80 / 149
連載
145話 魔物になった少年と父親1(2021.08.19改)
しおりを挟む司令部が落ちたことで東門を攻めるゴブリンたちの足並みは大きく乱れた。戦場から逃げ出すゴブリンも少なくない。
ゴブリンジェネラルが悲鳴をあげた後、死体も残さずに消えたことに、ゴブリンたちの間で将軍はドラゴンに喰われてしまった。人間側にドラゴンが味方している。と間違った情報が流れたのだ。
ナナホシが出したイリュージョンゴブリンランサーの存在も混乱に拍車をかけた。裏切者が出たという情報が飛び交い、東門の戦いは冒険者たちが勢いを取り戻した。
なぜ急にゴブリンたちがこうも乱れたのか……冒険者たちは疑問を抱いたが、考えるのは後でも出来ると、今がチャンスとばかりに冒険者を中心とした混成軍は反撃に転じたのだ。
僕はそんな様子をアルジェントに乗り上空から見つめていた。完全に流れが変わった。……ゴブリンジェネラルさえいなければ、後は冒険者たちだけでもなんとかなるだろう。
✿
ゴブリンの町への侵入を許した東門と違い、西門は兵士たちが善戦、防衛に成功していた。不利と知り逃げ出すゴブリンも多く、兵士たちはあと一歩のところまでゴブリンを追い詰めていた。
敵の指揮官であるゴブリンジェネラルを討てば、西門の戦いの勝敗が決まる。副官であるゴブリンチーフが倒れ、残るはゴブリンジェネラル一匹……それでも囲む兵士たちの顔には余裕がない。〝数ではこちらが有利だ。及び腰になるな〟小隊長と思しき兵士は叫ぶ。
ゴブリンジェネラルの足元には、その強さを示すように兵士たちの死体が転がっていた。
たかが一匹のゴブリンを倒すのに、二十人近い兵士が死んだ。
これ以上、兵を失うわけにはいかない、第五兵団の精鋭たちがゴブリンジェネラルの相手をするために前に出る。その中には兵士長プリョードルとモーソンの姿もあった。
真っ先に斬り込んだのはプリョードルだ。その鋭い剣の一撃はゴブリンジェネラルの脇腹を深く抉るが致命傷を与えるに到らず、逆にプリョードルがゴブリンジェネラルに捕らえられてしまう。
兵士たちの前に盾にでもするように、ゴブリンジェネラルは体の前にプリョードルを抱えた。兵士たちが手を出せずにいる中、抱えられたプリョードルの体をゴブリンジェネラルは徐々に締め上げられていく。骨が折れる音がした。
睨み合いを我慢出来ずにプリョードルを助けに飛び出す兵士。プリョードルを盾にするゴブリンジェネラルへの攻撃を躊躇い、逆に攻撃を受けて地面に沈む。
モーソンも兵士たちと共に、プリョードルを盾にするゴブリンジェネラルへ少しずつ距離を詰めた。
「モーソン、お前は……来るな」
ゴブリンジェネラルに締めつけられたままプリョードルが叫んだ。さらに強く絞められたプリョードルの口から、吐血が漏れる。
「「兵士長――――!」」
兵士たちは叫んだ。
「お前だけは逃げろ、逃げるんだ……モーソン逃げろ」
自分が死の間際にいるこの状況で、プリョードルはモーソンのことを想い叫んだ。
「いやです。親の顔を知らない僕にとって兵士長は、父親の様な存在なんだ」
モーソンは逃げたくないと何度も首を左右に振る。
ゴブリンの腕の中、苦しそうに顔を歪めるプリョードルを見て、モーソンは自分の無力さに涙を流した。小声で呟く……〝助けたい、助けたい、助けたい、助けたい……化け物になってもいい、助けたい〟何かは分からない、けど大事な物が体の奥で割れた気がした。モーソンは低い声で唸る。
「ぐぅあああああ……」
モーソンの身体を包むように赤い魔力が漂いはじめる。魔力が可視化されること自体が異常なことだ。
プリョードルも目を見開きモーソンを見つめた。ゴブリンジェネラルさえもその異常な光景に目を奪われ、プリョードルを締め付ける手の力を緩めていた。この場にある全ての視線が、モーソンへと集まる。
「ぐぅあああああ」
モーソンがもう一度唸る。
体からは獣の毛が伸び、骨が軋む音が鳴る……少しずつ骨格が変化する。モーソンは、徐々に人とは別のモノへと変わっていった。
その姿に人の面影はなく、一匹の獣がそこにはいた。
夜の闇の中、モーソンの目は緋色に光る。咆哮を上げながらゴブリンジェネラル目掛けて突進した。服の所々が破れ、尻尾がズボンを突き破り飛び出していた。手を足のように使い四足歩行で走る。
ゴブリンジェネラルも突進してくるモーソンに剣を振り下ろすが、躱されてしまった。そのまま後ろに回り込むと二つの足で立ち、プリョードルを掴んだゴブリンジェネラルの腕に爪を立て力を込める。モーソンは腕を強く握っただけだった……『怪力』のスキルが発動して、一気にゴブリンジェネラルの腕を押し潰す。
ゴブリンジェネラルは痛みから悲鳴を上げる。
プリョードルもその隙を逃さない、地面に落ちた剣を骨の折れた腕で無理矢理拾いゴブリンジェネラルの喉元に当てると、足を高く上げ柄頭を蹴り上げ突き刺した。
首から血を派手に噴き出しゴブリンジェネラルは倒れる。
倒れたゴブリンジェネラルの死体を挟む様に、モーソンとプリョードルは向かい合った。
「モーソン、お前……」
〝見ないで、見ないで、見ないでよ〟モーソンは改めて自分の両手を見た。そこにあるのは獣の毛に包まれた腕と鋭い爪……恐る恐るその手で自分の顔を触った。その感触は今までの自分の顔とは違う毛むくじゃらで鼻が突き出ている。
人間とは明らかに違うその瞳から、大粒の涙が零れる。涙が止まらない……。
やってしまった……僕は魔物になってしまった。もう、みんなとは一緒にいられない、急な別れを前に涙が止まらなくなる。
「モーソン、待ってくれ……、待つんだモーソン」
プリョードルの叫びは届かない。獣と化したモーソンは逃げるように森の中へと消えて行った。
プリョードルは必死に立ち上がりモーソンを追おうとするが、全身の痛みが酷く走れない。兵士たちはプリョードルには駆け寄ったが、プリョードルの代わりにモーソンを追おうとする者は一人もいなかった。
そこに、二匹の妖精を背に乗せた一匹の大きな狼と、二匹の進化種のコボルトを連れた少年が現れる。
「ルフト君か……お願いだ。あの子を、モーソンを追ってくれ」
プリョードルが痛みを堪え搾り出した言葉に少年は首を縦に振る。
「黒いゴブリンたちは帰りました。アルトゥールさんとバルテルメさんにも伝えてください」
「わかった伝える。だからモーソンを……俺の息子を助けてやってくれ」
プリョードルは涙を流しながら、自分よりずっと年下の少年に想いを託した。
19
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。