落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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2巻

2-1

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 第一章 小人の町



 僕、ルフトはテイマーである。つい最近までは一匹も従魔じゅうまがいない、ぽんこつ冒険者。
 そもそもテイマーという神様から与えられたクラスそのものが、世間的には役立たずと言われている。
 さらに、過去の記憶を失っており、僕が冒険者になったカスターニャという町に来る以前のことは何も覚えていない。
 大切なことまで忘れているような気がするのだけど、何も思い出せないのだ。
 仲間も記憶もない孤独な僕だったが、カスターニャに来て一年くらい経った頃から、急に魔物の仲間が増え始めた。
 植物の妖精であるフローラルとレモンに、シロミミコヨーテのアケビとドングリ。
 コボルトのテリアとボロニーズ、アルミラージというウサギの魔物のレッキスなんていうのもいる。
 そうそう、色とりどりのスライムたちも忘れちゃいけない。ブルーさん、レッドさん、グリーンさん、ちょっとレアな白スライムのホワイトさん。
 それに、先日成体になったアルラウネという花の魔物、ローズ。
 こうして仲間を増やした僕は、まだまだ半人前ではあるものの、町に危険をもたらす可能性のあったゴブリンを殲滅するなど、順調に冒険者生活を送っていた。
 だがあるとき、冒険者パーティ〝爆炎ばくえんやり〟のメンバーにあることないことうわさを立てられ、結局冒険者たちから嫌われてしまいぼっちに逆戻り。
 冒険者ギルドはほとぼりが冷めるまで僕を町から遠ざけた方がいいと判断。一年に及ぶ〝大樹海の西に広がる未開の地探索任務〟という長期依頼を僕に出した。
 そこで僕は、百年以上誰も見つけられなかった新ダンジョンや、まぼろしの魔物、恐竜種の生息地を発見。
 現在は〝未開の地〟の探索を続けているところだった。


     ✿


 アリツィオ大樹海にいる僕らは、ここ数日新ダンジョンを探索しつつ、動く唐揚からあげこと、カエルの魔物ジャイアントトードを狩っていた。
 なぜジャイアントトードを動く唐揚げと呼んでいるのかというと、肉質が鳥に似ていて、唐揚げにぴったりだからだ。

(お父様、このカエル、気持ち悪いですわ)

 ローズが念話で話しかけてくる。
 文句を言いながらもローズは〝ポールウェポン・スコーピオン〟と呼ばれる奇妙な穂先ほさきの槍を振り回し、ジャイアントトードを蹴散けちらしていく。
 僕はそんなローズに呆れつつ言う。

「ローズ、僕たちにも少しは獲物えものを回してよ。みんな退屈しているんだから」

 僕は成体になるまでのローズを、テイマーだけが使える魔法空間、従魔じゅうま住処すみかの外に出さなかった。
 その反動なのか、彼女は、遭遇そうぐうするジャイアントトードをほぼ単独で倒している。
 最初は仕方ないと思ったんだけど……こう毎日だとさすがに他の従魔たちも退屈なようで、自分も動きたい、狩りをしたいと不平不満をらし始めたのだ。

(わかりましたわ。お父様のご命令であれば仕方ありません)

 僕のお願いに、ローズは頬っぺたをふくらませながらも渋々しぶしぶ了承し、みんなで代わる代わるジャイアントトードを狩ることになった。

「みんなー、三匹倒したら交代だからね」

 ちなみに今日の狩りのメンバーは、僕とテリア、アケビ、レッキス、レッドさん、鍛冶かじが得意な妖精ニュトンたち五匹に、ローズを加えた合計十一名のチームだ。
 僕らも大所帯になったものだ。毎回狩りに行くときにはみんな来たがるから、メンバー選びも大変である。
 ローズに関しては、成体になったばかりだし、多少のわがままは許しているんだけど……そろそろ良いことと悪いことの区別を教えていかないとな。


 みんながジャイアントトードの相手をする中、僕は少し離れたところで森の植物をノートにスケッチしていた。
 そのとき、どこからか声が聞こえてくる。

「おいおい、そこのそこの」
「こっちじゃこっちじゃ」
「後ろ後ろ」

 スケッチに没頭ぼっとうする僕に話しかけるなぞの声。
 魔物が多くむ、ここアリツィオ大樹海の中でも、このあたりは人里から離れた〝未開の地〟と呼ばれる場所だ。

(そんなところで人の声……普通じゃないよね……)

 敵意に敏感びんかんなアケビも反応していない。でも面倒な予感しかしないし、ここはあえて無視だ!

