落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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159話 砂漠シマガツオ(2021.08.21改)

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 流れが緩やか過ぎて止まっているのかと錯覚する。川というよりは湖の上にいる感覚だ。流れがどれだけ遅いのかというと、ボートの上から従魔の住処に入ってリンゴを一つ食べて戻っても、ボートはまだ手の届く場所にある。
 この流れの早さならスピードは出ないものの、オールを漕いで進むことも可能だ。
 ボートの上からみんなでノンビリ釣り糸を垂らす。砂漠という過酷な環境下では、じっとしているだけでも汗が流れて体力が消耗する。
 この強い日差しだけでもなんとかならないかと、ニュトンたちに相談したところ、彼らはボートの四隅に木の棒を立てて布を張り、簡易的なサンシェードを作ってくれた。日が直接当たらないだけで、こんなにも体感温度が変わることに驚いた。強い日差しから解放されたこともあり、ボートの上は思った以上に快適だ。
 その後も、櫂は使わず砂の流れに身を任せながら釣り糸を垂らし続けた。砂の上でじっとしているのにも関わらず、魔物たちは襲ってこない。
 砂漠の魔物たちは目や鼻ではなく、砂に伝わる振動で、獲物の位置を感じ取っているのかもしれない。
 歩き続けるのに比べるとかなり楽だ。船を牽く魔物が見つかるまではこうしてノンビリ過ごすのも悪くない。
 何度か従魔の住処に入って水分補給をしたが、それ以外はボートの上からひたすら釣り糸を垂らしていた。半日近く続けているのに、いまだにアタリは一度もこない。モーソンは飽きてしまったんだろう、ボートの上に横になりながらスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
 日除けのありがたさを感じる。昼寝でもしようかと釣竿を引き上げた瞬間、レッドさんの釣竿が大きくしなった。
 急にアタリが来たことで、ボートが大きく傾きモーソンが跳び起きる。

「えっ、な……なに?なにが起きたの?」

 ヨダレを拭きながらきょろきょろと辺りを見回すモーソン、元兵士がこれでいいのかと思いながらも、微笑ましくも思えた。
 魚の群れに当たったようで、レッドさんに続き、ブルーさんとホワイトさん、グリーンさんの竿も同様に大きくしなる。僕は急いでサンシェードを外すと、モーソンと置いてあった網を拾う。
 レッドさんが勢いよく竿を振り上げると、銀色の魚が砂から飛び出して太陽の光を浴びてキラキラと光る。力加減を間違えたんだろう魚はそのまま宙を舞い、ボートの上へと降ってくる。それをモーソンが見事キャッチした。
 五十センチはあるだろうか、砂の中で生活しているせいか魚に目は無く、その代わりに鼻穴に似たものが四つあった。
 その後も同じ魚が面白いように釣れ続けた。途中返しの無い針に変えて、スライムたちが釣り上げては放り投げる魚を、僕とモーソンが網でキャッチ。急いで魚の頭をハンマーで殴って止めを刺すとそのまま従魔の住処へと投げ入れていく。
 面白いように次から次へと釣れる魚を前に、普段は感情をあまり見せないスライムたちも、体のあちこちを伸ばし嬉しそうに踊る。魚をキャツチする僕とモーソンは大慌てだけど。
 従魔の住処に入れた魚は、血抜きをした後、冷凍庫に運ぶようにお願いした。ゴブリン王ラガンをはじめとしたゴブリンたちの死体を入れたままだったことを思い出したが、今はスライムたちが次々に釣り上げる魚の処理に集中する。砂の中には釣針を呑み込めない小さな魚もいる様で、時折、大きな魚に追い立てられるように砂の外へと小魚が飛び跳ねた。
 結局、この入れ食いタイムは一時間近く続いた。満足そうにハイタッチを交わしてはしゃぐスライムたち、それとは対照的に、僕とモーソンは疲れ切ってボートの床へとへたりこむ。
 もっと釣りをしたいと珍しく我が儘を言うスライムたちを必死に説得して、なんとか一旦ボートを引き上げて従魔の住処へと戻った。

