン、待ってくれ……、待つんだモーソン」

 プリョードルの叫びは届かない。獣と化したモーソンは逃げるように森の中へと消えて行った。
 プリョードルは必死に立ち上がりモーソンを追おうとするが、全身の痛みが酷く走れない。兵士たちはプリョードルには駆け寄ったが、プリョードルの代わりにモーソンを追おうとする者は一人もいなかった。

 そこに、二匹の妖精を背に乗せた一匹の大きな狼と、二匹の進化種のコボルトを連れた少年が現れる。

「ルフト君か……お願いだ。あの子を、モーソンを追ってくれ」

 プリョードルが痛みを堪え搾り出した言葉に少年は首を縦に振る。

「黒いゴブリンたちは帰りました。アルトゥールさんとバルテルメさんにも伝えてください」
「わかった伝える。だからモーソンを……俺の息子を助けてやってくれ」

 プリョードルは涙を流しながら、自分よりずっと年下の少年に想いを託した。
 
 
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