「おい、聞こえているんじゃろー。後ろじゃ、頼むから振り向いてくれー」

 やばいな……声がどんどん近づいてくる。足音がほとんど聞こえないのは、スキルか何かを使っているんだろうか?

(お父様? 後ろに変なのがいますけど?)

 ローズがそう言って僕のそでを引っ張った。

「いや、気にしなくていいというか……なんか嫌な予感しかしなくて、関わりたくないというか……」

 僕は思わず口ごもる。
 しかし、声の主がすぐ後ろまで来てしまったらさすがに無視できなかった。
 僕はあきらめて振り向く。
 そこにいたのは、身長四十センチほどの赤いとんがり帽子を被った謎の生き物だった。しかも三匹。
 見た目はニュトンたちに近い。
 それぞれ赤、青、緑の、体にぴたりと張り付く全身タイツを着て、三匹とも白いひげをもっさり生やしたおじいさんだった。
 小人だろうか? 
 目の前の三匹は、絵本に出てくる小人そのものって感じだ。

「あの、僕らに何かご用でしょうか?」

 僕が恐る恐る問いかけると――

「おーやっと振り向いたか! 遅いぞ、遅いぞ」
「呼んだら早く返事をしろ。常識じゃろー。最近の若いもんときたら」

 赤と緑の小人が、ブツブツと文句を言った。
 小人たちの態度にキレたローズが、怖い顔でスコーピオンを彼らに向ける。

(お父様に向かってその口のきき方、殺してくれってことですわね)

 即座に青の小人が頭を下げる。

「すまん、許してくれ、この通りじゃ」

 三匹の小人たちは青い顔で身を寄せ合い、ブルブルと震え出した。しかも、お互いがお互いをローズに差し出そうと押し合い始める始末。
 悪い小人ではなさそうだけど……
 僕はそろそろいいだろうと、ローズに槍を引くように伝えた。そうして目線を合わせるためにしゃがむと、小人たちに話しかける。

「もう一度聞きます。何かご用ですか?」
「うーん、その怖いのはなんじゃ?」

 赤い小人はそう言って、ローズを〝怖いの〟呼ばわりした。これには正直カチンとくる。

「僕の大切な家族です。で、用はなんでしょうか? 質問に答えてくださらないなら、本気で怒りますよ」

 僕は、少しだけ語気ごきを強めて小人に言った。
 ローズが〝お父様、そんな大切だなんて……ローズもお父様が大切です。というより大好き……〟などと伝えてくるが……
 申し訳ないが、今はスルーだ。

「すまんの、カエルが美味うまそうだったのじゃ」
「少しでいいので、分けてくれんか?」
「お腹がいたのじゃ」

 どうやら、三匹の小人たちが僕らの目の前に姿を見せた理由は、空腹だったかららしい。
 ここ数日の狩りで、ジャイアントトードの肉は冷凍庫に入りきらないほどある。それどころか、食べきれない分は魔物の核である魔石を取って、地面にめようかとも考えていた。
 僕は、後ろで山積みになるジャイアントトードの死体を指さして告げる。

「たくさん狩ったし、好きなだけ持っていっていいですよ」

 それを聞いたテリアが〝からあげ、さよなら。げんきでね〟とさびしそうに肩を落としたので、僕は慌てて冷凍庫にたくさんあるからと伝えてなぐさめた。
 気を取り直して、ジャイアントトードの死体の山の前で万歳ばんざいをして喜ぶ三匹に、僕は声をかける。

「ところで、おじいさんたちは妖精ですか?」
「妖精ではない。わしらはファジャグル族じゃ。ぬしら人族は小人と呼ぶの」

 一匹がそう言うと、全員で胸を張る。
 見た目は人族に近いし、三匹ではなく三人か……いずれにしても不思議な存在だ。
 小人たちに興味を持った僕は、近くの倒木に腰かけて三人の話を聞くことにした。
 彼らファジャグル族は、昔からこのアリツィオ大樹海で暮らしていたという。言語は僕たち人間と同じだが、名前が少し変わっていて、基本二文字らしい。
 ちなみに三人の名前は、赤のタイツがググ、青のタイツがギギ、緑のタイツがザザ。彼らは村の中で狩りを担当しているとのことだ。
 獲物を求めてアリツィオ大樹海を探索していたところ、自分たちでは倒すのが困難なジャイアントトードを容易たやすく狩っている僕たちを見つけ、声をかけたのだという。