 釣り上げた魚は、砂の中で育った影響なのか、生臭い嫌な臭いがしなかった。
 『鑑定』魔法を使ったところ、この魚は【砂漠シマガツオ】という魔石を持たない普通の魚だった。
 アリツィオ大樹海の、しかも中域に魔物でない生き物が生息していることにも驚いたけど、魚の身が肉の様に赤い色をしているのことにも驚いた。
 流れの早い海で生活をする魚の中には、赤身の魚がいるって話は聞いたことはあったけど、実際見るのは初めてだ。赤身の魚は生で食べられるって本に書いてあった気が……生食は流石に怖い。
 結局、生食用は念のため二~三日冷凍してから食べることにした。
 とはいっても、初めて見る赤身の魚を前に、食欲が抑えられるはずもなく、ニュトンたちが鍛えた包丁で砂漠シマガツオを捌いていく、僕の横にはお揃いのコック帽を被ったスライムたちも並び、それぞれが役割を分担して調理をはじめた。
 体が大きくなったせいだろう、グリーンさんだけコック帽が妙に小さく見えて可愛かった。

 僕は畑から抜いてきたばかりのニンニクの土を落として洗うと、熱したフライパンに油をひいてニンニクを刻んで放り込んだ。ニンニクの匂いには好き嫌いがあるが、僕や従魔たちは、ニンニクの匂いが好きだ。
 砂漠シマガツオの身を薄めに切りニンニクたっぷりのフライパンに入れる。身に軽く火が通ると、最後は醤油に砂糖を加えた甘めのたれを落として、さっと煮立たせたら【砂漠シマガツオのニンニク醤油焼】の完成だ。
 早速、試しに一切れ口に入れてみたが、獣の肉に比べてさっぱりしていて、少しもさもさしてはいるけど、これはこれで美味い。
 僕の横でスライムたちも料理をはじめていた、ブルーさんが包丁で砂漠シマガツオを一口大に切り、レッドさんが木のボウルに入った醤油と酒と擦ったしょうがを合わせた浸けダレに、ブルーさんが切った砂漠シマガツオを入れてもみ込む。グリーンさんがそれを小麦粉に潜らせて皿の代わりに敷いた大きな葉っぱの上に並べると、最後はホワイトさんがそれを熱した油の中に入れてからっと揚げる。【砂漠シマガツオの唐揚げ】の完成だ。
 卵を切らしているからみんな大好きマヨネーズは作れないけど、塩とレモンでも十分に美味しいはずだ。
 もう一品【オニレタス】を使ったサラダを作る。オニレタスはカスターニャの町に来た行商人から買った種から育てた珍しい野菜で、普通のレタスの四~五倍は玉が大きく、みずみずしくて甘みもある。サラダと言えばオニレタスといってもいいくらいに僕らの中では定番化している野菜だ。
 これもマヨネーズがあれば最高だったんだけど……今回は砂漠シマガツオのニンニク醤油焼で余ったタレにレモンを絞りドレッシング代わりにした。
 僕らが使っている醤油は、小人たちが豆から作っているモノなんだけど、魚からも醤油は作れるって聞くし、この機会に挑戦してみるのもいいかもしれない。

 完成した料理の香りに、みんなが次々とお腹を鳴らす。

 最後はパン作りだ。従魔の住処産のリンゴで作った天然酵母もだいぶ使い慣れてきた。生地は前もって捏ねて休ませてある。大きく生地を広げて、乾燥させた野イチゴを酒に浸して戻すと、同じく乾燥した迷宮胡桃の実と一緒に生地に挟んで折り返して層を作る。
 あとは丁度良い大きさに切り分けてと……ちなみにパン作りは最近のマイブームで分割用のはかりは天秤タイプでニュトンたちの最高傑作だ。片側に石を置き、そこに切った生地を乗せることで均等の大きさのパンを切り分けることが出来る。
 最後は木で作った大きな箱に入れて発酵させて、オーブンで焼けば【野イチゴと迷宮胡桃のリュスティック】の出来上がり!これは僕の大好物で、作り始めた頃は手に生地がはり付いて上手く作れなかったんだけど、最近では慣れて味だけじゃなく見た目もキレイに作れるようになった。
 野イチゴとクルミの代わりに、チーズとほうれん草を入れても美味しいんだよね。
 チーズが無いから出来ないけど、牛かヤギの従魔が仲間になったらチーズ作りにも挑戦したいな。

 テーブルにはレモンが置いた、花を生けた花瓶が並ぶ。〝花は切られても痛くないのかな?〟と以前聞いたことがあるんだけど、植物を成長させるために花を切ることもあるんだそうだ。テーブルの上に花があるだけでも豊かな気持ちになるしね。
 でも……どうして急にあんなにも魚が釣れ始めたんだろう。気にはなるけど、今は、目の前の食事に集中した。
    
    
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