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連載
172話 不思議な棺1(2021.08.22改)
しおりを挟む僕が眠ってしまったことで滞っていた。トトルッポたちの荷物運びを再開する。
みんなで協力して、洞窟からトトルッポたちの荷物を従魔の住処へと運ぶ『ラガンの部屋(仮)』ではレッサースパルトイとモストットたちが待機していて、運び込まれた順にせっせと荷物を片付けた。
みんなで運んだ甲斐もあり、陽が落ちる前には全ての荷物の回収を終えた。
作業中に小さな問題が起きた。〝荷物は直接『ラガンの部屋(仮)』に運んでね〟と、指示を出す度に一匹のミイラが反応したのだ。
紛らわしいよね部屋と同じ名前だと……緑のゴブリン王ラガンは、奇しくもミイラになり不死の魔物としての第二の人生を歩き始めたのだ。
部屋と自分の名前が同じでは、自分が呼ばれているのか、部屋のことを言っているのか分からないんだろう。アンデッドの多くは自分では何の判断も出来ないはずなんだけど……ミイラたちからは、はっきりとした意志を感じるんだよね、言葉を喋りだした時点で普通ではないんだけど……従魔の住処は、自我のない魔物に意思を与える力があるのかもしれない。
僕は、ミイラになったラガンのためにも部屋の名前を変えることにした。
部屋の名前は、僕の好きな花の名前から選んだ。図鑑で見て一目惚れしただけなんだけどね。
最初の従魔の住処を『すみれの間』、ラガンを倒し手に入れた従魔の住処を『あじさいの間』と呼ぶことにした。
本当は、それぞれの部屋に名前のもとになった花を植えたかったんだけど、すみれも紫陽花も実物を見たことがない。今度メルフィルさんに会った時にでも花の苗か種が手に入らないか聞いてみようかな、それまでは、部屋の名前を書いた看板だけ立てて我慢しよう。
『すみれの間』の看板を立て終えてふと後ろを見ると、地面に黒い大きな箱が転がっていた。
〝これって棺だよね、それにこの鎖とお札は……〟
年季の入った黒い棺には、無数のお札が貼られ、中身を封じるように銀の鎖が何重にも巻かれている。見るからに怪しさしかない棺だ。
それに、こんな目立つ場所に置いてあるのに、今までこの棺に気付かなかったことにも引っかかる。
ミイラ二匹が〝ヨイッショ、ヨイショ〟といった感じで重そうに『あじさいの間』へと棺を運んでいく。
少し前にミイラたちが運んだはずの棺が、『すみれの間』の、しかも、僕のすぐ後ろにある。顎に手を当てながら首を捻る、従魔の誰かが気に入って持って来たんだろうか?そう思い、従魔のみんなに聞いても誰が棺を運んで来たのかは分からない。
もう一度、もう一度、何度も同じ事を繰り返したが、棺は必ず戻ってきた。
それならばと、次は棺を『あじさいの間』に運んだ後、みんなで棺から目を離さないように見張ってみた。それでも棺はやはり……『すみれの間』に移動した。しかも、棺が消える瞬間は誰も見ていない。
全員の視線が外れた瞬間に棺は消えたのだ。
これだけ多くの見張りの目を、一斉に外すなんて不可能な気がする。
これはもう、棺自体が魔法か何かで、この状況を作り出していると考えた方がしっくりくる。
それにしても、こんな奇妙な棺があるなら先に教えてくれてもいいのに……レッドさんが僕の足を突いて一冊のノートを目の前で開く、〝ノートに何が?〟レッドさんは体を伸ばし書かれていた一文を指した。
僕がトトルッポたちの質問に答えている。応対式の一文。
『怪しい棺についてトトルッポたちから相談があったけど、主が従魔の住処に入れるのを許可。ウトウトしていたので少し心配』原因は僕か。
眠気に勝てなかったとはいえ、別に返事は急がなくても良かったはずなのに、何やっているんだろう……反省しないと。
まずは棺の中に何が入っているのかを、トトルッポたちに確認することにした。
トトルッポたちに棺の中身について聞いてみたんだけど、最も長く生きたトトルッポでさえも棺の中身については知らないとのことだ。棺は、彼らがこの土地に来た時には、すでに洞窟に置いてあったんだという。お札を貼り銀の鎖でグルグル巻きにされている時点で、普通のモノが入っているとは思えない。
「この棺を捨てようとは思わなかったの?」
「何度か砂の湖に沈めてみたポン、でも棺はいつも戻って来てしまって、俺たちは捨てることを諦めたポン」
ドヤ顔で言われても、それにしても砂の湖に沈めても戻ってくるとか、怖すぎだ。
うん、僕も捨ててみよう。
ミイラたちに棺を運んでもらい従魔の住処の外に出る。
いざ捨てようと従魔の住処の外に出てはみたものの、このまま砂の湖に投げ込むのは呪われそうで怖い。
『鑑定』魔法を試していなかったことに気が付き。棺に対して使ってみた。
【???の棺】
補足:???