「美味しいのは知っているんじゃが、儂らじゃ倒せないからの」

 なぜかググは自慢げに話した。

「じゃあ、ジャイアントトードの皮をいで魔石を取り出しますので、適当に欲しい分を持っていってください」

 僕の言葉を聞いて、小躍こおどりしながら喜ぶ小人たち。
 しかし、彼らはピタリと動きを止める。
 じーっと僕を見つめてきたかと思うと、〝大きくて運べないんじゃー。お願いだ、手伝ってくれー〟と泣きついてきた。
 ホントに忙しい小人たちだ。

「魔物の主様よ、助けてほしいのじゃ」

 ググが泣きながら僕の足にしがみついてくる。
 テリアは〝あるじ、ちっさいのたち、うるさすぎ、いやー〟と両耳を押さえて距離を取っている。
 僕は呆れながら小人に質問する。

「僕は魔物の主じゃなくて、ルフトって名前があるんだけど……まあ、いいや。どこまで運べばいいんだい?」
「ルフト様か、了解じゃ。儂らの村まで運んでほしいんじゃ」

 様って……さっきは怒鳴ってきたくせに、なんだか調子がいいな。
 それから僕は、ジャイアントトードの死体を従魔の住処に運ぶと、ググたちの案内のもと、ファジャグル族が暮らす村へ向かうことにした。
 従魔の住処にジャイアントトードの死体を入れる際も〝おおーカエルが吸い込まれるのじゃー〟〝魔法かの? 不思議じゃのー〟と三人は大騒ぎしていたよ。


     ✿


 彼らの村は、アリツィオ大樹海の浅瀬と中域の境目にあるらしい。
 小さくて力の弱い小人たちが、アリツィオ大樹海でどうやって生きているのか不思議だったんだけど、その謎は彼らの村への道中ですぐにけた。
 小人の村への道は、見たこともない木や植物がからみ合っていた。植物の中にはいばらのようなものもあったので、他の生き物は好んでここに近づかないだろう。
 ググたちいわく、この植物の先に彼らの村がある、とのこと。
 村を包む植物の多くは、刃物でもなかなか切れないほどに硬く、火で燃やすことも難しいそうだ。
 ググは生物の侵入をこばむように生えたその植物の前に立つと、聞いたことのない言葉で呪文じゅもんを唱え始める。
 すると、植物がうねって、トンネルを作り出した。
 植物は、ググたちの村を守る結界の一つだったらしい。
 他にも、侵入を防ぐ透明な結界などがあり、そのたびにググが呪文を唱えた。
 最後の結界を抜けて彼らの村に到着する頃には、日もだいぶ傾き始めていた。


「村というより町じゃないか……」

 僕は思わずつぶやいた。
 ググたちの村は、僕が想像していたよりもずっと広かった。村の中央には、見たことがないほどの巨大なれ木が横になっていた。
 そこから大きなキノコがたくさん生えている。
 よく見てみると、そのキノコ自体が彼らの家になっているようで、色とりどりの扉や窓がついていてとても綺麗きれいだった。
 キノコのかさの部分も赤や黄色、緑と、とてもカラフルだ。
 彼らが家に使っているのは〝空洞茸くうどうだけ〟という種類のキノコらしい。
 大きさは二メートル以上あり、中が空洞になっているため、扉や窓をつければ家として使うのにちょうどいいという。
 僕がキノコの家を観察していると、そこからググたちと同じ全身タイツを着た小人たちが顔を出す。
 小人はみなおじいさんの見た目なのかと思っていたのだが――女性も子供も若者も普通にいるし、人間と変わらない。

「人族? すげー初めて見た。コボルトもいるぞ」
「狼にうさぎにスライムも……」
「妖精じゃ妖精じゃ、ふしぎじゃのー」

 うん、僕らは完全に見世物みせものだな。
 小人たちについて少し歩き、村の広場に着くと、ググがラッパのような形をした魔道具を口に当てて叫んだ。

「みんなー、お客様を連れてきたぞー」

 声量を大きくする魔道具のようだな。
 小人たちがキノコの家から出て集まってきた。中には棍棒こんぼうのような武器を持っている小人の姿もあるけど……

「ググ、どういうことじゃ。よそ者をこの村に入れるとは」
「敵じゃ、敵じゃ」
「皆、武器を持て!」

 どうやら僕らは歓迎かんげいされていないらしい。彼らにとって、僕らは巨人みたいに見えているはずだし、警戒けいかいするのも当たり前か。
 僕の従魔たちの顔にも緊張が走る。
 まずいな……武器も従魔の住処の中だ。
 僕はとりあえず弁明してみる。

