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連載
171話 ミイラたちの変化と進化(2021.08.22改)
しおりを挟む朝だ。従魔の住処は日の出と共に明るくなり、日の入りと共に暗くなる。雨も降らないし、一年中過ごしやすい気温が保たれているから、こんなに気持ちの良い空間は他に無いと思う。
明るくなるのに合わせてゆっくりと目を開けた。
こんなに大きなベッドなんてあったかな?僕を挟む様に両脇には、ドングリとローズがスヤスヤと寝息をたてながら眠っている。ローズについてはベッドで眠らなくても土の上に立ったままでも眠れるらしいんだけど、成体になってからは僕に合わせて、こうしてベッドで眠るようになった。
三人で並んで寝れるほどの大きなベッドなんてあったかな?記憶に無い。
従魔たちと一緒に眠た記憶もほとんどないし、あっ……でも、出会ったばかりのアケビはよく僕のベットに潜り込んできたっけ。小さかったから甘えたかったんだろうな。
懐かしいな、マルコキアスさんとは仲良くしているだろうか、アケビに子供が生まれたら、絶対毛並みのキレイな美人さんになること間違いなしだ。初孫かー。
想像しただけで思わずにやけてしまう。
それにしても、このベッドは、僕が寝てる間に作ったってことになるよね、僕はいったいどれくらい眠り続けていたんだ。目を覚ましてすぐに、沢山の疑問が浮かんできた。
数日間眠っていた割には、お腹も空いていないし、変にダルかったり体調が悪いって感じもしない……気になるのは、重く感じる右腕だけだ。
二匹を起こさないように気を使いながら、右腕だけ布団から出してみた。案の定?僕の手は肘から下が全て木になっていた。眠る前は手首から下だけだったもんな。
肘の逆側、その辺りから枝のようなものが生えていて、ベッドの横に立て掛けられた精霊樹の杖へと繋がっている。
精霊樹の杖が、従魔の住処の地面から養分を吸って僕へと送っていたんだろう……神木龍の苗を従魔にしたことで、また魔物化が進行してしまったようだ。食事をせずに土から栄養って……どんどん人間離れしていくよ。
それに……こんな感じに眠った時には、毎回何かが夢枕に立っていた気がするんだけど、今回はそういったこともなくぐっすり眠れた気がする。うん、疲れがとれた。
目を覚ました僕に気が付いたドングリとローズが、みんなを呼んだ。
お決まりになりつつある、無茶をした後の説教タイムがはじまったのだ。僕はベッドの上に正座しながら、ひたすら何度もみんなに頭を下げ続けた。みんな言葉は違うけど、結局のところ言いたいのは〝無茶ばかりして心配をかけるな〟ってことなんだよね。
これについては、完全に僕が悪い。
僕は九日間も眠っていたらしいし……〝最長記録だね!〟と話したら、更にみんなに怒られてしまった。
「普通の人族がこんなに長く寝続けたら、絶対病気になっちゃいますよ!明らかに眠る前より調子が良さそうですし、主様はどんどん魔物に近付いてきてますね」
とレモンは嬉しそうに話す。
右腕の半分は完全に木だしね。人によっては、いまの僕を見て魔物だと感じる人もいるんじゃないのかな?痛そうだし試そうとは思わないけど、木の部分なら例え斬り落とされても、新芽が出てくる様に、腕がすぐ生えてくる気がする。植物は切り戻してあげた方が、新芽が増えて元気になったりするし、精霊樹の杖と組み合わせることで木の手をいっぱい伸ばしたり出来るんじゃないかな?その時点で僕も立派な魔物の仲間入りだ。
みんなにひたすら謝った後、スライムたちが準備してくれた朝食を食べながらのんびり過ごす。
「あれは……なに?」
僕の視線は、眠る前にはいなかったはずの、畑仕事や荷運びを手伝う背の高いミイラに注がれた。忙しくて冷凍庫に放置していたゴブリンジェネラルやゴブリンキングの死体から作ったミイラというのは想像がつくんだけど、三メートル近くの人の形をした魔物が従魔の住処をうろついているのは迫力が凄い。
しかも、そのうち四匹はブランデルホルストたちの様に全身鎧を着ているし、そんなミイラと立ち話をはじめるモーソン。