僕の『鑑定』魔法では棺の正体を知るには力不足。こうなると、ますます、この棺を砂の中に捨てるのは躊躇われる。
そうだ、捨てるんじゃなくて洞窟に戻そう。トトルッポたちが、この洞窟に来る前から棺はここにあったようだし、棺にとっても元々あった場所が一番落ち着くんじゃないだろうか。
こうして、謎の棺を洞窟に戻した僕は、従魔の住処へと戻った。
一息つき、砂漠を出るための準備をはじめた。寝ている間にみんながいろいろ進めていてくれたおかげで、必要なものは全て揃っている。
砂の滝を昇るために補強された船は、かなり頑丈に作られていて、船の外に放り出されないための体を固定するベルトなどの安全装備もバッチリだ。
船を牽くクジラのミイラたちの様子を見ようと僕が近付くと、三匹のクジラのミイラたちは嬉しそうに胸鰭をパタパタと動かし頭を上下に揺らしながら出迎えてくれた。元気そうだ……もう死んでいるわけだけど、僕と一緒にいたトトルッポが〝ルフト様、彼らの頭を撫でてあげてほしいポン!絶対喜ぶポン!〟と言うモノだから、頭というかクジラの額を優しく撫でる。胸鰭を動かす速度が一気に早くなり、風が起きた。これは、喜んでくれているんだよね。そんなミイラたちの反応は、僕の知るアンデッドのイメージとは大きく掛け離れたものだった。
アンデッドは怒りの感情意外を持たない魔物のはずなんだけどな……でも、アンデッドが生者を憎むって言いはじめたのも人間たちなわけだし、でたらめかもしれないよね。
実際、ミイラたちは、僕が従魔たちとじゃれている時に羨ましそうにしていた。最初は自意識過剰なだけかと思ったんだけど……クジラのミイラの額を撫でていた時、明らかに他のミイラたちも頭を撫でてほしそうだったよね。
これは、彼らの本当の気持ちを知るチャンスなんじゃないのかな。
ミイラの見た目には抵抗があるけど、ここは勇気を出して、
「頭を撫でてほしい人は手を挙げて!あー手が無い子もいるね、僕の前に一列に並んでね」
最大限に優しい表情で叫ぶ。
「……」
しまった。〝頭を撫でてほしいミイラは〟という一番大事な部分が抜けていた。僕の前にゾロゾロと並ぶ魔物の行列、いつも撫でている従魔のみんなまで並んでいるし、苔の生えた土人形な見た目のモストットたちまでも並んでいる。僕は、一匹一匹愛情を込めて頭を撫でた。
一度撫で終わった魔物がもう一度最後尾に並ぶのを見かけたので〝二度並びは禁止です〟と叫ぶ。結構な数の魔物が列から外れていく。テリアまで……はぁー。
頭を撫でながら、みんなと言葉を交わす。
「主様は本当にイロイロなモノに好かれるポンね」
と頭を撫でられながらトトルッポが感心する。確かに人、特に冒険者には嫌われがちだけど、人以外には懐かれやすい気がする。
よし残り三匹。これだけの数の魔物がいると頭を撫でるだけでも一苦労だ。背伸びをしたり、肩を回したりしながら軽く体を動かす。そして、それが見えた。〝えっ……〟冷や汗が頬を伝う。最後尾に、洞窟に置いてきたはずのあの棺がいたのだ。
しかも、縦に浮かんでいる。
最後のムカデのミイラの頭を撫でると、ついに棺の順番が来た。
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