「待ってください。僕らは食料を運んできただけなんです」
「食料? ふん、何も持ってないじゃないか」

 だが、小人たちは、今にも僕らを襲う勢いだ。ググたちも他の小人をなだめようと必死だが――数が多すぎて収拾がつかなくなってるな。

「本当なんです」

 僕はそう言うと、従魔の住処からジャイアントトードの死体を一体取り出した。
 それを見た小人たちが一斉に口を閉じ、あたりは静まり返る。


「みんなージャイアントトードじゃー! うまうまなカエルじゃああああ」


「うわああああ」

「ひゃっほー」
「ごちそうじゃあああ」

 小人たちは熱気に包まれた。

「でも一匹じゃ」
「わしゃ一口食べられれば幸せじゃ」
「一人分もないんじゃないか」
「お母さん、私もカエルさん食べたい」

 収拾がつかないほど小人たちは大声で騒ぐ。
 それならと、僕は従魔の住処からジャイアントトードの死体をさらに出して積み上げていく。
 そのうち小人たちは地面に平伏へいふくし、僕をおがみ始めた。


     ✿


 ――一時間後。
 僕は急遽きゅうきょ広場に設けられた宴会場の上座に、主役として座っていた。
 僕は、芋と果物で作ったというミックスジュースを飲みながら、ついさっきまで一触即発いっしょくそくはつだった小人たちと談笑している。

「ルフト様たちはすごいんじゃのー。大カエルを倒すなんて」
「儂らなんて、いつも大カエルのえさじゃよ。食べるのか食べられるのかどっちなんじゃって、わっはははは」

 笑いながらとんでもないことを言う小人たち。

「餌って? 倒せないのをわかっていて、ジャイアントトードにいどむんですか?」

 僕はそんなバカなと思ったが、周りの小人たちは笑ったままだ。

「当然じゃ。大カエルは美味いからのー。あれを味わえるなら死ぬのも本望ほんもうじゃ」

 いや、死んだら食べられないから、と心の中でツッコミを入れる。
 美味おいしいからといって、死ぬ覚悟でジャイアントトードに挑むのは違う気がするんだけどな。
 しかし、テリアとボロニーズは〝にくのために、しぬ、ほんもう〟と早速影響され出し、ローズに至ってはなぜか〝お父様、死んだら嫌です〟と僕の胸に顔をうずめて泣き始めた。
 従魔たちの教育に悪いので、これはなんとかしないと。
 僕は小人たちに向かって言う。

「美味しいものが食べたいって気持ちはわかります。でも死んだら何もならないじゃないですか」
「うーん、ルフト様の言う通りじゃ」

 小人の一人が真面目な顔でうんうんとうなずいている。
 本当にわかっているのだろうか……
 僕は小人たちの反応に呆れながら、ふと気になったことをたずねた。

「ところで、ジャイアントトードを狩るときはどんな武器を使うんですか?」
「武器? 石をぶつけたり、とがった木で突き刺したり……」

 従魔たちが彼らの回答を聞いて、口をあんぐり開けて驚いている。
 小人たちが持っている武器は、棍棒や尖った木などとても原始的だった。
 さすがにそんな武器でジャイアントトードを倒すのは無理だろう。毎回逆に食べられてしまうというのもなんとなくわかった。
 狩り係が村の老人たちから選ばれるのも、若者より先に老人が死ぬべきだという考えがあったからとのこと。
 小人たちの文化に口を出すことが正解だとは思わないが――ググたちファジャグル族がジャイアントトードに食べられるのを放っておくのは違う気がした。
 何より、彼らを食べたジャイアントトードを唐揚げにして僕らが食べたかもしれないと考えたら、なんかね……
 僕は今、カスターニャの冒険者ギルドマスター、カストルさんから指名依頼で、未開の地の探索を頼まれている身の上だ。
 新ダンジョンが一つでも見つかれば大成功と言われている中で、すでに一つ見つけたので、成果は十分上げているはず。
 だから、ファジャグル族の村の発展に少しくらい時間を使っても、問題ないよね。


 その後ググから、この村の村長のドドさんを紹介してもらったんだけど、僕が植物に興味があることを伝えると、明日小人たちの畑を案内してもらえることになった。
 それに、彼らは僕の知らないダンジョンの場所も知っているそうだ。


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