ん?……ミイラが言葉を話す。この状況ってイロイロおかしいよね、口が上手く動かないのか、ミイラの口調はかなりギコチナイ、じゃなくて……問題は口調ではなく、ナゼ?ミイラが話をしているかということだ。
思わず会話に聞き耳を立てた。
「モーソンざん、あるじざまが目覚めたんでずね、よかっだでず」
「うん、体も問題なさそうだし良かったよ。ラガン君たちも後で挨拶に行こうね」
「あい」
ラガン君って、あの杖を背中に背負った鎧のミイラが緑のゴブリン王なのか、元王様だけあって話し方も凄く丁寧だ。
一匹だけ、背の低い鎧姿のミイラがいるな。あの大きさの魔物の死体なんてあっただろうか、ゴブリンの進化種にしては背筋が伸びてるし、九日間眠っていたとはいえ状況が大きく変わり過ぎである。
次は、フェアリーウエルに目を移した。近くに新しい棚が出来ていて、誰が使うんだろう?大きさがばらばらな沢山の木のコップというかジョッキが置かれていた。
そんな僕の疑問を解決する様に、フェアリーウエルの側に空気が読める一匹のミイラがやってきた。
水辺に集まる野生動物を観察するような気分ではあるんだけど、そこに来たのは包帯でグルグル巻きにされた砂ムカデのミイラだ。
沢山の足を器用に使い、畑作業用のスコップを抱えたまま別の足で一番大きな木製のジョッキを持ち上げる。そのまま泉から水を直接汲み口元へと流し込んだ。しかも、水を飲んだ後に〝プハーっ〟て……ムカデのミイラが喋った?
まだ夢を見ているのかな、頬っぺたを強めにつねる……ふふうにいたひ(普通に痛い)。
おかしなことは更に続く。
畑の横で、サンドワームのミイラと砂漠大ダンゴムシのミイラが、言葉は話さないものの鍬を持つ逆の手か足で身振り手振り、畑の耕し方について相談しているのだ。
こんな奇妙な光景を前に、誰もが変わり映えしない日常の一風景を見ている様に素通り。僕が眠っている間に見慣れたんだろうか、これが日常、本当に?
もう、何が何やらと頭を抱える僕の元に、遠くから真っ白いシーツを被った、てるてる坊主の頭から嘴だけを出した一匹のトトルッポが走ってくる。
「ルフト様、おはようございますポン!」
「おはよう。トトルッポ」
トトルッポが着ているシーツがやけに白くて綺麗だった。着替えたのかな、こんなキレイな白いシーツあったかな。
「ねぇそのシーツって、そんなに白かった?」
「みんなで頑張って洗いましたポン。俺たちもこのシーツがこんなにキレイになるなんてビックリポン!妖精の泉は凄いポンね」
洗ったってことは、シーツを脱いで洗ったてことなんだろう、トトルッポの中身はやっぱり鳥みたいな姿なのかな、手も鳥の足の様な形だったし、手があるってことは恐竜に近い姿なのかもしれない。シーツの中の姿をイロイロと想像していたことが顔に出てしまったんだろう。
「ルフト様……エッチポンね。俺を裸にして何するつもりポン、でもルフト様の命令なら頑張る……ポン」
明らかに雄寄りなのに、目の前で体をクネクネしながら恥じらうトトルッポ。最後のポンは〝ポッ〟みたいな、照れてます的な意味で使ったよね、なによりトトルッポの恐らく雄をそういう目で見るほど、僕は変わった性癖じゃない……と思う。もちろん雌でもそんな目では見ないよ!
「無理矢理、君のシーツを脱がすような趣味はないから」
「ホントか……ポン」
目の部分をくり貫いた穴から、真っ黒な大きな瞳が、僕の心の中を見通すようにじっと見つめる。
数十秒――長すぎだよ。
「ルフト様を信じるポン!」
僕は大きく息を吐いた。なんだろう物凄く疲れた。こんな謎の悪魔に揶揄われる日がくるとは。
「そうだ!ルフト様、お願いがあって来たポン。倒れる前に約束していた洞窟の中の物を回収したいんだポン」
眠りはじめる前に、確かにそんな約束をした記憶がある。
レッドさんが一冊のノートを手に僕の側に来た。僕とトトルッポたちが話した内容を残してくれていたみたいだ。
レッドさんは申しわけなさそうに『主が残せと話していたので……』と書いた黒板を見せる。
「ありがとう。助かるよ」
僕はレッドさんの頭を撫でた。
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