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連載
160話 地響き(2021.08.21改)
しおりを挟む昨日の釣りがよほど楽しかったんだろう、スライムたちは当然のように釣竿を抱えて外に出るのを待っていた。しかも、テリアにボロニーズ、ブランデルホルストまでもが釣竿を持ってホワイトさんの後ろに並んでいる。
三匹は砂の中に沈んでしまうことを、ラフラー砂漠に来た初日に経験したはずなんだけど……スライムたちが身振り手振りで釣りの楽しさを伝える姿に、自分たちもやってみたいと、我慢出来なくなったのかもしれない。
それでも、砂に沈むとわかっている三匹を小さなボートに乗せることは出来ない。
ここは、心を鬼にして!
「テリアとボロニーズとブランデルホルストは留守番だよ、船が完成するまで砂漠での釣りはお預けだからね!わざわざこの砂漠で釣りをしなくても海や川や湖だってあるんだから、我慢してね」
「「わかった、でも、しょぼーん」」
返事と一緒に落ち込みを言葉で表現するテリアとボロニーズ、ブランデルホルストも一緒になって肩を落とした。
モーソンが驚いた様に僕を見ていた。僕が自分よりずっと体の大きな三匹を注意する姿が、モーソンには不思議に見えたのかもしれない。どんなに体が大きくなっても三匹は僕にとって大切な息子たちなのだ。間違ったことをすれば注意もするし、正しいことをすればきちんと褒める。
ただ……三匹に海や川や湖だってあるとはいってはみたものの、心当たりのある釣りが出来そうな場所といえば、太古の大湿原の中にあった湖くらいで、流石にあんな危険な恐竜がいる場所で釣りは出来ないし、メルフィルさんやリザスさんに会ったら、釣りをするのにおススメの川や湖が近くにないか聞いてみよう。
外に出ると、昨日あった砂の川の流れは止まり、そこかしこにあった砂丘の位置も変わっていた。やはり、一晩で地形が大きく変化している。
砂の川の流れが激しくなる前に聞いた地響きの正体も分かっていないし、未開の地の名前に相応しく、ここは本当に不思議な場所だ。
強い日差しの中を、フード付きのマントを羽織りながらスキー板を足底に付けて進む。
二時間近く歩いただろうか?一際高い砂丘の頂上に登っていたホワイトさんとモーソンが、叫びながら手を振った。
「ルフト、砂の川見つけたよー」
手を振るモーソンに合わせて、ホワイトさんも釣竿を手に、早く早くとその場で飛び跳ねた。
音に反応したんだろう、二匹のサンドワームが砂の中から現れる。
ホワイトさんは、サンドワームが近くに潜んでいたことに気付いていたようだ。サンドワームが顔を出すのと同時に、足元の砂が盛り上がり人型へと変わる。五体のインスタントサンドゴーレムが姿を見せた。
焦って二人の元に走る僕に向けて、ホワイトさんが黒板を見せた『釣り餌ゲットです』と嬉しそうに……。
釣りの餌が欲しくてわざと飛び跳ねて魔物を呼んだのか、どれだけ釣りが好きなんだよ。肩を落とす僕とは対照的に、ブルーさんとグリーンさんとレッドさんは嬉しそうにサンドワームに向かい走って行く。
いつも以上にスライムたちの動きは素早かった。レッドさんがサンドワームの頭を槍で貫くと、もう一匹のサンドワームの腹をモーソンが『怪力』のスキル入れてシールドナックルで殴り付ける。たった一発のパンチでサンドワームの腹に穴が開いた。
ただ唖然とその場に立ち止まる僕を置いて、スライムたちは短剣を取り出すと倒したサンドワームの体を、釣りの餌に丁度良い形と大きさに切り分けていく。
モーソンは、従魔の住処でブランデルホルストに稽古をつけてもらい、めきめきとその実力を上げている。魔物になったことで身体能力が人間だった頃より大きく上昇したそうだ。僕も魔物になったらあんな無茶苦茶な動きが出来る様になるんだろうか。
僕が追い着く頃には、既にスライムたちは魔石を取り終えて、釣り用に作ったとしか思えない木箱の中に餌用に切り分けたサンドワームの肉を詰め込んでいた。
モーソンとホワイトさんが見つけた砂の川は、昨日の川よりも幅は広いものの、流れは緩やかな川だった。
スライムたちが大好きな釣りを前に、ワイワイ喜ぶ姿を見ながら、僕はモーソンの手を借りて従魔の住処からボートを押し出して砂の川へと浮かべる。櫂を使い川岸から離れるとサンシェードを張り、早速釣り糸を垂らした。
しばらくして、砂の上に残したサンドワームの死体に、血の匂いに惹かれた魔物が群がりはじめた。集まってきたのもサンドワームだ。死ねば種族は関係なくなるんだろう。
目が見えないせいだろう、サンドワームたちは近くにいる僕らに気付いていない。
釣り糸を垂らして、アタリがないままひたすら待ち続けた昨日とは違い、今日はすぐにアタリがきて砂漠シマガツオが釣れはじめた。昨日の場所からもそれ程離れていないし、魚の群れが近くに残っていたのかもしれない。
昨日同様、小さな魚たちが何かに追われるように砂の外へと飛び跳ねはじめた。しかも、その数は昨日とは比べ物にならないほど多く、どんどんどんどん……増えていく。数分もしないうちに目の前は、飛び跳ねる小魚の群れでいっぱいになっていた。
小魚に続き、今度は大きな魚が興奮しているのか砂の中から飛び跳ねはじめる。僕たちが乗るボートの上にも大量の魚が飛び込んできた。
サンシェードは破れ、ブルーさんは盾を使い飛んでくる魚を弾く、僕らはボートが沈まないように必死に魚をボートの外へとかき出した。
外にかき出しても、次から次へと魚が入って来る。
急いで釣竿を引き上げて、従魔の住処に戻ろうとするが魚が邪魔で上手くいかない。せめて、みんなが砂の中に落ちないように、僕は精霊樹の杖から枝を伸ばして、みんなの体を掴んだ。
その時だ……砂の中から巨大な生き物が大きな口を開けて地上へと顔を出す。その大きな口は、逃げ惑う魚たちを砂ごと一気に呑み込んだ。
巨大な生き物の体が地面にぶつかると、その衝撃で砂の川に巨大な波が起きる。しかも、その生き物は一匹ではなく、次から次へと至る所から顔を出し、同じように砂の大地ごと魚を呑み込んでいった。
巨大な生き物が砂の地面に体を打ち付ける音には聞き覚えがある。砂の川の濁流が起こる前に聞こえてきた地響きの音だ。
精霊樹の杖に魔石を喰わせて、急いでボート全体を包む様に木の枝を伸ばす。
木の枝に包まれて真っ暗になったボートの中で、体が何度も転がった。僕とモーソンが怪我をしないようにと、スライムたちが体を広げ優しく包む。
暗くて外の様子は分からないが、巨大な生き物の数はいまだに増えているのだろう。徐々に地響きの回数も増え、同時に『グワアアァアァァァ』という甲高い鳴き声が木霊する。恐らくボートは荒れ狂う砂の川を何度も転がりながら流され続けている。
暗闇の中、ふいに体が浮かぶ感じがした。
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